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KEN THE 390 interview
- SPECIAL -

KEN THE 390 interview

eggmanではCLUB TIMEに自身の主催イベント『WEEKEND FLASH』を定期開催(次回は3/3(土)に開催)中、今やフリースタイルラップのアイコンとして、バトルの審査員はもちろんTV番組やCM等でも活躍する場面を多く目にするKEN THE 390。 即興だけでなく作品のリリースもデビュー当初から勢力的に行い、この度リリースされる『リフレイン』はフルアルバム通算9枚目。 アウトプットの量がハンパないが、当人は至って健全に音楽活動を重ねて、時代の流れを汲み取りながらHipHopを謳歌しているようだ。 デビューから本作までの活動背景から見る今のラップムーブメントへの見解も超リアル。 ラッパーとしてのプロップスの裏付けなのか、考えと作品の整合性が高い辺りに彼独自のオリジナリティーを感じる。

Interview & Text : 鞘師 至

— 今作は3年振り、9枚目のフルアルバムという事ですが、収録曲は全て最近書いたものですか?

■ KEN THE 390 ( 以下 “K” ): これは前回出したミニアルバムの収録曲以外は全部、去年の夏に書いた曲ですね。 E.Pとかベスト盤とか、リリース自体はいろいろしてたんですけど、フルアルバムとしては久しぶりです。 

— 11年の活動期間の中でフルアルバム9枚リリース。 フリースタイルで現場でラップする事もひとつ生業としてある中でのこのリリースの数って半端ないですね…。

■ K: 確かに日本のラッパーの中で考えたらリリースは多い方ですね。 般若さんとかも多いですけど、そういうラッパーは限られてるかもしれない。 でもアメリカのラッパーなんかめちゃくちゃリリース速度早いですからね、あんまり特例な感じはしないんですよ。 

— 即興を現場でやりながら、ここまで作品も作るのって大変なイメージですけど、これまで作品のリリース速度と質を天秤にかけた時の葛藤ってあったりしました? 作曲に煮詰まったりとか。

■ K: HipHopって、すごく極端に時代によって流行りの音が変わっていくものなんですよ。 例えばここ最近はBPMが遅いものが流行ってるんですけど、音色もスピード感も、1年ごとくらいの速さで流行が移り変わっていくんですよね。 で、ラッパーによってその流行を見てる人と見てない人に分かれるんですよ。 俺は今のアメリカのHipHopがどういうものかっていう流れをずっと意識して見てる方なんで、その中でアプローチしたい音楽性がどんどん変わるから、そこに対して自分のスタイルとどう混ぜていくか、っていう作業をずっとやってきてるんですね。 そうするとおのずと飽きずに毎年やりたい事が生まれてくるんですよ。 だから制作意欲的にリリースの速度に押しつぶされて曲の質を保つのが苦しい、みたいな状況はあまりないですね。 常にフレッシュな気持ちでやれてます。

— 確かにサウンド面では今作の楽曲それぞれ、今世界のシーンで耳にするようなアプローチのサウンドが要所要所にちりばめられてましたね。 1曲目「Winter Song」から既にそれを感じました。 ちなみにそういう今のHipHopサウンドをチェックする手段としては、どんなところで新曲をディグってるんですか?

■ K: 僕は完全にSpotifyですね。 ずいぶん楽になりましたよ、音楽に出会うのが。 以前はまず調べて、それをレコ屋で探したり、少し最近ではオンラインツールで探したりっていう自主的な作業でしたけど、今は関連ミュージックの機能みたいに、流れ込んでくるものもあるんで、圧倒的にインプットの量が増えました。

— そういう向こう側から一方的にアプローチしてくる情報に対しては、抵抗はないですか? 

