―約1年前に大学を卒業してからの1年振り返ってみてどうでしたか?
ましのみ(以下…ま):社交的になろうと思った1年ですね。徐々にそうなってきたと思いませんか?
―それはとても感じます。対バン相手やeggmanのスタッフなど周りの人と話すようになったという印象がありますね。
ま:よかったー!(笑)。窪田さんは以前から私のことを知ってくれているから今の私を見てそう言ってもらえるのは嬉しいです。
―他者とコミュニケーションをとろうという意欲を感じますよね(笑)。
ま:あはははは!!
―頭の回転も早いし、きっとお話をすること自体は好きだっただろうけど、いわゆる人見知りというか。
ま:積極的に人に話しかけるのが得意じゃなかったんですよね。大学を卒業して、私自身の生活としては音楽をやっているのは変わりないし、そこまでガラリと環境が変わったということはないんですが、周りの友達が就職してなかなか会えなくなったりとか、大学という一つの括りのコミュニティがなくなって、人と会うことが徐々に減ってしまって、これは自分から動いていかないとマズいなって思ったんです。それがプライベート面で社交的になろうと思った理由で、音楽面では知識欲が強くなりました。アレンジとかもっともっと学びたいと思ったし、音楽についての知識を増やしたい、刺激を受けたいという想いがセカンドアルバムリリース以降でとても強くなって、色々な人と会うようになりました。人間的になったかな(笑)。いや、正確に言うと子供の頃のような快活な感じに戻ってきたというほうが正しいかもしれないですね。
―その変化はとても大きい気がします。
ま:大きかったですね。しかも変わっちゃったわけではなく、自ら変わろうと思って変われてきていることが嬉しいです。それが馴染んできた感じもあります。最初の頃は週1で友達に会えれば十分くらいな感じでしたが、今は全然そんなこともなくて。
-とても良い変化ですね。
ま:人見知りを直したいって以前から言ってはいましたが、自分だけの閉ざした空間に閉じこもって自分の感性だけで音楽を作り上げた方が良い音楽が作れるっていう美学がきっと自分の中にあったんですよね。でも自分の感性をしっかり残した上で知識を深めることお大切さや、他者と話すことによって自分の感覚に気付くこともあるということを覚えましたし、自分の中での美学・軸が180度変わりました。
―それは今作で強く感じます。これまでの作品ってましのみちゃんの“才能”が活きたものだと思っていて。素材というか。でも今作って良い意味でそぎ落とされた部分や逆に身につけた武器があって、音楽人として成長した“アーティストましのみ”としての1枚目という印象だったんです。
ま:めちゃくちゃ良い事を言ってくれましたね。嬉しいです。
―それくらい違う印象ですよ。
ま:実は去年末くらいにアーティスト名を変えようかなって思っていたときがあったんです。今までは歌詞とメロディを私が書いて、それ以外の部分はそれぞれの専門家の方の力を借りて、作り上げてきたんですが、私自身が全ての物事に対して軸を持っていたいタイプなんだという事に気が付いて、なるべくトータルプロデュースしたいと思うようになったんです。そういった部分も含めてセカンドアルバムリリース以降ガラリと変わったから、新しい物を始めるというのをわかりやすく提示したほうがいいんじゃないかって思って。
―その視点で言えばアーティスト名を変えるというのはとてもわかりやすいですもんね。
ま:でもそれまでの過程があっての“ましのみ”だし、最終的にはアーティスト名は変えず、でも今までとは違った新しいアプローチをしているというのをしっかり伝えていこうという答えになりました。
―それが十分伝わる作品だと思います。
ま:ありがとうございます。今作の出来映えとしては満足していますが、まだまだやりたいことがたくさんあって、もっと音楽について勉強していきたいし、私の中のスポンジがどんどん吸収している感覚を持てていて、きっとまた半年後とかには変化があるのかなと思っています。
―楽しくてしょうがないんじゃないですか?
