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Anly interview
- SPECIAL -

Anly interview

時代と共に、接触する人々との化学反応を積み重ねて、日々進化しまくっているAnlyの音楽性。 今作では同世代のアーティスト、クリエイターを巻き込んで完成させた世代的なオリジナリティーが加わったワイドレンジなセンスが注目ポイント。 これまでの音楽性を培った3つの制作拠点でのバイブスを全て体感できる本アルバム『Sweet Cruisin’』は、全編聴き通しながらその土地土地を巡れるツアー記のような作品だ。

Interview & Text : 鞘師 至

沖縄とL.A、東京の感覚をミックスした2020年型最新版Anlyサウンド

ー 今回は約2年振りのフルアルバムですね。

■Anly (以下 “A”): そうですね、去年はツアーをたくさんやったし、shibuya eggmanでもライブさせてもらったり、結構ライブ主体でガンガン動いた年でしたね。 そのおかげでループペダル、弾き語り、バンド編成の3形態でバランスよく演奏できるようになった感じがします。 例えばループペダルでの演奏をやり始めた時は、“バンドよりループ演奏を盛り上げなきゃ…” って意識でライブしてたり、逆に意外とループペダルが自分にフィットし始めたら、”あ、ヤバい…バンドでももっとかっこよく演奏できるようにしなきゃ!” とか(笑)。 もう自分自身がライバルみたいになってきちゃって。

ー リアル「DAREDA」ですね(笑)。

■A: ほんとそう(笑)。 ループペダルの演奏では音源とまた違うアプローチで作るライブなんですけど、バンドでは音源の再現+αの演奏を目指すっていう目標があって、それを意識しながら去年もSweet Cruisin’ っていうツアーをやったんですけど、やっぱり自分はソロのシンガーだからこうやってバンドでひとと一緒に成長していくっていうのが新鮮で楽しかったんですよね。 部活みたいな(笑)。 別の人を意識しながら音楽してて、誰か別の人のフレーズが良かったりしてそっちに耳を持ってかれると自分の演奏がズレちゃったりする、一筋縄じゃいかない感じとかも好きで(笑)。 

ー ちなみに今回のアルバムタイトルも『Sweet Cruisin’』。これはどんな経緯から?

■A: 今回のアルバム収録曲の殆どは、L.AのAriza (Juan Ariza) っていうプロデューサーとやってるんですけど、去年の春くらいに楽曲制作で1週間くらいL.Aに行った時に、アレンジしてもらいたくて準備して持っていった曲、その場でゼロから作った曲、いろんな曲をたくさん話し合いながら形にしていく中で、彼がいいね!っていう時にAwesome!とかGreat!っていう意味でいつも「Sweet!」って言ってて。 そのフレーズがすごく素敵なだって思ったんですよね。 そこからSweetっていうフレーズが自分のお気に入りになってたんですよ。 Cruisin’に関しては、「ドライブするっていう意味もあるんだよ」って教えてもらった時にそれもそれでお気に入りの表現として頭の中に残ってて。 ツアーって車でドライブしながらいろんな街を旅するから、去年のツアーのタイトルはCruisin’って付けたいなーと思ってたんですよね。 それでSweet Cruisin’。 その時はアルバムの事は意識せずにツアー名として付けたんですけど、今回のアルバムでいろんなタイトルを考えて当てはめてみた結果、『Sweet Cruisin’』くらいハマってるフレーズがなかったくらいバッチリイメージがハマってたんですよね。 全編通して聴くと、どの曲も車で聴くのに良い感じな低音が鳴ってるし、コンセプトもこれまでの作品のなかで一番固まってるサウンドになってるんで、これはもう自信持って『Sweet Cruisin’』って付けよう!と思って、アルバムタイトルもこの名前になりました。

物として残ってたら音楽は死なないし。

ー その今作アルバムリリースまでにも、5ヶ月連続シングルリリース、あとそれに付随してMVもガンガン出すっていう超速度感ある活動がこれまで続いていましたが、シングルリリースは今回配信にて。 幼い頃は聴き手としてはカセットテープやCDがメインのフォーマットだったと思うんですが、今やデジタル配信がメインのリリースをしている、この状況ってどんな感覚ですか?

