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なきごと interview
- SPECIAL -

なきごと interview

なきごとの新作「sasayaki」。1人の人物が描く1つの作品として非常に面白いなと感じた。二面性、多面性という言葉とはちょっと違った世界観。なきごとの作詞作曲を手掛ける水上えみりの頭の中は一体どうなっているのだろう。話を聞けば聞くほど深みにハマっていく感覚に陥った。これを読んでみなさんにも少しでもその感覚を味わってもらえたらと思います。

インタビュアー:ブッキングマネージャー窪田

―過去の2作では「メトロポリタン」や「ドリー」などライブでもお馴染みの曲たちが収録されていましたが、今作の収録曲では僕が知る限りでは「癖」以外の2曲は新曲ですよね?今作の為に制作した楽曲ということでしょうか?

水上えみり(Vo,Gt 以下…水):そうですね。レコーディングの直前まで、本当にギリギリでの楽曲制作でした。

―ということはかなりの難産だったということですか?

水:いつも楽曲制作は多少なりとも苦しみはあるのですが、今回は特に苦しかったです。自分が表現する音楽について悩んでしまっている部分があって。自信が持てないというか、自尊心が減ってしまったというか。

―なきごとというバンドを知っている人が増えて、水上さんの発言力が1年前とは違うからじゃないですか?

水:きっとそれはあると思います。知ってくださる方が増えたりとか、なきごとというバンドに携わってくださる方が増えたというのは本当に嬉しいことなんですが、その分、責任感みたいなものがとても増しました。一括りに音楽の事を考えると言っても、楽曲のこともそうだし、ライブのこともそうだし、ちょっと外れるかもしれないですが、ツイッターでの発言とか、色々考え込んでしまって。あとは制作の締め切りに追われるということも今まではほとんどなかったんですが、それもあって今回は産みの苦しみを味わった制作だったかなと思います。

―それも含めてアーティストとしての規模が少しずつ大きくなっている証拠なのかなと思いますし、悪いことではないですよね。

水:そうですね。それは本当にありがたいことなんですけどね。きっと成長のためには必要なことなのかなと思います。あとは制作に苦しんだからといって決して妥協してこの3曲を選んだというわけではないので、それは自信がもてるかなと思います。

―それは感じますね。妥協してできるレベルの3曲ではないと思います。作品タイトルは『sasayaki』ということで、まずは由来から伺いたいです。

水:1曲目の「セラミックナイト」という曲の歌詞からとりました。レコーディング最終日にタイトルを決めることになって、収録曲3曲ともを聞いてみて、この言葉のイメージがぴったりハマりました。実はフライヤーなどに今作を表す文章というか、4行のテキストがあるんですけど、これを縦読みすると“さ”、“さ”、“や”、“き”になっているんです。

―本当だ!気付かなかったです。

水:誰も気付いてくれないです(笑)。

―余談かもしれないのですが、シングルは四文字の言葉で英語小文字でというのはこだわっているのですか?1stシングルもそうだったので気になりました。

水:そこはこだわっています。今までもそうですが、なきごとの楽曲はストーリー性があって、今作は、リードをメインにしたタイトルというよりは3つのお話が入った短編集のタイトルみたいなイメージなんです。だからシングルはこのパターンでシリーズ化できたらという想いはありますね。

―作品全体のコンセプトはどんなものだったのでしょうか?

水:コンセプトを決めて作り始めたという作品ではないんです。前作の収録曲に「癖」を入れたかったんですけど、バランスを考えてそれは見送りになっていたので、今作にはどうしても「癖」を入れたかったので、そこは最初に決まっていました。私の楽曲って大きく分けると明るく見えても暗いフワッとした表現の曲というのと、ストレート狭く刺さる曲という二つに分けられると思っているんですが、実はそこに統一性もあって。なので1枚のCD作りに対してコンセプトを特に決めなくても、自然に一つにまとまるような感覚はあります。

-なるほど。曲順は良い意味で裏切られたなとは思いました。「nakigao」がバラード始まりだったから今回もてっきりバラード始まりかなと勝手に思っていたのもあって。

水:その流れでいえば「癖」が1曲目ですもんね。実は最初は1曲目を「癖」にするつもりだったんです。初ライブの1曲目はこの曲でしたし。でも出来上がった3曲をそれぞれの順番で全て試してみたんです。そうしたら3曲目に「癖」を持ってきた方がエモがすごくて。明るいことも苦しいことも全てをまとめてからのこの曲の威力がとてもしっくりきたんですよね。

―確かにこの流れが今作に於いては一番しっくりくる気がしますね。そんな今作の収録曲について1曲ずつ話を聞いていきたいと思います。まず「セラミックナイト」。

水:去年の夏くらいに抜歯をしたのがきっかけです。それがもう怖くて怖くて。それを元に書いていった歌詞が始まりですね。

―永久歯や乳歯という言葉がでてきていましたが、まさか抜歯がテーマとしてあったとは(笑)。

水:人生で始めてだったので、先生が悪魔に見えるくらい怖かったです。

―抜歯がきっかけで曲ができるって恐ろしい頭の中ですよ。

水:そうですかね(笑)。抜歯がテーマだったってわかってから歌詞を読むと結構それに則していますよ。“みずたまりの月”っていうのが歯医者さんが額につけている丸い金属のことを指していて、“アスファルトを削る”は歯茎とか歯のことで、“ぽっかりまるく開いた穴”はまさに虫歯を指していて。

―本当ですね。こうやって歌詞の解説を聞くと確かに抜歯だ。

水:でも“ぽっかりまるく開いた穴”というのは自分の心の穴みたいなものも指していて。聴く方の解釈次第だと思うんですが、まぁこの曲を聴いて最初にそうだと思う人は少ないでしょうね。

―まさにです。全然想像つかなかった。非常に面白いですね。ちなみに歌詞にでてくる“餅”とは?

