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Brian the Sun
- SPECIAL -

Brian the Sun

10周年期間を終えて、これまで突っ走ってきた初期衝動的なスタイルの延長線上から、別の表現が見えてきたというBrian the Sunのメジャー2枚目となるフルアルバム。 タイトルは『the Sun』と、彼らのバンド名や、ものごとの中心、物理的な生命の拠(よ)り所となる太陽光など、いろんな角度からのシンプルな核心を代名した様なものだ。 焦らずおごらず荒ぶらず、自分たちの歩幅と身の丈をいつも見据えてやってきた彼らの地に足着いた結果の出し方は、今回音楽性とメッセージにかなりの変化をもたらしている。 胸ぐらを掴む問答で導き出す正義から、両手を広げて迎え入れる共有の居場所へ。 タイミングで生み出すものは変われど、彼らから出てくる表現の誠実さには、これまでと変わらない芯の強さがある。 もとい、いつの時代にも自分に嘘のない表現に勝るものなし。

Interview & Text : 鞘師 至

振り返った後、確信的に次に見えたもの。

— 今回、メジャー2枚目のフルアルバムですが、このバンド、もう結成して10年経つんですね。

■ 森良太 ( Vo/Gt 以下“森” ): 意外と長いんですよね。 この4人になってから7年目かな。 

— 今作、これまでのライブで見せる疾走感あるバンドのイメージと比べて、楽曲が凄くポップになったイメージがあって。 ロックだけど、音の歪みに頼ってない感じ。 これって、何か意図があっての変化なんでしょうか?

■森: 去年がバンドの10周年で、その都度メンバーとこれまでを振り返る事が多かったんですよ。 インタビューで訊かれたり、活動内容を決めていく中で考える事が多かったり。 その過程で “次、どうしようかな”って考えてたんですけど、これからも俺らのロックな内面の部分を出していくのか?って思ったら、その時の心境的にはそれが何かしっくりこなくて。 スタジオ入って練習してる時にみんなに訊いたんですよ、一回ギター置いて。 「この先、抜本的に変えていきたいと思ってる。 今回はポップなものを作りたいんだけど、どう思う?」って。 そしたら案外みんなも賛成してくれて。 俺らがやっていく方向性ってそういう事だと思う、っていう意見が一致したんで、そこを今回目指して曲作りを進めていったんです。 だからこれまでと違うやり方だったんだけど、割と足並みは揃った状態でスタートできてたかな。 今までのライブとか音源とかって、聴いてくれる人に自分たちの生き方とか、世の中の事とか、それに対する自分の内面とかを今一度よく考えてもらうような、質問を投げかけるものだったと思うんですよ。 ただ今回はシンプルに、聴く人たちに安心してもらいたいな、と思って作ったんです。 悶々としてライブに来た人たちに、悶々とした投げかけを返すような作業の繰り返しじゃなくて、ライブに来た人に安心して欲しい、っていう感覚。 自分の心境の変化もあって、拠(よ)り所を見つけて欲しいな、っていう感覚がすごく強くなったんですよね。

 

— 明確に作りたいものがあってこうなったんですね。 確かに歌詞をとっても楽曲をとっても触感がやわらかい。

■ 森: そうですね、焚きつけるような曲は、ないですね。

— 曲とか歌詞とかっていう手前の段階の、心境の変化が相当大きかったんですかね。 きっかけって何だったんですか?

