体裁を凌駕する音楽。
ー このバンドは作品を出す度にどんどんジャンルのセオリーに甘えなくなってるというか、 発想が自由にのびやかになってる気がします。 今作が特に。 ご自身ではどう感じます?
■真田 徹 (Gt. 以下”真田”): ジャンル等を細かく意識したことはないです。音楽全体も、自分のギターの音色やプレイも、その作品を作る時に一番かっこいいと思っているものを形にしてます。
■黒田 秋子 (Vo. 以下”黒田”): 良い意味で時代にも自分の気分にも流されたいと思って作っているので、今回も”自分が今いいと思うもの”を素直な気持ちで作れたなという印象です。
■村山 努 (Ba. 以下”村山”): ここ1〜2年間くらいは自分の曲作りの時は、こういうメロだったりリズムなら耳に残るんじゃないかノレるんじゃないかとか念頭に置いて作る事が割りと多くなった気がして。一度そういうのから切り離して曲作りしたいなと思いました。もっと自分の好きな音楽を取り入れたり、出てきた物に身を委ねたり。
ー サウンド的にはスモーキーな感じの初期のグルーヴも残りつつ、さわやかだったりキュートだったり、都会的だったり、スムースな感じの楽曲、フレーズが大半を占めてたり。 ファーストアルバムからの経路を辿ってみると紆余曲折あってその時期ごとの大事にしていた感覚を全部捨てないで取り込んだ結果論みたいなアルバムだなと思いました。 今作はどんな発想や考えがあってまとまった作品ですか?
■真田: ちりぽん(村山)がボソッと言っていたのですが、デビュー盤(natural high)の頃のような、原点に戻ってみたい、と。そういうテーマありきだったわけではありませんが、僕のギターも自然と、「昔からこういうのが好きで俺はこういうのをかっこいいと思っていたんだよな」といった内容になりました。 過去作と比べても、メジャーデビュー後の中ではサウンドは最もシンプルに、 言ってることは濃くなったと思います。
■黒田: ここ三年間、バンドのブランディングとか、大衆性を気にしてBPMを考えたりとか、本当に色んな事をかんがえながら制作してきたけど、結果、シンプルに”音楽が一番偉い”というところに行き着いた気がします。natural highを作った時はその感覚に近いかなと思いますが、三年経て、色々感じたことひっくるめて改めてそこに戻ったかなという感じです。あとは自分達が時代を作っている当事者であるという意識が年々強くなってきているので、今の世の中を作る人間として、ミュージシャンという立場から、私たちなりに発信できたらなと思ってます。
■村山:「natural high」以前の曲達って、本当に童心で作ってた気がしてて、頭より手が先に動くような。もちろんその分稚拙さとかもあるんですけど。その発想力だったり純粋さと、「Authentic」以降に培ったアレンジ力だったりサウンドメイクを合わせられたら良いなと思って今作に挑みました。簡単に言ってしまうと”原点回帰”ですね。
毒も愛も、思ったことを隠さず吐く事。
ー 冒頭の曲がオープンマインドなPOPS楽曲っていうのがとてもイメージポジティブでした。 「Beat generation」を1曲目に持ってきた理由は?
■真田: ミニアルバムならリード曲は頭に持ってこようか、みたいに自然に決まったと思います。それと、RAMMELLSにとってBeat generationのような曲は新鮮で、ファンの皆さんに1曲目でいきなり驚いてもらえると思ったのと、そのあとで好きになってもらえる自信があったからです。
■村山: ストレートに身体に入ってくるっていうところが決め手かなと思いました。曲作りの段階からギター弾きながら歌えるシンプルに良い曲を作りたいなと思ってそのまま進めたらやっぱり良い曲になりました。あと単純にRAMMELLSファンを驚かしたいなと思いました。
■黒田: 1曲目をBeat generationにしたいというのはメンバー満場一致で、これ一択って感じだったと思います。”そうだ 僕らがいつでも時代を作っている”って言う歌い始まりでこのアルバムが始まるのも好きなポイントの一つです。 この曲自体は、モラハラ・セクハラ・パワハラ、表現の不自由展と、投票率の低さ、煽り運転など、毎日いろんな報道を見ていて、みんななんだかくたびれちゃってるのかな?と思ったんです。言葉って人間が築いた素敵な文明であるけど、あくまで気持ちの後付けだと思っていて、そこの気持ちが変になってしまってはもったいないなと思うんです。だからそう言うちょっと疲れちゃってる人に、たまには”空の青の、言葉にできないそれ”に委ねてみませんか?って曲です。
ー 今作は歌詞に関しても、辛さから脱却しようとする前向きなものから、毒吐きまくり(笑)の十八番なものまで。 そんな中でも「Overdrive」は極上ですね…(笑)。 楽曲とのギャップも。 歌詞になった具体的なシチュエーションエピソードがあったら教えてください。
■黒田: 元々、Overdriveは、”shibuya”という仮タイトルがついていて、その仮タイトルと曲調の印象から、実際に自分が東京で過ごしていて思うことを曲にすることにしました。おかしいと思ったことを言葉にしやすい世の中にしていくためには、自分からガンガン言ってくしかないなと思って、今回は今まで以上に具体的に言ってみました。こう言う明るい曲調であえてサラっと当たり前かのように毒を吐くのも押し付けがましくならずよかったかなと思います。これは実際に経験したことです。”あいつは簡単だよ。適当に褒めとけば言うこと聞くんだよ、秋子はそれができないから上に行けないんだ”と言ってくる人とかいて、ん?!?!?!?!?!ってなった時の話です。
ー ボーカルスタイルに関しては全体的にすごくクリアな感じになりましたが、声の出し方で意識している部分って今はどんなところですか?
