「属性:月」
― 本作、なんだか全曲分歌詞を目でなぞりながら聴いていると、バンドの休止とリンクしてしまって「あああぁぁ〜」と涙が出てきてしまいました(笑)。
■村上学(Vo./Gt.): そっかぁ、聴く人からすればそうですよね…(笑)。 でも実際歌詞は活動休止を決める前に作ったものなんですよ。 「CALL」(M2)の一部分以外は全部。 なので僕的にはバンドが一旦止まることとは全く関係なく作った歌詞なんですよね。 だから今回が終わりだったとしたら、出来上がった歌詞とちぐはぐになってたと思うんですけど、書いてることは結果的に全部前向きだし、満ちてる時も欠けてる時もある、いい時も悪い時もある、っていう内容が基本軸にあるから、休止するっていうアクションと復活を見据えてる今の状況を両方感じながら聴いてもらえるといいのかもしれないですね。
― ですよね、再開前提の大充電期間ですもんね。 そういう意味では今作には、儚かったり、悔しかったり、切なかったり。 だけど終わらず繰り返すんだよ、という静かな強さみたいなものがあるなぁ、と。 満ち欠け繰り返してもずっと光続ける月そのものみたい。
■村上: 確かに儚さ、歯痒さ、そういうものを元々感じ易い人間だし、そもそも人が死ぬことを前提に生きてることに対して不思議な感覚を持ち続けてたんですけど、コロナ期間中には、自分の周りや自分自身にもうまくいかないことが何かとまとわり付くことがあっても、悔しいというよりは「まぁ、そうだよな」って。 これまでよりは物事を俯瞰で見てる感覚があって、そういう視点が無意識に歌詞には出てたかもしれないですね。 結局現実世界と理想郷って裏表にあって、理想とか綺麗事の世界がないと現実ってどんどん色あせた深い方へ引っ張られていってしまうし、逆に現実がないと音楽みたいな理想的な世界も生まれない。 裏表で逆へ引っ張りあっていって現実も、理想もどうにか成り立っている。 だから音楽は綺麗事、理想を並べて、現実を理想に近いものにさせてちゃんと引っ張っていくものであるべきだな、って思うんですよ。 現実をそのまま歌うんじゃなくて、いつかは現実になるかもしれない可能性を秘めた綺麗事を書こう、っていう気持ちになっていったんですよね。
― やっぱりアルバムを聴いたうえで、こうやって本人と話してみるとテスラの作ってる世界は聴感上の表面部分よりずっと深くて広いですね。 本当ならリスナー全員村上さんのこの会話を生で聞いてもらいたい(笑)。
■村上: 難しいですよね… 僕、理解し難い人間なんですよ(笑)。 自分でも思います。
― でもそれがこのバンドのオリジナリティーですよね、気難しそうだけど実はとても愛らしい、というか。 弱きものを肯定してくれるやさしさ、というか。 千差万別ですからね、聴き手側の音楽の好みも、作り手側の楽器の手癖もメロディーの発想も全部。
■村上: なんか僕の癖なんですけど、オリンピックとか見てても金メダルの人よりも銀メダルの人の表情を見ちゃうんですよね。 悔しいのか、すっきりしてるのか、何考えてるんだろう…とかめちゃくちゃ考えちゃうんですよ。 子役の時の芦田愛菜ちゃんの隣にいる福くんとかね(笑)。
― (笑)!
