―ニューアルバム『361°』がいよいよ2月12日に発売されますね。周りの業界関係者で一足先に聴いた方も居ると思うのですが、そういった人たちのリアクションはどうでした?
渋谷龍太(Vocal/以下=渋谷):シンプルにすごく良かった。音源を渡した人からのレスポンスの感じから伝達速度の速さみたいなものは実感しましたね。
-このアルバムが出来たときの自分たちの気持ちとしてはどうでした?
藤原”25才”広明(Drums/以下=藤原):俺はリアルに自分の現状や環境が変わるかもしれない、と思いました。
柳沢亮太(Guitar/以下=柳沢):『361°』に辿り着くまで、これまでのSUPER BEAVERから段階を追って焦点を合わせたものがイメージ通りに出来た感じはあった。原点に立ち返るアルバム『SUPER BEAVER』があって、そこから音に対して広がりを持ち始めた『未来の始めかた』があって、『世界が目を覚ますのなら』があって。より歌と言葉だけで伝えられるものを作ってきたと思えた。だからこそ何をやっても、もう大丈夫だという無敵さを持って今作を作ることが出来たと思います。
-今作「361°」は、タイトルの通り1周まわってまた新たに1歩踏み出した1枚ということですよね。今回は4P大特集ということでアルバムの1曲ずつを紐解いていけたらと思うのですが、まず1曲目の『→』ですが、このタイトルの読み方は?
上杉研太(Bass/以下=上杉):「やじるし」ですね。
-最後に入っているドアの音と、このタイトルに込められた意味は?
柳沢:元々この曲はアルバムに入っていなかったんです。レコーディングスタジオでイントのような曲を作ろうっていう話からリーダー(上杉)とヒロ(藤原)だけで作ってもらった。この矢印が示すように、より外に外にベクトルが向いていくイメージ。「内から外へ」というのを1曲目で出したかった。
-2曲目『361°』はアルバムと同じタイトルですが、この曲をここに持って来た意味はありますか?
柳沢:最初からみんなにこれを1曲目にしたいって話していて。アルバムタイトルより先にこの曲は出来ていたんですが、1周まわってまた1歩、というのと同じように、ひたすら転調しているんですよ。音楽的な話をすると、平歌からサビで1回転調、また次に元のキーに戻って、またサビで転調、そこから更に転調、最後の最後でもう1キー上がる。そこで今のSUPER BEAVERの新たな1歩目という意味で1曲目にしたかった。
-歌詞は自分たちの現状を歌ったものですか?
柳沢:最初の4行に関しては言いたいことの1つではあったかな。失敗は成功のもとって、実は経験しない方が良いと思うんですよね。ミスや挫折、失敗っていうのは本当は知らなくて良い。知りたくはないけど知ってしまったから、そこから学ぼうとするだけで。それは俺らが経験したからこそ言えることだな、と。
-では次に3曲目『あなた』ですが、このアルバムのリード曲になっていますよね。この曲だけ先に会場限定でアナザーバージョンが発売されていますけど、それに対するお客さんの反応はどうでした?