■森: 去年10周年記念でやった「ブライアンフェス」っていうイベントですね。 東京会場、大阪会場それぞれ全く違った対バンでやって、出てくれたバンド全員のおかげで成功できたんですけど、出てるバンド全部が、イベントだからって俺らに歩み寄る感じとかじゃなくて、すごく自然体な自分たちのやり方でそれぞれ勝負するようなライブをしていて、それが全バンド本当に凄いライブだったんですよ。 それを見て俺らの出番になった時、ステージに出てく前に俺らはどういうライブやったらいいだろう?って考えたら、もう細工なしに普通にやって楽しむしかないよな、って思ったんですよ。 その気でライブした後、 “あぁ、自分らのやるべきことってこういう事やな” って実感したんですよね。 対バンの人たちに教えられた感覚に近いかもしれないですけど、漠然とだけど確かに何か掴んだ感じがして。
■小川真司 ( Gt/Cho 以下“小川” ): 満場一致でそういう意見にまとまりました。 これからやるべき事って、こういう事だよな、っていう。 メンバーだけじゃなくて、見ていてくれたお客さんからもそういう意見が多くて、確信しましたね。 気負わず普通にやっても俺らの色って出るんやな、っていう事を実感したというか。
■森: 10周年でこのフェスをやるって決まって動き出した時から、これやり遂げたら満足してもうこのバンド辞めよっか、っていう気持ちになるかもしれない、って可能性も自分の中で感じながら進めてた企画だったんですよ。 節目だし、やる事やったからここで一旦バラしてそれぞれお互いの道進もうや、ってなるかもしれんって。 やる前はそんな事も考えてたんですけど、いざ終わってみたらシンプルに終わりたくないな、寂しいなっていう気持ちになっていて。 ただ、続けていくんだったとしたら俺はもう今までの様にストイックで求道的なサウンドのまま続けていくのはもう無理だって自分の中で感じていたし、メンバーのモード的にも、いつまでも10代の初期衝動みたいなライブは出来ない、飛行機が滑走路を離陸してるのはみんな薄々気付いてる、次の到着地点の事もそろそろ考えないと、燃料も切れてくるぞって、言わずとも心の中で感じてるのは察してたんで、そこで今一度自分たちがジタバタせずにどうやって行く末を定めていくか、考えた時に見えてきたのが今回のアルバムのスタイルだったんですよ。 

— メンバー全員の感覚ですか。 確かに歌詞だけじゃなく曲全体にも現れてますね、そういうブライトな質感というか、至極ポジティブな感じが。

■ 森: 案外俺らに合ってるんでしょうね、こういう音をやる事が。 今、しっくりくるんですよ。

— それは逆にちゃんと初期衝動の音をこれまでやってきたから今やれる事でしょうね。

■森: そうですね、やっぱり物事を言える段階ってあると思うんですよ。 結成3ヶ月のバンドにずっと「大丈夫だよ」って言われたところで、いやいやいや…ってなるじゃないですか(笑)。 そう意味ではこのバンドは今まで自分たちの状況と心境を、ちゃんと照らし合わせながらやってきたバンドであって、状況に無理して変に上のポイントを狙ったり、無理して引っ張り上げる様な事はしないし、ただただ日々淡々とベストを尽くす様な生き方をしようと思ってやってきてる。 そういうのはめっちゃ大事にしてて。 だからその結果で今回のようなサウンドになっていったのは、自分たちの中で納得がいってます。

— ぐっと説得力感じますね、その過去ありきでこの今は。

■ 森: リアルですよね。

バンドのカラーは後から付いてくるもの。

— 曲の事を幾つか訊いていきたいんですが、まずは「The World」(M1)。 いきなり歌詞にハッとさせられました(笑)。 「他人でいいのさ 足りないから 愛せるのさ」、すごい腑に落ちる(笑)。

■森: 人って他人の中に自分の思う正解を求めがちだと思うんですよ。 「こういうふうにしたら、こう受け取ってくれるだろう」みたいな期待を感じる事がめちゃくちゃ多くて。 簡単に言えば、褒めたら喜んでくれるだろう、とか。 そういう簡単な図式で世の中成り立ってる訳じゃないじゃないですか。 期待をして話をして、それがハマらなかった時にスネるとかじゃなくて、そういう予想外の反応があるからこそ自分と違う部分としておもしろかったり、愛おしいと思えたりする訳で。 他人と自分を天秤にかけた時に、自分のほうが重たい人って誤った選択をしがちですよね。 本当は結局釣り合ってるんですよ、どっちが上とかじゃなくて。 だから人として普通に接した時にどう思うか、どう感じるかだけで生きればいいのに、期待しすぎる人が多いな、っていう歌です。

 

— サウンド的にはこの曲1サビすぐ後のブレークのギターフレーズとか、たまに入ってくる象徴的なリフって、超絶テクニック系とかのものでもないし、でもどこか耳に残るようなフレーズだったりしますが、こういうスパイスになっているようなフレーズは、何か影響された音楽があったりするんですか?