■村上: どうしてもそういう方に関心がいってしまうんですよ。 それってビジネス的には成り立ちにくいものなのかもしれないけど、もしかしたらこの今回のコロナの流れで世の中の価値観がひっくり返ってくると、今まで僕が書いてきたものも、基本的にはそういうテイストのものなので、また改めてフォーカスされることもあるのかな、って。 自分の評価がどうっていう意味だけでなく、世界中のひとの価値観がはっきりと変わる世紀的瞬間みたいなものが今後あるかもしれない、って想像するとそれはそれで夢ありますよね。 今まで銀メダルだった人が金メダルになる時がくる、みたいな。
― ものごとの量でなく質で感じられる幸せって大切だなって、再確認し始めてる人が昔より増えてきてる気がしますからね、今。 多分自粛生活によって。 戦後の経済急成長期を親の世代に持って生まれた我々の世代、ギリギリゆとり世代の前なのか、アルバムブックレットのあとがきにあったことばで言えば「地(物質主義)の時代」と「風(体験主義)の時代」の間で両方を感じてる僕らだからこそ感じ取ってる感覚なのかもしれないですけど。 バンド活動でも仕事でも、私生活でも何でもですけど、量にこだわるタイプか、質にこだわるタイプか、どっち出身のタイプかに別れて、でも経験積むに連れてお互い相反する方をどんどん求めてそれぞれ反対側から山頂を目指して最後は同じてっぺんに向かう、みたいなところってありますけど、今の時代ではもうインターネット、YouTubeで急変を遂げたグローバル化とか、量産型の経済とか、そういう量の世界から、小さなところに見つける絶対的な特別感、喜びみたいな、小規模だけど確かに心を満たす強い感動みたいなものがやっぱりいいな、って感じる人が多くなってると思うんですよね。 そういう時代の流れみたいなものを考えると、今回のアルバムはこの先テスラがどうなっていくかによって印象が後になって変わっていったり、置かれた時代によって解釈が変わっていったりするかもしれないですね。
■村上: ほんとそうですね… もし僕らがこのまま死んじゃったら遺作だったり後期作品になるけど、70歳までやりつづけたらめちゃくちゃ初期作品になる訳だし(笑)。
コストパフォーマンスは人生1〜2年分
― これはもうアルバムだけど、「いきもの」みたいですね。 考えようでは生命の3つの条件(外界との隔離、代謝、自らの複製)に当てはまってるし。 まずCDで外界と個体として隔てられてて、代謝して生まれた後に変化しそうだし(笑)、影響を与えてリスナーの考え、行動とかに波及することを考えると己の複製を残すのと一緒だし。 あと接してるといろいろと感動する。 かっこいい!って鳥肌立ったり、バンド休止しちゃうよ…って悲しくなったり。 それでもがんばるんだよな、よしっ、って元気もらったり。 すごいものを生み出し続けてるんだな、ってつくづく思います。
■村上: 多分生きてる以上やめられないんでしょうね。 息を吸って吐いてるのと同じで、感性が残ってる以上は出さずにはいられないからだに仕上がってしまってるんですよね。 だってこんなに曲作ったりするのって大変で労力かかってコスパ悪いのに、ずーっとやってますからね。 今作でもめちゃくちゃ思いましたもん、コスパ悪〜、って(笑)。 1〜2年かけて曲作ってきて、マスタリング(レコーディングの最後の仕上げ作業)を終えるとたったの41分の1枚のCDになって。 この1作だけで一生食っていく訳じゃないのに、ひとの1〜2歳分の時間を使ってすごい事をやってきたな、と思いました。これはもう量でなく質のための、自分のための作業ですね。 これをしないとダメなからだになってしまってるんですよね。
― その結果こうやって風の時代にも関わらず、ものとして作品がCDになって。 しかもこれは自分が死んだ後も世の中に残りますからね。
■村上: そうなんですよね、それが怖いんですよ。
― 怖いんですか(笑)。
■村上: もう絶対死後にダサいって思われる作品出したくない…!って。
― 今作、楽曲面ではそれぞれの曲のフレーズはどれもテスラの自然な法則に寄り添った感じがあって過去最高峰のアレンジメントだと思いました。 作曲工程では何か新たな面ってありました?