上杉:一番露骨にリアクションがあったなと思いました。PVも最初に解禁してますし、俺らの気持ち以上に周りにこのアルバムのトピックとして伝わっていると思う。アルバムのコンセプトが”あなた”なだけに。みんなそれを聴きながらアルバムを待ち望んでくれているのかなって感じた。明確にこのアルバムを表せている曲だと思います。
-「あなたたちじゃない、あなたに歌ってるんだ」というのをSUPER BEAVERの方向性として示した上でのこの曲ですもんね。次に4曲目の『愛の愛の』。これは”I know”という意味でしょうか?最初はラブソングなのかな?と思いました。
柳沢:”I know”です。恋愛でも良いし、何でも良いけど、サビで言っていることが全て。本当は自分の中に正解があるのに、人にわざと聞いたりする。結局「大丈夫だよ」って言ってもらいたかったり、安心が欲しいだけなのに。だから本当はわかってる、だけど確信が無いから自分を信じられない、でも信じないから確信にならない、というモヤッとした部分と、本当はそういったものの答えというのは自分の中にあるはず、というのを歌にしたかった。
-聴いていく内に恋愛だけじゃなく、どんな関係性にでも当てはまるな、と思いました。友達でも恋人でも親子でも。
柳沢:ぶーやん(渋谷)もよくMCで言うんですが、友達だったり恋人だったり、そういう相手が良いと言うものを自分も良いと思おうとする節がある。でも本当は自分の中に答えがあるってわかってるでしょ?ということが言いたかったんです。
-”SUPER BEAVER”のライブのMCでも聴いた事あります。誰かの指針に騙されるなと。そういうことなんですね。では次に5曲目『センチメンタル』について聴かせて下さい。
渋谷:ど真ん中にセンチメンタルなものをぶち込みたくて作った曲です。内容もそうですが、どんな曲なのかは聴いたらわかる。聴いてくれれば、その人に当てはまる背景というものがあると思います。
-この曲は、エモいですね。
柳沢:エモいです。同じ恋愛ソングにしても、高校生のときや20歳そこらじゃ書けなかった書き方だなと思います。ぶーやんが歌録りするときはまだ仮タイトルだったんだけど、「これはどういう感じで歌うの?」と聞いたら「センチメンタルを目指します」って言った時にそれだ!と。ぶーやんは普段そんなにオケのこととか言わないんだけど、このときは「どよんとした曇り空をイメージしてやってほしい」って言って来て。
渋谷:天気は晴れじゃないし、雨までいってもダメだけど、曇り空くらいのグレーゾーンのオケが良いってずっと思ってた。
-曲の世界観とマッチしてますね。それでは次に6曲目『×』。これの読み方は?
柳沢:「バッテン」ですね。
-この曲だけずば抜けて激しいですし、歌もずっと語り口調ですよね。ライブ中のMCを彷彿とさせるテンションだな、と思ったんですが。
渋谷:そうそう。そういう雰囲気で作ってみたら良いんじゃないかな、と思って。ライブでもこの通りにやるつもりは毛頭無いけど、ライブでよく、こういうセクションがあるから、1つの形にして言いたいことを言ってみようかな、と。
-どういうことが伝えたくて歌詞を書きました?
渋谷:音楽に関わらず、自分で判断せずとも答えが出せる情報が多くて、そういった大きな指針みたいなものに疑問を抱いていて。自分で取捨選択する機会も少なくなってしまって、それを大きなものに任せっきりになっている部分があるんじゃないかな、と。すぐに答えが手に入ってしまうから、答えを求めがちで、その答えを明確に言ってくれる人の意見こそが正義みたいな風潮があるように思うから、そうじゃなくて、ちゃんと自分で考えようっていう曲です。
柳沢:そういった意味で言うと、規模の大小は違えど『愛の愛の』で言っていることとも通じてくる。もっと言うとこの歌詞は既にMCで言っていることなんです。ちなみにこの曲はせーので一発録り、且つ、アナログミックスして作りました。
-そうなんですね!7曲目『まだ』について聴かせて下さい。
柳沢:この曲だけ実は非常に古い曲で、まだ他の曲が出来ていないときにこれを1曲目にしようとしてた。その後どんどん曲が出来ていく内に、やっぱり『361°』が1曲目にふさわしいということになった。でもこのアルバムに於いてA面B面というイメージがあって、『×』を真ん中にして『まだ』がB面の始まりになるように作りました。
渋谷:『×』の後の曲間がけっこう空いてるんですよ。テープをひっくり返す、レコードを裏返す、そういうイメージ。
-1曲目ではないけど、B面の1曲目ということですね。実は古い曲だと言ってましたが、歌詞を読むと始まりを連想させる。[NOiD]とタッグを組んで、新たな1歩を踏み出すイメージに近くて、そのために書いた曲なんだと思ってました。
柳沢:そうですね。最近極端な部分をちゃんと歌いたい。モヤモヤした中間地点ではなく、本当はわかってるんでしょ?のわかってる部分。『まだ』の冒頭に「昨日はごめんな、そうやって始まる朝は素敵だ」って歌詞があるけど、実際はそこに至るまでにいろいろあると思うんですよ。そうやって始まる朝は素敵だけど昨日の夜は辛かった、というのが普通。でもそういうことじゃなくて、もっと極端な部分を見てあげれば繋がっていくものというのはある。『まだ』というタイトルのように、現状で満足はしていない。満たされることというのはなかなか無いかもしれないけど、そういう少しでもわかりやすい答えをちゃんと見ていきたいし歌にしていきたい。そういったことをB面の最初で歌えるのは良いことかな、と。
-次に8曲目『サイレン』。こちらもまた雰囲気の違った曲ですね。
柳沢:これはもう、爆裂ギターロックですよ!