■小川: 良太のああいうフレーズは完全に手癖ですね。 昔っからそうやんな?
■ 森: そうですね、適当に弾いてるんですけど(笑)、その中から気になったものを拾って曲に使っていってます。 この曲で言えば間奏のドラムソロからベースが戻って来る時のチョッパーとかも完全に普段の手癖ですね。 セッションしてる時にたまたま弾いちゃって、それをそのまま起用、みたいな(笑)。 まあ楽器はずっと弾いてるんで、自然に出てくる手癖にもなにかしら影響された蓄積物はあるんでしょうけどね。

— 音質面での今回のアルバムのクリアな感じ、これは特にスネアの音が担ってる感じがしたんですよね。 これはピッコロ(※1)?

■田中駿汰 ( Dr/Cho 以下“田中” ): ピッコロも使ってますね。 他にはブラス(※2)も使ってます。 
■ 白山治輝 ( Ba/Cho 以下“白山” ): 早い曲はピッコロ使うタイミング多かったよね、今回。
■ 田中: そうだね。 昔はライブでもよく使ってましたね。

— ピッコロを使ってるのって、少し昔だとミクスチャーハードコアとかビジュアル系のイメージが強いから、このバンドでこういう音を鳴らしてるのがカウンターパンチとしておもしろいな、と(笑)。

■ 森: スネアも使い分けてたけど、シンバル類とかもけっこうこだわっていろいろやってたよね。
■ 田中: そうですね、シンバルにもミュートでガムテープ貼ったりとか。
■ 森: 普通シンバルはなかなかミュートしないんですけどね、ドラムキット全体の鳴りで考えた時に、シンバルがデカ過ぎたら他の音と干渉するんで、バランス取る為にミュートしたり、けっこう細かくこだわりましたね。 ドラムキットもロックな曲にはやっぱりキット自体にガッツある音が欲しかったんで、別のキットを用意したりして使い分けてました。 
■ 小川: ドラムは録りの時のEQに関して森がめちゃくちゃこだわるんですよ。
■ 森: 極力ミックスでいじらなくて済むように、録り音の段階でEQは決め込んでおきたいんでね。 ただ、あんまりやり過ぎるとマイクの本数が増えていったり、ハンドリングしにくくはなるんであくまでバランスですけどね。 

— アルビニ録音(※3)みたいな話ですね…。 続いて「カフネ」(M4)。 こちらはTVアニメ「3月のライオン」のEDテーマ曲ですね。 これって書き下ろし?

■ 森: 書き下ろしです。 

— 歌詞は森さんらしいし、曲はアニメの雰囲気に寄り添ってる感じ。 バンドとアニメ作品がちゃんとダブルネームで成立してる感じの曲だな、と思ったんですが、元々のバンドのカラーがある中で、こうやって他の作品とコラボする事って難しくないですか?

■森: バンドのカラーって事に関しては、メジャーデビューしてからが特にそうなんですけど、あまり意識してないんですよ。 今回に関してもそうですけど、自分らの音楽性より、作品の世界観を崩さないように、自分の中ではコラボして書いてるんで、あくまで作品を分かった気になり過ぎないような立ち位置で、アニメを代弁するんじゃなく、このバンドとの共通項を書くようにしてます。 だから歌詞がそうやってこのバンドらしい感じに聞こえてくるのかもしれないですね。 やりたい事を手にあまるぐらいやってみて、最後に残ったものが結果的に自分たちらしさになってればいいかな、っていうスタンスですね。

— あなたは本当に道を外さない人だ(笑)。 

■ 森: そうですかね(笑)、普通にやってるだけです。 ちなみにこの曲だけ、サウンドプロデューサーにスピッツとかユニコーンとかをやられてる笹路正徳さんに入ってもらって、笹路さんのチームで録ったんですけど、まずスタジオの音が良すぎて…感動でした。 本当に一流のチームでした。 
■ 白山: 仕事の早さとか尋常じゃなかったよね(笑)。 本当に感動しました。
■ 森: 初めの音作りが終わって、「まずは試しに1回やってみますか」って事で俺らそれぞれブース入って、笹路さんがピアノ弾いて、全員でせーの!で演奏してみたんですよ。 この音源、そのテイクです。

— 1発目のテイク!?