■村上: 今回ちょっと今までと違ったのは、普段デモが出来上がったら「出来た!最高だ〜」っていうテンションのまま、まずはメンバー&スタッフLINEに送るんですけど、今回は大体の曲、デモができてから2〜3日くらい寝かしました。 前日の夜に書いたラブレターは翌朝恥ずかしくて読めない、みたいのあるじゃないですか(笑)。 そういう事故が起こらないように。 逆に前日の夜に書いたラブレターが実は一番気持ちが伝わる、っていうのもあるパターンなんですけどね。 でも今回に関しては「このデモをみんなに出す」っていうのは決定で前夜のラブレターのままで、内容に関しては2〜3日置いて、その日の夜に聴いて、次の朝聴いて、それを2〜3回繰り返して。 うん、いいな、と思えたものをみんなに送る、っていう。
― 曲を聴いてなんとなく感じる “最新のテスラの感覚” っていうのが今作もやっぱりあるんですけど、そういう作曲工程とか、小さな変化なんだと思うんですけど、ちゃんと質感に反映されるんですね。 フレーズ同士の馴染みがいいのは、今までテスラで作ってきた曲で培ってきたセオリーが組み合わさって整合性がとれてるからなのかな、と。
■村上: そう言っていただけると報われます(笑)。 あと前回CHOOSE Aで最高のミニアルバムができたな、と思ったんですけど、今回作ってみて「あ、やっぱりフルアルバムだな」って思いましたね。 やっぱり11曲だな、って。 これも時代に反してるんですけど、今回のアルバム作ってから、他のアーティストのアルバム聞くときにシャッフルとかで飛ばして聴かなくなりました(笑)。 ちゃんと1曲目から順番にじっくり…(笑)。
人間らしい生活が戻ってくる方法を
見つけていければいいなって。
― 今って外出自粛とかリモート作業が増えた結果、ひとが直接会って、そこでもらえる活力っていうか、ひとから貰うパワーが圧倒的に減ってると思うんですよね。 当たり前に受け取って自分に蓄えられてたそれぞれの人との信頼関係とか、気遣われる嬉しさとか、そういうのが薄れてるっていうか。 この状況が今作に影響したところってありますか?
■村上: 「CALL」(M2)はまさに自粛期間中に作った曲なんで、人と人の間が完全に独りぼっちになってしまった人に向けて、自分とばかり会話してないでこっちに電話かけてきなよ、っていう曲で。 だから今回の電話企画(『MOON』のキャンペーン。特設の電話番号に電話をかけたリスナーが、電話口で「CALL」の先行試聴とメンバーメッセージを聴ける企画)も、自分と会話しているものを他者へ向ける事で改めて自分の気持ちをリフレッシュしてもらえたら、っていう考えからやったんですよ。 今は新しいメソッドを、CALLする(誰かと話す)とか、何か見つけていければいいですよね。 地球のすごい長い歴史の中で言えば今の時期も一瞬のことであって、地球温暖化だとか、人間だから被害者で、みんな悲観している部分があるけど、もっと大きい流れからすれば、あって然るべき浮き沈みの中で起きている出来事なんだと思うんですよね。 だから嘆いて終わらずに、どんどん新しいアイディアを、今までの反省と後悔を生かして創り出していくしかないよな、って思うんです。 そういう前向きな気持ちを、音楽の創造性の中に発見していって、それをみんなにもシェアしてくのが僕らがやれることかなって思うし。 もちろん僕らなりの超不器用なやり方でしかできないんですけどね(笑)。
― 曲1つ単位で小さな救世主ですね、「CALL」。 電話企画はめっちゃ斬新で楽しい企画でした。 衣食住と比べて必須性が低いとされてる音楽ですけど、今は必要とされてますよね、以前より確実に。
■村上: 純粋に音楽をよく聴くようになりました。 救われてますね。 こころとからだしかないんで、こころが元気だとからだも元気になるし、理想が元気だと現実も元気になるし。
― そういえばからだでいえば、最近水泳は?
