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渋谷龍太 from SUPER BEAVER 愛すべきマイナー記念日達
- SPECIAL -

渋谷龍太 from SUPER BEAVER 愛すべきマイナー記念日達

11月13日
『いいひざの日』
 ゼリア新薬が制定。「いい(11)ひざ(13)」の語呂合わせ。

「誰かさ、紹介してよ」
「ん?」
「女の子」
「またそれかよ」
 向かいの席で細身の男が面倒くさそうな顔をするのを見て、愛想のいい笑顔の前で手を合わせた黒いシャツの男は言った。
「ね、お願い」
 普段は混み合うこのバーが唯一空いているのがこの時間帯であることを知っていた為、二人は月曜の深夜によくこのバーを利用した。お代わりを持ってきた女性店員が、二人の開いたグラスを下げて、ゆっくりさって行った。その後ろ姿を見て黒シャツは言った。
「今の店員の子、可愛かったな」
「随分前からいるだろ」細身はグラスに口をつけ、ゆっくりとグラスを戻した。「ちなみに、お前先週来た時もおんなじこと言ってたからな」
「うそ、まじ? あんな可愛い子絶対忘れないんだけどなア」
「だからお前に女の子紹介するの嫌なんだよ。あ、お前さ、一昨日女の子に手を振られたろ?」
「あん、麻布の飲み屋で。そんなことあったな」
「その女の子先週俺がお前に紹介してやった女の子だよ。お前、その子が手を振ったら困った顔して『どこかでお会いしましたか?』って訊いたらしいな。本当に最低だ」
「いやいや、ほら、女の子は髪型一つ、メイク一つで変わるだろ?」
「最低だ」
 そう言われて黒シャツは大袈裟に落ち込んで見せたが、女性客が二人、店に入ってくるなり目を輝かせ始めた。
「お前ってやつは」
「ん? 何?」
「なんでもないよ。で、どんな子がいいの?」
「心の友だ、お前は。大好きだ。で、どんな子がいいと思う?」
「そんなこと知らないよ」
「んー、じゃアさ、ここにきて今一度、理想の女性像を語らおうよ。お前からね」
「お前が紹介して欲しいって言ったんだろ」
「いいじゃんいいじゃん、一緒に考えてよ」
 黒シャツが嬉々として言うので、細身は仕方なく話に乗ってやることにした。
「え、なんだろ、優しい人?」
「無難だな、面白くない」
「お前はなんかあんのかよ」
「可愛い子」
「馬鹿なの、お前」
「馬鹿だからお前に訊いてるんだろ」
 ど真ん中の意見を出してやろうと、細身はしばらく考えたが、改めて言われるとなかなか難しかった。長い時間を割いてから、ようやく口を開いた。
「足を、組まない子」
「え、なんで」
「足組むって、腹筋とか脚の筋肉が少ないからだろ? 癖でやっている人も多いみたいだけど、足組むって楽な姿勢なんだよ。片寄った方ばかりで足組んでると、身体も歪んでくるしな。やっぱり女の人は健康じゃないと」
「ん、言い得て妙だ。そしたら、脚の形が綺麗な子、もそうだね」
「んん、脚が綺麗って、法則あるのかな」
「足首と、膝、じゃね?」
「あア、確かに。でも個人差が大きいのはきっと膝だろうな。膝がしゅっとしている子はおそらく運動を怠らない子だからきっと健康だろう」
「膝がしゅっとしてて、尚且つ見てくれも綺麗なら意識も高いんじゃないかな?」
「その心は?」
「いや、ほら、膝つく場面ってよくあるだろ? そうすると膝って黒ずんじゃうじゃん。だから普段から気を使わないと、膝って綺麗に保てないんじゃないかって」
「おオ、それは確かに。なんかクリームとか塗ってそうだしな」
「顔とか手とか、にクリーム塗るのは想像できるけど、膝にクリームは相当だね」
 細身は言った。「そしたら、あれか、理想の女性ってのは」
 黒シャツが言った。「膝が綺麗な子」
 二人は持っているグラスを合わせた。いつの間にかBGMが二人の知らないジャズに変わっていた。氷が溶けて、グラスで鳴った。
「違うな」細身が言った。
「違うね」黒シャツも言った。
「人は、そんな事で計れない」
「うん、こんな単純な訳ない」
「あれだな、ビビッと来る人だな」
「うん、理想の女性はビビッと来る人だね」
 二人は何度も頷き合った。