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Lenny code fiction interview
- SPECIAL -

Lenny code fiction interview

流行の音楽と流行を起こす音楽の違い、1シーズン注目される音楽と永きに渡り残っていく音楽の違いは、そこに自分自身の判断基準と発想がどれほどあるかで生まれるものだ。 最大の武器は経験値。 重ねる事で生まれる音楽的な豊かさと人間的な重厚感は自分に嘘のないオリジナリティーに繋がる。 初のフルアルバムリリースで自分たちの音楽を再確認して、更に地に足をつけて次へ駆け上がっていく最中のLenny code fiction。 今作はシングルのリード曲を含みながらも、これから先の進化の片鱗、バンドの第二形態、第三形態を連想させるような発展的なフレーズが細かく全編にちりばめられている。 和製ロック、ミクスチャー、HIP HOP等、字面だけみれば一貫性のない性質の音楽から抽出した、彼ら独自目線の共通項。 この独自性がこのバンドの音楽を進化させ続けている重要な部分。 学生時代から各世代、年齢で惚れ込んだ音楽全てをどこか一部分でも否定せずに自分の趣向として認めていく事で初めて生まれるオリジナリティーだ。 加えて活動を重ねる過程で次第に強まるボーカリスト片桐航のバンド人生に対する想いも結成当初より多面的に作品に溶け込んで、単なる空気の揺らぎ、鼓膜の揺れ以上の存在になり始めている彼らの音楽は、今回のフルアルバムでくっきりとしたかたちをリスナーに見せてくれる。 男4人の数年間の生き様をフルスウィングでかっ飛ばす計12曲。 何度も聴いて、何度も新しい解釈が生まれてくるような長らく愛せる楽曲が並んだニュークラシック盤だ。

Interview & Text : 鞘師 至

いろんな事を知って、重ねて、上昇していく。

ー これまでシングルリリースがずっと続いてましたが、遂にファーストアルバムリリースですね。 

■片桐 航 (Vo/Gt): やっとです…笑。 メンバー全員、バンド人生初のフルアルバムです。

ー 毎回これまでのリリースは時間内ギリギリまで詰め込んで生み出した楽曲、要はバンドの最先端の部分ばかりずっと見てきたから、今回こうやってこれまでのシングルリード曲と新曲を並べて聴いてみると、時の重みを感じますね。 過去振り返って見えてくるこのバンドらしさみたいなものがリアルに感じれる、というか。

■片桐: そうですね、この曲数で表現できる作品っていうのが初なんで、攻め姿勢とエモさと、前向きな気持ち、自分たちの出したいと思ってるこの3つのイメージをちゃんと出せたらいいなと思って作ってました。 仕上がって思ったのは、無理やり意識的に分けたりしなくても、その3通りのイメージがそれぞれ出せてるアルバムになった、っていう事ですね。 シングルを4枚出してきて、毎回強調されるのはどれか1つの印象だったと思うんですけど、後々自分たちの出してきた作品を振り返ってみればちょうどいいバランスで全部の面が出せてたんだな、っていうのを今回身に染みて実感しました。

ー 確かに構成要素的にはサウンドがヘヴィーな事だったり、それでも全体像は爽やかだったり、頭の中で描いてる音像はしっかりアルバムに落とし込まれてますね。 楽曲面について訊いていきたいんですが、まずは同世代で主流となっていわゆるギターロック的なサウンドとの違いを一番出しているであろうギターサウンドについて。 今回のレコーディングで使った機材の事を伺えますか?

■ソラ (Gt): ギターに関してはバッキングはDragon Fly、リードはいろんな種類のものを場所によって何本も使ってるんですけど、基本ほとんどがシングルコイル(※1)です。 メロディーが前に出て聴こえてくれるように、ハムバッカー(※2)で壁を作る感じじゃなくて、シングルで抜ける感じを出したくて。 アンプはMarshallのモディファイモデル(※3)のヘッドに、Bognerのキャビで抜け感と太さのバランスを取りました。

ー そのこだわり全部がこのバンドらしい音に直結してますよね、聴いて納得の機材選び。 あとギターフレーズで意外だったのが、こんなにキラッとして爽やかなイメージのバンドなのに意識して聴いてみると全曲ほぼずっと歪んだ音なんですね。 もっとクリーンのフレーズとか入ってるイメージでした。 ソラさん王子キャラだけど意外に男らしい音作り(笑)。

■ソラ: クリーンフレーズはほぼないですね、ライブで音を切り替えるのが面倒くさくて(笑)。

ー あ、そういう理由(笑)?