■ 森: そうなんですよね。 普通だったら試しに1回合わせて、そこからここをちょっとこうして、とか調整が入るじゃないですか、この録音チームには一切それがなく、エンジニアの方もすごかったです。 
■ 小川: 「一番最初のテイクの音がちゃんと録れないエンジニアは辞めたほうがいい」って言ってました(笑)。 

— かっこいいなぁ…(笑)。

■ 白山: 演奏する側にとっては超プレッシャー(笑)。 でも1発目が良いって本当らしくて、「試しに」っていう意識でいるが故に、いい感じに演奏の力が抜けてるらしいんですよね。 2回目以降は間違えた部分とかを修正しようと意識がそこに持ってかれるから良くないらしいんですけど、今回で僕らそれを理解してしまったので、次からは1発目から力入ると思うんですよ(笑)。 これ使うかもしれんから絶対に間違ってはいけない、っていう意識が…(笑)。

— プロデューサーによってはそうやって導く良質テイクってあるんですね(笑)。 

■ 小川: これぞプロデュース力ですよね。

— ちなみにこの曲はストリングスも入ってますね。

■ 森: ストリングスの方もエグい位のプロでした。 30分位弾いてサッと帰っていきました(笑)。 迷いがない、というか。 
■ 小川: なんでその場で楽譜渡されて1発目から完璧なん?みたいな(笑)。 すごかった…

— バンドにとってすごくいい経験だったんですね、笹路さんとの作業。 ちなみに前作までのタイアップ作品も全て書き下ろし?

■ 森: そうですね。 書き下ろし、嫌がる人もいるようですけど、何ででしょうね。 バンドのブランディングなんて気にせず作ったらええのに。

— 僕、勝手に森さんはそういうの嫌がるタイプかと思ってました(笑)。

■森: あ、本当ですか? 全然嫌じゃないですけどね(笑)。 曲に罪はないですから。
■ 白山: メジャーデビューする話を頂いた時に森は言ってましたね、メジャーでやるか、このままインディーでやるかをバンドで意思決定する時に、「もしメジャーでやるんだったら、書き下ろしとか、そういう事も嫌と言わずにやっていきたい」って。 良い意味で “メジャーデビューして変わった” って言われていこうぜ!っていう話をしてました。
■ 森: そういうのが嫌だったらインディーズでやってればいいですからね。 そういうことが待ち構えているという約束の上で始まることですから、誰かと一緒に進めていくって事は。 デビューした後からグチグチ言うのはおかしいですよね。
■ 白山: それを分かって今の会社に入ったんでね。
■ 森: そう、だから最高ですけどね、今。

その時の自分の音楽と、生き方の整合性。

— ちなみにカフネってどういう意味なんですか?

■ 森: “愛する人の髪に手を通す仕草” らしいです、ポルトガル語で。

— 洒落てますねー。 他に曲タイトルで気になったのは「Sunny side up from your heaven’s kitchen」(M2)と「Sunny side up」(M5)。

■ 森: これ、2曲に特段繋がりはないんですよ。 単純に “目玉焼き(Sunny side up)” っていうモチーフが好きなだけで2曲もこの単語を入れてしまいました(笑)。 英語圏の人からすればあれはSunny side up、太陽に見えてるけど、日本人はあれを白黒の “目玉” に捉えてる、って頭おかしいですよね。 目なんて色んなグレーな物事を見るのに、白と黒で構成されてるっていう事実がおもしろいじゃないですか。 それはグレーなものをはっきり見分けなさい、っていう事なんかな、とか思ったり。 皮肉ですけど、おもしろい存在だな、と思ってるんです、”目玉” 焼きっていう概念が。 かたや英語圏ではこれを太陽と捉えてるノーテンキさもおもしろいし、そういうバランスが好きなんです。 

— 歌詞面で言えばやはりラストの「the Sun」(M11)、これが本当致命的にかっこよかった…泣きそうになりました(笑)。 バンドやっててよかった、っていうなんとも等身大な歌ですね。

■ 森: だいぶシンプルに書きましたね。 ここまでやってきたらバンド以外の人生想像するのなんて、夢物語でしかないですからね。 いろいろ考えたとしても、やっぱりバンドやっててよかったですね。 

— 普通にサラリーマンやってなくてもバンドやってれば音楽だけじゃなくていろいろ学べますしね、人間関係とか含めて。

■ 森: その部分は大きいですね。 ひとりで全部作って音楽やってたら自分のかゆいところには手が届く音楽できてると思うんですけど、それだけやってても自分の人生的にそんなに楽しい事じゃないですからね。

— 森さんは最初からバンドで歌い始めた人?