渋谷:それダサイね(笑)。
柳沢:要はライブチューンです。SUPER BEAVERの曲の中で初めて踊れる。そして歌える。
渋谷:みんなでシンガロングする曲があったら良いねっていう話をしていて。『サイレン』も『まだ』もそうだけど、わかりやすい。一緒に手を挙げて一緒に歌える。
柳沢:今作は特にそういう曲が多い。この曲は珍しく歌詞やメロディだけじゃなく、サウンドを重視したんです。実は元々デモの段階だったいろんな曲を組み合わせて出来た曲なんですよね。高校生のときに作った曲の節を使っていたりもする。それらを前後の繋がりとか言葉の響きだけではめ込んでいった。そういうやり方はSUPER BEAVERにしては意外と珍しいと思う。
-これもかなり刺さる曲ですね。
柳沢:これはどっちかというと自分じゃなくて他人を見て書いた曲です。響く人には響くと思います。
-それでは次に9曲目『鼓動』ですね。この曲はシングルで出しても良いんじゃないかと思いました。
柳沢:この曲はThat’s SUPER BEAVERという感じ。この『鼓動』が9曲目っていう、よくわからない立ち位置に居るのが重要。簡単に言うと、この曲をそんなところに入れられるようになったSUPER BEAVERの進化した様子が表れていると思います。『歓びの明日に』に通じるものもあるから、歌詞の中にそのままそれを使っていたり、極端なことを言えば歌っている内容も同じですしね。でも2サビの「転んでも転んでも転がり続けていられればいい」というのは今になってようやく持てるようになった考えではありますね。転んでも立ち上がって行きたいって言ってた自分たちが、別にそのまま転がりながら前に進んでも良いんじゃない?と思えるようになった。そこは大きな違いだと思います。
-そういったところに今のSUPER BEAVERが存在しているんですね。
柳沢:去年10月に下北沢でSUPER BEAVER VS SUPER BEAVERという企画をやったんです。メジャーまでの時期と自主レーベルになってからの時期との二部構成。それの一番最後にこの曲をやったんですが、そのときにすごくグッときた。昔のことを思い返しながらやっていた部分もあるから。スタンダードでありながら、こういう曲を常に持っていられるというのはすごく強味だな、と。だから他人にとっても自分たちにとってもいろんなキッカケになれる曲だと思います。
-では次に10曲目『ありがとう』です。これはPVも公開されていますが、ドラマバージョンとバンドバージョンの2パターンありますよね。その理由は?
