――ニュー・アルバムの『JUNGLE 9』についてお聞きします。タイトルにある”9″は9枚目だからでしょうけど、「レボリューション9」(ザ・ビートルズ)とか、「クラウド・ナイン」(ジョージ・ハリスン)とかを連想しました。そういう発想もあったんですか?
ヒロト:いや、なんとなく……やっぱり、ナインかイレブンじゃないですか。イレブンなら『赤き血のイレブン』(1970年代のサッカー漫画)だし、ナインなら野球チームだし。
――でも、それとは関係ないですよね?
ヒロト:いや、何とも関係ないです(笑)。
――(笑)。本作を聴くと、クロマニヨンズはやっぱりブレてないなという印象がまずあって、その上でグルーブ感、疾走感、シャープさなどが増した感じがしました。アルバムも9枚目ぐらいになると、ついブレたくなってしまうようなことって、普通あるじゃないですか。ゲストを入れようとか、カバー曲をやってみようとか。そういうところがないのはクロマニヨンズの自信の表れだと、このアルバムを聴きながら思ったんですけど、どうでしょうか?
ヒロト:ええぇ、よくわかんないな。何にも考えてないっすよ。
――ただいつもどおりにっていう……?
ヒロト:うん、そう。ツアーが終わって、1週間休んで、スタジオに集まって、演奏したものを録音した、それだけですよ。何も考えてないですよ。
――ツアーからあまり間が空いていないから、その勢いで行けるということもあるんですか?
ヒロト:うーん、ほかにやることがないんです。
――(笑)。マーシーさんもそんな感じですか?
マーシー:うん、やってて楽しいから。
――僕はブルース系のアーティストに取材することも多いんですけど、ブレていない人に同じように「自信ですか?」と訊くと、「これしかできないんだよね」って言うんですよ。でも、「これしかできない」じゃなくて、「これしかやらない」って決めてるんじゃないかなっていう気がして……。
ヒロト:僕ら、向上心とかそういうのはないんですよね。すごいことやってやろう、みたいなのはないんですよ。できることで楽しめればいいやと(笑)。何かを成し遂げようとか、すごいものを作り上げて偉業を残そうとか、ないですね。
――レコーディングが楽しいから、ツアーが終わったからそろそろ次はレコーディングで楽しもう、みたいな?
ヒロト:そうそう。
マーシー:ほかにやることないからね。
――小林(勝/b)さんと桐田(勝治/dr)さんもますますすごいというか、相変わらずすごいですね。小林さんのグルーブ感もそうだし、桐田さんのハイハットをオープンにしての疾走感のあるビート、僕はあれがものすごく好きなんですけど、おふたりから見てどうですか? ますますリズム・セクションが研ぎ澄まされてきて、バンドとしてよりすごいことになっていると演奏していて感じますか?
マーシー:やってるほうはね、あんまりわかんない。もちろん、彼らはすげえプレイヤーだし、バンドってツアーやるごとにどんどんまとまっていくというか、お互いに遠慮がなくなっていくというか、そういうのがあるけど、それはやってるほうとしてはよくわかんない。むしろ、聴いてる人のほうがわかるんじゃないかな。
――そうかもしれないですね。
ヒロト:最初からすごかったよ、あのふたり。
――それはそうなんですけどね(笑)。
ヒロト:うん、ビックリした。
――ツアー中って、一緒に飲みに行ったりはするんですか?
マーシー:4人で必ず晩飯は一緒に食べます。
ヒロト:移動日も演奏日も。軽く飲みながら、バカな話をしながら。
――そういう時って、音楽の話が多いんですか?
ヒロト:あんまり音楽の話はしないかな。レコードの話はする。自分たちのやる音楽のことじゃなくてね。あそこのレコード屋にはあれあったぜ、とか。それ探してたんだよ、みたいな。
――あのおふたりもヒロトさんとマーシーさんと同じようなものを聴いているんですか? 例えば戦前のブルースとか。
ヒロト:戦前のブルースはわからないけど、いろんなものを聴いてますよ。
――レコーディングは今回も相変わらず、演奏する楽しさをそのまま録っている感じですか?
マーシー:うん。
ヒロト:チャレンジはしてないね(笑)。
――今回もエンジニアは川口(聡)さんですよね。マーシーさんのギターの音が太くなっている気がしました。エッジはあるんだけど太いというか。ギターはいつものレスポール・ジュニアですか?