■ソラ: ライブで音源の音の再現率を高く保ってたい、っていうあくまでちゃんとしたやつですよ(笑)! 音の切り替えで冷静になっちゃう時間をなるべく作りたくなくて、もうずっと歪んでたい、っていう。 バラードですら音はロックにいきたい、というか。 「オーロラ」(M11)がまさにそれですけど、バラードだったとしてもバンドでやってるバラードである意味が出る音にしたくて、ギターに関しては激しくエモく、っていうのを忘れたくないんで、やっぱり音は歪ませてるんですよね。

ー なるほど。 音色以外の部分でも今回レコーディングでこだわったギターの部分ってありますか?

■ソラ: 例えばギターの録音って普段何本もフレーズを重ねたりするんですけど、「Vale tudo 【MAKE MY DAY】」(M6)では一切ギターを重ねてなくて、1本だけで鳴らしてます。 4人で演奏してる生々しさっていうか、ストレートでロックな音を目指してシンプルにいきました。
■片桐: 改名の前の俺らみたいな曲だよね、この曲。 メジャーデビュー後初めて出すインディー版みたいな。
■kazu (Ba): 録音トラックの数もこの曲が一番少ないですね。 録音データを開いてPC画面上で見てもシンプルでロックな感じが分かる(笑)。

ー この曲は昔の曲?

■片桐: 最近作った曲です。 でもやっぱり作ってた時は当時の俺らの感じを意識して作ってました。 
■ソラ: ギラついた感じの、ライブでやるのが楽しみな曲ですね。
■kazu: レコーディングの時って、いつもと違う事やってやろうぜ!みたいな新鮮な発想の事をやってる時が一番楽しいんですよね。 この曲はがむしゃらにピックでかきむしる感じで弾きました、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTみたいなイメージ。 いつものハイブリッドな感じじゃなくて、ザ・ロックンロールって感じで作ったらすごく楽しく、しかも一瞬でレコーディングを終えられました。 

ー Lennyは確かにハイブリッドで音もワイドレンジなイメージが先行してますけど、男らしいシンプルなロックのテイストもちらほらあるところが実直でいいですよね。 ライブで使ってるギターのチョイスもオールドスクールだし。 片桐さんに関してはほんとそれ弾ける!?ってくらいギターを低く構えてるのも、そういうレペゼン不良ロックな感じがして男ファンからの支持が高そう。 昔はジャパニーズロックンロールでもビジュアルでもギターは低く持つのが美徳、っていう理念がありましたけど、今珍しいですよね。

■片桐: ここ最近のバンドで一番低いかもしれないですね(笑)。

ー 各曲ごとでも幾つかポイントを訊いていきたいんですが、まず冒頭のイントロ曲「Montage(SE)」、これはライブでおなじみのメンバー登場曲。 KANDAIさん一番の見せ場のアレですね。

■片桐: どこの会場でも孤独に冒頭を飾る男ですから、KANDAIは(笑)。
■KANDAI (Dr): 横浜アリーナとか寂しかったなー(笑)。

ー あの広大なステージでぽつんと一人で登場は勇気要りますね確かに(笑)。 ライブでは一手にお客さんの目線を浴びる瞬間ですけど、どんな事考えながら普段演奏してるんですか?

■KANDAI: 対バンのライブだったら前のバンドが終わって会場を出ようとしてる人もいる訳で、まずはこの出だしが勝負ですからね、とにかく俺を見ろ!っていう意識で叩いてます。 この一瞬がダサかったら俺らのライブ見ないかもしれないですからね、全力で本気で毎回やってます。

ー そこからの流れで始まる2曲目「Snatch」、ドラムのビートではさっき話にあった「Vale tudo 【MAKE MY DAY】」が邦楽っぽさだったら、今度は洋楽っぽくビートダウンするフレーズが出てきますが、こういうのは誰発信?

