―この夏にはROCK IN JAPAN2019への出演もあり、徐々にフェスの出演も増えてきている印象です。Amelieの歩みってライブハウスをホームに泥臭く頑張るバンドの道しるべ的なイメージを持っています。ライブハウスの人間としてとても嬉しい。
mick(Vocal,Guiter,Piano 以下…m):そう言ってもらえるのは嬉しいですね。まだまだ目指している場所にはたどり着いていないけど、夢はありますよね。でもゴールを決めたら満足してしまうし、そこで止まってしまうと思うからまだまだ走り続けますよ。
―それこそAmelieというバンドのアイデンティティでは?
m:ライブはそうかもしれないですね。今月はちょっとライブが少なくて、週1くらいとかだとちょっとソワソワしちゃいます(笑)。ライブが少なくなってしまったら自分を保てないかもしれないです。(ライブは)Amelieのmickという存在を自分自身で実感できる居場所だからそれこそアイデンティティですよね。
―早速今作のタイトルにちなんだ会話をしてしまいましたが、『アイデンティティ』という作品タイトルの由来を聞かせてもらいたいです。
m:これは2曲目の「アイデンティティの証明」という曲ができてからついたタイトルです。実はこの曲は結構奇跡的に出来上がったんですよ。元々ギターの直人さんが作った曲で、歌詞もメロもタイトルも違ったんです。プリプロもやって、今作に収録する曲を決めるタイミングまでその形で。でも私の中でなんか引っかかるというかしっくりきていなかったんですよね。今の私の中でのモードが自分の言葉で歌いたくなっていて。今まで私も直人さんも曲をつくってそれぞれの良さがあるのがAmelieの特徴の一つだったんですけど、いつもお世話になっているレコーディングエンジニアの兼重さんに“無茶ぶりだけどオケはそのままで歌詞もメロディーも書き換えてみたら?”って言われて。時間も全然ない中だったので不安もあったんですけど、今のモヤモヤを消すためにはそれしかない!と思って書いたんです。直人さんに元々の曲ができた経緯とかを聞いたら、今悩んでるのかもなって感じて。そこで直人さんは直人さんでいいし、私は私でいいんじゃないかとか思って、このアイデンティティという言葉にたどり着いたんです。それが今のモードを表す言葉かなと思って今作のタイトルにしました。
―なるほど。確かにAmelieはmickさんと直人くんそれぞれが曲を書くというのが特徴だったから珍しい形ですよね。
m:今はより自分の言葉で歌を歌いたいという気持ちがとても強くて。自我が出てきたんですかね(笑)。
―すごいタイミングで(笑)。今一人でラジオをやって、そこで弾き語り曲を作っているからのは大きいんじゃないですか?
m:あー、それは確実にありますね。物理的に一人で行動することも増えましたしね。ラジオの時の曲作りはかなり自由にやってるんです。Amelieを組み立ての頃に似ているのかな。近年Amelieの為にというかAmelieのmickとして曲を書かなければという意識が自然に強くなってしまっていた自分がいて。こういうことを言わなきゃいけないとか、こういう歌詞を書かなきゃいけないとかみたいな。でもラジオでの曲作りが始まってから自由に書いてストレス発散みたいな感じになっていて、きっと本来曲作りってこういうことだっただろうなって思ったんです。今作の収録曲はそんな今の私のモードで制作した曲たちという感じですね。
―先ほど話があった「アイデンティティの証明」以外すべて作詞作曲がmickさんですもんね。
m:そうなんですよ。先ほどもお話ししましたが今までは直人さんと私がそれぞれ曲を書いて収録曲も半々くらいの割合で担当していましたから。
ーそのイメージでした。だから今回mickさんのソロインタビューというのが新鮮です。そして今回はそんな今のモードで書いたからなのか良い意味でとてもシンプルに感じました。
m:ライブを意識して曲を作るというところからの脱却ですかね。もちろんライブを考えないのは無理だし、ライブはライブでとても大切なんですが、音源として届けることということに注力してみました。ずっとやってみたかったんですよね。
―それはすごく伝わります。明らかに今回違うモードなんだろうなって。全体的な印象が違って、でもそれが奇をてらったりとか突拍子もないことをやっているわけでもなく。
m:コクがあるかなって思ってます(笑)。
―それだ!それはしっくりきますね。
m:今年の4月のインタビューでもっとアーティスティックに芸術を突き詰めたい的なことを話したと思うんですけど、それが今作で少しは具現化できたのかななんて思っています。
-ジャケ写もアーティスティックかなと感じました。
m:そう言ってもらえて嬉しい。このパズルの写真はメンバー全員の顔をミックスしていて、Amelieというバンドはこの4人でやるというのがアイデンティティで、でもこれが完成ではないからピースを少し外していて。ここからどんなピースがあてはまっていくかはわからないけど、この4人でやっていくことがAmelieというバンドです。という意思を表しています。
