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JiLL-Decoy association interview
- SPECIAL -

JiLL-Decoy association interview

9作目となるフルアルバム『ジルデコ9』のサブタイトルは “GENERATE THE TIMES”。 先人が築いた社会や音楽シーンを受け継ぎながら活動する一方で、下の世代へ伝えていく立場にも立ち始めて感じるリアリティーを、楽曲と歌詞に詰め込んだ作品だという。 JAZZトリオからスタートしたキャリアはこれまでに、まずはジャンルの垣根を飛び越えて、音楽で繋いだ時間と出会いを重ねて体積したみんなの想いの集合体みたいな熱量をバンドの周囲にまといながら、今や世代間も地域性も飛び越えるワイドレンジなものになった。 ボーカリストchihiRoの2019年ここ日本で生きる音楽家として、また女性としての感覚は非常に鮮度が高い。 時代の中での位置背景を捉えながら自分たちの手で、自分たちに合った人の繋がりを音楽を通して作っていく意識が、今のジルデコを更に前に突き進めているんだと思った。

Interview & Text : 鞘師 至

自分たちの物差しで作る時代。

ー フルアルバムが今作で9枚目、結成して17年ですね。 これまでにはメジャーデビューだったりフェスへの出演だったり、レコード大賞での受賞だったり、いろんな経験を重ねてきてますが、それを経て今だから感じることってありますか?

■chihiRo: そうですね、最近は原点に立ち戻ってる感じがするんですよ。 昔はJAZZって限定されることになんかしっくりきてなくて、曲作りの判断基準が消去法だったんですよね、”これとこれはやらない” って除外した後に残るものを選択していく感じで。 でも10年くらい経った時に、”何を出してもジルデコだね” っていう評価をもらうことが多くなってきて、それが自分たちの自信に繋がっていったっていうのはありますね。 そこからは消去法じゃなくて、”これやってみた、あれやってみたい” っていう積極性とか創造性を優先できるようになって。 

ー その違いは大きいでしょうね。 確かに音にも出てると思います、その選択方法の違い。 

■chihiRo: 今回のアルバムっていうのが、自分たちでレーベルを立ち上げてからの3作品目なんですけど、この3作品、まとまった3部作として捉えて作っていったんですよ。 1枚目がアコースティックのジルデコDUO、2枚目がラッパーやセッションミュージシャンを迎えて作ったコラボレーションアルバム。 で、最後はJAZZ、っていうコンセプト。 今回は自分たちの根本にある感覚にもう一度立ち返って作ったアルバムです。 

ー 今作を全編聴いてみると、確かに立ち返って今の位置からでこそやれる楽曲ですね。 デビュー当時の楽曲にある多彩性は、JAZZ!って位置付けしちゃうと、ジャンル的なメソッドが豊富であるっていう良さを欠いてしまう恐れもあったかもしれないですし。 ちなみに今作は、前作リリースからたったの7ヶ月で作ったって聞きました…。 子育てと両立しながら、どうやったら7ヶ月で…(笑)?

■chihiRo: …私もね、今回やってみて結果的に「あ、無理だな」って思いました(笑)。色々勉強になった(笑)。1年前から手をつけ始めてた曲もあるんですけど、大体は3ヶ月くらいで曲書いて、そこからレコーディングして。 でも作曲は割とスムーズだったんですよ。 これまでにはすっごい時間をかけて作ったアルバムもあったんですけど、『ジルデコ3』なんてそれこそ1年くらいかけて曲を作ってたかな、それだけ練って出来上がったアルバムよりも、急ピッチで作って次に出した『ジルデコ4』の方が世間的に評価が高かったり(笑)。 なんでしょう、4の時は何クソ!っていう熱量があったのかな(笑)。自分たちのライフワークとしてはまずライブがあるので、先にツアーを組むことを考えて各地の会場を押さえて、さぁリリースの予定を立てるぞ!って逆算していったら、制作期間が数ヶ月しかない事に気付いたんです(笑)。 でもそこからの制作の計画性とか、与えられた時間の中での立ち回り方とか、若い頃にはないハンドリング能力が備わってきたんでしょうね、本当に大変でしたけど、7ヶ月でしっかり満足いく作品が作れました。

ー 3、4あたりのアルバムは構成方法の多彩さがすごかったですよね。 最近の作品では手法の幅とは別に、このバンドらしさを貫くことが良さに繋がってる感じがします。 

■chihiRo: そうですね、そういえば前回eggmanに出演したのが2年前でしたっけ。 あの時、10歳くらい下の世代のバンドと共演させてもらって、みんな演奏もうまければ曲もいいし、パフォーマンスも素晴らしいし、「あれ、私たちの売りってなんだったっけ?」ってすごい考えさせられるきっかけになったんですよ(笑)。 もうほんと下の世代は脅威ですね(笑)。 でもそこでメンバー3人で原点に帰って自分たちの良さってなんだ?みたいな話になって、「演奏のうねりがジルデコらしい部分かもね」っていう結論に至ったり。

