強く生きる意思で、救いをもたらす音楽
―今作もやはりまず耳に残るのが歌詞でした。 ご自身ではどんなイメージで書かれた作品ですか?
K: 前作『標本箱』の延長線上のメッセージというか、革命の続きを歌った作品ですね。 前作のコンセプト”革命”ではジャンヌダルクがイメージとしてあって、歌詞でも「気高く生きよ」というフレーズにもあるように孤高の存在として先導を切って前進していく像、偶像として崇高に居る遠い存在を歌った作品でした。 自分がソロになって掲げた決意みたいなものをあの時宣誓した感じです。 先導者として立ち上がって、自分の美学に乗っ取ってやっていきます!って。 今作はその続きのストーリー。 あの宣言を受けて実際に競技を、戦をスタートさせるに当たってもっと人間臭く生きる女の実像を描いた作品です。 タイトル通りですよね、『虎視眈々と淡々と』。
-楽曲はデビュー作からリリースごとにどんどん外に開けていく感じがします。 今作、特に明るく未来を照らすイメージですが、歌詞を覗けばやはり内側に深く、気持ちの軸が自分の中に揺るがず在る印象でした。
K: 毒味とか、アングラな部分とか、そういう内々なものって自分でどんどん掘り下げていって本性を掴まないと、その先に自分の明るい部分っていうのも提示できない感じがしていたから、その掘り下げる作業を必至にここ半年くらいでやってたかな。 もう嫌!っていうくらいにそういう自分のネガティブコンテンツと向き合ってきてかなり実像を掴んだんで、もうこれ以上暗いことばかり歌わなくてもいいや、って思えるまでになってきました(笑)。 そういう側面を蹴散らしていく気概がここ最近持ててきて、今回のシングルにも反映できてると思います。
-周囲の景色、取り巻く環境も違って見えてきました?
K: ソロになってからは何もかも全部自分で決める必要性が出てきたんで、周囲の情報の何を信用するか、Yesとするか、何を拒むべきか、そういう判断基準をしっかり持って生きていかないとどんどん自分の理想からズレていくし、自分のやりたい表現が薄れてしまう。 そういった意味で周囲の環境と接する責任感が以前より自分に携わった気がします。 それだけ周囲の環境に過敏に反応するようになってきました。
-「大本命(M4)」では歌詞冒頭に「浅き夢見し馬鹿者」とありますが、地元九州から上京する時はこんな事も周囲から言われました?
K: うん、これは周りからも言われた事ですけど、どちらかと言えば自分を嘲笑して書いたフレーズですかね。 バカだなぁ、と思いましたもん(笑)。 公務員辞めてバンドやりますって言って東京目指すなんて。 でも実際にあのタイミングで上京してがむしゃらに進んできて、まだ道すがら半ばですけど振り返ればよくやってきたよな、って思えてるから、今開き直って書けてるのかな。 上京してすぐのもがいてる時期だったら書けてなかったですね(笑)。 今だからこうやって創作に結びつけられた一文ですね。
-創作の意識とか創造性が上がっている感じは、前回のフルアルバムリリース全国ツアーの際の渋谷公会堂でのライブで感じました。 ライブのシナリオも、ステージセットも、一遍のストーリに寄り添った仕様でライブというより舞台を見てるみたいな感覚でした。
K: 元々が本から得た創造性で音楽を書いてますし、イメージ先行型なんで、ライブもその感覚で作っている感じです。
-今は制作とライブ、どちらにフォーカスしてます?
K: どちらも一緒の心持ちで向き合ってるかな。 ものづくりが大好きだけど、ずっと密室で缶詰状態だとうずうずしてきて、一発ライブやればスカッとして頭の中も整理される。 頭の中が片付くと創作意欲も湧いてくる。 ライブ自体もやってる時はリアルタイムな生き物ですけど、そこに至るまでにリハを重ねて、自分なりの想いや狙いを込めて作り込むものであって、創作活動の一環に入ってる気もしますしね。 でもどのみち最終的にはライブが自分のモチベーションになってるかもしれないです。
やっぱり私、人に会わないとだめですね。
-ライブではお客さんとの気持ちの接点を直で体験できますしね。
K: 私のことを音楽家に仕上げたのはお客さんだと思うし、「武道館行くぞ!」とか言った時も、実際にそうなったら連れてってくれるのはお客さんな訳だし、表現している限りやっぱり人とは密接に関わってますよね。 だから直接的に人と会えるライブで感じる帰属感とか信頼感とかは今も変わらず自分にとって大切な気持ちです。
-今も目標は武道館?