水:これは抜歯をしたときにできる血餅のことです。

―まさかのこれも抜歯繋がりだったとは(笑)。

水:読み解いていくとしっかり意味があるんですが、それをわからせにくくしているのがこの曲の面白さかなと思いますね。

―水上さんが書く歌詞って本当に面白いですよ。予想を遙かに超えるから。

水:そう言ってもらえるのは嬉しいですね。

―そんな曲に続くのは「アノデーズ」。これもきっと何かテーマがあっての曲ですよね?

水:これは“マヨネーズ”です(笑)。

―まさかの(笑)。

水:“あの日々=デイズ”という言葉とマヨネーズを掛け合わせて「アノデーズ」という曲名にしました。

―いやー、それも想像つかなかったです。

水:私、マヨネーズが嫌いで。でも実は子供の頃はマヨネーズ大好きで、ツナマヨでご飯1合とか食べちゃうくらいだったんですよね。でもある日から急に嫌いになって。元々大好きだったのに急に嫌いになるのって人間関係でもあるじゃないですか。恋人に限らず友人関係とかでも。そういった部分を表現したのと、あとは残されて捨てられてしまうマヨネーズの惨めさと恋人に捨てられて取り残されてしまった女の子の惨めさみたいなものがリンクして、それを曲にしていきました。ラストサビの“最後は笑顔で終わらせてよ”というフレーズが最初にあって、そこからどういう曲にしていこうかなって考えたときにふとこのマヨネーズのリンクが思い浮かんだんです。

ーだから“低脂肪”とか“低脂質”という言葉がでてくるんですね。

水:マヨネーズという言葉は使わずにちょっと匂わせるような歌詞にしましたね。

―題材の見つけ方というか着眼点が独特ですね。そして「セラミックナイト」も「アノデーズ」もコミックにならないからそれが特にスゴイなと思いました。この2曲があって一転してド直球な「癖」という曲があってそれが1枚のCDという作品なのが面白いんですよね。

水:ありがとうございます。「癖」はもう完全に私の実話です(笑)。例えば“赤”という言葉一つでも人によってイメージする“赤”って違いがあると思うんです。「セラミックナイト」と「アノデーズ」はまさにそうで、人それぞれの解釈がある曲。でもこの曲は“赤”はこういう“赤”ですという具体的な“赤”みたいな。恋愛という大きなテーマで言えば普遍的な部分もありますが、この曲はもっと深くて狭くて。でも自分だけが悩んでると思うようなことも意外に近い経験をしていたりとか、似たようなことってみんなあるんだなって思った出来事があったタイミングで書いた曲なんです。だから誰にでもあてはまる歌詞ではないと思うんですが、意外に想像はつくというか共感は得られるんじゃないかとは思います。

―歌詞がとても具体的だからか画が浮かびますよね。

水:見たまんまの景色を歌詞にするというのをやってみようと思った歌詞なので、そう言ってもらえて嬉しいです。この曲は私も書いている時から映像が頭に浮かんでいて。それこそMVみたいな映像がすでに想像できていました。この曲はMVにもなるんですが、この前監督さんと打ち合わせさせてもらったんですけど、イメージがとても近かったので私の頭の中の映像が具現化できそうでそれが楽しみです。監督さんにめちゃくちゃ重たい言われてしまいました(笑)。「アノデーズ」も失恋の曲ですけど、全然違いますよね。きっと「アノデーズ」は抽象的で「癖」はもう登場人物が二人というのも含めて具体的に見えているからでしょうね。

ー1人の人間が作詞作曲をしているとは思えないです(笑)。あとはリズム作品全体を通してですがギターとリズム隊がとても活きているなとも感じました。

水:私の書く歌詞と曲があって、それをさらに強くしてくれる岡田のギターがあって、それが“なきごと”というバンドの強みかなと思っていて、この曲に関しては特にそれを強く想いますね。リズム隊に関しては想像以上の出来映えでもう本当にお二人の力がなかったら今作は出来上がっていないと思います。私も岡田も末っ子のB型で、まだまだ子供な部分も強いのでお兄様方に支えられています。きっと四人組の同世代のバンドだったら衝突しまくって全くまとまらないでしょうね(笑)。

―とても想像がつきます(笑)。

水:岡田と二人のバンドでよかったなって思います。二人でしっかりぶつかりながらも作り上げることができていると感じますね。

―そんななきごとの今後がさらに楽しみです。これからも応援させてください。

水:よろしくお願いします!