―そんな作品の収録曲について1曲ずつ聞いていこうと思います。作品のスタートとなる1曲目は「カントリーロード」。
m:Amelieは結成の地でもある地元越谷を大事にしていて、越谷でサーキットイベントの主催をやったりしているんですけど、そんな越谷をテーマにした歌を作りたいとずっと思っていて、過去にも書きかけたことはあったんですが、その時はあまり上手くいかなくて。ツアーの遠征中にスタジオに入ったときに、イントロをこういう感じの曲をやりたいって言ってジャカジャカ弾いて、メロディもなんとなくあったのでそれを歌ってみたら良い感じの手応えがあったのでそこから一気に書き進めました。私にとって越谷って初恋とか友情とか青春がたくさん詰まった土地で、そういったことを忘れたくないなって思って書いた内容です。歌詞に15の夏というフレーズがでてくるのですが、これは実話でその時に大失恋をしたんです。本当にショックで。でも年齢を重ねるとあの時のようなワーッと湧き出るようなこみ上げるような感情って徐々になくなってくるなと思っていて。そういった過去もひっくるめて私だし、忘れたいわけではないけど徐々に忘れてしまう。それがなんだかとても嫌で曲にしました。こういうとき曲にしがちなんです。残しておきたいから。
―そういうのってアーティストならではですよね。羨ましく思います。その時の感情が物理的に形もに残って、尚且つそれが他の人に届いて心にも残って。
m:とてもありがたいことですよね。でも実はこういう個人的な感情というか青さってAmelieでは歌ってきていなくて。
―確かに。そう言われてみればそうですね。今作だから収録できた曲ですかね?
m:うーん。そういう部分もありますが、細かいこと考えずもう歌っちゃえ!って感じでした(笑)。Amelieのmickである前に一人の人間だし、自分の感情をもっと歌いたいって思うようになったんです。私は私だから。「アイデンティティの証明」ができる前に作った曲ですが、そういった部分でもリンクしてますね。
―そしてその曲に続くのが「アイデンティティの証明」。先ほどもお話しいただきましたが今作の要となる曲ですね。
m:そうですね。でもこの曲ができたのは最後ですからね。それが面白いんですよ。最後にこの曲ができたのにほかの収録曲もなんとなくリンクしていて。
―きっとmickさんがそういうモードだったんでしょうね。
m:今思えばそうだったんでしょうね。この曲を書き換えたのはきっと直人さんとしては嫌だったと思うんだけど、元々の曲には直人さんの良さがでていたし、今この曲はこの形が一番良いと思っているし、歌詞にも込めましたが、本当に人それぞれで良いと思うんですよ。私は私の良さを活かして表現していきたいし、直人さんは直人さんの良さで表現をしていってもらいたいです。直人さんをとてもリスペクトはしているので、彼はとても優しくて周りの事を気にしすぎだからそんなに細かいこと気にしなくていいいよと。あなたはあなたなんだからって思って歌詞を書きました。
―愛が溢れている歌詞ですね。この話を聞いてから曲を聴き直したらまた違った感情が生まれそうです。そして3曲目は「バウムクーヘン」。Amelieの曲でこのタイトルはなんだか想像がつきにくかったです。
m:確かに今までこういう感じのタイトルつけたことなかったですもんね。これはバウムクーヘンをテーマにした曲を作ろうっていうところからスタートしたんです。以前とある先輩と曲作りについて色々お話しさせてもらっているときに、書いてみたいテーマを並べてみてるっていう話を聞いて、私もそれをやってみたんです。その中にバウムクーヘンというテーマも書いてあって。でもなかなか曲にはできてなかったんです。スタジオでみんなでジャムってた時にこの曲のフレーズを私が弾いたらそれいいじゃん!ってみんなが乗ってくれて、なんかその時にバウムクーヘンっぽいかもって閃いて、家に帰ってから書きました。
―インスピレーションですね。
m:バウムクーヘンからの連想ゲームをしていって。穴が空いているとか年輪とか。
―その結果ちゃんと人間模様を描いていて面白い曲だなと感じました。
m:ありがとうございます。ラジオでもテーマを元に曲作りをしているのでそういうのが合っているのかもしれないですね。
―そして4曲目は今作のアクセントとなる印象の「月の裏まで」。この曲はmickさんらしさみたいなものをすごく感じたんですよね。
m:この曲は曲作りに行き詰まってしまってちょっと悩んでいた時に、適当にギターを弾いていたら曲の冒頭の“このままどっか遠くへ連れてってくれないか”というフレーズがパッとでてきたんですよ。
―多分その時のmickさんの心情じゃないですか(笑)。
m:あはは(笑)。曲作り悩み期だったからどっかへ行きたかったのかな(笑)。でもそんな感じで息抜き的にというか細かいことを考えずに作った曲ですね。
―そんな曲がmickさんらしいと感じたということはmickさんの根底にある音楽性なんですかね。
