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Base Ball Bear interview
- SPECIAL -

Base Ball Bear interview

次の時代へ進むカギとなる、バンドの過去と今

interviewer:鞘師至

今年、活動12年目を迎えるBase Ball Bearが今回初となるベストアルバム『バンドBのベスト』をリリース。同時にニューシングル『PERFECT BLUE』も発売となる。ベスト盤は2CD仕様で、CD未収録曲「若者のゆくえ(Original Version)」を含む全22曲収録。ボリューム感が半端ない。Disc1の1曲目からDisc2を聴き終えるまで、2006年のデビュー当時から今に至るまでの時系列に添って並べられた各楽曲にちりばめられる四つ打ちビート、サウンドエフェクトの駆使されたギター、音の差し引きで出来上がる立体的な楽器アンサンブル、青春時代を回想させる歌詞の世界…これらの要素は昔から今も変わらず在り続けて、リリースの都度私達の記憶にBase Ball Bear然として残ってきている事を、このベスト盤を聴いて改めて感じさせられた。

「ブリッドポップや80年代のニューウェーブの音楽も学生時代によく聴いていた」と話す小出祐介(Vo/Gt)の組み上げる音楽世界は、そういった各時代のクラシックなUKサウンドの背景も感じさせ、一筋縄ではいかない技巧が積み重なって出来ているが、一方でボーカルのメロディーに注目すると、キャッチーこの上ない。「バンドを始めた学生時代から、洋楽を好きになってよく聴いてはいましたけど、これをそのままやってもおもしろくないし、僕がやるからには日本らしい歌のメロディーを作りたいと思って、そこにこだわってました。宅録でひたすら曲を作って、メンバーに持っていってね。ニューウェーブとかの曲の在り方、解釈は基礎にあったとしても、その上にしっかり歌メロを乗せる、というコンセプトを持つことから自分なりの曲の書き方が始まったと思う。」このアンバランスな深みと取っ付きやすさの同居が、多くのリスナーを惹き付けてきた所以なのだろう。そういったリスナーからの支持は、ベスト盤収録曲に数多く付いたタイアップからも伺える。 映画『鴨川ホルモー』、資生堂『SEA BREEZE』CM、アニメ『銀魂』等々、どれも時の注目トピックだ。

いつ何処にいても、世界各国の情報が飛び交って、当たり前のように耳や目からそれらが大量に入ってくる今の日本で、自然に海外文化を受け入れて自分なりのフィルターに通して咀嚼すること、またなおかつ我々の世代が小さい頃から体感してきた歌謡曲から派生するような日本人的メロディーの感覚を歌うこと、どちらも真に今の時代の日本人の音楽感覚を正面から捉えた嘘のない、現代日本の音楽のかたちなのかもしれない。

その都度何かひとつの音楽からの影響に捕らわれるのではなく、ずっと培ってきた自らの感覚に導かれてアウトプットする毎作品。 今回のニューシングル収録曲でもBase Ball Bearの軸はブレない。しかし確実な曲毎の新しいエッセンスを感じる3曲だ。 「今回、ベストアルバムとシングルが同梱できるボックスがベスト盤の初回生産分の特典として付いてくるんですが、ベスト盤と同時リリースする意味のあるシングルにしたいと思って作ったのが1曲目の「PERFECT BLUE」で、ベストアルバムの22曲に続く、23曲目のイメージなんです。これまでの総括でもあるし、このバンドの王道的な側面を踏まえた曲だと思ってます。」メロディーの突き抜け感もバンドの色として然りだが、歌詞においても、過去作品内でもしばしば出てくる若かりし頃の一場面の様なBase Ball Bear節が、楽曲の明るさと裏腹に曲のイメージを少しせつなくさせる。「歌詞の内容に関しては、自分の実体験だけじゃなく、その時自分が思った事、空想していた事という頭の中まで含めて、若い頃の記憶がほぼ全て詰まってます。」と話す小出祐介のリアルな言葉がこの曲にはぎっしり羅列されている。一方で、2曲目に収録されている「アイノシタイ」では、バンド史上初めてブックレットに歌詞を掲載していないが、ここにも彼らの新たな試みがあるようだ。「この曲は、タイトルの言葉自体がリズムとして曲中で重要になっていて、言葉の意味ではなく、その言葉の持つリズムから派生してドラム、ベースと絡んでビートが生まれて、他の楽器とも重なっていった、というふうに、「アイノシタイ」という言葉の持つリズムをきっかけに楽曲のアンサンブルを生み出していったんです。字を追って意味をリンクさせるんじゃなく、「アイノシタイ」というタイトルをまず”音”として聴感上で聞き取ってもらった時に、おそらく人それぞれ思い浮かぶイメージや言葉の意味が違ってくると思うんですよ。そういったリズムとして言葉を聴く感覚に主軸を委ねてもいいかな、と思って。」また、3曲目の「Typical Girl」は、かなり久しぶりの関根史織(Ba)のソロボーカル曲。「OLが独り言を言うような感じで歌って、ってこいちゃん(小出)にリクエストされて(笑)、そういう典型的な女の子の気持ちをイメージして歌ってます」と話す彼女の声にぴったりのふんわり感のある楽曲は非常に個性的で、パンチの効いた他2曲に引けを取らない。

楽曲の色合いも3曲3様で、バンドの表現力の幅広さを感じさせる今作のシングル。これまでの11年間の軌跡とこれからのBase Ball Bearを繋ぐ、現在進行形の彼らが投影された作品である。

通算6枚のアルバムに、14枚のシングル、2枚のミニアルバムのリリース。 ライブでも、多い年は年間合計3回のツアー、また大型フェスなど、数多くのステージに立ち続けているBase Ball Bear。これだけの過密スケジュールをデビューからずっと続けてきた彼等だが、これからも尚前進していく意思を小出祐介は語る。「デビューからずっとこの速度に慣れているし、ペースを減速したいという発想もなくやってきてますね。休むことなく常に何かを作っている環境も苦ではないし、それが自分達の表現のペースだと思って自然に続けてます。」

このバイタリティー、バンドの原動力は一体何なのだろう。一番の達成感はどこで?という問いに小出祐介はこう答える。「曲を作って、これでOKだなって満足できるところまで持っていけた時ですかね。作曲が終わるタイミング。あとはアルバムのマスタリングが終わって、スタジオワークが全て完了した瞬間。アルバム制作が一番作業に時間がかかりますからね。毎回大きな流れの最後にアルバム制作があって、マスタリングはその全ての終わりの作業なんで、マスタリングを終えた瞬間の喜びはやっぱり大きいですね。それが今でも一番な気がします。」

ものづくりの達成感、小出祐介の音楽の原動力は、メジャーデビューを経て環境が変わろうとも、学生時代に宅録を始めた当初から変わらないミュージシャンの原点そのものだ。そこから生み落とされた11年間の集大成ともいえる作品集と、今改めてのBase Ball Bear像が提示されたニューシングル。今回同時リリースされるこの2作品にはこの先のバンドのゆくえが垣間見れる現段階の彼等の全てが詰まっている。