このサイトはJavaScriptがオンになっていないと正常に表示されません

Anly interview
- SPECIAL -

Anly interview

沖縄は伊江島出身、シンガーソングライターAnly。 実力を認められmiwaの沖縄ライブでのオープニングアクトに大抜擢されて以来、英国の人気歌手ガブリエル・アプリンとのコラボ、テレビドラマ「サイレーン」の主題歌担当などを経てたちまち時の人となった19歳の歌姫が、インターネット社会とは無縁の離島環境で生まれ育って身につけたのは、環境の変化や情報の速度に翻弄されず伸びやかに、自分の歩幅で進む生き方を描く歌。 メジャー2作目となる今作『笑顔/いいの』には、前作で歌われた前進する強い意思とはまた別の、これまでの自分を形成していったものへの感謝が投映されたやわらかみのある楽曲が並ぶ。 鮮烈デビューにも動じないAnlyの軸となる心持ちのやわらかさだ。 その軸にあるのは、斜め横から照らす夕日の光の様なあたたかみをもたらす今作の歌声。 これはシンガーAnlyの新しい側面でもあって、彼女自身に幼き時から備わった側面でもあるようだ。

Interview & Text : 鞘師 至

 

まっすぐに人を大切に思うこころを歌う

 

– 今作に注ぎ込んだのは自分の原点となるようなエッセンス、と語るAnly。 幼少時代から歌とギターにのめり込んでそれを周囲の人達に聴かせてみせる、その時の彼女の歌は、家族や仲間と音楽を一緒に楽しむ為のものだったのだろう。 今作では歌声に、詞の物語に、収録曲それぞれ色々な部分にその頃の感覚であろうあたたかみが垣間見える。

Anly (以下 “A”): 今回はすごくあったかい感じの、優しい曲なんですよ。 衣装の雰囲気もそうですしね。 楽曲を軸にしてその雰囲気に見た目も寄せていっています。 「太陽に笑え」のイメージを持ってる人達からしたら驚くかな(笑) 高校で那覇に出て行ったり、こうやって東京と沖縄を行ったり来たりするようになってから、「しっかり頑張っていかなきゃいけないな」っていう決心みたいな気持ちが芽生えてきて、それから作る曲は「太陽に笑え」みたいな元気な曲が増えてきたんですけど、元々は私、今回の作品のようなやわらかい感じの曲を作ったり歌ったりする事が多かったんですよ。 伊江島に居る時は特に。 だから今作の曲は地元に居た時の雰囲気が出てる、どちらかと言えば私の元々持ってる感覚に寄ってる曲ですね。 伊江島に居る時は自分の音楽のルーツを形成していってた時期だった気がするんですよ。 父が好きで聴いていたブルースとかが自分の中で一番の栄養だったんですけど、東京に出て来るようになってからはまた違った色んな音楽の栄養を得ている感じがします。 こっち(東京)で得られる音楽は、言葉で表すと難しいんですけど何かキラキラ〜としてるというか。 眩い感じの元気の良さがあって、今まで自分の中に無かったものとして自分の音楽の表面にまとわり付いて新しい感覚をくれている感じなんですよね。 自分でもびっくりしてるんですけどね、自分の作る曲のテンポが早くなっていってたりとか、今まで使ってなかった様な言葉を使ってたりとか。 表現もそうですけど、そのもっと根源のものの捉え方に、今までと違ったものが増えた感じがするんです。 やわらかいだけでなく、強い気持ちみたいなもの。

– 東京に居ても伊江島に居てもAnlyの感性の根っ子は同じ。 音楽のインスピレーションは自分の周囲にある風景から得ているようだ。 風光明媚な自然に囲まれた島の景色からビルの立ち並ぶ街の景色へ。 木々から建築物へ。 属性の違うものが周囲を取り囲んでも彼女にとっては新鮮な空間。 受け入れられて新しいインスピレーションへ繋がっていく。 街が与える情報や音楽がAnlyの新しい感性、音楽性を育んでいるのだろう。 ひとが経験を積んで育っていく過程そのものが曲として、歌としてアウトプットされて作品になる。 ひとと時間と環境、それぞれの絡み合いの蓄積が彼女の人生になり、それが直接音楽に反映されている様な結び付きだ。 今、東京に居る時でも風景に反応する彼女のアンテナはスイッチONのまま。 感受性の養分を街からも浴びて過ごしているのだそうだ。

A: ライブしたり、レコーディングしたりしていない時、最近はふらふら〜っと散歩してます。 そういう時が一番曲が浮かぶんですよ。 風景を眺めてるのも好きだし、色んな人が歩いているから人間観察したりするのも大好きなんです。 だいぶシブいですよね(笑) でも本当に想像力が湧く時間なんですよ。 歩く以外にはバスに乗ったりして。 どこかへ行く為じゃなくて、風景が流れるのとか、ビルの間から太陽の光がチラチラ差し込んだりするのがすごく好きで、それを眺めるためになんとなく乗るんです。 夕暮が特に最高なんですよね。 私、よく曲が出来るのも夕方の時間帯なんです。 何でなんでしょうね、あのあったかい感じが何かピンと来るのかな。

