――まず、メジャーデビューをツアーファイナルのアンコールの最後の最後に発表したのはなぜだったんですか?
涼音(Vo、Ag)ツアーファイナルでメジャーデビューを発表することはなんとなく決まってはいたんですが、実は。SOLDOUTしなかったら発表はなかったかもしれなかったんです。でも「アナザーダイバーシティ」のリリース後にたくさんの人がチケットを手に入れてくださって、用意していたチケット枚数では足りなくなって、急遽演出を変更してなるべく多くの人が入れるようにしたんです。不思議な感覚ですけど、そのタイミングでメジャーデビューすべきと言われているかのように物事が進んでいった感じがありました。僕は発表する大役を任されてたので、そのことに対しては緊張感がすごくあって、ライブ中はふわふわしてましたね。で、当日、発表する瞬間まで自分でもどこで言うか決めていなくて、メンバーも発表のタイミングを知らないっていう状態でライブに入ったので、「あんなことしなきゃよかったな」と(笑)。
――そうだったんですね。ここ数年の積み重ねを経て、自然な流れだと感じるのですが、皆さんにとってメジャーでの活動を選ぶのはどんな意味が大きいですか?
涼音 僕は二つあって。一つはメジャーデビューできないとは全く思ってなかったことですかね。というのも、メジャーデビューはバンドを組んだ時から視野に入っていたことでもあったので。5年間という時間をかけていろんな人と関わって助けていただいて、そのおかげもあってちゃんと頭の中にあった通りにデビューできたなと思っています。もう一つは全く反対の感情になっちゃうんですけど、僕自身バンドを始める前はシンガーソングライターとしても活動していたので、そこを合わせると12年ぐらいの活動歴になるんですが、ようやくスタートラインに立てたというか。お客さんに来てもらえるのは当たり前じゃないですし、チケットが一枚も売れないで一人でライブして一人で帰るみたいな瞬間もたくさんありましたし。だからこそツアーファイナルがソールドしたのは自分の中ではすごく嬉しいことでもあり、でもここで終わりたくもないので、一番上に行くために必要な通り道っていう感じでしたね。メジャーデビューが目標ではなかったので、自分の行きたいところに行くために必要な手段を得られた感覚ですかね。
飯沼一暁(Ba)リーダーが言ってくれたことの補足になってしまうんですけれども、やっぱりメジャーデビューしてからがスタートなのかなと思っているところもあって。バンドを長く続けていくことが一個大きな結成当初からの目標というか、決めていたことでした。メジャーレーベルの力をお借りして、いろんなチームの人たちも増えて、長く良い音楽を続けていけることが目標というか、そのために必要なことなのかなと思っています。
永山タイキ(Dr)今二人が言ってくれたことがほとんどすべてだなとは思いながら聞いてたんですけど、メジャーデビューしたからといって安心もできないので、これまで活動してきたことも含め、より一層レベルアップしてみんなに届けていきたいなとすごく思っています。
miri(Key)メジャーデビューを発表した直後のみんなの感想や熱みたいなものはすごく感じて。それを受けて、メジャーデビューって応援してくれている人にとってすごく嬉しいことなんだなと思ったんですよね。その気持ちをずっと持ち続けてもらえるように頑張ろうと思って。「ああ、ここからまた一歩進み出してみんなと一緒に大きくなっていくんだな」と実感した瞬間でしたね。
――デビュー曲の「UNITY」には完成度の高さとともに「この内容を一曲目にするんだ」という驚きがありました。
涼音 メジャーデビュー曲って勝手なイメージですけど、アップテンポでキラキラしたものを作るイメージがなんとなくの概念としてあって、僕も書き始める前はメジャーデビューにふさわしい曲を書かなきゃいけないと思ってしまって、逆に書きづらくなっていたんですよね。でも途中から「そもそも何のために曲を書いてるんだ」と考えが戻るようなきっかけがありまして、そこから今のタイミングで書きたいものを書くべきだなという感覚に変わったんです。もちろんサウンド感やスケール感は先々大きなステージに立っていくために必要なものとしてアレンジして行く感覚ではあったんですけど、ソングライティングに関してはインディーズのEP三部作のまとめを作りたいなっていうのもあって。ツアーファイナルもそうだったんですけど、ちゃんと終わらせてから進む感じがあったので、メジャーファーストシングルかつインディーズ最終シングルみたいなイメージで作りましたね。なので、メジャーセカンドシングルがファースト(シングル)みたいな感覚かもしれないですね。