ー 若手にはテクニックが、先輩の代にはロマンが詰まってるなぁ、と普段いろんなライブを見ていても思います。 ジルデコの音楽も当初は演奏力、歌唱力、作曲能力が売りとして見え易い存在だったのかもしれないですけど、今作を聴いてると今はあくまでこのバンドらしい音の癖みたいなものが一番キャッチーに見えてくる音楽だな、と思います。 なんなんでしょうね、これは。 やっぱり時間をかけて積み上げてきたものから滲み出る良さなんでしょうか。

■chihiRo: そうだったら嬉しいですね、それに甘えないようにしなきゃいけないですけどね(笑)。

夢があって、自由。

ー 楽曲のアレンジ面には、“ジルデコらしいJAZZ感”が全体に漂ってますが、自分のような一般人からすると ”JAZZってこういうもの“ っていう捉え方って難しいなって思うんですよ。 Bill Evansも、SOIL&”PIMP”SESSIONSも、Robert Glasperも全部JAZZとされてるけどそれぞれ全然違う。 chihiRoさんにとってはJAZZってどんなものですか?

■ chihiRo: そうだなぁ…、私にとっては夢があって、自由である事、あとは古きを重んじる楽しさがある事かな。先人のやったことを受け継いで自分の解釈で吐き出すというか。 そういう意味ではジルデコは最初の頃はどこのジャンルにもハマらないってことが存在意義だと思ってたけど、孤独でもありました。JAZZと言われることに抵抗がなくなるまでには時間もかかりましたけど、今のジルデコを作るためには必要な時間だった気がします。あとは今ってリアルな歌詞、現実を突きつける音楽が求められる時代だと思うんですけど、逆に現実逃避できる夢がある音楽っていうのもいいと思うんですよね。 そういう自分たちなりの観点で音楽をやってきた結果が、今回のアルバムに自分たちらしさとして出てたらいいですね。 

ー ジルデコにジャンルでの捉え方がだんだん不要になってきてるのは事実ですよね。

■chihiRo: ジャンルっていう面で言えばバンド名に “Decoy” っていう単語を入れたのも、POPSだと思って聴いてたらJAZZの世界に入ってたり、JAZZのつもりで聴き始めてPOPSの世界に入り込んでたり、両方のひとたちに入り口が開いてて、JAZZしか聴かない人とJAZZを聴かない人が入り混じる場所になったらいいな、と思ったからだったりして。 ジルデコの音楽って歌が載ってなかったら結構しっかりJAZZのインスト演奏として成立してるんですよね。 そこに日本語の歌が載ってる、みたいな。 

ー 確かにそうですね! でも歌に譲らないくらいガンガン目立ってくる楽器演奏隊も昔からジルデコのかっこよさのひとつです(笑)。 情報量が多くていろんな音に耳が振り回される贅沢さ、みたいな(笑)。

■chihiRo: そういえば昔towadaに「歌と楽器は同等だからな!」って言われてました(笑)。 

世代と世代を繋いでいく作業。

ー 楽曲ごとの事も聞いていきたいんですが、まず「Starlight Generation」(M2)。 これは小さい頃見た景色と今見る景色の対比を歌ってますが、こういう歌詞は実際の経験から書かれたものですか?

■chihiRo: 子供の頃、父に連れていってもらって見た東京の夜景が、ただただ夢があって素晴らしくって。 こんなところで働いてるお父さんってすごいな、かっこいいな、って思ったことがあるんですけど、今になって見渡してみると、同じ夜景にいろんな事を思うんですよね。 この煌びやかな夜景の世界の一部として自分もちゃんと成り立ってるのかな…って思ってちょっと切なくなったり。 逆に田舎に行って夜空を見上げたらすごく星が綺麗で、こっちの方がいいなぁ、って思ったり。 今度は自分が親の世代になって自分の子供の世代に何を残せるのか、って考えた時に、自分の親の世代が作り上げた今の東京みたいな世界に、田舎の星空みたいなすばらしさが共存できるような世の中にしていけたらいいのにな、って思って書いた歌詞です。

ー イントロ〜1番の優雅な雰囲気の楽曲から、2番に差し掛かってビートが細かくなってスタイリッシュな雰囲気に変わる流れ、これは歌詞の子供〜大人になって…の流れとリンクしてると思ったんですが、こういう部分って歌詞に楽器のフレーズを沿わせていくんですか? それとも逆?

