―先日解禁になりましたが、今回のアーティスト写真が等身大でナチュラルで非常に良い感じだなと思いました。
井上苑子(以下…井):ありがとうございます。今作の収録曲が等身大な雰囲気なので、そこを写真でも表現できたらと思っていて、爽やかな感じで笑顔で、原点回帰というイメージもありましたね。
―それはすごく感じました。メジャーデビューした2015年の頃のような。
井:今回のリード曲になっている「近づく恋」がその頃に近い雰囲気の曲なんです。いわゆる女子高生の胸キュンソング的な曲。
―懐かしさがありますよね。
井:この曲は資生堂SEA BREEZEのタイアップのお話をいただいて、書き下ろさせてもらったんですけど、女子高生だった時のことを思い出したり、妄想もして、久しぶりにこういった楽曲制作をしたのでとても楽しかったですし、やっぱり私にはこういうタイプの曲が合っているのかとも思いましたし、こういった曲もずっと作っていけたらなんて改めて思うきっかけになりました。
―なるほど。過去にはそういったイメージしかないアーティストにはなりたくないという想いもあったという印象はあります。
井:それはありました。今も変わらずそういう曲ばかりというアーティストにはなりたくないとは思う部分はあるので、色々なタイプの楽曲に挑戦はしていきたいと思っています。ただ、敏感で多感な女子高生くらいの世代に向けての曲を書ける事、そういった方々に寄り添えるは本当に嬉しいことですし、アーティストとして求めてもらえるというのはとても幸せなことなので、井上苑子というアーティストの色として大事にしていきたいなとは強く思っていますし、あとは一緒に年齢を重ねられたらいいなとも最近思うようになりましたね。
―それは苑子ちゃんだからこそできることですよね。17歳でメジャーデビューをしてその当時女子高生くらいの世代だった人と一緒に年齢を重ねることができるって素敵なことだと思います。今作全体のテーマやコンセプトを聞かせてもらえますか?
井:“等身大”というのが一番合っている言葉かなと思います。とてもありがたいことに収録曲全てでタイアップをやらせてもらっていて、それに伴って1曲1曲にテーマがあったので、それぞれに対して今の私が感じることを書いていきました。作品全体のコンセプトを決めて書いていったわけではないのですが、結果的には“等身大”というのが一番合っているのかなと。アーティスト写真もそこにリンクしているイメージですね。
―作品タイトル『ハレゾラ』の由来も聞かせてもらいたいです。
井:爽やかさと春らしさのイメージからですね。あとは平仮名か片仮名がいいなって思ったのもありました。
―確かにそういったイメージありますし、その辺りも原点回帰感ありますよね。
井:まさにです。私の楽曲でいうと「ナツコイ」みたいな。みんながポンッと言葉として出てきやすいタイトルにしたかったんです。
―そんな今作『ハレゾラ』の収録曲についてもお話を聞いていきたいと思います。
まずはインタビュー冒頭でも少し話題にあがった資生堂SEA BREEZEのタイアップ曲「近づく恋」。
井:SEA BREEZEは実際に使っていましたし、過去にすごく好きなCMもあったので、今回こういったお話がいただけてとても嬉しくて、思い入れも強かったのですごく満足できる曲に仕上がったのが幸せです。SEA BREEZEの世界観も大事にしつつ、遊びも入れたいなと思っていたので、サビ始まりの曲初めはバラードっぽくして、その後はポップに、ダンスもできるような曲調にしました。この前MVも公開されて、そこでもみんなでダンスを踊っているのでみんなで真似してもらえたら嬉しいです。MVも本当に良い仕上がりなんです。めちゃくちゃオススメです!!縦画面用にしていたりとかの工夫もしていて。TikTokとかにも向いていると思いますし、流行ってくれたら嬉しいなぁ。
―この曲は歌詞の中に高校生の日常の一コマがちりばめられていてまさに学生生活という感じで雰囲気が増している気がしました。
井:“ふたりに日直させてよ”とか私がしたかったことですね(笑)。隣の席がよかったとか、あの人が購買に行ったから私も行こうとか、自分が高校生だった頃を色々思い出しましたね。
―リアルタイムで書くのと今思い出して書くのとは全然感覚違うんじゃないですか?