K: もちろん。
-そういう意味では渋谷公会堂、今度は恵比寿LIQUIDROOMと、着実に射程圏内に武道館を置いたライブをカマしていってますね。
K: もっと加速したいくらいです。 2015年は過労死してもいいくらいの気でやります(笑)。 そのくらい今楽しいから。 「革命がえし」のツアーの時が自分の中で大変さのピークになってて色々ヘビーだったんですけどなんとか乗り越えたから、あの時の辛さまでは自分はクリアできるって分かってるんですよ。
-決心が着いた時とか、アイディアが生まれた瞬間とか、精神的に無敵状態入るとからだなんていくらでも動きますもんね。
K: そう! でもそのマリオのスター状態とか、エナジードリンク注入後みたいな状態とかってその後が恐いですからね、電池が切れてしまわないように私も気をつけなきゃ。 2014年の後半にリリースがなかったのはその分制作事をしていたからでその間に曲作ったり、小説書いたり、いろいろ忙しくやってたんで充実してるんですけど、お客さんに届けられるまでの時間差ってどうしてもあるから、ここでようやくリリースできて、その私とお客さんとの間の気持ちの開きを埋められるって思うとまたエンジンかかりますね。 2015年はその溜め込んだものを次々と放出していこうと思ってます。
-小説というのは、今回のリリース日に購入者に対してweb公開される小説集ですよね。
K: そうなんです、今ちょうど第一稿を書き終わって手直ししてるところです。
-もう何でもご自身でやってますね(笑)
K: 確かに(笑)。 今回音楽作って小説書いて、小説の中の登場物のデザインやってオブジェ作って。。。 創作事はこれでもかってくらいやりましたね。 小説に関しては今まで養分を得る素材としてあって、そのイメージを音楽でかたちにするっていう手法をとってきたんで、今度はそれをそのまま小説でアウトプットしてみたんです。 ただいざ手をつけてみるとやはり歌詞と小説、似て非なる物なんですよね。 歌詞は流せば3分程度の世界。 思い立ったら一気に書き上げるけれど、小説はもっと長尺で書くので一日で書き上がらない。 日をまたげば自分の心情も変わるんで、空気感に切れ目が出来てしまいがちなんです。 それを均一に書けるように物語全体を俯瞰で見る訓練をするのが最初は大変でした。
-でもその手法って今後の歌詞作りにも何か良い影響をもたらしそうですね。
K: そうなんですよ。 頭に浮かんだストーリーの破片を、歌詞とするか、小説とするか、段々その振り分けや落とし込み方が分かってきて、音楽で使う文章素材の選別能力も以前より着きましたね。
一番のテーマは人間の再生。
-今回の小説の内容、差し支えない範囲で伺えますか?
K: 鹿がしゃべる話し(笑)。 壁掛けの鹿の剥製が語りかけてくるっていうところから始まるお話しです。 それだけ聞くとファンタジーっぽいですが、内容としては割と現実的な、人間の内部を描いてるものです。
-主軸は歌詞と近しい世界観念かもしれないですね。
K: そうかもしれませんね。 表面上は鹿がしゃべるっていうキャッチーな描写ですけど、その中で人間の内面を深く表現できるのは書いていてとても楽しかった。 大変でもありましたけどね、まずもって現実、鹿しゃべらないし(笑)。 その辺をイメージ膨らませるために本物の鹿の頭蓋骨をもらって帰ってきて机の上に置いて眺めながら小説書く、とかいろいろやってみました。
-ほんとにひたすら創作し続けた半年だった訳ですね。
K: 精神力使いましたけど、でももうそれも超えられてやっとツアー始まりますから。 今、疲れは全然ないです。 ライブではもう新曲少しずつ披露してるんで、その反応を貰えたりして今まさにやってよかった!ってやり甲斐感じまくってます。 勢いはね、もうこれから止まりませんよ。 どんどん外に出していって、駆け回るのみ。 2015年、待ってて下さい。 やりたい事たくさんあり過ぎるんで。