ま:そうなんです!楽しくてしょうがない。
―そういう変化という意味でいうと過去二作のアルバムはタイトルにも親和性がありましたが、今作はそういった部分でも違いますよね。
ま:そこもアーティスト名を変えようかって思ったのと同様に変化をしたかったというところもあります。
―“ぺっとぼと○○”というタイトルもあり得るのかななんて勝手に思っていたところもあって。
ま:あー、なるほど。それは正直全然考えていなかったですね。ファーストアルバムはとにかく聴いてくださる方に“刺す”ということを念頭に置いていました。それは曲のタイトルとか歌詞とかメロディとか歌のキーとかも。そして私はライブで2Lのペットボトルをステージドリンクに置いているんですが、それがアイキャッチというか私のイメージの一つだったので作品タイトルにもつけて、とにかく“ましのみ”というアーティストを知ってもらうきっかけにしたいという想いが強かったです。そしてセカンドアルバムはそれを受けて、合わせて一緒に聴いてほしい作品として対になるようなイメージだったので作品タイトルもそれに準じて。そして今作はそことはまた違ったベクトルの作品だから“ぺっとぼと○○”というのタイトルは選択肢として考えてもいなかったです。
―前作の配信シングル「エスパーとスケルトン」もそうでしたが、ジャケ写のテイストもそのアルバム二作とは全然違いますよね。アルバム二作はましのみさん自身が写っていて、直近二作はコラージュ作品。
ま:変化という意味ではこれもわかりやすく提示したかったというのがあります。Q-TAさんというコラージュアーティストさんにやっていただいているんですが、元々とても好きなアーティストさんだったんです。これは自分の中での感覚なのですが、音に関しても歌詞に関しても、自分の好きな要素を自分の好きなバランス感で好きな感性で切り貼りしているようなイメージが根本にあって、それってコラージュと近いかなと思っていたんです。それで「エスパーとスケルトン」のジャケ写をお願いしたんですが、制作のやり取りがすごく楽しくて。私がイメージを伝えて出来上がってきた物がとても良くて、想像を斜め上くらいで超えてくるんですよ。そしてそれを受けて、また湧くイメージもあったりして。
―そんな今作『つらなってODORIVA』。この由来について聞かせてもらいたいです。
ま:まず、“踊り場”というワードは絶対に入れたくて、表記は“ODORIVA”で。最後は“BA”じゃなく“VA”にしてくて。もうこれは見た目のイメージなんですけど(笑)。そして今作は恋愛を軸にした5曲で構成された作品なのですが、それに限らずなんにしても日々めまぐるしく動くことってあると思うんです。あとは逆になにも動きがなくて停滞感があることも。そういうことが辛いなとか疲れたって思っても普通に生活していたら明日はくるし、そんな中で休める場所を作りたいなって思った時に階段の“踊り場”が思い浮かんだんです。そのあとは“ODORIVA”だけにするのか他の言葉と繋げるのかなどとても悩みました。最終的に“つらなって”という言葉を選んだのは、踊り場って上に昇る階段と下に下がる階段の途中にある場所で、踊り場にいるときは休んでいる気持ちになることもあるかもしれないけど、結局良い事も悪いことも全てが独立じゃなく連なっていて一つの物事になっていて、その途中に踊り場があるだけで、しかもいつかその踊り場が階段の一段となっていて前に進めるときがくるかなって思えたんです。それは自分の過去を振り返ってみても踊り場にいるときもあれば、上り調子な時もあるし下がり調子な時もあって。あとはダブルミーニングで“辛くなったら踊ればいいじゃん”っていう意味も込めています。
―“踊り場”を休める場所って考えた理由がわかりました。階段の踊り場って一般的に休める場所というイメージがあまりないのかなという印象だったんです。
ま:たしかにそうですよね。
―休める場所と言えば家とかのほうが休めるよなぁなんて思っていて。でも連なっているというのがキーワードだったんですね。家が休める場所だと連なる・階段というイメージからは離れてしまいますもんね。
ま:日々の中での一瞬の休憩場所、階段を上っていても下っていてもその途中にある踊り場ってそのフッと気が休まる場所、そしてそれが次の一段のスタートであって、休んでいるつもりでも実はそれも必要な時間で、“ちゃんと進んでいるんだよ。”って言ってあげたくて。恋愛を軸にした作品というのは先ほどお話させてもらいましたが、恋愛って上手くいっているときもあれば上手くいかないときもあって、自暴自棄になるときもあればウキウキすることもあって、相手にのめり込んでいるときもあれば疲れてしまうときもあってみたいな恋愛のいろいろな場面に寄り添える5曲で構成していて、そういったことってループするなと思っていて、でもらせん階段みたいにグルグルとか一つの円になってのループだとちょっと違うし、それって踊り場が連なって最終的に階段になっていくというのが一番イメージに近かったですね。
―作品コンセプトとして恋愛を軸にした5曲というのは決まっていたのですか?
ま:「エスパーとスケルトン」、「薄っぺらじゃないキスをして」の2曲と、今回ドラマに書き下ろさせていただいた「7」の3曲を並べてみたときにこれは恋愛を軸にして一つにまとめようかなと思いました。
―あと2曲別のテイストというのだと構成しにくいかもしれないですね。
ま:そういう形も考えてはみたんですけど、「7」という曲を元にこういう場面も書いてみたいというイメージが出てきやすかったんです。それこそ最後に収録されている「のみ込む」は「7」とセットで書いていて。同じ主人公というわけではないんですけど、「7」で使う予定だった歌詞を流用していたり、世界観が被る部分があったり。そういったこともあって、書きたいなと思った曲がでてきやすい3曲が最初にあったというのが大きいですね。
―今お話にもでてきた「7」はドラマの主題歌ということですが、ましのみさんは一つのテーマに対して曲を書いていくというのが得意そうな印象があります。
ま:大好きですね。普段から自分が持っていない価値観を持っている方と話すのが好きで、楽曲制作に関してもそういった部分があります。今回も主題歌のお話をいただいて、原作を読んで、テーマを決めて、それに対して曲を書いていく。原作者の爪さんと私の感覚が真逆な印象を受けたんです。だからこそ何回も何回も原作を読んで、それを自分の中に取り込んでそれをかみ砕いて理解して。
―時間はかかりそうですが、そういった制作手法はましのみさんにとても合ってそうですね。大喜利みたいな。
ま:それも好き!(笑)。楽曲提供とかも今後やってみたいです。
―きっと裏方気質なところもありますよね。
ま:以前占い師の方にも言われたことあります(笑)。やっぱそういう気質あるんですかね。
―この曲の制作は楽しかったんじゃないですか?
