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NIKIIE interview
- SPECIAL -

NIKIIE interview

心の中の光と影の統合性を題材としたアルバム『Equal』リリース後、ツアーで全国を巡り作品の発表時期を一段落させて訪れた次作の制作時期。 「始めはまっくらだった」と彼女が話すように、自分らしい感受性や音楽を再認識するのに時間を要したという。 悩みの時期は音楽家の表現を次のレベルへ引き上げる。 蓄積した想いを出し切って、一旦空になったこころに湧いて出るのはリアルタイムにNIKIIEを構成する、より細やかな自我と、自身以外の誰かへ届けと願う一縷の想い。

interviewer & text:鞘師 至

原点に立ち戻る、そこから見えた自分の音楽。

―今作「Pianism」、数曲聴き進んでいくと楽曲アレンジが前作に比べ、歌とピアノにフォーカスした造りになっている事に気が付くんですが、今作はどんなコンセプトのアルバムですか?

■ NIKIIE (以下 “N” ): 前作のアルバム『Equal』を作ってツアーに出て、一段落着いた時に、改めて自分の音楽に向き合いたいって思って作ったアルバムがこの『Pianism』なんです。 前回のアルバムでは自分の作った楽曲を信頼しているアレンジャーさんに託して、バンドのアンサンブルを提案してもらったり、自分以外の要素を引き出してもらう作業がひとつ大きくあったんですけど、今回は「本当の自分の音楽ってなんだろう?」ということに真剣に向き合いたくて、それを具体化してみました。 『Equal』のツアー中くらいから思ってたんですよ、自分の音楽ってどういうもの?って。
私、小さい時にピアノ教室に通って以来、ずっと独学でピアノと歌を続けているので、自分の作る音楽のベースとなっているものが何なのか、まずそこから掘り下げて見つめ直すことにしたんです。 そんな事を考えてるうちに、「次に作る作品は原点にある “ピアノと私” をテーマにして作りたい」って思い始めました。 その時はいつどんなかたちでリリースするのかさえ決まってなかった時期でしたけど、作りたいものは見えてた。

-弾き語りのスタイルってこと?

■N: サウンド面でピアノと歌だけでも面白いものが出来たと思うんですけど、物理的な要素としての”ピアノと私”というよりも、作曲の過程とか、曲、歌を作る面でのスタンスとか、そういう気持ちの部分でのピアノとの向き合い方をかたちにしてみたかったので、弾き語り要素以外も含めた音楽表現として、でも軸にはピアノと私の関わり合いが確かに存在する、っていう内容の作品になっていきました。 「Pianism」っていうタイトルは、最後に付けたんです。 作り途中ではこのアルバムがまだどういうかたちになるか、手探りな部分もあったんですけど、自分の持ってたコンセプトを具体化していったらこういう風合いに仕上がった、というか。
生きてるのに空っぽみたいになっちゃって、
でもそれから。 

-歌詞について。 前作ではこれまでのNIKIIEの心の内を吐き出して昇華させたような、光と影、迷いなどを綴ったものが多かったですが、今作では「Colourful(M1)」、「aurora(M3)」、「Marching Line(M7)」など、歩みをひとつ進めて先を見据えた様な、決意みたいなものを感じます。

■ N: 前回のアルバムでは自分の影の側面も描いているんだけど、実際今と比べてその影の部分に手を伸ばしてしっかり掴んで向き合えているか、って考えると、そこまで深くできていなかったと思うんです。 今作ではもっと自分に向き合えた気がします。 自分がどんな人間なのか分かった気がする。  『Pianism』を書き始めた時、実はすごく悩んでいた時期なんですよ。 前回のツアーが終わってから、自分がからっぽになってしまったような感じで。 何がやりたいのかも分からなくなってしまって。 幽霊みたいだった(笑)。