■黒田: natural highの時は、顔の一箇所(真ん中の奥の部分)を響かせながら歌ってたんですけど、最近はそれをしないで歌っていて、それがクリアに聞こえるのかもしれないです。特にやめた理由はないのですが。(気分でまた変えるかもです!笑) 気だるさが自分の歌の好きなところなので、レコーディングでは特にそこがちゃんと残せるように歌ってます。あとは筋トレも6月に始めました。まだまだ、筋肉ついてないけど、心と体がピンチの時も最低限ちゃんと歌えるように続けています。
ー 「The sugar」のボーカルは特にキュートですね。 歌詞も… 何かあったんですか?!
■黒田: ラブリーですよねぇ…自分でもびっくりしてます。作った当初はテンポももう少し早かったり、ラブリーながらもあっさりはしていたのですが村山のアレンジが加わって更に甘ったるさが増したのも良かったです。純粋な気持ちをいかに形にするかが私の理想の音楽なので、人を好きになる気持ちがこうゆう風にちゃんと形にできて嬉しいです。これを作ってる時期、同時進行で他に2曲程作っていて、その曲の歌詞も歌い方も全部ラブリーな感じになっちゃうからちょっと大変でした。(笑)
ー 「千年後」、この曲だけ世界観が別レイヤーにある感じの浮遊感。 新しい感覚の曲ですね。 村山さんはSFアニメが好きなんですね。 例えばどんな作品?
■村山: 最近見たものだと、「7SEEDS」「Dr.STONE」。その他だと「機動戦士ガンダム」「新世紀エヴァンゲリオン」「超時空要塞マクロス」「シドニアの騎士」等々です。
ー こういう音楽以外のコンテンツで他にも自分の音楽性に作用しているものってあったりしますか?
■村山: 映画、アーティストドキュメンタリー、絵画、デザインとかはよく見ます。あとインスタグラムで流れてきた画像や映像もよく見ています。
■黒田: 音楽以外からインスピレーションを受けて曲を作る事は多いです。星野道夫さんの”旅をする木”という好きな本があるんですけど、それに勝手に主題歌をつけるイメージで作った曲もあったりします。今作でもrainは6月に作ったのですが、Aメロのコードと歌い方は雨の匂いとか降り方とか季節感に影響されてつくりました。
ー この曲(千年後)はボーカルスタイルもいつになくひそやかな感じでかつ太い感じ。 この曲ではどんなことをイメージして歌を乗せていきました?
■黒田: 少し生温い風が吹いている、誰もいない不気味な荒野で1人棒立ちで淡々と歌っているイメージです。千年後の荒れ果てた世界を見たショックで心も体も弱っているけど、心のどこかでは希望も捨てていなくて、記憶の中の賛美歌がうっすら脳内再生されながら(サビ裏のコーラスのイメージはこれです)歌っている感じ。村山からデモ送られてきた時最初にこのイメージを受けたのですが、なるべくデモを聴いた最初の印象は歌を録る時まで大事にしたいなといつも思っているので、この曲もそこを意識しつつ歌入れしました。
ー セルフライナーノーツで「どんな時代も一番根底にあるのは愛」って言っていましたが、今の自分の生活の中でどんな時にそう思う?