■村上: 水泳は、公民館が今の時期お休みしてるんで、しばらくできてないです。 その代わり走ってます。
― 「CHOOSE R」(M1)、イントロのインスト曲。 これはまさかのカントリー調。
■村上: そうです、初の(笑)。 “R”はリスタートの”R”なんですけど、これは自粛期間中に宅録で作ってTwitterで上げた曲をアレンジしたものですね。 5/31、1回目の緊急事態宣言明けの日に出した曲です。 だけどその後僕らが活動休止することになったので、そういう意味での復活(リスタート)を前提とした曲としてCHOOSEした(選んだ)、という1曲目です。
― このインストも含めたアルバム通して、生楽器以外の音も今回積極的に入ってましたね。 これはスタジオに入れずDTM上での作業が増えた効果?
■村上: これはですね、飯野(Pf./Cho.)がピアノ以外の音に手を伸ばし始めたっていう理由からです。 僕はピアノが好きだし、テスラは泣かない。のブランドとしてもピアノの音は大事だと思ってるんですけど、飯野が今回、曲を良くする為の意図で「これピアノの音じゃないとだめ?」っていう発言することが多々あって。 実際トライしてみたら確かにハマってるな、という結果が結構得られたんですよ。 僕からすると例えばオルガンの音一発でファーって伸ばしてるフレーズとか、ライブで飯野暇じゃない?って心配になるんですけど、もっとピアノでガンガン弾けばいいじゃん、みたいな。 でもそういうことではないらしいです(笑)。
― 村上さん以外のメンバーにもそういう自分の楽器から離れた俯瞰で捉える目があるのは選択肢広げてくれそうですね。
■村上: めちゃくちゃありがたいですね。 今回特に。
淘汰させてはいけないもの
― 「CALL」では間奏部分の歌詞だけが、最後に付け足した部分とのこと。
■村上: 自粛明け初めてスタジオに入った後に、その時の感覚で書き足したんですよ。 いつも大体僕の書く歌詞は、誰かに向けて書いているようで、実は僕自身が誰かに言ってもらいたいことでもあって。 ここのフレーズも、自分に言い聞かせてるような部分がありますね、「大丈夫だよ」って。 その日のスタジオで今後について4人で話したんですよ。 話はすごく穏やかにみんな納得したかたちで結論も出せて、頭もクリアになって。 その後、その場をまとめる為には僕はリーダーとして何を言うのがいいのかな、と考えて。 元々僕ら、ことばにするのが下手だから音楽で表現してきた訳だから、やっぱりセッションしよう、って僕から提案したんです。 そのセッションがすごく自然に噛み合ってて良いグルーヴ感出てたんで、ここから始まる大充電期間を前にして、気持ちも少し落ち着いたんですよね。
― 呼吸の合わせ方がすごくバンドマンらしい。 いい時間だった訳ですね。
■村上: なんですけど(笑)、実は内心めちゃくちゃヒヤヒヤしてました。 会話は変な方向にいかず正しく治められたな、と思ってメンバーみんなも気持ちが同じ方向に向いている状態で、これでセッションがグダグダだったら、テンション下がることも可能性として想定されたんで、僕だけすごい緊迫感で(笑)。 ある種の賭けだったんですけどね、ただ結果、すごくよかったんですよ。 たった20分間位だったんですけど、安心しましたね、みんなもそうだったと思います。
― やっぱり直接ひとと会って何か一緒にやることって、大事ですね。
■村上: 絶対大事だと思います。 淘汰させてはいけないもののひとつではありますね、100%。 直接目に見えるものの中にも目に見えない大切さがあるから、効率的なだけになっては本当にいけないと思います、たとえ古い考えだと言われても。
― 緊急事態宣言でひとと会えないとか、一緒に食事をしてはダメだとか、音楽でもレコーディングで生のバイオリン、生の管楽器の音を入れるには時間とかギャラとかめちゃくちゃ高くついたりとか、いつからかアナログなこと、元来普通にやってたことがレアで高級な嗜好品で、簡単に手に入らないものになっていってて、逆に一瞬で世界中にアクセスできることとか、人と合わずに生活品や食事を揃えることが簡単になってきてた今、この大いなるコスパの悪さで時間と労力と知恵をたくさん使って作り出す音楽、これはやっぱり最高ですね(笑)。
■村上: 本当ですね…(笑)。 「CALL」でストリングスを入れたのもそれに然りでした。 PC上で素材のストリングス音を入れて聴いてみて、「やっぱりロックバンドだからストリングスはナシだね」っていう話に落ち着いた後に、ラジオの企画で武田信治さんと岡部磨知さんと「アンダーソン」をサックスとバイオリンを入れてセッションするっていう機会があって。 その時生音のサックス、バイオリンが加わったセッションがかなり衝撃的に自分の音楽性を広げてくれた、というか。 ロック x バイオリン = 全然合うし、めちゃくちゃいいじゃん!ってことになって、結果入れたんです。 出会いってそういう人生変える機会をくれますよね。
― 続いての「new era」(M3)、feat.の森心言さん(Alaska Jam / DALLJUB STEP CLUB)とはどういう間柄?
