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北出菜奈 interview
- SPECIAL -

北出菜奈 interview

デビュー15周年を迎える北出菜奈。

誰も真似しない、誰にも真似できない唯一無二のアーティスト像を確立してきた彼女が、そのアニバーサリーイヤーにリリースするのは幻のシングルと言われた「想い」。

10年の歳月を経て蘇るこの楽曲に彼女は何を思うのか。

過去と今が共存する今回のシングルについて語ってもらいました。

Talking Partner : TATSUKI

ーまずはニューシングル「想い」のリリースおめでとうございます。

北出菜奈(以下:北出):ありがとうございます。レコ発とデビュー15周年を記念したライヴを渋谷eggmanでやれて、そしてeggmanの情報誌でインタビューまでして頂いて、こちらこそ嬉しい限りです。今ってSNSで情報発信は出来てしまうので、それでいいかなって思ってしまう時もあるんですけど、やっぱり文字数にも制限はあって、こうしてまとめて紙に記録しておくのもいいよなって思いますね。結構ファンの人たちも大切に保管してくれたりするし。

ータイトル曲の「想い」について、作曲・⻄川進×作詞・北出菜奈による「幻の楽曲」と呼ばれているそうですね!その所以はなんですか?

北出:西川さんは、わたしのデビュー曲「消せない罪」を始め、その後もたくさんの曲を書いてくれていて、この「想い」も当時シングル用に西川さんが曲を書いてくれて、わたしも詞を書いてデモまで作っていたんです。2004年か2005年頃だったと思います。
だけどまあ、CDをリリースする時っていろんな要素が絡み合うじゃないですか。タイアップもそうだし、時代の流れとか、その前後の作品との曲調とか。
詳しい理由は実はわたしも知らないんですけど、結局この曲は当時リリースされないままになってしまったんです。それで、わたしがソロ活動を休止してユニットでの活動をしていた時に、西川さんからライヴにゲストで出て「想い」を歌わないかって声をかけて頂いたんですよ。
それが2010年で、そのライヴ映像を西川さんがYouTubeに上げたんですけど、反響が大きくて、CDリリースをして欲しいという声も結構あったんです。でも、その時わたしはすでにLovelessというユニットで活動していて、その後もバンドを結成してオリジナル曲を中心にやっていたので、「想い」は結局CDリリースされることもなく、ライヴで1回だけ披露しただけだったので「幻の曲」と言われていたみたいです。

ーそれをどうして、このタイミングでリリースしようと思ったんですか?

北出:西川さんもわたしも、この歌がとても好きで、ずっと心に留めていたんです。でも物事って必ずタイミングがあるじゃないですか。2016年にソロ活動を再開して、今年デビュー15周年を迎えたんですけど、ちょうど自分の人生の半分が音楽とともにあって、デビューから今までも振り返ったりして、その中でこの曲をやっぱりきちんとした形にして残したいなって思って、それで西川さんに連絡したらOKもらえて、じゃあデビュー15周年のタイミングでシングルをリリースしようってなったんです。

ー曲を作ってから10年以上の長い歳月を経て、今またこうして世に出ていくわけですが、歌う際にはどんな感情がこもりますか?

北出:この歌詞を書いたのは10代の頃なので、歌っているとやっぱり当時の自分の中の記憶が甦りますね。「ああ、当時こんな気持ちでこの歌詞を書いたんだろうなあ」って。でも人って年月とともに変わってしまうようで、実は本質的なところって、そんなに大きく変わらないような気がしていて、この歌詞に今違和感を覚えるかというと、そういうことは全くなくて、むしろ当時の自分に共感を覚えるというか、今でもこの歌詞は自分的には結構しっくりきています。

ーカップリングの「The End Of Darkness」も西川進氏プロデュースのもと今作のための書き下ろした楽曲だそうですね。結構意味深な感じにも取れますが、どんな歌なのでしょうか?

北出:これは、まさに今のわたしが書いた歌詞で、言葉遣いも含めて10代のわたしでは書けなかった言葉も用いられていますね(笑)。一読すると結構猥雑な感じにもとれると思うけど、歌のテーマはタイトルにもあるとおり「暗闇の果て」。一体、暗闇の果てには何が待ち受けているのか。それは結局のところ誰にも分らないのだけど、そこにわたしが待ち受けていてあなたを包み込んであげようと。だけど結局最後は殺してしまうという。行きつくところは、愛憎に満ちた世界なんじゃないかなと。

ー10 代の北出菜奈さんと、現在の北出菜奈さんの詞の世界が交錯した、まさにメモリアルイヤーに相応しいシングルとなっていますが、この2曲を並べて聞いた時に、何か特別な思いはありましたか?