何にも代えがたい地元と家族の安心感

 

— タイトル曲の「笑顔」にあるあたたかみは、地元に居た頃に作られたものではなく、那覇や東京での暮らしを経た後に改めて感じた地元のやさしさに感化され、歌詞から音のひとつひとつまでイメージを投映させた結果生まれたものだという。

A: 「笑顔」はごく最近できた曲です。 今回主題歌をやらせて頂いたドラマ「ぼくのいのち」の台本を読んで、そのイメージで書きました。 このドラマ、4歳の男の子が病気になってしまってお医者さんに生存率は極めて低いって宣告されてしまうんだけど、それでも笑顔を絶やさずに病を乗り越えていくっていうストーリーなんですよ。 この曲のインスピレーションが湧いたのはこの前地元の伊江島に戻って散歩している時でした。 久しぶりに伊江島を歩いていて、サトウキビ畑の揺れる音とか、トラクターがトトトトッってゆっくり走る音とかがしたり、畑仕事してるおじー(※)がいたり、そういう風景が東京とはやっぱり全く違っていて改めて新鮮に思えたんですよね。 今まで15年間、自分の生まれ育った場所のなんでもない風景だったのに、東京に行く様になってから改めて地元に戻ってきて見た風景はこんなにのどかで安心する素敵な風景だったんだな、と気付いて改めて感謝したんですよ。 帰ってきて道を歩いていたら「おかえり」って話しかけてきてくれる人がいたりする嬉しさとかも含めて。 沖縄っぽいというか、知り合いじゃなくてもすぐ話しかけられるんですよね(笑) 私がシンガーソングライターをやってるって知らない人にもガンガン話しかけられます(笑) そういうやり取りも全部、自分の周りにあった当たり前の中の幸せだったんだな、って気付けた嬉しさをこの「笑顔」という曲で表現しようと思いました。 歌詞を実際書く時は、ドラマの台本を読んで感じた”家族”っていうテーマと、自分の地元で感じた想いがひとつになったものを作ろうと思って、自分の地元にいる家族の事を思いながら書きました。 私、小さい頃から冷え性なんですけど(笑)、冬になると沖縄でも寒くて、寝る時に母がもう寝たかなー、っていうタイミングを見計らって自分の手をザッ!と、母と布団の隙き間に入れてあったまったりしていて(笑) そういう思い出とか、さっき話した散歩の最中に見た風景なんかを思い出しながら、あったかくて少しほっこり笑えるような風景を書きたいな、と思って書いた歌詞です。 音の部分で言えば、ドラマの題材になっている”いのち”を表現できるように壮大な感じにしたくて、サビ前後のドラムにパーカッションを入れたりして工夫しました。 後はよく聴いてみるとギターを16分音符で刻んでるところがあって、壮大な感じは崩さない中でも色々やって細かな部分にこだわって作りました。 歌は普段力強く歌う曲が多いんですけど、この曲はやさしく歌うよう心がけました。 でも、ただただやさしいだけじゃない、真ん中に芯がある強さを帯びたやさしさ、というか。 録音する時は伊江島の風景を思い出しながら歌いました。

– 家族との思い出と地元伊江島の風景から感じた帰属感、音楽に乗って聴き手の心に染み込んで、最後に残るのはどこか懐かしい心地よさだ。 当時家の近所を散歩していた道すがら、自転車に乗って家から遊びに出る子供達とすれ違い、いつかこの子達も島から出た時、自分と同じ様にこの島の何気ない幸せに気付くんだろうか、と自分の心境を重ねて思ったという。

高校の時作って、ひっそりとしまっておいた曲

 

– 2曲目収録の「いいの」はAnlyには稀なラブソング。 高校時代の実話とその時の想いをそのまま歌にしたというこの曲は、当時作っても日の目は浴びずにずっと彼女の心の奥にしまっておいた曲らしい。 珍しく自分のパーソナルな恋心を歌った歌だが、ここにも相手を大切に思うAnlyのこころのやさしさがにじみ出ているように思える。

A: 何かとっても弱気な感じの歌詞ですよね(笑) これ、私の実体験なんです。 高校生の時に好きな人がいるけど、どうしてもそれを伝えられない状況になった事があって、歌にその想いを乗せたかったんですけど、どんなに周りの音楽でそれを探してもこの気持ちに当てはまる曲がなかったから自分で作りました。 本当は友達以上になりたいけど、この関係性が崩れてしまうのが怖くて全然踏み出せない…みたいな状況。 相手は確実に私の事を友達としてしか見てないし、なんなら私、その相手がどの子を好きなのかも分かってるっていう…(笑) でも好きな人が幸せになるのなら、それでいい。 そう思ったんです。 こういう状況って他の人でも体験してる人、共感できる人がいるんじゃないかな、と思って高校生の時に作って、そのまま歌わずに隠していた曲です(笑) 歌ったらその人に気持ちバレちゃいますからね(笑) だから「歌おう、君には聞こえないように」っていう歌詞なんです。 本当に自分のそのままの気持ちが入っている曲ですね。 2/23にshibuya eggmanでライブした時、実はこの曲初披露だったんですよ。 いいの、いいの、ってステージで連呼するっていう(笑) 「太陽に笑え」とはまた違った弱気な私の歌、お披露目できて良かったです。