■村上: 中学〜高校の後輩です、寮も一緒で一緒に文化祭出たりしてました。
― 作品での絡みは今回が初?
■村上: 初でした。 自粛期間中に一度二人で遊んでセッションしたことがあって、それが良かったんで次はリリースでやろう、という話になり、このかたちになりました。 超上下関係の学校だったんで、先輩権力をふんだんに駆使しました(笑)。
― 「恋と幻」(M4)、これも歌詞がドスっときますね。 サビの「幻は 幻を
連れてきて また消えるだけ 恋をして 恋をして 確かめ合うよ」。 これも物理至上主義の地の時代と思想至上主義の風の時代の対比のような。 活動休止関係なく、それ以前からこういう表裏の対比みたいな感覚をずっと感じながら曲とか歌を作ってた2年間だった、ってことですかね。
■村上: そうですね、基本根アカじゃないんですよね。 根暗なんです(笑)。
小さな天球を覆す大いなる伏線
― その揺るがぬ基本思想、根暗フィロソフィーで活休にも動揺せずに理論で苦行をどんどん成敗して、淡々と前に進んでいく様が見えるくらいには、本作の先にはストーリーが広がってる感じしますね。
■村上: 『MOON』っていうタイトルもそうだし、この先どういう充電期間を過ごして、どう復活していくのか、決まってる訳ではないですけど、音楽をずっと続けるのは決定稿なんで、この作品で伏線は張ったつもりです、はい。 絶対に伏線にはしようと思います。 映画でも続編ものがすごい好きで『シャイニング』とか『トレインスポッティング』とか、もう終わってたと思ったら続編あるんか!と思って見たらすごい良くて、その後改めて1話目を見返したらやっぱり1話も最高だな!みたいな繰り返しがある感じ、あれがとっても好きなんですよね。 自分の作品人生もそうありたい。
― 「コインランドリー」(M5)は、楽曲と歌詞の温度差がすごいですね。
■村上: 僕の悪い癖というか、斜に構えてるところなんですけど、こういう悲しかったり深刻だったりするトピックを、めちゃくちゃポップな音に乗せたがるんですよね。 コインランドリーのグルグル回ってるだけの単純な景色とポップな曲に、すごい深刻な歌詞を合わせると、全然深刻な印象じゃなくなる、っていうマジックをやってみたかったんです。
― この曲も次の「呶々々」(M6)もボーカルに関してはラップまでいかないスポークンスタイルだったり、やっぱりことばにすごくフォーカスしてる感じが。
■村上: そうですね。 HIP HOPも好きなんですけど、そのままラップするのは自分の声と合わないんで、歌でもないラップでもないトーク調のもの、というやり方をとりました。
― 「深海」(M7)はタイトルから曲を付けたのか、楽曲から漂う深海感が2000%はありました。
■村上: 僕自身がすごい双極性の人間で、正にMOONですけど満月の時もあれば新月の時もあって、バイオリズムの激しい人間なんですよ。 で、普段作曲をする時ってほぼ満月状態の時。 だからアルバムとして曲を並べて聴いてみた時に、時々自分でもしんどくなるくらい元気に聞こえる時があって、これは1曲新月(元気がない)状態の時に聴いても自分がしんどくない曲を作った方がいいな、と思って長い間かけて作ったのがこの曲です。 曲なんて作れないくらい元気のない時に触っては止め、触っては止め、をずっとやり続けてできた曲で、完成してみるとこのアルバムの中で今自分で聴いていて一番気持ちいいのはこの曲。 海の底でじっと動かず真っ暗の中。 でもそれはゼロじゃなくて、その状態でしか聞こえないものがあって、本当は真実はそっちの世界にあるのかもよ、って。 もしかすると元気な時の方が病的で真実からはかけ離れている状態で、元気じゃない時の方が正解なのかもしれない、だからどっちも必要、っていう。
― スーパーマリオもスター取った時の方が異常ですからね(笑)。