北出:自分のことって、なかなか客観的に見れない部分もあるので、そこは聴いてもらったみんなにそれぞれ感じてもらえればいいかな。でも間違いなくこのシングルには二人の北出菜奈がいると思う。かつてのわたしと、今のわたし。そこを歌詞も含めて読み解いてもらったら、この作品がより深く楽しめるんじゃないかなと思いますね。あと逆にCDを聞いたみんなの感想を知りたいですね。みんな、聴いた感想をTwitterとかで教えてちょうだい(笑)。

ーそして今作のリリース日はちょうど15 周年を迎えるタイミングだそうですね!振り返ってみて一番思い出に残っているライヴや出来事があったら教えてください。

北出:振り返ると、ひとつひとつどれも思い出があるけど、やっぱりeggmanという場所への思い入れはあるかな。別にインタビューしてもらっているからお世辞を言うわけじゃなくて(笑)。
わたしがデビューした頃ってまだCDが売れてた時代で、当時のJ-POPシンガーって、例外はあると思うけど、ほとんどがCDに軸足があってライヴはどちらかと言うとCDのプロモーションみたいな感じだった気がする。デビュー当時わたしも周りからライヴをやれと言われていたわけではなくて、自分がライヴをやりたくて、レコード会社や事務所にお願いをしてライヴをやらせてもらったのを覚えてますね。それで当時eggmanでよくライヴをやらせてもらっていたので、わたしの中の記憶もそうだけど、ファンのみんなにとっての記憶もeggmanって特別なものがあると思う。だから2016年にソロ活動を再開した時も最初のワンマンはeggmanでやらせてもらったし、今回のデビュー15周年ライヴもeggmanでやらせてもらったんですよ。
だからeggmanって、わたしにとってもファンにとっても特別な場所なんですよね。多分これからみんなそれぞれ、いろんな道に進んでいくと思うし、ライヴになかなか来れない人も出てくると思う。でも、40歳になっても、50歳になっても、60歳になってもまたeggmanに集まりたいよね。久しぶりって。新しくわたしを知った人にも、ここが北出菜奈が歴史を刻んできた場所かって見てもらえたら嬉しいし。だから10年後も、20年後も、30年後も、どんなにビルが老朽化しようとも移転せずに、この場所にeggmanがあって欲しいです(笑)。

ー今回の 初回限定生産盤CD はイラストレーターKUMI TAKAHASHIさん描き下ろしによるイラストを使用した「クリスタル・ピクチャー・ディスク仕様」、ということなんですが、どこまでもアーティスティックな作品になっていますね!北出さんの世界観が全面に出ている作品だなって印象でした。

北出:よく行くネイルサロンでKUMIちゃんの絵を偶然見かけて、一目惚れして連絡して絵を描いてもらうことにしたんです。KUMIちゃんってパソコンでイラストを描いているんじゃなくて、アクリル絵の具を使って手で描いているんですよ。だから絵を描いてもらうのも一発勝負。その分、お互いに集中力も増すというか、真剣勝負というか。結果、すごく良い感じに仕上げてもらえて。アナログな質感がすごく良いと思いませんか?
あと絵のモチーフになっているドレスは、実は今回BABY, THE STARS SHINE BRIGHTに特別に作ってもらったステージドレスをイメージして描いてもらっているんです。
常々言っているんですが、やっぱり作品として世に出すものはCDであれ、グッズであれ、こだわって作りたい。そこを手抜きするなら出したくない、いや出すべきではないと思うんです。当然、わたし一人ですべて出来るわけではないので、一緒に創作活動をしてくれるクリエイターの人たちと組んでやることも多いです。わたし一人ですべて創作しても、だんだんと予定調和になっていくこともあって。だからいろんな人とコラボレーションする中で起きる化学反応が結構楽しみで、そこも含めてみんなにも楽しんでもらえたら嬉しいなって思います。

ーそのほかにもグッズや衣装など、様々なアーティストさんとのコラボ作品が満載になっておりますが、北出さんの理想のアーティスト像とはどういったものなんですか?