■黒田: ジャック・ケルアックのオン・ザ・ロードを読んだ時とか、ルーミーの詩を読んだ時に思いました。時代は違うし、ましてはルーミーなんて800年前の詩なので、風景、着ている服も、食べているものも、価値観も全然違うはずなのに、愛について書いている部分は読んでいても全然古く感じず、むしろ共感できるんです。800年前も70年前もたぶん千年後もそこは変わらないんだろうな、愛っていつの時代も根強くあるんだろうなと思いました。
ー 「think other」、初期RAMMELLSのグルーヴですね。 そしてギターソロで酒が進みますね(笑)。 この曲は最近作ったもの?
■真田: 今作の中で一番最後に作った曲です。初の経験だったのですが、自分だけ隔離されたブースではなくエンジニアさんやメンバーやスタッフもいるコントロールルームでギターソロを弾きました。ヘッドフォン越しに何か指示やアドバイスが聞こえるのと違ってやりやすかったです。僕は短い尺のソロより長い尺の方がストーリーを構築しながら弾けるので、気持ちも楽でした。やれるだけやってやろう、という気持ちでした。
ー 2番Bメロのドラムフレーズが耳に残りますが、こういうアレンジっていうのは決め打ちでもってくるんですか?それともアレンジの最終段階のエッセンス?
■彦坂玄(Dr.): think otherの2番Bメロのキメのドラムフレーズは自分で勝手に付けました。(笑) でも基本的にデモの段階で皆、ドラムを打ち込んで来てくれるのでその時点である程度は決まったりしてます。そのパターンに着想を受けつつ、自分が好きなドラマーだったらどう叩くかなとか、自分のバックボーンにある音楽に当てはめながらドラムを考えて、バンドでスタジオに入り、最終アレンジに臨むって感じです。
ー 「rain」、「千年後」に引き続きここでも「人生はラブストーリーであるといいな」と愛情にフォーカスしてますが、初期の歌詞はヘイト撒き散らし系が多かった印象が(笑)。 やっぱり時間と経験を重ねていくにつれて目につくのがヘイトよりラブに移り変わっていっている感じですか?
■黒田: いろんな歌がある中で、やっぱりラブソングが1番最強だなぁと思うんです。歌詞の中にもあるように世の中がラブソングまみれだったら凄い素敵なことだと本気で思ってます。これからも感じた違和感は言葉にしなきゃいけないとは思いつつ、最近はちゃんと理想にも自分から近づきたいなと思ったので、愛についても積極的に書くようにしています。rainは個人的にここ最近で一番いい曲かけたなと思ってます。
自分の感覚に嘘をつかない。
ー シンセのソロが心地よいですが、ソロの一番最後の3音くらいでコードから外れるギリギリの音に落とし込んでたり、細かい部分に王道POPSでないオルタナっぽさを感じます。 これは黒田さんの演奏?
■真田: 実は、今作の全ての鍵盤楽器(シンセベース除く)は初めてサポートミュージシャンにお願いしました。諸見里修という僕の大学ジャズ科時代の後輩で、音楽センスを信頼してる人です。
■村山:諸見里修氏に演奏内容もほとんど任せました。ジャズからポップス、作曲まで出来る彼だからこその演奏だと思います。他のジャンルからアイディアを持ってくるというのは自分達にも通じると思います。
ー 今作、音楽センス尖った人達に刺さりそうな、という意味で言えばサブスクで積極的に新しい音楽漁る人たちに刺さりそうだな、と思いますが、サブスクの存在ってどう思ってますか?CDセールスとの対象として。
■真田: 僕はサブスクを今のところ一切やらないのですが、聴いたことないアーティストを聴いてみるにはすごく便利だと思います。そこからそのアーティストを好きになって、サブスクではわからないこと(誰がどの曲を書いているか等)を知りたくなったらCDを買ってくれたら良いなと思います。
■村山: サブスクは今回の作品づくりでもとても意識しています。主にマスタリングや曲間等です。現在の音楽の主流にもなりつつあるのを感じます。CDはCDの良さがあるし、個人の考えとしてはその人のライフスタイルに合わせて音楽の聴き方を選べるのは良い時代になったと思っています。アーティストの音楽の発信の仕方も然り。
ー 結成から4年。 コンスタントに作品リリースを重ねてますが、その間に周囲のムーブメントは色々と移り変わっていっているかと思います。 この先はどういうバンドでいたいですか?
■真田: ムーブメントにはアンテナを張りつつ、だからといってそれに流されず上手いことやっていきたいです。 個人としては、今の音楽業界でのギターの役割に疑問もあるので、僕や僕の仲間のギタリストたちでこれからの時代はもっとギターを押し上げていきたいなとも思っています。