マーシー:うん、アンプも同じですね。
――レスポール・ジュニアだけですか? ストラトっぽい音がしているところもあるような気がしたんですが。
マーシー:ストラトは使ったかなあ……テレキャターを使ってるかな。
――カッティングとかでシャープなサウンドなのがそうですか?
マーシー:うん、そうですね。
――全体に音が太くなっている気がしたのは、川口さんマジックですかね?
マーシー:川口ちゃんが秘密で何かやってるかもしれない(笑)。
ヒロト:基本、低音好きなんだよね、あの人。
――ミックスのバランスが、この人めちゃくちゃロックを知ってるよな、っていう気がするんですよ。低域がしっかりとしながら全体のバランスも良くて、音が生々しくて、その中にヒロトさんのボーカルが突き抜けてくる感じがして。
ヒロト:今回は、スタンド・マイクで歌いました。いつもはライブと同じでマイクを握って歌うんですけど、今回はスタンド・マイクで、握らないで歌った。珍しく。
――それはなんでだったんですか?
ヒロト:なんとなくです。
――そっちのほうが上手くいったなという感じはありますか?
ヒロト:上手くいったと思ってる、自分では。専門的な話になっちゃうけど、単一指向性のマイクって、握ると無指向になっちゃうんですよ。放すことによって、方向性を絞ることができる。
――その代わり、少しずれるとダメですよね。
ヒロト:そうそう。そこを今回やったかな。マイク自体は同じです。ライブでも使ってるSM58、シュアの。僕としてはマイク乗りが良かったと信じてるんですけど(笑)。
――そうだと思います。バンド・サウンドの中から突き抜けてくる感じは、そのおかげじゃないかでしょうか。
ヒロト:そうか、よかった(笑)。
――前は帽子を被って歌ったということもありましたけど、今回は被らなかったんですか?(笑)
ヒロト:今回は被ってないですね。毎回いろいろ試すんですよ。帽子を被ることで頭をブンブン振らないから、ちゃんとマイクの前に口が行くようになるとか(笑)。そういうのいろいろ考えて、今回は握らなかったですね。
――帽子なし、マイクを握らないというのが今回の秘訣ですね。
ヒロト:そうです。ま、普通ですよね(笑)。
――普通レコーディングではマイク握らないですからね(笑)。でも、秘密はいろいろあるわけですね。
ヒロト:そうですよ。それぐらいですけど、僕は。
――マーシーさんは秘密は……ないですよね、先ほどお聞きした感じだと。
マーシー:そうですね、秘密はないですね。
――さっき言った音が太いというのはレコーディングによるものかもしれませんが、エッジが立ったというのはピッキングによるものかなという気もしました。
マーシー:なるほど。
ヒロト:俺なりの見解聞いてくれる? ギターをダブルにしてねえからじゃねえ?
マーシー:ああ……。
ヒロト:ギターを重ねてないんですよ。だからよけいエッジが立っているように聴こえるのではないか!? と、私の読み。
――それは、同じフレーズをダブルで入れてないっていうことですね?
ヒロト:そう、今回はそれをやってない。
――前回はそれをやってたんですね。
ヒロト:やった曲もあるよね。曲によって。
マーシー:うーん、そうだね……。
――覚えてないって感じですね(笑)。
マーシー:うん、覚えてないの、なんにも(笑)。
ヒロト:前回は(録音が)ステレオだったんですよ。ステレオにしたのは、マーシーのギターをダブルにするって川口ちゃんが言って、左右に少しだけ振ったからです。今回はダブルにしないっていうことで、じゃあmonoに戻すかって。
――前回ステレオだったのはそういう理由だったんですね。
ヒロト:らしいよ(笑)。というのが私の見解です。
マーシー:なるほど。
――(笑)。ちなみに今回、レコーディング中に食べたものは何だったんですか?
ヒロト:食べない。午後5時とか6時には作業終わってたから、晩飯食う前に帰ってたんですよ。3時から5時までの2時間がだいたい作業です。で、頑張って6時。
――それで何日間かけたんですか?
