このサイトはJavaScriptがオンになっていないと正常に表示されません

黒木 渚 interview
- SPECIAL -

黒木 渚 interview

地元九州で巻き起こった気流は大きく膨れ上がり速度を上げて東京へ。自然発生的な現象に身を委ねながらもそこに確かな覚悟を携えて生活拠点を移し、環境の変化の中で生み出し続ける表現の数々は今の”黒木渚”を体現する生身の質感。本作で切迫感あるイメージのタイトルと裏腹に描かれたやわらかな世界観も、裸足で竹の様にまっすぐにステージに立つ姿も、どれを取ってもわずかに感じる黒木 渚(Vo/Gt)のこころの内。攻撃的な言葉でコーティングされる彼女の表現、奥の方はいつもやさしく、接触する人々に解放感をもたらす救いの沙汰だ。

interviewer:鞘師 至

―本作のタイトル曲「はさみ」に感じた世界観なんですが、思い返せば黒木渚の作品から通して感じられる “不完全な人間であることを自覚している強さ”みたいなものは、こうやって取材をしたりライブのステージを観る限り、ご本人から出る表現の説得力と同じ類いに感じます。歌詞の中の主人公はご本人ですか?

黒木 渚(以下 “K”):私が主人公に憑依している、みたいな感じだと思います。仰る通り、私の中に劣等感とか自分の未熟さに対する自覚があるのは確かですが、はさみの主人公には特定のモデルは存在していないんです。はさみという物語の中で生きている女の人がいて、その人に思い切り感情移入して書いたという感じ。ライブでも、私自身の訴えというよりも、はさみの主人公になりきって歌っているという感覚の方がしっくり来ます。とはいえ主人公を作り出したのも私なので、私に限りなく近い人物である事は確かですね。

-M2「マトリョーシカ」には都会の窮屈さを十二分に感じます。上京して半年弱が経ったと思うのですが、東京にはこの曲の描写の様な虚無感を感じますか?

K:実際に生活してみると、予想より遥かに暮らし易い場所だと感じています。刺激的だし、面白いものも沢山ある。けれど、人の多さにうんざりする日も正直あります。東京には飽和するほど人間がいて、さらにその中でサブカル人間とか草食系とか細かいカテゴリーがあったりして、一体どれくらいの種類あるんだろうと思ったのがキッカケです。それぞれの種類の人が、どんな心境で生きているかとか、私はどんな風にカテゴライズされるのかとか、どの人に興味があってどの人にうんざりしているのかとか考えていました。都会に暮らす人々が、もしマトリョーシカだったとして、ラストひとつのマトリョーシカに何が入っていたら面白いかなと。最後の中身が『闇』や『空っぽ』だったら、予定調和過ぎてつまらないし、そこにはやっぱりまたマトリョーシカが入っていたらいいなと思ったのです。

-1st.albumリリースから本作リリースまでに全国各所で黒木渚を知って、支持するファンも増え、関わる関係者なども増えたと思います。メディアでも多く目にして耳にしますがTVやラジオ、冊子など媒体のフィルターを通してファンと触れるタイミングが増えた今でも、黒木渚のメッセージはそれぞれのファンへしっかり伝わっている感覚はありますか?

K:メディアを通して発信するものも、私達の正直な思いだったり真実である事に変わりは無いのですが、一方的に発しているので、きちんと届いているかはやっぱりライブ会場で確認することになります。ステージの上からは、お客さんの表情が良く見えるのでライブ中のみんなの顔を見て『どうやらうまく受け取って貰えたようだ』と実感が湧いて来る感じです。泣いている人が居たりすると、こちらまでつられて泣きそうになったりもします。泣くほどピュアな気持ちで黒木渚に向って来てくれる事が嬉しいから。表情だけでも充分ありがたいけど、中には手紙に感想を書いて来てくれる方もいます。手紙は全部とっていて、私が死んだ時に一緒に棺に入れて貰います。

-やはりライブでの臨場感が重要なピースなんですね。先日行われた”さめざめ”、”シシド・カフカ”との全国ツアー、非常に刺激の多いおもしろそうなツアーだと思ってチェックしていました。今ツアーで得た物は何ですか?

K:1番大きな収穫は、『無敵感』だったと思います。カフカさんと笛田さんと私にはそれぞれ違う個性があるけれど、『ステージに心臓を捧げた女』という大きな共通点があって、その連帯感のおかげで今まで以上に大胆な攻めの姿勢が産まれた気がしています。
アーティストとしても女性としても、清々しくて気持の良い2人だったからこそ、一緒にライブして最高の気持になれたし、威勢良くやってやろうよ!みたいなたくましい気持ちになりました。

-ツアーファイナルの東京編でMCにあった「ステージに立つオンナはたいがい覚悟が決まっている人間」という言葉、ご本人にとってはこのバンドでの覚悟の上に次に見据えている目標は何ですか?

K:真実の表現をステージの上に持ってくる、というのは、今までもこれからもずっと変わらない目標です。安っぽいものや嘘くさいものなんて、お客さんは一瞬て見抜いてしまうので。その姿勢について来て下さるお客さん達と、もっと広い場所を見たいと思っています。