■片桐: 僕のミクスチャーが好きで聴きまくってた頃の好みが出てる部分ですね。
■ソラ: 「この曲の2番、メタルみたいな感じで」って言ってたの覚えてるなー(笑)。
■片桐: 前から好きなんですよね(笑)、こういうがっつりビートダウンするごつい感じのフレーズとか。 

ー そういう一見このバンドには珍しいと思うようなアイディアも、無理なく取り込んでる感じが今作の特徴ですね。

■片桐: 自分が普段音楽を聴いてる時に欲しくなるのが、何かしらの違和感なんですよ。 気になって耳に残る感じのフレーズ。 そういうちょっと色の違う要素を1曲に1箇所は入れていきたいっていう狙いが、だんだん自然にやれるようになってきてる感じがします。

ー 「Make my story」(M7)はその集合体みたいな曲ですしね、耳に残るフレーズばっかりで全編終える感じ(笑)。

■片桐: そうですね(笑)、何度も聴いてはじめて理解するような要素がないと、何回も聴こうとしないと思うんですよ。 聴くたびに発見があって楽しい、っていう部分。 これはいつもこだわってます。 

ー 続いて「Enter the Void」(M3)。 ボーカルには途中でラップまでいかないギリギリのラインで言葉を詰め込みまくってるフレーズがありますが、これ、以前に話してた「HIP HOPを好きな要素も、今すぐには直結しなくても、いずれ自然な形で入れ込んでいけたら」っていう片桐さんの話を思い出しました。 もう実践してる!と思って。

■片桐: HIP HOPとかミクスチャーとかが好きな部分が出てきちゃいましたね、多分この曲の耳に残る部分はここになると思うんですよ。 いい意味での違和感として。 癖がいい感じで出たな、と。

ー「欲を纏う」(M5)を含めて3曲程、ベースソロがありましたが、ソロでこだわった部分ってどんなところですか?

■kazu: ベースってやっぱりギターと比べて音の帯域も違うし、鳴らせる音の幅も狭いんで、その中でもベーシストが聴いてコピーしたくなるフレーズっていうのを意識して弾いてます。 曲中のベースのフレーズって基本はルートの音をビートに合わせて弾いて、演奏の土台を支える感じなんで、逆に目立って耳に残るちょっとしたフレーズって、ベーシストはコピーしたがるんですよ。 ”あの曲のあそこのベースフレーズはみんな弾ける”みたいな人気のフレーズとかがあって。 そういうフレーズになってくれたらいいな、っていう思いがあって。

ー ギター小僧がみんな弾いてるあの曲のあのフレーズ!みたいなものと同じですね。

■kazu: まさにそれですね。 スラップが多かったりとか、「Vale tudo 【MAKE MY DAY】」では若干JAZZ風なフレーズになってたり、っていうのはそういう意図からです。 

ー そういう同業者が欲しがるフレーズ、っていう観点で言えばギターも然りかな、と思いました。 「Vale tudo 【MAKE MY DAY】」のイントロのギターリフ、ハーモニクスがちょっとずつ高い音になってく部分とか、ギタリストのコピー心をくすぐる、やってみたくなるこだわりだな、って。 ほんと細かいですけど(笑)。 普段ソラさんのフレーズはキャッチーなメロディーとか、もっとダイナミックで楽曲として耳に残る事に重きを置いてる印象だったんで、今回こういう細かいギタリストっぽいフレーズが増えてるのが面白かったですね。

■ソラ: あの曲のあのフレーズは、確かに自分なりのギタリストとしての意識が出てる部分だと思いますね。 俺の中にアベフトシさん(※4)が乗り移った瞬間、的な(笑)。 テクニックへのこだわりではないんですけど、ロックギターの泥臭さを見せたかった部分です。

ー 「Ruby’s day」(M9)は新曲なんですね、ライブで聴いてたから結構前の曲かと。

■片桐: 確かにエッグマンでやりましたね、この曲。
■ソラ: 凄いですね!この曲エッグマンで演奏したの結構前だと思いますよ。

ー なんでかこの曲はイントロが口ずさめるくらい良く覚えてました。

■片桐: よかった、じゃあ良いイントロですね、これ(笑)。

ー 一回で覚えるくらいのね(笑)。 でも実際そういう事ですね。 この曲、リード曲でもいいくらいイントロとサビの突き抜け感ありますけど、あえて後半にもってきてるんですね。 今回のアルバムの曲順はどういう基準で決めていったんですか?

