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テスラは泣かない。 1/f
- SPECIAL -

テスラは泣かない。 1/f

《1/fの揺らぎ、樹上のホワイトノイズ。羊水のなかで聞いていた、それ。》 吉牟田 直和[Bass] 

 頭痛にはいくつかの種類がある。首や肩の凝りからやってくる緊張性頭痛と、脳の神経系のちょっとしたエラーで起こるらしい偏頭痛というものである。自分の頭痛はといえば九割九分が緊張性頭痛というものである。まあ、どちらにせよ頭痛は辛い。ことさら、残りの1%、年に一度あるかないかの偏頭痛のときになどは目が回る。痛いよりも、目が回る。ちなみに偏頭痛というものは典型的には、痛みの前に予兆としてキラキラと光るものが見えるらしいが、残念ながらそのキラキラは見たことがない。
 数年前のこの季節だったと思う。夏の終わりに最後の台風が二週連続でやってきたある日、私は、こちらも年に一度やってくるマッスルブームの只中にいた。パーソナルトレーナーに足の筋肉を苛め抜かれ、「はい。八、九、ラストー!」煽られ、力みに力んだその瞬間、トゥン!と首のあたりから脳天に向かって衝撃が走った。それ以来、私は年に一度ほど偏頭痛を発症するようになった。
 さて、だいぶ話が変わるが、この年齢のバンドマンが楽屋に集まれば、やれ、髪が薄くなり始めただの、この前、ぎっくり腰をやっただの、あのバンドの誰々がついに痛風を発症しただの、そんな話ばかりになる。老人の寄合のような最中、「いや、そんな話はよそうや」と誰かが言う。「まあ、そうか。そうだな」とモソモソと語る声は小さくなっていく。しかし、なぜであろうか、私はこのようなことを話す時間が好きなのだ。
 さて、頭痛が軽くなったので外を見ると、少しばかり晴れ間がのぞいてきていた。なんとも現金な身体である。この偏頭痛も最近始めた筋トレが原因なのかもしれないなと思うが、その顛末に悲しむよりも、まあ、身体を少しずつ痛めながらも生きてきたのだなあ、とそんなことを思ったりもする。トレーニングをしなければ肥えてしまう。ぎっくり腰だって怖い。怖いのだから、運動をする。運動すると頭が痛むが、老いたのだから仕方がない。生きているのだから、全部、仕方がないのである。
 言わば、それさえも、浅ましく「生」にしがみついた結果なのだから、私は好きなのだ。老いの話をするのも、同じように痛み、抗い、しがみついたものたちの「生」を感じるから好きなのだ。愚痴々々いうおっさんたちを見て、「生きてきたんだなあ」とそんなことを思う。そして、「これからも生きていくんだろうなあ」とも思う。
 いい話じゃないか。

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《1/fって何すか。》 村上 学[Vocal/Guitar] 

 演技の下手な役者の事を“大根役者”というが、私はこれを聞くたびに首を傾げたくなる。
 理由は三つ。まずは、大根は使われ方の幅がとても広い。サラダなどでは生でも食べられるし、煮ても焼いても食卓に登場できる。すり下ろして醤油を垂らせば、この季節、秋刀魚の傍には欠かせない。主役級とはいえなくとも、バイプレーヤーとしては確実に上位にランクインするのではなかろうか。
 次に、あのビジュアルである。たくましく真っ直ぐに佇むボディに透き通った白い肌。収穫されるまで、冬の凍てつく土の中で育ったその日々のことを思えば、役者の長く辛い下積み時代を連想せずにはいられない。もちろん音楽家として芸を磨く私達も頭が上がらない。
 そして三つめは、大根のもつ吸収力である。先に述べたとおり、大根の旬は冬であり、冬といえば「おでん」、おでんといえば「大根」である。しかし、おでんの先発スタメンとはいえど、大根そのものの味を楽しむ人は少ない。あれはじっくりと芯まで浸み込んだ汁を味わっている訳だが、私は大根の他にこの吸収力を発揮する具材を知らない。おでんに限らず、「ぶり大根」でもその才覚は発揮されている。長い下積みを経ても尚、その学びの姿勢は崩すことなく、どんな環境も経験も己の血や肉として、進化する。伸びシロ半端ない。
 以上が「大根」がどんな舞台でも人々を魅了する所以である。これをもってしても、あなたはまだ、半人前の腕の無い役者を大根役者と呼べるだろうか。
 大根役者の名前の由来には諸説あって、なかには大根がどんな状態で食べてもお腹を壊すことがなく、転じて“当たらない”役者とされるという説もあるのだが、もし逆に“生牡蠣役者”や“真夏の鳥刺し役者”がキャスティングされたとして、このコンプライアンス重視の風潮のなかで、スポンサーはどちらを重宝するだろうか。答えは言わずもがな。
 今ミュージシャン達は、対面式の有客ライブとは別軸で、配信ライブなど、カメラを向けられる機会が増えつつある。スタートの合図から始まり、カットがかかるその瞬間まで、カメラの向こう側に向けて音と言葉の力を信じ、体ひとつ、全力で表現する。シナリオやセリフが無い点では、演技をする役者と立場は違えど、お茶の間に非日常を体験させる点では同じである。
 さあ、冬がやってくる。温野菜でもある大根は体を温める効能も持ち備えるという。日常にどんな耐え難き試練が待ち受けようと、大根役者たちはその鬱憤を晴らそうと、今日も舞台に立つ。

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[テスラは泣かない。]
L→R
吉牟田直和(Bass)/飯野桃子(Piano&Chorus)/村上学(Vocal&Guitar)/實吉祐一(Drums)
印象的なピアノのリフレインを武器に、圧倒的なライブパフォーマンスで各方面から脚光を浴びる、鹿児島発4人組ピアノロックバンド。インテリジェンス溢れる音楽性と、エーモショナルなライブパフォーマンスを融合させた、他の追随を許さない孤高のロックバンドである。
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