■chihiRo: この部分は音が先でした。 今回は “Generation” がキーワードだったんで、”古き良き” とか “古き悪しき” って何だ? っていう回答を3人で話しながらホワイトボードに書き出していったりしてこの曲の歌詞の流れを組んでいきました。 頭の部分の懐かしい感じの音から速度感のある音への変化の部分には、大人になってからの描写を乗せて。 

ー 次の「接吻」(M3)はオリジナル・ラブのカバー。 選曲はどうやって?

■chihiRo: 今回、尚美ミュージックカレッジ専門学校の学生ビックバンド「SHOBI Jazz Orchestra」にレコーディングで演奏をお願いする事になったんですけど、その際にカバーの提案を学校の方からもらいまして、いくつか出た候補の中からメンバーでも話し合って、この曲をやらせてもらう事になりました。 候補曲には他にも色々いい曲があって、私的にはQUEENも凄くやりたくて、2人に「ボヘミアン・ラプソディー」良くない?!って提案したんですけど、2人はあんまりピンときてなくて(笑)。 満場一致だった「接吻」に着地しました(笑)。

ー QUEENも是非いつか聴いてみたいです(笑)。 しかし「接吻」、すごいジルデコ感出ましたね。

■chihiRo: この曲、いろんな人たちがカバーしてますけど、こんな元気な「接吻」なかなかないよな〜と思いながらレコーディングしてました(笑)。

ー カバーに当たって一番フォーカスした部分は?

■chihiRo: やっぱり歌詞の解釈の面かな。 最初はすごい甘い曲に聞こえるのに、いつもサビの最後だけ「痩せた色の無い夢を見る」って寂しげなのが、なんでなんだろう、ってずっと考えてて、いろんな大人の男性の方に聞き込みました(笑)。 「なんで男性はこんな気持ちになるの?」って。 やっぱりこの部分が一番重要な気がして。 どんなに燃え上がるような恋をしても、何かの節に、あぁこれは永遠じゃないんだろうな、って寂しくなってしまう瞬間ってあるでしょ? って問いただされて、確かにあるなって。 これ、若い頃歌ってたらきっと全然内容理解しないで歌ってたでしょうね(笑)。

ー これも今ならではのカバーって事ですね。 そしてこの曲も含めて、今作では専門学生のビックバンドとのコラボという事で、実際にこのオーケストラアンサンブルは学生さんの演奏って事ですよね?

■chihiRo: そうなんです、このバンドはkubotaが教えてる専門学校の生徒さん達で組んでるバンドで、これまでライブでは何回か共演していて、去年すみだストリートジャズフェスティバルに彼らが出る時に、誘われてジルデコも共演させてもらったんですけど、その時のライブが凄く楽しくて。 もっとなにか一緒にできないかな…と考えていた結果、今回初めてレコーディングでも演奏をお願いする事になりました。 まだ19歳とかの子もいるんですけど、演奏も上手いし、勢いがあるんですよね。 ベテランの方に頼めば確かに録音作業はスムーズだったかもしれないんですけどね、今回はやっぱり “Generation” がテーマだったんで、世代をまたいで一緒に作ることができたのが何より良かったですね。

 

ー 「switch」(M4)は、先日のものんくるとの2manライブで演奏されてた曲ですね。 この曲だけ若干サンプリングの音が入ってますが、こういうディレクションはどなたによるものですか?

■chihiRo: これはtowadaの案です。 彼はドラマーですけどDTMミュージックも好きだったりして、元々DJもやってたり、HOUSEのユニットを組んでたりもしてたので、こういう部分にその片鱗が見えたりしますね。

歌ってるように聞こえない歌。

ー 歌について。 今作はこれまでで一番伸びやかに歌っている印象だったんですが、ご自身ではこれまでと比べるとどうですか?

■chihiRo: デビューした頃は、このバンドのサウンド面を自分の歌で壊したくないっていう気持ちが大きくて、歌詞に関しては日本語で歌っていても、語感よりリズムを重視してたんですよ。 ことばが聴こえるって事にあんまり執着してなかった、というか。 でもやっぱりライブをたくさんやって、人とたくさん会うようになると、誰かのために歌いたくなるし、歌詞にメッセージを込めたくなるし、そうすると”聞き取れない” ってもったいないな、って思うようになってきたんです。 絶対日本人にも母国語でかっこよく聞こえる歌って歌えると思うし、今はことばがちゃんと聞こえる歌っていうのを大事にしてます。 その為の歌い方になっていってるんで、やっぱり質感は少しずつ変わってきてるかな。 でも、また奥が深いんですよ、今回のレコーディングでも色々と課題が見えてきて。 歌詞が聞き取りづらい原因にブレス(歌唱中の息継ぎ)のタイミングがあったりして、初めて勉強させられることがまだまだあるなぁ、って。 

ー 今は、目指す歌のかたちってありますか?