■片桐: ライブでのセットリストイメージです。 馴染みのあるシングル曲を中盤に入れた時に、あたまのほうには攻撃力高めでライブで火を点けれるような曲が必須で、起承転結の転とか結の部分には、「Ruby’s day」、「Flower」(M10)みたいな明るい曲を、最後には明るい+エモい曲を、っていう流れで組んでます。

ー 最後の「Twice」終わり、これ良いですよね。 切ないけど曲にも歌詞にも次につながるような明るさがある。

■片桐: ライブでも最近ではラストに攻めの曲というよりは、一番メッセージ性のある、伝えたい気持ちを歌える曲を持ってきてるんで、今回のアルバムでも最後の曲は歌詞先行で選びました。

ー この歌詞はバンドの事を歌ったもの?

■片桐: そうです、バンドやってきてる上でのファンとの関係についての歌。 最終的にどのステージでも最後に歌いたい事を書きました。

ー 途中に「大切なものが変わってく」とありますが、どう変わった?

■片桐: やっぱりバンドを始めた高校時代は、有名になって大金持ちになって、プール付きの凄い豪邸に住んで、女の子にモテまくって、っていう分かりやすい若い夢を描いてたんですけど(笑)、実際の地道な道のりの中でツアーを回るのも楽しいし、手紙をもらったりするのも嬉しいし、大きな夢じゃないところにこんなにも沢山のやり甲斐と楽しさがある、っていうのはやってみるまでは全然知らなかった事なんですよね。 徐々にいろんな事を知って、重ねて、上昇していく、っていう曲です。

ー 曲名はなぜ「Twice」に?

■片桐: 昔、「Once」っていう曲があって、その曲では「何もかも忘れるけど、何もかも忘れたくない」っていう事を歌ってたんですけど、その続きを書きたくなったんですよ。 忘れたくないんだったら、もっと幸せなものを自分で生み出していかなければいけない、っていう自分の考えが2ステージ目に行った事を書いた曲がこの曲なんで、それで「Twice」。

ー 「オーロラ」の歌詞、これは以前話してたフィクションのラブストーリ(※5)の続編曲のひとつ?

■片桐: そうです、それです。 ちなみに今回の「Ruby’s day」がその1話目の歌詞なんです。 「Ruby’s day」で男女が出会って最後7曲目の「オーロラ」で別れる、っていう話。

ー じゃあこれまでリリースされた曲は全部その間の話って事?

■片桐: そうですね。

ー フリが長いですね〜、オチまでの(笑)。 各曲で歌詞のタイプにも多面性ありますが、今回のアルバムタイトルが『Montage』。 これはどういう意味から付けたもの?

■片桐: これは映画用語なんです。 自分が映画からインスピレーションもらう事が多かったりするんで、そこから付けたいと思ってMontageにしました。 いろんな角度から撮ったカットを組み合わせてシーンにしていく、っていう技法の名前なんですけど、そういえば俺らの曲、いろんな意味を持ってるなと思って。 愛だけ歌ってるバンドでもないし、怒りだけに任せてるバンドでもないし。 それらが全部まとまった時に完全にLenny code fictionだと言えるな、と思うんですよね。 このアルバムを通して、俺らの全感情。 これ全部でようやくLenny code fictionだ、っていうのを知って欲しかったんで、このタイトルにしました。 ライブバンドですけど、ライブっぽい盛り上げる楽曲の曲調以外の部分でも、伝えたいメッセージがライブで伝えられた時に、今までやってきたライブ以上の楽しさが生まれる気がするんで、今回収録した曲、一曲一曲ライブでも来てくれるお客さんと一緒にここから育てていって、数百曲のデモ曲から選び抜いた精鋭の今回の12曲、これから始まるツアーで更にもっと良い曲に仕上げていきたいと思ってます。

※1「シングルコイル」… ギター、ベース等の弦の音を拾うマイク的役割のパーツである「ピックアップ」の中で、音の抜けの良さが特徴の種類のもの。

※2「ハムバッカー」… シングルコイルでない方のタイプのピックアップ。 分厚い音が特徴。

※3「モディファイモデル」… 純正品に手を加えて改良した機種の事。

※4「アベフトシ」… THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのギタリスト。

※5… ひとつの大きなラブストーリーの断片をこれまで作品ごとに何曲か散りばめてリリースしていて、今後の作品でもそのシリーズの曲がリリースされる予定があり、最終的にどこかのタイミングで全断片が揃って、ひとつの長い物語の全貌が浮き上がってくる、というシリーズものの歌詞の物語。