-あまりにも短期間にたくさんアウトプットし過ぎたのかもしれませんね。

■ N: そうかも。 感情が無くなってしまった様な、でも恐怖心だけがずっと残ってる様な。 過去の小さい後悔だけがずっと鬱積してる感じ。 そういう時期があって、自分の原点を振り返る為にこの手に染み付いた手癖だけで作って来た楽曲の起源が何なのか、何の音楽が元となって今の自分の音楽に繋がっているのかを掘り下げていくようになりました。 あとは単純に音楽から離れてみて気分転換しようとスペインに友達と旅に行ったり。 バルセロナに行ったんですけど、現地ではやっぱり日本と違う感覚がたくさんあって、アイデンティティーは自分で作るものだという考え方とか、新鮮でした。 現地の人からすれば、どこの誰か分からないアジア人、場所によっては人種のステータスで軽い差別を受けたりもしたけど、誰も知らない土地に行ってサバイバル感覚が出て来た、というか「あぁ、今までなんて弱い存在だったんだろう」って心持ち強くなれたんですよ。 私はわたし!って言い張れるようになりました。 それ以外にもピカソ美術館に行ったり、ガウディ(サグラダ・ファミリア等を手掛けたスペインの建築家)の建物を見に行ったり、音楽以外のものにもたくさん刺激を受けて日本に帰って来たら、気持ちがすごく楽になってたんです。 今までは音楽を作る上で自分のルールを勝手に作り過ぎてたんだと思います。 それに縛られてどんどん身動きが取り辛くなってた。 もうそれ全部とっぱらって、一回自分の好きなものを書いてみようって思ってマニアックな曲を書いてみたり、好き勝手やって曲作りしていくうちに、自分にしかできない音楽、自分にしか言えない事が見えて来たんです。 本当に自分から出て来るものを込めていく、という事が一番大事だと思ったから、使い古された言葉でもいい、自分に落とし込んで、自分で感じて、自分の想いで歌えば、ちゃんと届く。 そう信じて組み立てていったのが今回のアルバムです。

-そうやって自分の生きる方法なんかをまっすぐ受け止めて咀嚼したものを作品に溶かし込んでいけているから音楽が伝わるのかもしれませんね。 今年3月にshibuya eggmanに出演してもらった際、会えた感激でめちゃくちゃ震えながら握手していたファンがいたのも、しっかり伝わっている証拠ですし。

■ N: あれは嬉しかったなー(笑)。 ああいう事があると逆に私のほうが元気もらいます。

-ライブはちょうど一年前、『Equal』のツアー東京編で見た以来でした。 ずいぶんと言葉に心を宿すシンガーソングライターになったんだなあと1年間での変化に感動しました。

■ N: 今はね、頭の中もすっきりしてるし、自分がどんな存在か、どんな音楽を生む人間なのかが明確になってきているから、ライブでも伸び伸び歌えるようになりました。 自分の個性が分かって来たのもここ最近です。

-ちなみに今作で初めて試みた事って何かありますか?

■ N: 今回出来たチャレンジは、1枚目、2枚目のアルバムでは入れるのに戸惑ったような曲をちゃんとここで入れ込めたこと。 「猫(M4)」は珍しくラブソングだし、「雨人(M5)」は途中でどんどんリズムが変わっていく曲。 ファーストやセカンドで出すには全体のイメージを変えてしまい過ぎる、と思って「3枚目で入れよう!」って思っていたのが今回で実現できてよかった。
元気になってもらえる曲を書きたい。

-「Pianism」、アルバム通してどんなことを伝えたい作品ですか?

■ N: 去年ヘコんでた時期に自分に響いた言葉や音楽がたくさんあったんですよ。 落ち込んだ時に染み込んで来る音楽って、すごく感動したりするんですよね。 元気な時は、気持ちは晴れてるけど、聴いた音楽の核の部分まで聴けていない感覚。 響き方が全然違う。 ちょっとした言葉で本当に救われたし、元気になったんですよ。 だから今度は私から。 前まで主観的に感じたことをアウトプットしていた歌が多かったから、今は聴いて下さる人達へ向けて何か歌えたらって。 このアルバムを聴いて元気になってもらえたらいいな。