ま:めちゃくちゃ楽しかったです!自分でテーマを探して自分で考えてという制作が今まではほとんどだったので、こうやって自分の価値観が広がる制作をやらせてもらえたのはすごく嬉しいです。この曲の制作に集中したかったので正月に実家も帰らず、家で一人でこの世界観に入り込んで、制作に没頭してというのが本当に幸せな時間でした。自分の中を掘り出して書くのとは全然感覚が違いましたね。自分の好きな音楽という媒体で自分の価値観を広めることができて、違った感覚を取り込むことができるなんて本当に幸せなことだなって今話していて改めて思いました。
―しかもこういった主題歌のお話をいただけることって自己肯定になりますよね。
ま:需要と供給の関係ですかね(笑)。こうやって自分の曲を求めてもらえる事ってアーティストとして幸せなことですよね。
-今こうやってインタビューを進めていく中でこの1年のましのみさんの変化というものをすごく感じますし、この1年がましのみさんにとってとても大きいものなんだなと改めて感じますね。
ま:この1年が私にとっては“踊り場”だったのかなって今になって思います。セカンドアルバムリリースから今作までCDリリースのスパンが結構空いてしまったので、私はなにを目的にアーティストをやっているんだろうとか悩んでしまった時期もあって。私はいろいろなことを考えすぎというくらい考えてしまう癖があって、ファーストアルバムのリリース、それを踏まえてのセカンドアルバム。それらに対していろいろな反応をいただいて。次はこーしよう、あーしようとか、こうしなきゃいけないかなとか考えることがたくさんあったので苦しい部分はあったんですけど、でも常に次があって次に向かっては進めることはできていたんですよ。そこから停滞期というかスピード感が思ったように進まなくて。しかもプライベートもあんまり上手くいっていなくて、それこそ厄年かなって思うくらいで(笑)。全部が一旦止まってしまったような感覚もあったから、だからこそ自分を高めようと思って変わりたいってなりましたし、ハングリー精神にさらに火がついたんですよ。元々ハングリー精神が原動力なんですけど、そこからさらに。トータルプロデュースをしたいという想いがあるならそれに向けて勉強しなければいけないし、自分の意見を伝えることとかコミュニケーションをとることが大事だなって思いましたし、全部が“踊り場”であってそれが次の一段になっていたんです。きっと私にとって必要な期間だったんだなって。
―その辺りも含めて最近のライブには気持ちが出ているのかなという印象もあります。
ま:嬉しいです!ライブが変わったって言ってもらえることが増えたのもそういう部分なんですかね。感覚的には音楽を始めた2年目くらいの感覚かもしれないです。
―2年目くらいってなにをやっても成長できるというか、それこそ少ない経験値でもすぐにレベルアップするんですよね。でもある程度のレベルまでいくと次のレベルにいくまでに必要な経験値が高くなっているから成長を実感しにくいというのはあると思います。
ま:めちゃくちゃわかります!あとは自分が作る物が減ってしまった感覚が少しあったんですよ。まだ事務所に所属していないときは、ライブ出演のブッキングなども自分でやって、ライブも自分で考えて、アレンジとかも自分で全部やってみたいな、自分で全てをやっている感があったんです。今久しぶりにその感覚になれつつ、事務所やレーベルの方やたくさんの方の力も借りて、しっかりアップデートができている気が最近します。だからとても楽しいのかもしれないですね。
―踊り場を出て二,三段飛ばしくらいで階段駆け上がっているような印象です。
ま:あははは(笑)。それ得意です(笑)。もしかしたら自分の中で正当化しているだけかもしれないけれど、私にとってはこの1年というのは絶対必要な期間だったなと思えますし、今そう思えているからこのタイトルに自信が持てるのかなと思います。
―5月の東京・大阪のワンマンライブが楽しみですね。
ま:最近ライブも本当に楽しいんですよね。今まではしっかりと決まったエンタメショウをやることが美学だったんですけど、ライブ感というか良い意味で割とラフにライブに挑めるようになったんです。この前久しぶりにライブサポートしてくれた方がライブ中に目が合ったときが普段話しているときの目と一緒だったって言ってくれて。そこに凝縮されているかなと思います。今の私、今作の5曲は新しいましのみとしてしっかり提示しつつ、過去の曲もアップデートして、みなさんに楽しんでもらえるワンマンライブができるのかなと思っています。
ー楽しみにしています。
ま:ライブも含めてずっと見てくれている窪田さん空いてだとついつい色々話過ぎちゃいますね(笑)。
―そう言ってもらえて嬉しいです。これからも応援していますね。
ま:ありがとうございます!これからもよろしくお願いします!