ー どんな経緯で結成されたバンドなんですか?
高田 真路(Ba):高校生の頃やっていたバンドが解散して、新しくバンドを組むにあたって他校の軽音楽部の後輩だったたいぴょん(フルギヤ/Gt)と同じ高校の先輩だったいぶくん(吉島伊吹/Dr)にまず声をかえるところからスタートしました。その後一年間は女の子ボーカルでやりたくでずっと探していて、他校の先輩だったアヤナさん(ヨシダアヤナ/Vo&Gt)を思い出して声をかけて、この4人が揃いました。
ー chef’sというバンド名はどんなところからきているのでしょうか?
高田:バンド名よりまず「おいしいおんがく」というテーマから始まったんです。ずっと掲げている言葉なんですけど、「おいしいおんがく」を作るバンド = 「chef’s」というところでこのバンド名になりました。組んだ時からコンセプト的なところは意識していて、今作を”ドリンク盤”としていたり、以前の作品が”フルコース”だったり、コンセプトに沿ってある程度何年か先までをイメージしながら活動しています。
ー chef’sと言えば様々なタイトルで自主企画を立て続けにソールドアウトさせていて、そのインパクトが強いですが、それぞれのイベントにテーマがあるんでしょうか?
高田:どの企画も僕らが好きなバンドというところは大前提なんですが、それぞれテーマを持って開催しています。「東京晩餐会」は、活動歴が僕らよりあるバンドや先輩バンドを対バンで呼んでいて、「utage」は友達になりたいバンドとみんなで宴しよう!みたいな。「おてまえ」は新曲を披露して、その新曲のデモを無料で配るっていう。
― 2024年8月にeggmanで開催された自主企画でmurffin discsへの所属が発表されましたが、何か心境や環境に変化はありましたか?
ヨシダアヤナ(Vo&Gt):私は一年間就職をしていたんですけど、このタイミングで仕事も辞めて環境がガラッと変わりました。バンドに集中できるようになったのもあるし、今まではずっと自分たち4人でやってきたものが、関わる人が増えたことで出来ることが増えたというか。以前は私が仕事で愛知県にいたのもあって、基本的に自主企画中心のライブ活動だったんですけど、今はもういろんなライブに出演できることになって、ライブする本数も増えたし、フェスとかにも出させてもらえるようになって。バンドとして進み始めたなっていうのはめちゃくちゃ感じてます。
フルギヤ(Gt):正直、今までの活動は結構ふわっとしたものだったんです。アヤナさんが名古屋に行っちゃったのもそうなんですけど、どちらかというとこのバンドは、プロっていうよりかは”好きなことを好きなようにやる”みたいなスタンスだったんですけど、今はたくさんの人を巻き込んでいるわけで、改めてこう”しっかりやろう”っていう意識に変わったかもしれないですね。
― そして満を持してEPのタイトル「thirsty flair」にはどんな意味が込められているのでしょうか?
高田:今作は”ドリンク盤”という位置付けなので、喉が渇くというところで”thirsty”という言葉を入れたくて。そこから、直訳した”喝わいた才能”という意味の”喝才”と、いい音楽を聴いた時の”拍手喝采”をかけてこのタイトルになりました。この「おいしいおんがく」を聴いて喉が潤ったような感覚になってもらえたら嬉しいです。アレンジ面でも、今までは鍵盤を封印してたんですけど、今回から結構鍵盤メインの曲が増えていって。メンバーのプレイアビリティとアヤナさんの振り幅みたいなところもあってchef’sの才能をしっかり発揮できたなと思っていて。”chef’sはこれぐらいできるぞ”、”飲みたきゃ飲めば?”みたいな気持ちで、ちょっと挑戦的なスタンスの意味合いも含めて、このタイトルになりました。
― 今作のリード曲である「ourora」(M-1)はどんな曲でしょうか?