■ 森: 最初は弾き語りで歌ってて、ひとりでやってこうと思ってました。 そのうち学校で白山と出会ってバンドをやる事になって、その後そのバンドが解散するか?って話になった時に「そのままやりましょうか」って事になって、そこからこのバンドが始まってますね。

— 10年来ですか、白山さんとは。

■ 白山: そうですね、出会ってからで言えば12年位。 ここ10年は家族より会ってますからね。

— 特別な存在ですね。

■ 白山: …恥ずかしいですね(笑)、そう言われると。

— この曲、歌ってる事を誇りに思ってる感じがすごく刺さるな、と。

■ 森: 歌う内容、これはやっぱり大事ですね。 今までもですし、これからも俺は歌っていくんで、時を経てどんどんその辺が大切になっていきます、おのずと。 

— そういう自分の想いみたいなものがちゃんと溶け込んだ音楽やってる人たちはやっぱり強いですね。 サウンドだけだったら同じような音鳴らすバンドなんて確率論的に絶対存在する訳で、ただそこに人間性が落とし込まれたらそれは紛れもなくその人のオリジナルになりますからね。

森: なるほどなー、オリジナルっていう観点で言えば、お客さんの存在もそうですね。 お客さんからしたら俺らバンドマンって唯一無二、オリジナルですよね。 でもバンドマンからしたらお客さんって複数いる。 ただ、お客さんをあまりに俯瞰で見過ぎていると、ただの数字に見えてきてしまうんですよ。 でも実はお客さんも一人一人唯一無二で、替えなんて効かない存在なんですよね。 全然違う層のお客さんがいきなりスポッとその会場に入ったからって、それまでのライブと同じ空間にはならないし、一緒に、お互いにライブで積み重ねてきてる空間があって成り立ってる、と思うんですよ。 バンドマンってお客さんに選んでもらってるっていう意識の人が多いと思うんですけど、決して選んでもらってると思わなくてよくて、お互いにキャッチボールがあって成り立ってる関係性だと思うんですよね。 そう思った時に、売れる可能性とかに賭けて、そこにいない架空の客層の人たちへ向けた音楽なんてやったって机上の空論でしかないから、ちゃんと目の前にいる替えのきかないお客さんひとりひとりへ向けて、最大限の愛情みたいなものを歌う、というのが大事、というか。 売れる売れないで言えばもっとやり方あるんでしょうけどね、俺はそういう一過性の引きが欲しい訳ではないんで。 

— 今はその感覚がちゃんと曲で具現化されてますね。 今回の作品を経てこの先、どんなバンドで在りたい?

■ 森: 今作で、音楽的なシーンとかジャンルのカテゴライズから解き放たれた感じがあるんですよ。 だからもう何してもいいと思うんです。 次作で何をするか?っていう問いに対してはひとつ自分の中で見えてるものがあって、今やっと身の丈にあった音楽をやれている段階から、手を伸ばして新しいものを提案していける音楽も作れるような気がしてます。 

— リスナーの耳をリードするような?

■ 森: そうですね、そういう存在になっていけたらいいな、って思いますね。  あとは、今までは作品を作ったところまでが自分たちの領域だったんですけど、その作品を受けて、それをライブとか、日々のあり方とかでどう表現していくかの部分までもが自分たちの領域だな、と思うようになったんで、今回こういうポップな作品を作った上で、それに合った表現をしていくべきなだなと思ってます、生き方として。 

※ 1:ピッコロ… ピッコロスネア。 胴が浅く高めの特徴的な音のスネアドラム。
※ 2:ブラス… 胴にブラス(真鍮)を使用したスネアドラム。 金属の胴のスネアの中でもパワー感とやわらかさの間をいく音が特徴的。

※3:アルビニ… レコーディングエンジニアの世界的な権威、スティーブ・アルビニの録音方法の俗称。 後のミックス作業に委ねず、レコーディング出だしの録り音の部分にこだわる方法。