■A: この変化はもう楽しむしかないよな、って思いますね。 サブスクのシェアが増えてるのって、音楽が人々の生活にどれだけ溶け込んでるかっていう事を表してると思うんですよ。 歩いてる時、移動してる時に聴く。 これには確実に携帯で聴けるフォーマットが便利ですからね。 CDが売れない時代って言われてますけど、結局巡り巡って将来CDがかっこいい!ってなってまた売れる時代が来るんで(笑)。 今、レコードとかカセットテープがかっこいいって言われるようになったから、次はCDですよね。 だからみんなと繋がり合えるデジタルリリースもやりながら、CDは作り続けたいと思って、今回のアルバムもちゃんとCD作りました。 曲間の大切さとかも、サブスクだとランダム再生だったり簡単に曲飛ばしできちゃうからなかなか作った本人たちの感じ取ってほしいレベルでは伝わってない事も多いな、って思うんですよね。 それがCDだったら流しっぱにしておけば全部アーティストのこだわりを汲み取れるし。 あの曲の間の空間ってなんとも言えない良いものじゃないですか、なんにもないけどそれに意味があって特別な時間、っていうか。

ー 今の時代も本当に誰かに気持ちを伝えたい時、人は手紙を綴りますからね。 CDも然り、気持ちが落とし込まれた物を手にとって体感してみると表現の本気度を感じますよね。

■A: そうですね、それこそ私もLINEとか便利だから全然使いますけど、昔と比べて言葉を使うのがうまくなくなった気がする。 簡単な言葉をさっと伝えるのは得意になったんだけど、深く話す時とか、言葉が詰まるし。 歌詞を描くときも携帯にメモしたものってすぐ消せるから、気持ちが重なっていく感じが少ないんですよね。 本気で描いてる歌詞ってこれまでもやっぱり紙に書いてたものだな、って思うし。

ー 今でも?

■A: 今でも。 その辺にある広告チラシの裏とかに書いて、それを貯めていって、全体を見たい時に書き写して清書してく感じです。 2行の為に何十枚もチラシ使う事もあるし(笑)。 手に触れられるものって大事だな、ってつくづく思いますね。 SNSとかでもいろんな言葉が飛び交ってるじゃないですか、いいものも悪いものも。 例えば今年の3.11の時もいろんな人がそれぞれの状況から見たいろんな事をSNS上で言っていて、更に今年は他の要素も同時に深刻な問題として話題に上がってて。 この混沌とした状態で自分はどういう気持ちを発信したらいい?って色々考えたら何にも書けなくなっちゃったんですよ。 だから今年はSNSで何かメッセージを書く代わりに歌おうと思って、ライブ配信しました。 私にとってはできるだけ具体的な、手に触れられるもの、っていうのは意見とか生身の言葉よりも歌なんですよ。 手紙みたいな存在。 

ー 今年はね、新型感染症の流行もあるし、本当にオンライン上でもみんながずっと論議してる状態が続いてますからね。

■A: 特にここ1ヶ月が大変ですよね。 でもみんな強くなったと思いました。 首里城の火災の時もそう思ったけど、ここで止まっていても始まらないから何かやれる事をやろう、っていう気持ちが日本全体で上がった気がしました。 そういう流れがいいな、って思って自分も勇気をもらうし。
音楽が全部癒せる訳ないんだけど、音楽を聴いて元気になってくれる人の為に、自分たちは活動してる、って今回改めて思いました。 

ー ご祈祷とかとも近いのかもしれないですね。 孫が病気で夜中に1000回お参りするばあちゃんの願いこもったそのお参りという作業と一緒というか。 想いが乗っかったフォーマットという意味ではAnlyさんの音楽もそれなのかな、と。

■A: うん、やっぱり気持ちが大事ですよね。 

「Sweet Cruisin’」、私の居場所の感覚をそれぞれ曲に落とし込んでいく旅みたい。

ー 今作ではfeat.にRude-α、mahina、プロデューサーにはAriza、ライブのメンバーにも最近は同世代のミュージシャンがメインで参加していたりと、近い年齢層のチームで作り上げることにフォーカスしてる感じがしたんですが。

