-今回リリースする「love and pain」ですが、『愛と痛み』って非常に深い言葉だなという印象です。このタイトルの由来は?
た:これは 1曲目に収録されている楽曲と同じタイトルで、『人間』という言葉を別の言葉で表現するとしたらどんな言葉がいいかなという風に考えてこのタイトルの曲を作ったんですけど、アルバム全体を通して『人間』というキーワードが軸になっているなと思う部分があるので、アルバムが出来上がって、タイトルを考えたときにこの「love and pain」という言葉が一番しっくりくるなと思ってアルバムタイトルにもしました。
-タイトルから、少しドロッとしたイメージのアルバムなのかなという想像だったのですが、全体的にポップな作りで意外でした。でも、ただの明るいポップではなく、人間の本質の深いところをえぐるような歌詞で、陰と陽を感じる部分もある印象で、不思議な感覚でした。
た:元々、私の制作手法というかコンセプト的なものの中に、歌詞の世界観と音の世界観を相反するものにするということが今までも多々ありまして、それによって中和させるような意識や感覚があるんです。陰と陽を共存させることが真実であり(→なのではないかと思っていて)、両方兼ね備えることでようやく一つになるというか。今作での『愛と痛み』というのも両方があって一人の『人間』かなと思ったので、そういった部分を感じてもらえたようで良かったです。人ってただひたすらに明るいだけの人なんて絶対いないじゃないですか。きっとどこかで闇があるはずだと思うんです。どっちも必要で、どっちかがあるからどっちかが成立するんだと思います。
-今回のアルバムは構成した音数も無駄な音がなくシンプルに成立した暖かいアコースティックサウンドに仕上がっていて非常に引き算がうまいと感じました。全体を通しての音作りのコンセプトを聞かせてほしいです。
た:今までの作品が装飾をするということが自分の中で比較的割合が高い作業で、そういった制作での楽しさや完成する作品の良さは体験してきたので、今作では付け足していくのではなく、そぎ落としていく引き算をすごく意識しましたね。あとは自分の中での音楽というものは歌詞や歌がありきのものでこそ成り立つという概念がどんどん強くなってきいて、そこを引き立たせるためにはシンプルな作りや構成にすることをすごく意識しました。
-その甲斐あってか、すごく聴きやすいアルバムですよね。
た:必要な部分だけを残すということを念頭に置いて作ったのでそう言ってもらえてうれしいです。でも今までの性というか癖もあって、今までのように混ぜ込んだり付け足したりしたくなってしまう部分もあったのですが、そこを妥協せず自分の中でしっかり消化して制作できましたね。
-足さずに引くということにたどり着いた理由はあるのですか?
た:先ほども話しましたが、自分の中での音楽というものは歌詞や歌がありきのものでこそ成り立つという概念がどんどん強くなってきたというところでしょうね。昔からCD買ったら歌詞カード見ながら音楽を聴くタイプだったのですが、それを最近改めて強く認識したんです。
-足すのと引くのは正反対の作業だと思うのですが、どうでしたか?
た:良かったなと思うのは、シンプルな構成にした分一つ一つの楽器それぞれの役割を今までより大事にできたことですね。装飾して厚みを増すことでごまかすのではなく、直球勝負的な感じですね。でも最初はシンプルで装飾がないことへの不安がすごくありましたね。隙間が空いていていいのかな、手を抜いているような印象にならないかなとか(笑)。
-このアルバムを聴いて手を抜いていると感じる人は絶対いないと思えるクオリティだと思います。
た:ありがとうございます。結果的にすごく良いアルバムになったと自分でも思います(笑)。
-アレンジの面はどんなコンセプトですか?
た:それは今作に限らず、自分の中での景色のイメージは大事にしています。楽器をそれぞれに役割というか配役がある感じですかね。
-ご自身でも画を描かれているのでたむらぱんならではの感覚かもしれないですね。「love and pain」のMVも見させていただきましたが、一見すると難しく、様々な要素で構成されていますが、実はすごくシンプルなのかなと思いました。アルバムを通して聴いた印象と類似する明るいというより不思議な気持ちになりますね。
た:東京、ベルリン、ロンドン3都市から集められた素材(写真)を元に制作された今作のアートワークは、 アーティスト写真、CDジャケット、ミュージックビデオそれぞれが共通の素材で作られていて、こだわった部分ですね。
-頭の上の巨大な被り物は、合成ではなく実写なんですよね?