ちゃんとがんばってるよ、って見せられたらいいな。

 

— 続く3曲目「Teacher」は、高校1年生で、その後には3年生でもクラスの担任になった学校の先生への感謝の気持ちを歌った歌。 支えてくれた人への純粋な恩情の気持ちと、当時から地域では定評があったというAnlyの歌声は、他のクラスメイトも巻き込んでこの歌をみんなで歌い、先生へ贈る事となる。

A: もうお母さんみたいに本当に愛情の深い先生で、クラス全員が信頼を寄せている先生でした。 1年生の時は私、吹奏楽部に所属していて、まだシンガーソングライターになる!って決断できてなかった時期なんですけど、そういう悩みを相談をしていたのがこの先生でした。 この「Teacher」は1年生が終わる時に、音楽をやっていく事を決心させてくれてありがとう!っていう気持ちをその先生に伝える為に作った曲なんですけど、同じように他の生徒のみんなもその先生に自分の夢の事を相談したりして、普段からいろんな事で心の頼りにしていたんで、みんなで感謝の気持ちを伝えたい、という事になって”感謝祭”っていう催し物をみんなで作って開催したんです。 その時にみんなで合唱みたいに歌ったのがこの曲。 歌詞も自分の思い出だけじゃなくみんなからのエピソードも聞いて、参考にしながら作ったんで、今聴いてもそのクラスの人達なら分かる!みたいな歌詞の部分もあるんですよ。 3年生でまたその先生のクラスになったときはその1年生で作った曲を卒業に合わせて〜旅立ちver.〜みたいなアレンジに変えて、完成系の曲としてもう一回披露したんです。 1年生の時は私もシンガーソングライターをやり始めたばかりだったし、少し未熟な曲で尺も短かったんですけど、3年生までの生活で成長したみんなの集大成にもしたいよね、っていう話しになって歌詞も書き換えて、曲も練り直して書き上げた曲です。 とっても思い出のある曲なんです。 だから今回のCDに「Teacher」を入れて高校のみんなも喜んでくれているし、こういうかたちで当時より沢山の人達に聞いてもらえる状況でこの曲を出せたのが私も嬉しいです。 曲は16歳の時にセッションして録ったもので、歌は最近録りました。 今回のリリースに向けて、ギターもアレンジし直したりしているので、当時の人達には更に成長した自分を見てもらえるかな、と思ってます。

— 4曲目「夢をあきらめないで」はカロリーメイトのCMにもなった岡村孝子のカバー曲。 伴奏に引っ張られて伸びやかさが増した歌声に新たな一面を感じる曲だ。

A: 今回初回限定盤に付いてるDVDにはこの曲のレコーディング風景も収録されてるんですけど、ストリングスオーケストラと初めて一緒にレコーディングしてすごく感動した曲ですね。 部分的な歌い直しはせず、2〜3回くらい一曲通して歌ったままの歌が録音されてます。 元々サビのフレーズは知っていた曲だったんですけど、全編通して初めて聞いた時が、ちょうど季節的にも冬が終わってそろそろ新しい季節が来るぞ、というタイミングだったので曲のイメージと自分の心境が似ていて、とても気持ちを込めて歌えました。 DVDの映像も自分で見てみたんですけど、本当に楽しそうに歌ってるんですよ(笑) 感動が凄かったんで。 ストリングスの音って、なんだか聴いてるだけで健康になっていきますよね。 伊江島から出てきてデジタルな音楽もよく聴くようになってかっこいいから大好きになったんですけど、このレコーディングで生のストリングスの音を聴いたら「あぁ〜やっぱり生音いいなぁ」って心が洗われました。 いつものギター片手に歌うスタイルと、ストリングスと一緒のスタイルでは声の出し方にも違う雰囲気が出てると思うので、そこも楽しんでもらえたら嬉しいです。

その瞬間に実直な、私の音楽

 

— 一度原点回帰して新たにこころにできた想いを以って表現したという今作では、それぞれの曲にAnlyの人と柄がそのまま反映されたようなあたたかさを感じられるのが心地いいが、既にこの先作り出す自身の音楽へのこだわりも見出しているようだ。 それは音楽性の作法よりももう少し芯を突いた、過去の自分のセンスと最先端の自分の感受性の掛け合いという心得。 音楽家の前にまず、ひととしての感覚に長けた19歳の考えるリアルな未来だ。

A: 自分のルーツにあるものと、こうやって東京に出てきてから養った感覚を曲にも、歌詞にもうまく織り交ぜて今の自分の感覚に正直な曲を書いて、歌っていきたいですね。 集中してない時程フレーズが浮かぶんですよ、普段。 そういう時って何か素直な感覚でこれだ!って閃くんだろうなって思うんです。 そういう感覚を大事にして、その瞬間の自分の音楽っていうのを作っていきたいと思ってます。


(※)おじー… 沖縄の方言で”おじいさん”の意味。