渋谷:完全に俺のワガママです。演奏シーンのPVが録りたかった。ここ最近のPVが演奏シーンではなかったので。
柳沢:非常にわかりやすい、よくもここまで単純なタイトルを付けたなっていうくらいの曲です。SUPER BEAVERのテーマとしている極端さで言うとしたら、この『ありがとう』の必殺ワザ感はものすごいと思ってます
上杉:最近のバンドが恥ずかしがってやらないことを堂々とやるのがSUPER BEAVERの良いところなんだな、と思う。
柳沢:この曲こそ本当にシンプル。何を言うわけでもなく、ただ聴いてくれさえすれば良いし、いろんなシチュエーションに合う曲だと思う。
-ドラマバージョンのPVも深いですね。
柳沢:あれは噛めば噛むほど美味しくなるPVだと思います。「ありがとう」っていう言葉は、ジャンルを越えるとかそういったことすらも取っ払ったものじゃないですか。どんなヤンキーでもどんな嫌な奴でも、言語は違えど外人だって「ありがとう」くらい言う。「ありがとう」というのは絶対誰にでもある感情なんですよ。そういう意味では必殺ワザだと思うんです。ぶーやんが最近よく言うんですが、「どうでもいいことほど言っていきたい、それがSUPER BEAVERだと思う」って。まさにその通りだな、と。歌詞の中にもあるように、どうでもいいから言わないけど言わないまま終わっちゃうことがよくある。小さくてどうでもいいから見ないようにしている感情というのを敢えて拾い上げて歌にしたい。
-そういった世界観をじっくり味わってほしいですね。それでは最後の11曲目『約束。』です。タイトルに「。」を付けたのには意味があるんでしょうか?
柳沢:『361°』で始まって『約束。』で完結するように敢えて付けました。
-なるほど、そういうことだったんですね。この曲を最後に入れた理由は?
柳沢:これは俺がずっと最後にしたいって言ってたんですよね。あなたに歌っているという意味では、これまでは投影してもらう曲が多かった。でもこの曲だけは明確に”あなた”に向かって歌っていると思うんですよ。ハッキリと俺たちが前に立って手を引いている感じ。
上杉:レコーディングしてからこれが最後の曲にふさわしいと思うようになりましたね。
柳沢:最後っぽく「。」を付けて締めくくっています。
-全曲聴いてきてこの『約束。』に辿り着いたとき、このアルバムは少なからず誰かにとっての救いになる1枚だと感じました。今このアルバムの発売を控えている状況で、周りから見ていると今後のSUPER BEAVERに対してワクワク感のようなものがあるんですよね。自分たちの中で今後の展望はありますか?
柳沢:そのワクワク感というのは自分たちでもすごく感じているし、それが良い感じに溢れ出ていると思うんですよね。それでどんどん周りの人たちを取り込みたい。何で音楽をやっているか考えたときに、俺は単純に美味しいお酒が飲みたいだけなんですよ。それがCD発売おめでとうの乾杯にしても、良いライブをやった後の乾杯にしても、そういうのは人数が多い方が楽しいじゃないですか。個人的にはもっともっとそういう輪を広げていきたい、一緒に喜べる人間がもっともっと増えれば良いな、と思ってます。もちろんお客さんを含めて、SUPER BEAVERの音楽という唯一の共通項に対して一緒に笑っていける人たち。
-まだ発売されていない時点で、一足先に聴いた人たちには確実に伝わっているように思います。そこからまたお客さんにもしっかり伝わるんじゃないでしょうか。
上杉:そうであってほしいですね。
-良い広がり方をしているな、と端から見ている中でも思います。ツアーも発表されましたが、そこに向けた意気込みなどはありますか?
藤原:この間スタジオに入ったときにみんなで「ライブの中でいろんな始まり方や繋ぎ方が出来るよね」という話をしていたときに、すごくワクワクしましたね。そういう意味ではたくさん可能性があって楽しみです。
上杉:アルバムを聴いた人が確実に楽しめる内容になると思いますね。ファイナルに向かっていくにつれて、会場もどんどん大きくなるし。
-ツアーもますます楽しみですね。それでは最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。
柳沢:ああだこうだといろんなことを喋りましたが、とにかく本当に良いアルバムが出来たので、聴いてほしい!
渋谷:誌面では伝わらないこともあると思うので、それを直接聴いたり見たりしてほしいですね。
藤原:俺がどんな顔してるかなんてのも誌面じゃ伝わらないからね。
柳沢:なんだそれ(笑)。でも本当に「あなたたちじゃない、あなたに歌ってるんだ」というのを一対一で聴いてほしいし、パーソナルな部分にまで届くような楽曲になっていると思うから、自分をこのアルバムの中に落とし込んで聴いてもらえたら良いかな、と思います。
-これを読んで興味を持った皆さんは是非CDを聴いてライブに足を運んでみてください!ありがとうございました!