北出:カルチャーっていろんなものが絡み合って生まれてくるものだと思ってるんです。音楽、文学、ファッション、アートって、それぞれ別個に存在はしているんだけど、密接につながっていてお互いに影響を与えあって刺激的なものが生み出されていくというか。
1960年代に活動していたヴェルヴェット・アンダーグラウンドっていたじゃないですか。彼らって後のパンク~オルタナシーンにも多大なる影響を与えるんですけど、それは音楽性だけじゃないと思うんですよ。あのバンド名って、実は道端に落ちていたSM小説のタイトルからとられているし、「毛皮を着たヴィーナス」って曲もマゾッホ(注:マルキド・サドのサディズムと並びマゾヒズムを描いた1800年代のオーストリアの小説家)の小説からとられていますしね。ジャケットのバナナのアートワークはアンディー・ウォーホールだし、彼らが初期の頃ライヴをやっていた場所も、ライヴハウスとかではなくて、作家たちが集まるカフェ・ビザールっていうポエトリー・リーディングなどが行われていた場所なんですよ。なんかもういろんなものが混じりあって、あの作品って誕生した感じですよね。
あと、1970年代にロンドンで勃発したパンクムーブメントも、元々ヴィヴィアン・ウェストウッドがブランドを立ち上げる前に、ロンドンのキングスロードでマルコム・マクラーレン(注:のちのセックス・ピストルズのマネージャー)とやっていた「SEX」っていうブティックに集まっていた不良たちが結成したのがセックス・ピストルズで、彼らの着るステージ衣装もヴィヴィアンとマルコムが手掛けていたわけで、音楽だけだったらパンクはあそこまで大きくムーブメントにならなかったんじゃないかなって思いますね。
それで、セックス・ピストルズの親衛隊だったスージー・スーが結成したのがスージー&ザ・バンシーズで、あの当時のパンクムーブメントでの女性のファッションリーダーって、間違いなくスージー・スーだったと思うし、彼女の作り出していた世界観は決してパンクではなくて、ファッションも含めてゴシック的なもので、ジョイ・ディヴィジョンやキュアーなどもそこに影響を受けて誕生するわけで、産み落とされたひとつのカルチャーがどんどん進化、発展してバトンが受け継がれていくんですよね。面白くて刺激的な音楽の影には必ず、他のカルチャーも密接に関係しているし、またどんどん変化も遂げていく。
だからわたしも、音楽に限らず様々な形でクリエイターとして活動している人たちと一緒になって物事を創造したいといつも思っているんです。わたしも刺激を与えたいし、刺激も受けたい。新しいものの目撃者って必ずしも大勢ではないと思うので、見逃さないで欲しいなと。

ー日本での15周年記念ライヴの後、海外でもライヴを行われるそうですが、海外と日本ではライヴの雰囲気というのはまた違いますか?

北出:そうですね、ちょうどこのフリーペーパーが出るころにはスペインにいます。バルセロナで行われるヨーロッパでもかなり大きなジャパンカルチャーフェスに呼んでいただいて、11月2日と3日にライヴ出演します。ヨーロッパ全土から15万人くらい来場するみたいで、海外にも長いこと応援してくれるファンがいるので、このメモリアルなタイミングでイベントに出演出来て嬉しいですね。15周年ということで特別な企画もあるようなんですが、詳しいこと教えてくれなくて、行ってからのお楽しみみたいです(笑)。
海外でもやっぱり国によって雰囲気は違って、スペインはやっぱりラテンなノリというか、わたしのことを知らない人でもライヴが始まると音楽に乗り始めるんですよね。海外って生演奏のパブやレストランが多いじゃないですか、だからライヴというのがすごく身近なとこにあるんだろうなって思いますね。

ー今後やっていきたいコラボや、やってみたいことなど、これからの展望があったら聞かせてください!

北出:ソロ活動再開してから、ライヴを一緒にやってくれている今のバンドが「new dawn」って言うんですけど、ギターがwash?の大さん、ベースがBRAZILIANSIZEのカンさん、ドラムがsyrup16gの大樹、キーボードが惑星アブノーマルのテナちゃんで、このメンバーで作品を作りたいなって思ってはいます。みんな忙しい人たちなので実現するかどうか分からないけど、今ライヴで表現している歪んだサウンドをCDの中に閉じ込めたいなって。 
今のメンバーって、わたしが1つリクエストを投げると、そこから意図を読み取って5とか10に膨らませて投げ返してくれるんですよ。当然そこにはわたしも想定していないこともあったり。そのキャッチボールがすごく心地よいんですよ。今のメンバーで作品を作ったら、わたし自身も予想しえないような面白いものが生まれるんじゃないかなって。
いろんなアーティストやクリエイターとのコラボって、その時々の縁というかタイミングもあるので、あまり意識はしてないけど、いろんなものにはチャレンジしたいなと思っています。

ー最後に、今回の作品を敢えて漢字で表すとしたらなんでしょうか?

北出:また難しい質問ですね(笑)。なんだろう、「生々流転」(せいせいるてん)かな。すべてのものは絶えず生まれ変わっては変化し続けていくというか。特に「想い」は長い年月をかけて、新たに生まれ変わったものが今回のCDに収録されているんですけど、それもまたライヴを重ねていくうちに、生まれ変わっていくんじゃないかなと。そんな気がしています。