m:気を抜いたときのほうが良い曲ができるんですよ。気を張って作らなきゃと作らなきゃとなっているとよくない時もあるんだなって。でも気を抜いても結局曲作りをしていて、こういう曲ができるってことはやっぱり私の根底には音楽・歌があるんだろうなとは思いました。本当に音楽が好きなんだろうな。
―それが気付けたのは良いことでしたね。
m:この曲が気付かせてくれましたね。でも実はこの曲はできた経緯も含めてAmelie用という感覚ではなかったのできっと採用されないだろうなって勝手に思っていて、最初スタジオでもみんなに披露するのをためらったくらいなんですよ。そうしたらみんなめっちゃ良い曲!って言ってくれて。
―Amelieのボーカルとしての責任感や内部にいるからこそ固定概念に縛られてしまっている部分があるのかもしれないですね。
m:この曲をみんなが良い曲って言ってくれた瞬間が今のモードに切り替わったタイミングかもしれないです。こういう曲でもいいんだ、私らしさをもっと出していいんだって。自己肯定してもらえた気分でしたね。
―そういう意味でもこの曲は大切な曲ですね。そんな大切な曲に続くのは「東京」。from越谷を掲げているバンドが表現する東京という曲はどういう曲なんだろうっていろいろ想像しちゃいました。東京という曲名から持つイメージはいわゆる上京物語的なものが多い中で、越谷と東京はそこまで遠いわけでもないからAmelieが表現する東京はきっとそういった曲ではないだろうとは想像がついたので。
m:今作の中では一番元ネタが古い曲で、実は過去作に入る可能性もあったんですよ。この曲をどうにか形にしたいという想いは4人全員みんな持っていたんですがなかなか納得いく形にならなくて。だから今作では歌詞も書き換えてピアノを入れたりして、ようやく形にできたという感じです。先ほど話してくれたように越谷から東京ってそこまで遠くないし、でもめちゃくちゃ近い場所でもないし、絶妙な距離感なんですよね。だから憧れの場所とかっていうよりはなりたい自分になるために必要な人たちに会える場所なんです。普段のライブはもちろんですが、ツアーファイナルとかはやっぱり東京でやることが多いし、レコーディングとかミーティングとか基本的にバンド活動の拠点は東京だから。Amelieのmickとしてのアイデンティティを感じる場所なのかもしれないです。そういった意味でも今作にはこの曲が入れられるなって思ったし、「カントリーロード」という越谷を想った曲が入っている今作であれば東京という曲が浮かないかなって。越谷は大事な場所だし、これからもそれは変わらないけど、それだけに縛られるつもりはなくて、だからこそ「カントリーロード」とこの曲は歌詞でリンクする部分をいくつか作っていて。
―確かにそれは感じました。ちょっと似ている部分というか通ずる部分があるなって。
m:自分という存在を肯定してほしかったんですよね。私は私でいいんだって思えるきっかけがほしかった。そういった意味で東京という場所はAmelieというバンドを認めてもらえて、自己肯定してもらえた場所なんです。
―とても大事な曲ですね。こういう話が聞けてよかったです。そして今作の最後を飾るのが「フルスピードで。」この曲はThe Amelieっていう印象でした。
m:ですよね。やっぱりAmelieの作品にはこういう曲も必要だなって改めて思いました。レーベルの先輩であるSUPER BEAVERとsumikaが去年日本武道館でのワンマンライブをやって、バトンを受け取ったんです。とても重いバトンだなとは思ったけど嬉しかったんですよ。その日家に帰ってからその気持ちを込めてすぐに作った曲です。もちろん武道館だけがゴールではないんですけど、とにかく今はそこに向かって進むということがAmelieというバンドとして目指す場所の一つで。だからこの曲は今作に収録することに大きな意味があるし、バンドとしてのアイデンティティの一つ。
―この曲もそうですが、Amelieを近くで見ているとロールプレイングゲームみたいな感覚になるんです。一歩ずつしっかりと壁を乗り越えて成長して。そしてまた次の壁に挑んで。その姿を応援したくなるんだなって。
m:そう言ってもらえるのは嬉しいですね。まだまだ遠い場所だし、もっともっとフルスピードで走っていかないと。
―今作でさらに加速度が増しそうな印象です。楽しみですね。
m:ありがとうございます。今作でAmelieというバンド、mickという存在のアイデンティティを示すことができたと思うので、さらに進んでいけたらと思っています。
―初となる東名阪ワンマンツアーも楽しみです。今のmickさんのモードでのワンマンってまた違った景色が見えそう。
m:そうかもしれないですね。この前のツアーファイナルでのeggmanがとても良い景色で、ハッピー感が溢れまくっていたんですよ。あんな純度の高いハッピーな空間って今まであまりなくて。それがAmelieらしさかもって言ってもらえたのも嬉しかったんです。
―もしかしたら今のAmelieが一番Amelieらしいのかもしれないですね。
m:今作でそれがさらに強く思えました。私は私らしくこれからも歌っていきたいと思います。
―これからも楽しみにしていますね。