■K: 僕の場合はあまり抵抗なく付き合えてますね。 純粋なリスナーとしてじゃなくて、自分がやる側として考えながら聴いてるんで、分析してると楽しいんですよ。 もちろん取捨選択はあるし、かっこいいと思っても自分がやるスタイルじゃないな、とかいろいろ選りすぐんではいますけどね。 HipHopって、ゲーム性が強い音楽なんでしょうね。 韻を踏むのと同じように、今のHipHopのサウンドに対してラッパーがそれぞれどういうコネクトの仕方をして自分なりのラップを生んでいくかっていうのを聴いて楽しむ、っていう側面があると思うんですよ。 だから僕自身も他の人の作品を聴くときに同じような感覚で聴いて楽しんでるし、Soptifyみたいなツールから流れ込んでくる情報っていうのも、苦じゃなくHipHopの流れを自分の中で循環させるためにあって然るべきものなんですよね。 

— ゲーム性ですか。 確かにKENさんの音楽はリリックに遊び心がいつも入ってますよね。 今回の「afterparty」(M4)の “ダンスフロアに華やかな光” とか、”イッサイガッサイ” とか、皆が知ってる国民的フレーズが入ってたり(笑)。 ちなみに今回、前回のフルアルバムから少し時間が空いたのには何か経緯があったんですか?

■K: 作品って、アルバムっていうかたちで出す理由ってあるのかな? って思ったんですよ。 それこそ自分がこうやってSpotifyとかで音楽を聴いてる習慣からすると、出してきたシングルを並べるだけだったらプレイリストで聴けばいい、って思うんですよね。 アルバムっていう概念って、10曲とか12曲入ってて、集大成的な作品。 それまで出してきたシングルの総集版みたいなもの、って感じだと思うんですけど、尺とか曲数に関して言えば、もっと長くてもいいし短くてもいいと思うんですよ。 元々はレコードでLPだったら10曲位入るから、とかCDだったら70分位入るから60分程度に収める、とかフォーマットの物理的な理由で決められていった概念だと思うんですよ。 それが今は携帯やPCで音楽を聴くようになって、だんだん意味合いが薄れていってると感じてて。 そういう考えがあって、アルバムを出すきっかけがなかなか自分の中に見つからなくて。 前作から結構空いちゃいました。

— そんな考えの中で、今回アルバムとして出す事にしたきっかけは、何だったんですか?

■ K: アルバムっていう枠組みの中で作品を作る事に意味合いがしっかりあるような、曲順と長さ、これが1曲目から流したときに時系列で成立するようなものを作ろうと思ったのが、このアルバムを作るきっかけになりました。 だからプレイリストで聴くとしても “この曲順と曲数で聴くのがベスト” っていうながれをこちらから提示できて、その理由があるもの、これを目指しました。 通常アルバムって歌詞をとってみれば、例えば別れの曲の後にハッピーな曲があって、その後戦いの曲があって、とか音色的には整合性があってもストーリーの時系列がバラバラなものが多いと思うんですよ。 今回の『リフレイン』では、そういう時系列の側面にひとつの流れが最初から最後まで通っているものになってます。 

— “アルバム” っていう枠組みから作っていった、って事ですね。

■ K: そうなんですよ。 去年『TOKYO TRIBE』っていう舞台の音楽監修をやったんですけど、そこで思いついたんですよ。 舞台ではひとつの物語の流れに20曲の日本語ラップの曲をシーンごとで割り当ててくんですよ。 その曲の上にダンスとか歌を乗せてストーリーを作っていく、っていう作業をやったんですけど、舞台を見た人の頭の中では、その曲をその曲順で聴く事で、ストーリーが繋がって作品が成立していく訳ですよ。 おもしろいですよね、曲それぞれはもちろん単体で成立してるんですけど、団体競技みたいにそれがある整列順になると全体での意味合いが浮き上がってくる。 これはアルバムとしての意義につながるな、と思ったんですよね。

— 去年の経験を通して、今年だから作れたアルバムなんですね。 ちなみに『リフレイン』というタイトルはどんな意図から?