た:集められた大量の素材を1枚1枚プリントアウトし切り取り、頭に貼る作業をしてもらいました。
-その苦労を経てのこの被り物がすごく印象的ですよね。
た:今の世の中ってすごく情報過多な世界じゃないですか。考えすぎてるというか。そのイメージは出したかったんですよね。
-切り刻まれる身体とか心臓とか骨とか猫からかわいい生き物からゲテものまで漠然と人の全てをさらけ出している感じがしました。
た:アルバムを聴いたテンションのまま見ることができる作品にしたかったので、まさにその『人間』という部分を表現できたかなと思います。
-少し具体的に収録曲のお話も聞かせてもらおうかなと思うのですが、6曲目の「ココ」がすごく印象に残っています。
た:大きなテーマが「居場所」で、それに対する私なりの概念で制作した曲ですね。人間って帰る場所をしっかり決めて生きていく生き物なので、そこの重要度を見つめなせたかなと思います。「ココ」って安心感があるようで実は孤独感を含んでいる危うい場所なんですが、やっぱ最終的には戻ってきていい場所なんだって自分自身で肯定したかったのかもしれません。
-10曲目の「やってくる」はどんどん音が増えてくる感じでワクワク出来きました。リズム、笛、バンジョ、シンバルなどなど。。 最後は壮大な感じに変化して後半は民族的で面白かったです。
た:この曲は私の中では「終わりか始まり」の曲で、神話のイメージで作ったんです。人や大地の鼓動から始まって、そこにいろいろな想いや願望などがどんどん積み重なって増えていって、それが最後に崩壊するの達成するのかという景色ですね。自分の中で終わりか始まりかというのを決めていないので、そこは聴く人の受け取り方かなと思います。
-聴く人の受け取り方次第ということで、MVも含めて今作は多種多様な感想が生まれそうだなと思いました。
た:そうですね。開放感を感じる人もいれば閉塞感を感じる人もいるかもしれないですね。でもそれが『人間』だと思いますし、それこそ聴き方や聴く場面でも変わるかもしれないですね。
-たむらぱん本人が薦める今作の聴き方はありますか?
た:日常生活の移動中とかにイヤホンやヘッドホンで聴いてみてほしいですかね。スピーカーではなく、耳の近くで聴いてほしいです。なんかそっちのほうが脳に届いて感覚を刺激しそうだなって。
-今作は人生や人などのキーワードがあり、歌詞の世界観が非常に深い場所にある様な印象なのですが、心境の変化があったりしたのでしょうか?
た:そこまで大きな変化があったというわけでも、今までと違う世界観で書こうと意識したわけではないですし、これからずっとこういうスタイルでいくというわけでもないです。今回は私のこういう陰の部分が多めにでているというだけですかね。
-この作品を聴いて、「Fit’s」を歌っているアーティストと同一人物には思えないかもしれないですね(笑)。
た:そうですね(笑)。あの(CMの)曲を聴いた方でたむらぱんを男だと思っていた方もいたらしいですよ(笑)。でも冒頭でもお話しましたが、陰と陽両方ありますし、今作で私を知った方には過去の陽な部分が強いポップな作品も聴いてみて楽しんでほしいです。
-音楽活動を始めて約10年、デビューしてから約5年ほど経ちますが変わったこと、変わらないことありますか?
た:変わったことは(→トルツメ)音楽の物理的な作り方は変わりましたね。様々なミュージシャンやエンジニアさんなどと作り上げてきた経験があるので、そこは進化しているとは思います。逆に変わらない部分は、人へのイメージの伝え方ですかね(笑)。こればかりは全然変わっていないです(笑)。
-今作をひっさげての久々のワンマンツアーが決まっていますが、ホールではないこういったライブハウス感のある場所でのワンマンも久々な印象があります。
た:椅子に座った状態で聴く音楽ってすごく安心して聴けるとは思うのですが、今回は雰囲気も含めてライブハウス感のある会場で楽しんでほしいなという想いはありますね。最後に向かって立ち向かっていくイメージというか。
-ツアーへの意気込みを教えてください。
た:混沌としたライブになるような予感がしているのですが、私自身は思いのままに表現するので、来てくださる方も思いのままに感じ取ってほしいです。しっかり準備をして魅せたいなと思っています。
-最後になりますが、来年3月で33周年を迎えるエッグマンになにか一言いただけますか?
た:すごいですね!もうそんなになるんですね。本当にお世話になったライブハウスで、初めてワンマンライブをやった会場なので、すごく思い出深いです。たむらぱんがライブをするということの原点の場所です。ずっと見守ってもらえている印象なので、これからもぜひよろしくお願いします!
-これからも応援させてください!!
た:ありがとうございます!今日はありがとうございました。