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HAWAIIAN6
- SPECIAL -

HAWAIIAN6

2011年のメンバー脱退から衝撃の新メンバー加入を経て、初の音源となるmini album『The Grails』のリリース。原点回帰した様なストレートなパンチラインと自由度が増したバンドアレンジに明確な変革を感じる今作から垣間見えるのは、彼らのこれまでの経路とこれからの進む先だ。バンドの進行方向は、最初の1ステップの角度により10歩先、100歩先の未来が変わる。16年間、幾度と舵を切って進んで来たHAWAIIAN6は、AIR JAM世代から今日までの周囲を取り囲む音楽シーンと共にどう変化していったのだろう。バンドブーム以降のストリートミュージックムーブメントの体現者は、自身の今を至ってシンプルに捉えているようだ。

interviewer:鞘師 至

–今回3年振りとなる新譜リリース、前作とはまた違って初期の空気感を今のHAWAIIAN6に溶かしたような曲で、変わらない軸の強さみたいなものを感じて嬉しかったんですが、一方で周りを取り巻くバンドの出す音や、音楽への向き合い方などに、どんどん新しい血が混ざってきていませんか?

YUTA:HAWAIIAN6の周囲にいるバンドはブレないというか、良くも悪くも変わらないで活動続けているバンドが多くて、そういう心強さはいつも感じてるよ。俺達も変わらないように、ブレないようにやってきたつもりなんだけど、作品毎に自分の中でのハードルが上がっていって、どんどん難しい方向へ詰め込みすぎてしまう癖みたなものが出て来て苦しかった時期があった。前作『BONDS』の時はまさにそうだったね。でもそれからベースが脱けて、今のベース(RYOSUKE)が入ってと、環境が移り変わっていったこともあって、いろいろと自分を見つめ直せたんだよね。

–RYOSUKEさん加入は湧きました。完全なる予想外でした(笑)。

YUTA:ね(笑)。でもね、『FANTASY』(2000年リリース1st.single)のリリースはRYOSUKEのやっているSTEP UP RECORDSからのものだったり、RYOSUKEのバンド(FUCK YOU HEROES, HARDCORE FUNCLUB, etc)ともずっと対バンしてたり、昔から一緒にやってきている仲間だから、理解ある人が加入してよかったよ。RYOSUKEも仲間意識を持ってこのバンドのことを見ててくれていて、「HAWAIIAN6を自分の好きなHAWAIIAN6として再度構築してみたい」と思っていたから加入してもらって、曲も一緒に作った。その当時俺はもう曲を突き詰める癖がついてしまっていたから、何と言うか、RYOSUKEが加わることでそれがいい形で原点に戻ったと思う。

–作曲方法は以前と変わりましたか?

YUTA:結構変わったね。以前は全部自分で作っていたけど、今作はRYOSUKEとも細部のアレンジをああだこうだ言い合いながらアイディアを出して進めていったんだよね。気心知れた仲間だったからこその理解度と、RYOSUKE自体の感覚とが両方あるから、とても新鮮な気持ちで、改めてバンドをゼロからやるような気持ちで向き合えたのが今作かな。それって手探りの作業だから、もちろん苦労もあるんだけどね。それでも前進している感じが、詰め込む癖の着いてしまっていた俺にとってはとても新鮮でよかった。

–今作の6曲はいつ出来た作品?