ヒロト:延べで計算していただいたんですけど、72時間。
――すごいですね、60年代のバンドのデビュー・アルバムみたいですね。ツェッペリンの1枚目とか(笑)。
ヒロト:1回だけトラック・ダウン中に、みんなで餃子食べたよ。それは楽しかった。
――だったら、無理やり延長して毎回そうすればよかったですね(笑)。
ヒロト:そういうことやった時期もあったんですよ。作業はもう終わってんのに、わざとダラダラやって、もうちょっとやったらメシ食える、みたいな。でも今回はタイトに(笑)。
ヒロト:スタジオの近所にあんまり魅力的なご飯屋がなかったっていうのも、とっとと帰ってた一因じゃないですかね。美味しい店があったとしたら、もっとダラダラやったと思いますよ。
ヒロト:(笑)あと、行きたいところがだいたい混んでるんだよね。
――ということはスタジオはこれまでと違ったんですか?
マーシー:いや、自分たちのスタジオで。前に新宿のスタジオでやったときは、周りに美味しい店がいっぱいあったんだけど。
ヒロト:あと、自分たちのスタジオでやるときは最初から楽器も並んでるし、どこでどうやればどういう音が出るかわかってるから、早いんですよ、何やるんでも。だから、すぐ終わっちゃうんです。
――普通はセッティングや音決めで時間がかかりますもんね。
ヒロト:なんにもしない。ただそこにアナログのテープ・レコーダーを持ち込んで録音するんです。
――曲はたぶん、いつもどおりポワンと(笑)湧いてきたものだと思いますけど、曲についてもお聞きします。おふたりは、内容を深読みされるのは嫌だと思いますが……。
ヒロト:いやいや、全然嫌じゃないよ。
――あ、勝手にしてくれって感じなんですよね?
ヒロト:そうそうそう。聞かれても答えられないんですよ。好きとか嫌いじゃなくて。質問されたことに答えを用意してないんですよ。
――そうですよね。と言いつつ訊いていいですか?(笑)
ヒロト:訊く分にはいいですけど、「わかりません」って言うだけだから(笑)。
――僕のクロマニヨンズを聴く楽しみのひとつというのが、ボーッと聴いてるといろんな意味合いみたいなものが浮かんでくることなんです。それがすごく楽しいんですよ。例えば、「やる人」だと地球の危機みたいなことを歌ってるんじゃないかとか、「生きてる人間」だと人間賛歌かなとか。「エルビス(仮)」を聴くと安保法制とか憲法問題について歌ってると取れやしないかとか、そんなことが浮かんできて楽しいんです。今挙げたのはたまたまマーシーさんの曲ばかりですが、そういうことはまったくなく書いている感じでしょうか?
マーシー:うーん、あんまりなんも考えてないですよ。
――でもそうやって、聴く人にいろんなことを考えさせる起爆剤を投入してるみたいな、そういう楽しみっていうのはあります?
マーシー:いや、そんなのはないですね。
――とにかく湧いてきたものを書くだけっていう?
マーシー:うん。
――なるほど。ヒロトさんの「今夜ロックンロールに殺されたい」は、ロックンロール宣言みたいな感じがして、今のこの時期と言いますか、アイドルとかボーカロイドとかが全盛の今、これを歌ってくれたのがめちゃくちゃ嬉しいと思ったんですけど……ヒロトさんとしては特に、今の時期だからこれを歌いたかったとか、そういうことはないんでしょうか?
ヒロト:言いたいことは言います。でも、歌とは関係ない。言いたいことを歌にしてるかどうかもわかんないし。歌作るとき、何も考えないですよ、本当に。
――いつもそうおっしゃってますもんね。でも、自然に湧いてくるのに、なぜか時代にマッチしている感じがして、それがすごいなと思うんですよ。
ヒロト:聴く人が、時代とマッチしてるんじゃないですか(笑)。
――僕が時代とマッチしてるんだ(笑)。
ヒロト:そう、そういう聴き方してるんじゃないですか?(笑)
――なるほど。こんなこと言いながら、いちばん衝撃的だったのが「原チャリダルマ」なんですけど(笑)。このシュールさというか……比喩かもしれないけど、ヒロトさんには本当に”原チャリダルマ”が見えてるのかもしれないなとか、いろいろ思うんです。この着想はいったい……?
ヒロト:いやいや、わかんないすよ。なんのことだか。ただ、”タバコ吸いてぇ”っていうフレーズは、最初からあったんですよ。曲ってなんとなく、モヤモヤモヤ、モコモコモコってできるもんなんです。でもその最初の段階で、”タバコ吸いてぇ”っていうのだけはセリフで入れようと思って。曲出しのときに、必ずその場で演奏してメンバーに聴かせるんだよね。で、「原チャリダルマ」やって、”タバコ吸いてぇ”って言ったら割と受けたんですよ。受けた! と思って(笑)。その喜びはありましたね。手応えがあった。
――マーシーさんはそれ聴いてどう思ったんですか?