井:そうなんです!今になってあの時を思い出して書くすのってまた感慨深いというか、違った感覚でした。あの頃はそれを特別だなんて思わなかったし、それこそ明日になればまたあの人に会えるとか思っていましたが、今はそういったことを体感することはないわけで。もう無いからこそ妄想の楽しさが全然違いました(笑)。
―得意の妄想ですね(笑)。そしてそんな曲に続くのは「ぜんぶ。」。この曲も懐かしさというか、過去に何回かやっているSUPER BEAVERの柳沢さんとのタッグがふと頭に浮かびました。
井:そのテイストはあるかもしれないです。柳沢さんの曲が本当に大好きで、そこで学んだことというか、こういうコードもありなんだとか、あとは曲の構成とかを自分なりに吸収して楽曲制作に活かしたりしていて、この曲は男性目線の曲ということもあって、自然に意識した部分ではあるのかもしれないですね。
―当たった(笑)。
井:さすがです(笑)。私の頭の中に広がっている壮大な雰囲気やサビのイメージなどをアレンジャーさんに伝えて制作を進めていった曲ですね。
―あとこの曲で特に感じたのは曲名の通りですが、苑子ちゃんの曲で恋の始まりではなく、始まってからというか、その後みたいな“ぜんぶ”を描いたのは初めてなんじゃないかなと思いました。
井:そうなんです。今言ってくださったように恋が始まる胸の高鳴りとか、その先も描いたとしても両思いになるまでくらいだったんですけど、この曲ではその手前はナシで両思いなところから曲が始まっているのでとても珍しいタイプの楽曲だと思います。
―そういった楽曲制作にチャレンジしたきっかけはあったのですか?
井:『キスカム!~COME ON, KiSS ME AGAiN! ~』という映画の主題歌なんですが、その映画の世界観に合わせたところがきっかけですね。片思いから始まる映画ではなかったので、そこで片思いの曲では合わないし、そこは自然にこういった曲を書こうという思考にはなっていたのかなと思いますが、そういうきっかけをいただけたことは大きかったのかなと感じています。
―あとこの曲は幸せではあるものの、ゆるやかなテンポのバラードというのもこの曲の面白いところなのかなという印象を持ちました。
井:「大切な君へ」のMVで監督をしてくれた同い年の松本花奈さんが映画の監督を務めているんですが、曲のテーマを決めていったんです。3曲目に収録されている挿入歌の「ラブリー」は女の子目線で私が劇中でも実際に歌っているんですけど、そのシーンはポップにしたいということだったので、「ぜんぶ。」は対照的な男性目線でのバラードというテーマだったんです。映画を見終わってしっとりこの曲を聴くみたいなイメージでした。あとは曲の構成も意識していわゆる一般的な1A→2B→1サビ→2A→2B→2サビ→間奏→ラストサビみたいな曲にせず、自由に作ったのもポイントの一つかなと思います。
―その構成がまた良い味を出していますよね。
井:色々な方にそう言ってもらえるのでとても嬉しいです。
―この曲もそうですが、他の曲にも苑子ちゃんのクリエーターとしての成長を感じる部分が色々とあります。
井:ありがとうございます!4曲目の「リボン」とかはリップクリームという物に目をつけてそこから曲を書いていったのですが以前だともっと単純な歌詞になってしまったかなとかは思いますね。
-その中で5曲目の「MY WAY」はザ・井上苑子という感じもしました。
井:きっと過去にも何度もご一緒させてもらっている柴山さんとのタッグ曲だからかもしれないですね。柴山さんのサビが本当に大好きなんですよね。
―以前からそう言ってますもんね。
井:アシスタントMCとして出演させていただいている番組内の企画でSTORES.jpという企業のCMソングとして書かせていただいたんですが、アッパーな曲ということだったので、もうこれは柴山さんしかいないなって思ってお願いさせてもらいました。やっぱりさすがの出来で、とても気に入っています。歌詞の世界観はSTORES.jpの方と楽曲制作について話をしていく中で、私が路上ライブを始めたときとすごくリンクしたのが大元になっています。踏み出す一歩を歌った歌なんですが、その一歩は勇気を振り絞ってみたいな一歩ではなく、もっとラフにまずは始めてみるっていうのも大事なのかなという想いで書いた一歩です。私も路上ライブはまずはやってみようみたいな気持ちで始めて、それが今に繋がっているので。遠回りをしても寄り道をしてもそれが自分の道なのかなって想います。
―そういう部分も原点回帰感ありますね。
井:その頃を改めて思い出す事ってあんまりないですからね。
―思い出すというと作品ラストの「僕らの輝かしい未来」もそうですよね。卒業がテーマの曲ですし。
井:そうですね。この曲も「近づく恋」と似ている背景ですが、今だからこそあの頃を思い出して書けた曲かなと思います。当時は目の前のことで精一杯でしたが、今思い出してみると本当に大切な時間だったなって。そこからいろいろ変化はしているけど、変わっていくことは決して悪いことではなくて、それぞれが未来に向かって進んでいるからなんですよね。高校三年生の時とは違った卒業への想いで書きました。
―苑子ちゃんが今捉える“卒業”ですね。
井:早く卒業したいとか思っていたのが嘘みたいです。今は高校時代の友達に会う機会が減ってとても寂しいし。私は今春で大学を卒業する代でもあるので、今このタイミングで“卒業”というテーマで楽曲制作ができたのは私にとってはとても大きなことだったかなと思います。これが1年遅くても1年早くてもきっと違って、今だったから良かったって思えますね。