■村上: マリオ…あぁ、あれスターの時は完全に常軌を逸してますね。
― 普段ちょっとした段差で死ぬのに…。
■村上: 元気ある裏側にはそうでない自分が絶対いますからね。 あとこの曲の歌詞にある“沈黙” っていうことばの文脈に関しては、遠藤周作(芥川賞受賞著者)の作品『沈黙』からイメージを広げていったんで、その世界観と元気のない時の自分の感覚がいいかたちで一致したかな、と思います。
― 次曲「STOMP」(M8)はこれまでもアルバムで時折入ってくるオールドスクールなロックナンバーですね。
■村上: この曲は5年くらい前に作ったものなんですけど、その時はアレンジまとまらず挫折して眠らせてた曲です。 今回吉牟田(Ba.)がプログレっぽい途中のフレーズをコロナ中に持ってきて、そこで僕もサビをまたいじり直して、手を入れていったらうまくアレンジがまとまって完成した、という年代物の曲です。 なんかやっぱりバンドだから、1人でやれることの先に希望となる可能性が沢山待ってるんですよね。 他者とハモってできる代物。 元々人間はからだ自体が楽器で、手を叩けば音が鳴るし、心臓がひとつのBPMになってて、そのひとが集まると音楽になって、音楽が集まると文化が生まれて、文化が集まると価値が生まれて。 足し算じゃ想像できないような経験が掛け算で生まれる凄さって人との繋がりの中にあるじゃないですか。 そういう感覚をあたまの片隅に置いておいて、今の時期Zoomだけじゃなくて、今度は会って話そう、っていう行動に繋がっていくといいな、と思います。
― 「PASS」(M9)は聖母マリアのようなコーラスが超天空系。
■村上: この曲はある監督さんとコラボさせてもらった曲で、コーラスが4声入ってるんですけど、それぞれにちょっとずつズレがあって別ものなんですよ。 それがどんどん調和していって最後には4つ全て一致して大合唱になる、っていうコンセプト。 途中にはいろんな国の言葉が出てきたり、それぞれのバイオリズムとか周期があってもそれはそれでよくて、最終的にはひとつになるというよりは、”それぞれがちゃんとリンクする” っていうことを表現した曲です。
― 「departure」(M10)、飯野さんソロでのインストですね、新鮮。
■村上: はい、グランドピアノ一発録り、テイクも3回で決めてもらいました。 当初はこの曲を飯野作曲で13年経てようやくソロ作発表、バリバリクラシック、というので「本当は飯野はクラシックをやりたかったけど村上がロックやりたくて方向性違ったんじゃ…」と憶測されるんじゃないか、って勝手に危惧したんですけど、まぁそれでもいっか、と思って(笑)。
― 最後の曲が「朝陽」(M10)、明るく締め括りですね。 最後3曲で光が見えてくる感じの流れがまた美しい。 これから先の活動に自然と情景が重なる感じがします。
■村上: 力んでポジティブになってる訳じゃないですけど、俯瞰で見て前に進むしかないからな、って思ってる感じです。
― 肩の力は抜けていて、でもスイッチが入ればギアはいつでも入れて走る、みたいな。 その先でつまづいたり止まったりすることはあんまり恐れてない悟りみたいな感じも伺えますね。
■村上: 今まではつまずくのは自分に筋力とか経験がないからだ、っていう量の問題だと思ってたんですよ。 でもね、多分両手に持ってるものの重さに耐え得るバランス感覚の問題、質の問題だな、って最近分かりました(笑)。 かといってせっかく手にしたものを捨てる訳にはいかないし。 だから感覚を保って、新月な部分と満月な部分をバランスよく持って、転ばないように、もしくは転んだとしてもちゃんと立ち上がれるように、やっていきたいし、いけそうだなと思ってます。