高田:僕はまず題名から曲を作っていくんですけど、”偶然の出会い”っていう意味がある”オーロラ”っていうカクテルがあることをいぶくんが教えてくれて。本来のスペルは”aurora”なんですけど、今回”ourora”なのは、”our”が”私たち”、”ora”が”時間”、で”私たちの時間”っていう意味も含まれているんです。曲自体は”喝才”を前に出せるような一曲を作りたいっていうのがあって。今作通して舞台や演劇をイメージする部分がたくさんあって、この曲も最初はピアノと歌からで、ピンスポがアヤナさんに当たっていて、そこからブラスとかピアノとかギター全セクションが一気に出ることによって、舞台が明るくなるみたいな、そんなイメージで作りました。ギターソロはたいぴょんが”オーロラを見れるまで録ります!”って言ってレコーディングしましたね(笑)
ヨシダ:歌詞が寂しい雰囲気ありつつ、でも曲はちょっと跳ねてる明るい感じ。ミステリアスともまた違うんですけど、歌ってて楽しいし、なんだか好きなんですこの曲。
高田:この曲の歌詞はもういない人、故人に向けて、自分にとってはおばあちゃんに向けて書いたんです。もう会えない人とつなぎ直す方法は、音楽だったり文章だったり、そういう創作物なんじゃないかって思いが僕の根底にあって。オーロラは、例えばもう会えない人とか、もう二度と会えないような人とつなぎ直す瞬間を曲の中でできたらなっていうのがあって、それがオーロラを見ることのに近いかと思ってこのタイトルにもしたので、寂しい雰囲気はそこにあるかもしれないですね。
― 「Ci(n)der era」(M-3)は自主時代にもリリースされていた楽曲ですね。再レコーディングもされて、かなりバージョンアップした印象です。
ヨシダ:最初に録ったのが二年前なんですけど、その時よりもいろんなところに意識を集中させたのが今回のシンデレラだなって感じていて。それこそとにかく考えることが多くて。歌に対するリズム感や跳ね具合とか、あとその時の感情とか表情とか、そういうのをしっかり意識して歌えて、今回再録できてよかったです。
フルギヤ:ギターで言うと、毎回毎回結構限界値を出してて、以前レコーディングした曲を聴くと、なんでこのフレーズできたんだろうって毎回に思っちゃうんです。このシンデレラも例外じゃなくて、基本的なフレーズは当時のフレーズのまま作っても別にそこに自信があるんで、基本的にフレーズを変えたりはしてないんですけど、ギターソロに関しては、ライブでやってたアレンジでできたものを落とし込んで、レコーディングしました。
高田:ギターソロ、ライブの時にたぶんたいぴょんの中ではミススタートなんですけど、そこからめっちゃいいギターソロ弾くんです。だから僕はミスってくんないかなと思いながらいつもライブやってるんですけど(笑)シンデレラのギターソロもそれが今回の再録のフレーズになっていて、ライブの時にしか聴けないっていうのもいいんですけど、再録するなら残そうよって思って。めっちゃいいギターソロなんでぜひ聴いてください。
吉島:ドラムが土台としてこの曲はありたくて。アレンジもかなり変わったんですけど、単純に前撮った時よりスキルアップしたことを実感できました。
ヨシダ:今回再録してみて、全部撮り直したいなって思いましたね。
高田:いずれ全部録り直すんじゃないかなと思います。何回も録ることに僕はすごい意味を感じているので。再録っていうと、ちょっと怠惰な感じもしますけど、料理って何回も作り直すし、美味しくするために何度もアレンジするし、メニューだってどんどん新しくなっていくわけだし、なんかそれって音楽にもあっていいんじゃないかなと僕は思うんで。常に一番いいものを食べてもらうっていうのが、僕の理想です。
― 「プルミエール」(M-4)は昨年先行リリースされた楽曲ですね。
高田: 2月にリリースした「ブランニュース」とこの「プルミエール」で、どっちをmuuffin discsからリリースする1曲目にするかってなったんですけど。「プルミエール」っていうのは、”舞台初日”っていう意味があって。「ブランニュース」は”真新しい”とか”新しいニュース”ってみたいな意味合いで。今回の「thirsty flair」のイメージとしては、ジャズ要素だったりピアノを前に出すみたいなところは結構あったので、そのイメージに近いこの曲を先にリリースすることになりました。
フルギヤ:ライブで初めて披露した時も反応よくて、手応えかなり感じた曲ですね。