■ K: これは今回のアルバムのコンセプトとして、時間軸にフォーカスする事を決めた時にはもう決めていたタイトルで、例えばひとが生活する中で、仕事して、クラブ行って、女の子と出会って、別れてしまって、またいつもの生活に戻っていく、っていう物語があった時に、その場面場面でこころのメーターみたいなものがぐっと振れて気持ちが高まった瞬間を後で思い出した時に「あぁ、あの時ああいう事があったな」って思える事が大切だと思うんですよね。 それをこの先もずっと積み重ねていきたいよな、っていう願いがあって、リフレインっていうワードに落ち着いたんです。 嬉しかった瞬間も悲しかった瞬間も含めたこころの揺れ動いた瞬間の積み重ね、だからリピートよりもスパンの短い意味合いのリフレイン。 そういう12の瞬間を切り取った物語が今回のアルバム収録曲12曲です。 この12の瞬間みたいなものが自分が生きていく上での糧になっているし、それは懐古主義だけじゃなくて、未来にもそういう瞬間を作っていくっていう意思でもあるんですよね。

 

— そういう瞬間の積み重ね、という意味ではKENさんはこの国のHipHopシーン激動の移り変わりの中で色々な場面を見てきていると思うんですが、今の時代についてはどう捉えてますか?

■ K: 僕が初めてこの界隈に飛び込んだ時っていうのは、焼け野原みたいな時期だったんですよ。 2000年くらいにZeebraさん、キングギドラ、KICK THE CAN CREW、RIP SLYME、錚々たる面子がダーっと現れて、その後、2006年に僕がデビューした時にはもうHipHopが一旦流行り切った後でめっちゃアンダーグラウンドになってて、大変な時期だったんですけど、そこから色々複合的に動きがあって今、フリースタイルラップの流行からHipHopがまた世の中から求められるようになって。 先輩方からは「当時のブームはこんなもんじゃなかった」って、もっとすごかったって言われますけどね(笑)。 それでも自分にとっては自分の駆け出しの時代と比べたら今はすごく可能性のある時代な気がします。

— フリースタイルに関してで言えば、渋谷の街でも駅前もそうですけど、どこもかしこもちょっと大きな都市の駅前に行けばサイファーやってるような状況が生まれましたけど、最近はあまり見なくなりました。 ちょっと寂しかったんですけど、これからは日本語ラップのシーンって、どうなっていくんでしょうか?

■K: どうなってくんですかね、でもひとつ言える事は、今のこのフリースタイルの流行はあくまで一過性のものなんで、やっぱりしっかりいい曲作って、いいライブしていくしかないって事ですよね。 バトルにとっては今良い時代ですけど、絶対波がある。 なぜ今が良いかって言えば、良くなかった時代にちゃんとバトルのイベントをやり続けてた人たちが居たからであって、調子悪いからって辞めてたら、今、光が当たったタイミングでみんながおもしろいと思ってくれるようなクオリティーのコンテンツにまで育ってなかったと思うんですよ。 10年前と今、クオリティー全然違うんで。 昔から積み重ねてきた分、今フリースタイルは輝いてるんだと思います。 あとはフリースタイルだけでないHipHop全体で言えば、もっと曲とかアーティストが音楽シーン全体の中で認められていく為に、今の時代の僕たちがもっといい曲作ってがんばっていかなきゃいけないですよね。 日本はHipHop文化としては後進国でまだまだ世間一般では認知不十分、だけど今のこのサブスク(ここではSpotify等の定額制音楽サービスの意味)が伸びてきている時代にフィットしている音楽と言われているHipHopだからこそ、今僕たちがやれる事って昔とまた別のものとしてあるんじゃないか、って思ってるんですよ。 バトルのシーンに向けたHipHopというよりは、もっと広く捉えてHipHop全体が盛り上がる、これを目指して僕らはがんばる、っていう事がこの先必要なんだと思ってます。