マーシー:いや、ま、何言ってんだろうなって。
――(笑)。
ヒロト:たまたま、そのみんなに聴かせたときのテイクが良かったんですよ、もう二度とできないぐらいの。あれ(録音してなくて)もったいないことしたな(笑)。
――録音しとけば、いつかボックスセット『クロマニヨンズ・アンソロジー』が出るときに、収録できたかもしれないですね(笑)。あと、「夜行性ヒトリ」の”命が今 燃えていくよ”という歌詞にもえらく感動したんです。今、この瞬間を生きる大事さがすごく感じられて。
ヒロト:聴き手によりますよ。聴き手がそうやっていろんなこと考えてくれる人だとそうやって広げてくれるし、それは委ねます。僕ら本当に、マーシーも何も考えてないって言うし、俺も考えてないって言うし、たぶん本当だと思う。
――マーシーさんは今、ましまろというバンドもやってらっしゃいますよね。クロマニヨンズとは世界観が違っててすごくいいなと思って。
マーシー:ああ、そうですか。
――それがまたクロマニヨンズに戻ってくるというか、クロマニヨンズの今後の活動に影響するようなことってありそうでしょうか?
マーシー:いやあ、どうなんでしょうね? わかんないですね。
――あれはあれで楽しいからやってる感じ?
マーシー:うん。なんとなく、成り行きで。
――あれもマーシーさんの中にあった世界ではあるんですよね。
マーシー:うーん、そうなんですかね?
――出てきたっていうことはたぶんそうなんでしょうね(笑)。
マーシー:そうなんでしょうね。なかったら出てきようがないですからね。
――ヒロトさんは、ましまろはお聴きになりました?
ヒロト:うん。
――感想はいかがでしたか?
ヒロト:いや、マーシーだなあと。違和感なく。
――これもまたマーシーさんの別の面だと?
ヒロト:別とも思わないですね。なんの違和感もないですね。
――なるほど。また時代の話になっちゃうんですけど、僕は今ってロックンロールが生きづらい時代のような気がしてるんですよ。そんな中で、クロマニヨンズが、もしくはクロマニヨンズみたいなバンドがすごく必要だと思っているんです。だから、こういうアルバムを相変わらずブレなく作ってくれることがすごく嬉しいんです。おふたりとしては、俺たちがいないと日本のロックンロールが持っていかないよ、みたいなそういう自覚は……ないですよね?(笑)
ヒロト:なんも考えてないですよ、ほんとに。全体見回して、今こうだから俺たちこういうふうにしようとか、そういうのないですね。ま、傲慢と言えば傲慢ですよね。
――全体がこうだから、あえて変わらないでいてやる、みたいな気もないってことなんですよね?
ヒロト:空気読んでないですからね。
マーシー:面白いからやってる、楽しいからやってる。それを聴いてくれて、喜んでくれる人がいるっていうのは、嬉しいですね。
――本当にそうですよね。自分の中から自然に出てきたもので、人が感動して、いろんなことを考えたり感じたりしてくれるっていうのは。
ヒロト:すげえことやってるとは全然思えないし、すげえことやってやろうとも思ってないし、本当にただなんとなく楽しいんですよ。だから、こういうふうにいろいろ言っていただけると恐縮しますね(笑)。
――でも、ファンはちゃんとおふたりのスタンスがわかっているというか……僕もインタビューだからこうしてあれこれ言ったり聞いたりしてますけど、普段はあれこれ考えずに聴いて、あれこれ考えずに感動している感じなんですよ。それって、ファンも同じだと思うんですよね。そういう意味で、ファンとバンドの関係性がしっかりとできているように思います。
ヒロト:だから早くツアーやりたいです。
――11月から来年4月まで、長いですね。
ヒロト:いやいや、まだまだ(笑)。
――それが終わると、1~2週間するとまたスタジオ入って……。
ヒロト:そうそう。
――そういうライフ・サイクルみたいなものができている感じですね。
ヒロト:うん、そうですね。
――最後にお聞きしますが、おふたりにとって、今回のアルバムはどんなものになりましたか?
ヒロト:最高傑作です!
――マーシーさんは?
マーシー:最高です!