YUTA:この6曲は去年RYOSUKEが入ってから作った曲ばかりだよ。一番最初に別で一曲ONE BY ONEという曲を作ってツアーを回って、その後から一気に作ったんだよ。3年振りのCDだけど、作り始めてからは早かった。今回入ってない他の新曲もまだあるしね。今まで培って来たものをぶっ壊せて、その後ひとつひとつのピースをうまいこと拾って再構築できたな、というのが今の感覚。それに、ただ壊して捨てるだけじゃなくて、遊びのセンスとか余裕みたいなものも昔よりも自然に取り込めるようになったと思う。例えば「In My Life」(本作ラスト6曲目収録)はバラードなんだけど、あそこまでモロなバラードって今までやったことがなくて、どうしてもどこかに疾走パートを入れて楽しい感じにしようとしたりしていたんだけど、今のメンバーになってからはアイディアの風通しがすごくいいというか、自由度が上がったんだよね。「これバラードだけど、やっちゃおうよ!」みたいな選択ができるようになった。いろいろ今まで出来なかったような挑戦も出来たし、作っていく行程がすごいおもしろかったよ。ブラックメタルみたいなトレモロリフとかも去年辺りに弾きまくってたことがあって、「Rats On The Run」の頭のリフなんかは、そんな影響もあると思うよ。

–そのフレーズも然り、どこか憂いのあるメロディーセンスがHAWAIIAN6たる所以だと思うんですが、メロディーにマッチする今作「The Electric Wizards and the Lonely Humming Bird」などの歌詞にある物語のような世界観は、音楽以外からの影響もあるんですか?

YUTA:映画をよく見たりもするけど、例えば歌詞を作る感覚に作用してるという意味で言えば、谷川俊太郎氏(詩人/作家/脚本家)の作品かな。俺達の時代だと教科書にも出てくるようなポピュラーな人だけど、あの人の生きる事、死ぬ事、的なテーマはすごいぶっ飛んでて感銘を受けてる。物事の捉え方がすごい好きだね。

ーYUTAさん、普段での気さくな面と、音楽で描く「この世への嘆き」的な面、どちらが本質ですか?

YUTA:多分、本質はごく普通なんだよね。ずっと死ぬ事、生きる事とかを考えて生きてる訳でもないし、嘆きがないかって言うとそれも嘘で。ただ元々突き詰めた極限の物が好きな傾向があるから、何かを考えたり、吸収したりしようとする時はその先端まで行こうとする壁があるね。オタク癖というか。だから例えば機材に関しても、エフェクター作成キット買って来て作ってみたりとかね。今ではキットなしでもガンガン作れるよ(笑)。

ー確かに、全ては何かに向かって深く突き進んでいってますね。THE YASUNO N°5 GROUP(YUTAソロプロジェクトバンド)ではまた別の、闇の一方方向へ突っ込んでいく世界感ですよね。

YUTA:あのバンドでは意図としてそういう角度からの表現をやってるからね(笑)。今回の『The Grails』での歌詞はまた別で、3/11の震災で自分なりに考えた結果の事柄なんだよね。あれから歌詞を書くにしても、今まで通りの気持ちで、今まで通りの事を書くのはもはや自分には合わなくなっていて、今このタイミングで自分が言いたいこと、歌いたいことを考え直して作ったものなんだ。やっぱり生きる事とか、希望とかを根底に置いて話したかったという気持ちが非常に強い。もちろん不完全な捉え方もあっただろうけど、それでも目の前で起きているこの絶対的な現実について何も触れないっていうのは、俺にとっては嘘だったんだよ。だから言葉の選び方、詰め方も手に取りやすいような簡単な物にして、伝わるように書いた。当時一度被災地にも行ったんだけど、状況を目の当たりにして、そこで生きてる人達に触れた時に「自分には出来ることが何も無いな」とふと思ったんだよね。それでも何かしらわずかな希望になりたい、と思って書いた曲が今回の作品には多い。

ーバンドの変革と世の中の変革が相まって、一気に出来上がった6曲だったんですね。

YUTA:バンドメンバーが変わって空気感が変わって、曲の遊びの部分も、より深く突き詰める部分も、根本のHAWAIIAN6のメロディーも、シンプルにフォーカスできるようになった。本当に今のこのバンドを象徴するような物ができたと思うよ。タイトル(「The Grails」=聖杯)も、「命を与えるもの」「絶対に見つからない、辿り着かないもの」という意味合いで表す、今自分が伝えたいと思う生きる事そのものや、希望がテーマだしね。あとは、単純にRYOSUKEが入ったことへの、杯(さかずき)って意味で(笑)。

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