休止決定よりもっと前から始まった、自分自身や取り巻く時代の環境、また自分の生み出す音楽に対する問いは、ここまでで一旦の結論を得たのか、バンドの急性期に於いても尚、村上のあたまの中は至ってクリアで穏やかにみえる。 そして誰にでもある迷いと誰にでもある幸せに翻弄され、28日周期で満ち欠けを繰り返し幻想的な光を闇夜に放ち続けて存在せし月のように、彼の音楽世界は揺らいで、大きな世間の流れにも争わず、ただその中で着実に自分の芸術を生み出し続けている機械工場のようだ。 そこには彼の人間性と等しい量の愛情でこれまでに育まれてきた、芸術の数々があり、本作も今、ゆっくりとそのコレクションの中に置かれたところ。 ひどい現実があってもあたまの中の理想で現実を少し素敵な空間にしてみせる、芸術の魔法に取り憑かれてそれを作り続ける姿は今、活動休止で僕が受けたショックより断然に永遠性を感じさせてくれている。 何と言えば妥当なのかがあまり分かっていないでこうやってPCのキーを叩き続けているが、今作『MOON』を通して聴きながら、聴き手の僕もこころをしっちゃかめっちゃかに翻弄されて最終的には、気持ちが洗われたような心地よさを感じているのは確か。 音楽なんて具象気体みたいに曖昧な存在だが、こういう匂い、感覚で人を引っ張っていく創造物にいつの時代も人は助けられて、導かれていくんだな、と思った。
INFORMATION
リリース情報:
2021年5月26日(水)リリース
NEW FULL ALBUM
『MOON』
《CD》
01. CHOOSE R
02. CALL
03. new era (feat .森 心言 [ Alaska Jam / DALLJUB STEP CLUB ])
04. 恋と幻
05. コインランドリー
06. 呶々々
07. 深海
08. STOMP
09. PASS
10. departure
11. 朝陽
《初回限定盤付属 / ライブ映像ダウンロードカード》
– 無観客配信ライブ –
#01 CHOOSE F (2020.08.27)
#02 カメラは止めない。(2020.12.17)
初回限定盤 ¥3,900 [ CD + 配信ライブ2公演分の映像ダウンロードカード付属 ]
通常盤 ¥3,000 [ CD ]
▼サブスク&DLはこちら▼
https://ssm.lnk.to/MOON_TESLA
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ライブ情報:
テスラは泣かない。
MOON release tour ”MOOOOOON 2021″
■6月19日(土)鹿児島県 CAPARVO HALL
《ワンマンライブ》
open 17:30 / start 18:00
■6月20日(日)福岡県 graf
GUEST:SACOYANS / and more
open 17:30 / start 18:00
■6月26日(土)愛知県 CLUB ROCK’N’ROLL
GUEST:PELICAN FANCLUB
open 17:30 / start 18:00
■6月27日(日)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
GUEST:PELICAN FANCLUB
open 17:30 / start 18:00
■7月3日(土)東京都 shibuya eggman [追加公演]
GUEST:SAKANAMON / the quiet room
open 16:30 / start 17:00
■7月4日(日)東京都 shibuya eggman
《ワンマンライブ》
open 17:30 / start 18:00
前売:¥3,800(全箇所共通)
▼全公演チケット発売中▼
https://eplus.jp/tesla-cry2021/