■A: 自然とこうなったんですけどね、でも結果的に同世代の人たちと作っていく楽しさは今感じてます。 Rude-αとはそれこそ、eggmanでのライブで共演したのが最初の接点だったんですけど、会ってみて思ったのは “あ、やっぱり沖縄の人だな” って事(笑)。 恥ずかしげもなく愛について話せるんですよ。 もう超まっすぐだし、普通にお散歩してる時とかも「風気持ちいいな~」とか、とにかく話すことがピュアなんですよね(笑)。 しかもそれに私も違和感なく通じるところがあって。 それって同じ沖縄出身って事以外にも、やっぱり音楽的な部分でも何か通じるところがあっての感じなのかなって思うんです。 今回コラボした「愛情不足」(M4) は、私が東京に出てきて沖縄との生活のスピードも違えば、地元で思い描いてた事とは全然違う事も巻き起こってくる、っていう状況の中で見えた景色とか、思った事を紡いだ曲として元々あった曲なんですけど、途中にラップか語りみたいな要素が欲しいなーと思って、Arizaに「ここのフレーズちょっと空けておいて」ってお願いして間奏っぽい部分を作っておいた曲なんですよ。 そこで一番最初に思いついたのがRudeくんだったんで、最初な躊躇してたんですけど、思い切って声をかけてみたら快く引き受けてくれて。 トラックを渡した時、飛行機の中で初めて聴いたらしいんですけど、「機内でめっちゃ泣いた」ってLINE連絡くれて。 この語りのリリック、私の気持ちを汲み取って書いてくれたらしいんですけど、もう送られてきた時点でそれがすごく伝わるようなものだったから、すごく嬉しかったし、私はそこで勝手に “同志だな” って思ってました(笑)。 

ー mahinaさんとの曲も同じく、ちゃんと双方のキャラクターが立ってるのがかっこいいですね。

■A: mahinaの声は本当に独特ですよね、歌ってるんだけど雲みたいに掴めないような浮遊感があるっていうか。 それが私の中では嫉妬心通り越して、ただただ好き…!って純粋に思える魅力なんです。 普段mahinaのアルバムもずっと聴いてるし、一緒にカフェに行っておしゃべりしたり、これまでもずっとプライベートでも付き合いがあって「いつか一緒に曲作りたいね」って話していて、今回ようやく実現しました。 この歌詞、一枚の紙に思ったことをお互い書いて、ビリビリ破いてジグソーバズルみたいに2人で入れ替えながら作ったんですよ。 クスクス笑えるような、女の子って実はこんな事思ってるんだよ、っていう内容のものを作ろうっていうことになって、ガールズトークをそのまま曲にした感じの歌詞になってます。 

ー その遊びの感覚、伝わってきますね。 すごい楽しそう(笑)。 そしてアルバム内で異彩を放っているMori Zentaro氏プロデュースの2曲も今作のポイントですね。

■A: Zentaroさんとの出会いはもう本当「まさか!」って感じでした。 元々SoulflexとかSIRUPとかの楽曲で大好きなものが沢山あって憧れてたんで。 ただ私の元々のバックボーンにない感覚の世界の人だったから、自分がやれる音楽性っていう意識が今までなかったんですけど、そんな手の届かない所にいる人と繋がれたのが超奇跡的で。 「Sleep」(M7)と「BRAND NEW DAY」(M9)、どちらも超お気に入りです。 「Sleep」とか、私が16歳の時に作った曲なんですよ。 それをこんなにオシャレにしてくれて(笑)。 レコーディング作業が終わった後にみんなで中華料理屋に行ってご飯食べながら話してたんですけど、更に新しいアイディアがどんどん出てきて、このチームであえてロックな要素を落とし込めないかなぁ…とか。 この先もまた一緒に何か作れたら良いな、って思ってます。 Zentaroさんのおかげで私の東京での感覚もちゃんと作品に溶け込ませられたのがすごく嬉しいですね。

—沖縄の感覚はどの曲に?

■A: やっぱり「Sunshine」(M3)ですね。 私やっぱり地元が大好きで、いつも作品を作る時に “伊江島の人たちに聴いてもらえるかどうか” っていう判断基準がひとつあるんですよ。 進化してくサウンドも聴いてもらいたいけど、やっぱり伊江島忘れてないよ!っていう事もちゃんと伝えたい。 激しい曲ばっかりだとおじいおばあがびっくりしちゃうんじゃないかな…って(笑)。 だからこの曲もアルバムの中ですごく大切な曲ですね。

とにかく楽しんで作れてます。

■A: アルバムが出来上がって、マスタリングしたばっかりの音源を普段よく行く近所のコーヒーショップに行って、お客さんがいなくなったタイミングを見計らってお店で流してもらったんですよ。 音のチェックの目的なんですけど、コーヒーショップのマスターにも聴いてもらって。 そしたらマスター、「まとまったね!」って(笑)。 前回のアルバムはループペダルの演奏をし始めたタイミングで、チャレンジの部分が多かったから、その緊迫感じゃないけど、そういう必死さが伝わってたみたいです(笑)。 マスターが言う今回のまとまったっていうのは私自身も感じてて、今回はとにかくこれだ!って気持ちが定まった状態で作曲とか作詞を進められたんで、作業はスムーズだったし、楽しみながらやれたんですよね。 このこころの持ち様が、今回のアルバムの雰囲気の決め手になってる気がします。