■chihiRo: 歌ってるように聞こえない歌、って言ったらいいのかな。 上手に歌い上げることに振り回されずに、想いが届くような歌を歌っていけるようになりたいな、って思いますね。 若い頃よく言われたんですよ、うまく歌おうとし過ぎてる、って。 確かに整った歌を歌おうとし過ぎてると、それ以外の大切な事に気が向かなくなってしまうんですよね。 だから目指すところは喋ってるように聞こえる、伝わる歌です。 あと、私はディーバっぽくはなれないな、って(笑)。 元々私はゴスペルが大好きで、「天使にラブソングを」を見て将来修道女になりたい!って思ってたくらいなんですけどね(笑)。 でもやっぱり自分の身体の鳴りを考えたら、私には声を張る歌い方は向いてないな、って思うようになったんです。 だから声を張らなくてもちゃんと声が抜けて、届くボーカリストになりたいな、と思います。 

ー 集約すると、”自分に嘘のない音楽” って事なんですかね、ジルデコがやってきてる音楽は。

■chihiRo: 確かに自分たちの物差しでちゃんと見るっていうのは凄く大事にしてますね。 私、すぐ影響されちゃう人だから、他の人のライブとか見るとすぐその人のスタイルに憧れちゃったりするんですけど、それでも自分たちは自分たちの物差しで音楽を作っていくのがかっこいいって思うから、他の人にダサいと思われたとしても自分がかっこいいと思うことを選んじゃうんですよね。 貫いた方がいいものが出てくる、っていうのが持論で。 

ー あと、今のジルデコの醍醐味はやっぱりことばの説得力にもありますよね。 chihiRoさんの歌は自分の人生を全部音楽に乗っけてるが故の説得力なんだな、と結婚とか出産を発表された後に思いました。

■chihiRo: 私、馬鹿正直なんですよね…(笑)。 人のために歌っていながらもやっぱり自分のために歌ってるし、どこかで自分事じゃないと本音で歌えないっていうか。 だからアーティスト活動を続けながら結婚することとか、子供を産むこととかを選択するのはすごい覚悟が要りました。 

ー でもそれすらオープンにして頑張ることを選べるアーティストは強いなぁ、と当時思いました。

■chihiRo: もっともっとジルデコを大きくしたい、っていう気持ちと、いやでもチャンスがあるならお母さんになりたい、っていう気持ちと、どっちも正直な気持ちだったから「なんで自分の体がひとつしかないんだろう!」って悩んだ時期があって、辛かったですね。 出した結論としては “私に起こる全てを音楽に出していくのが、私の生き方だな” っていう。 

ー そこからがジルデコ第二章でしたね。 その最新事情が今回の9ですからね、濃度が高いのも納得です。

音楽って、やっぱり人でできてる。

ー 今はリリースツアーも始まってますが、ライブでは毎回会場の選び方や、ライブの作り方にもこだわりを感じるのがこのバンドらしさだと思います。 JAZZアーティストが普段よくライブをする会場だけじゃなく、三井ホールのようなホール施設でのライブだったり、以前は360°ライブと称してフロア中央にアーティストとコラボした装飾ステージを作ったりなど。 今回のツアーもスケジュールを見ると、「札幌→福岡→浜松→名古屋→大阪→”飛騨高山”→東京」。 一箇所だけ超限定された地名が(笑)。

■chihiRo: 飛騨高山、急になぜ?って思うかもしれないですね(笑)。 ライブで回る場所って、大都市だから良いって訳じゃないんですよね。 呼んでくれる人の熱量だったり、会場ともやっぱり人で繋がりますし、そういうそれぞれ人の繋がりのある土地へいつも行かせてもらっていて、飛騨高山もそのひとつです。 これを続けてきたからこそ、10年以上もこうやって各地の人たちと繋がってこれたんだな、とも思いますしね。 会場に関しても、必要な設備の整ったJAZZ箱を回るのと、会場にわざわざ照明や音響を入れてライブを1から作るのでは大変さが違いますが、それでも大切にしたい事があって、必然的にこういうライブの仕方になっていきました。 行きたい理由がある土地とか会場のライブは、大きい場所でも小さい場所でもひとつひとつ大事に回っていきたいって思います。 今回こういうアルバムも作れたし、「GENERATE THE TIMES」、”時代を作る” なんて大それたタイトルですけど、これまでの活動を通して実際今の時代を作ってるのって、自分たちの世代なんだよなぁ、って思えたんで、音楽でどこまで表現できるか挑戦ですけど、この空間とか繋がりを作ってる主役は聴いてくれる人たち含めた自分たちだっていうことが一緒に実感できて、終わってからもちゃんと後味が残るようなツアーにしたいな、と思います。