ヨシダ:今までずっとギターボーカルだったのがピンボーカルになったり、新しいことにすごく挑戦した曲なんです。そういう反響も結構SNSとかでも見られたんで、曲ももちろん、chef’sの新しい形としてもいいものになったんじゃないかなって思ってます。
― 「洒落徒 」(M-5)は今作の中でも尖った印象の曲ですね。
高田:尖り散らかしてますね(笑)世の中にある、別に聴かれても聴かれなくてもいい曲にお金を払う大人に対して訴えている曲で、僕の根底にある文句みたいなところを詰め込んだ曲になってます。
フルギヤ:今までそういう作曲者の感情が出る曲は多分あんまなかったので、そういった意味でもchef’sの中では結構新しい曲なのかなって思ってます。
高田:「洒落徒」って言葉自体は舞台用語なんですけど、”徒”には“仲間”っていう意味があって。こういう僕たちが作る”洒落”的なものにあなたは賛同しますか?っていう。僕たちが作る「洒落徒」を聴いていいと思ってくれる人たちは、ある意味このchef’sの「洒落徒」っていう中では仲間だよっていう。もちろんそこに限らずいろんな人に愛されたいと思うんですけど、一つ同意をしてもらえないかなっていうところで。あとこの僕の文句もシャレだよっていう意味があって、このタイトルになってます。
フルギヤ:このギターソロもけっこう特殊で。僕がギター弾いてる横で真路がエフェクターをいじるっていう共同作業でレコーディングしました。全部、加工とかじゃなくてアンプから生で出ている音なんで、ぜひそこも聴いて欲しいです。
― 「ブランニュース」(M-6)は先日のeggmanでのライブでも披露されてましたね。クラップが印象的でライブ映えする曲だなと。
高田:この曲は今までのchef’sのPOPなイメージに近い気がしているんですけど、でもそのPOPの中にもすごい難しさがあることが大事だと思っていて。その中でドラムの土台がしっかりしなかったらもう崩壊するみたいな状態で。この曲は僕がデモで作った時点はもう崩壊しているけど、それをしっかり再構築してくれたのがいぶくんだったんです。結局丸投げなんですけど(笑)
吉島:でも意外とこの曲は苦戦せずというか、僕好みの曲だったのもあって楽しくドラム作りました。
― そして締めくくりの「thirsty flair」(M-7)がインスト曲なのもchef’sらしいですね。
高田:今回初めて最後にインストを入れたんです。今までは最初に、他のアーティストの曲から自分たちのEPに入るときに1回、そのインストで口直しをして、味わってほしいっていう意味があったんですよ。ただ今回「ourora」が結構僕の中ではもう口直しなんかいらないよっていう、もう一音目からこっちのもんだろうっていう気持ちが強かったのと、「ブランニュース」のブランが白い酒で”白酒=拍手”と、まあ「thirsty flair」が“喝才”で“拍手喝采”にしたくてその流れもあってここに入れることにしました。アンコールみたいな曲になってるんで、もう1回「ourora」に戻って、何度でも飲み返して欲しいという気持ちです。
― 4月からは全国5ヶ所のツアーが始まります。どんなツアーにしたいですか?
高田:今回のツアータイトル「APEIRING」は、chef’sのツーマンライブの一つの冠としてこれから使っていこうと思っているんです。「出会う」というところにフォーカスしていて、新しい人や場所に出会い、ツーマンだから生まれるものに出会う、そんなツアーにできればと思ってます。クレナズムもnagakumoも初対バンなんですけど、ずっと聴いていて対バンしたかったので、それぞれの地元でやれるのが嬉しいし、仙台に出てくれるルサンチマンは、僕らの節目節目に対バンしてくれていて盟友みたいに思ってます。愛知、東京も誰が来るのか楽しみにしていて欲しいです。
ー ツアーファイナルは最大キャパのWWWですね。意気込みを聞かせてください。
高田:chef’sってWWWの雰囲気に合うんじゃないかなって内心思っていて、ずっと出てみたかった会場なので、このタイミングでやれて嬉しいですし、どんなライブにしようかなってワクワクしています。
― chef’sのこれからの目標を教えてください!
高田:一生続けるつもりで始めたバンドなので、それはまず変わらずやっていきたいです。あとはせっかくmurffin discsの仲間になれたので、自分たちのおいしい音楽がmurffin discsのアイコンになるようなところまではいけたらいいなと思ってます。同期に猫背のネイビーセゾンやomeme tentenもいますし、先輩もたくさんいらっしゃるので、リスペクトはありつつ、ぶち抜くくらいの気持ちでやっていきます。