Emerald 東京回遊記
第7回「朝活回遊」
こちら東京を拠点に活動する都市型ミュージック集団EmeraldのVo.中野です。
8回目になるこのコラム。
継続は力なり。とにかく書くのが楽しくなってきた。
さて、今回の回遊はズバリ「朝活」。
リモートメインになり、1日の始まりがヌルっとしてしまっていることに気づき、何かを始めようと思い立つ。
盆栽、写経、裁縫、ランニング、毛筆、くもんいくもん。色々考えてたけど、飲み屋で隣り合わせた感じのいい青年二人と話してる時に、朝スケボーをしましょうということになった。
中学生の後半から高校生の半ば頃まで、夢中になって独学でやったスケートボードを、再度やることにした。
近所のスケートパーク付きの公園で9時から1時間だけ。
とにかく下手すぎるけど、勘を取り戻すべく果敢にトライする。その昔は縦コーンだって飛べたのだ。オーリーという名の基礎ジャンプだが、ギターでいうFコードみたいに、できるまであまりに地道なため、かっこいいという理由で始めた皆がわかりやすく挫折するトリック。
思えば片田舎の公園で夏休みの1ヶ月朝8時から18時まで来る日も来る日もカンカン言わせながら練習して、飛べるようになったら、女の子にモテるかななんて考えていた。当時仲間はいなくて、一人だった。今は飲み屋で出会った感じのいい青年シモンとマシューの二人と一緒だ。小さなトリックメイクをみんなで褒め合う。
その実スケボーはあまりに地味な営みだし、女の子にキャーと言われる現場なんて、なかなか無い。社会のはじっこでカンカン滑って静かに男を磨く硬派な遊び。で、不思議と乗ってるだけで楽しくて、煩悩が見事に吹き飛ぶ、相対評価からのドロップアウトを味わえる。板の上では自分の重心、自分軸とイメージが全て。
今の若い子達のYouTubeでの教則映像なんて見ながら、コツを学び直してる。派手にこけて、筋肉痛プラス打撲を抱えた妙齢のミュージシャンが一人、背中にスケボーを刺して、サラリーマン行き交う池尻を自転車で滑走する。
思い描いてた大人とは随分違うが、こんな奴がいてもいい世の中がいいなという祈りを込めて、カンカンとテールを鳴らして飛び跳ねてみる。一人派手に転んで痛くないフリをしてみる。
怪我したらギターも弾けなくなるような危険な遊びに、朝から緊張感を持って取り組む。ずっこけた時の痛み、足をグネる危険と向き合って、恐怖心と向き合う時間。
バイデンの勝利宣言が駆け巡った朝、気持ちよさそうにパークに現れたマシューと、ハイタッチしたのはハイライトだ。
人の目を気にして生きる日々を笑い飛ばし、かわしながらクルージングする東京暮らし、誰かと競うことができないほどに細分化した街の中を、自分の軸でどこまでやれるか。昔より低めにセットしたコーンと対峙しながら過ごす朝。その後に飲むコーヒーがうまい。
Emerald Vo. 中野陽介