――驚いたのは「UNITY」というタイトルや、最後の歌詞の四行でこの曲は自分一人ではなく、周りにいる人も含めた話だったのが分かるところで。これは新しいなと思いましたね。
涼音 そうですね。最後の四行に関しては意図的に今までの自分のソングライティングから逸脱して意識して書いたので、純粋にそこに気づいていただけてすごくうれしいです。“UNITY”という単語には「単一である」っていう意味もあるし「全体」みたいな意味もあって不思議な単語なんです。タイトルっていつもすごく悩むんですけど、自分の中ではもうこれしかないなと思って。ただレトロリロンって途中から英単語のタイトルをずっと避けてきてはいたので、ここで使っていいものか?と迷ったんですけど、ここで使わなかったらいつ使うんだとも思ったので、結果的に「UNITY」はぴったりだったなと思います。
――イントロもコーラスが効果的かつ意外性があって驚きました。しかも尺が長いですよね。
涼音 イントロコーラスみたいな、声を楽器としてカウントして作るのは初めてだったんですけど挑戦してみました。僕はイントロはすごく大事だと思っていて、イントロを端折る流れが今の日本の音楽シーンで結構増えたと思うんですよね。SNSでの最初のとっかかりや引っかかり、バズることを意識した曲作りが増えてきていて、それは音楽の一つの進化の形でもあるし、日本の音楽が変化していっているタイミングではあるなと思いつつも、僕が作りたいものはそういうものではなかったんですよね。
――確かに。皆さんがアレンジの視点で工夫したところと言えば?
miri これまでのレトロリロンのアレンジではメロディとのバランスを見てピアノのフレーズを作っていて、メロディが開いた隙間にフレーズを入れていくことが多いんです。それは歌詞とか歌を聴かせたいので。なんですけど、今回は歌のメロディと一緒にピアノも前進していくような感じを出したくて、あえて歌のリズムと同じリズムを弾いてみたり、息を吸うタイミングで一緒に音を切ったりしています。それは今までのレトロリロンにはない作り方でした。あとは間奏部分がピアノ一本になるんですけど、それも新しいアレンジで、今まではソロやメンバーの聴かせるポイントを作ることが多かったんですけど、聴いてくれてる人が曲に浸れる瞬間みたいなものを涼音が提案してくれて、間奏とかソロとはまた違ったセクションが生まれた感じがして、そこも今回の新しい部分だしおすすめポイントでもあります。
永山 ドラムアレンジをしている時に年々シンプルなビートになるなっていうのは感じていて、それは歌詞を届けたいからなんです。でもビートはシンプルなんだけど、ちゃんと感情を入れるというか。ただ淡々と進むビートだと流れていく感覚があるので感情を込めましたね。あとはサビのビートが全て違っていて、そこで曲の情緒をつけれたらと思ってドラムアレンジをしたので、ビートのグルーヴ感の変わるところを聴いてくれたら嬉しいですね。
飯沼 ベースで頑張ったところで言うと、ドラムがシンプルなビートを叩いているのに対してベースはバンドでのローというかボトムを支えるようなラインを弾くようにしてました。あと、サビは上モノのシンセっぽい音が綺麗に響くようなイメージで、あえてシンプルに刻むというか、8分音符でベースを弾くということを1曲通して徹底した曲ですね。シンプルなんですけど、出るところは出て引くところは引くという。
――5月末からは再びツアーもスタートします。今後に向けての抱負をお願いできますか?
飯沼 メジャーデビューをして、より大きくなって皆さんを巻き込んで駆け抜けて行こうと思っております! ライブ1本1本にも魂を込めてやっておりますので、ぜひライブに遊びに来てもらえると嬉しいです。今年どこかで会えることを楽しみにしております。
3rd EP「アナザーダイバーシティ」リリースワンマンツアーファイナルのEX THEATER ROPPONGIでメジャーデビューを発表したレトロリロン。2020年代後半のJ-POPシーンのセンターに打って出る注目の存在である彼らが、そのスタート地点となるメジャー1stシングル「UNITY」を5月7日にリリースする。精度を上げたアレンジやサウンドプロダクションはもちろん、このタイミングだからこそ書かれたであろう涼音からのメッセージにも注目したい。