過去やりたかった事、全てを出せた作品
– 新譜『URBANO』、前作とまた違ったサウンドコンセプトが明確にあるような気がしましたが、このアルバム、形にするまでにはどの位かかりましたか?
■小林太郎 ( 以下 ” T ” ): 今回1ヶ月くらいで作ったんですよ。 曲のアレンジは今年の3月くらいに曲は上げていました。 前作リリースが2月だったんで、そのすぐ後ですね。 その段階で今作の大枠はもう出来ていたんで、すぐにレコーディングに入れる状況でした。 今回は作曲よりもレコーディングからミックス、マスタリングまでの工程にじっくり時間を使って集中して進めていきました。
アルバム収録の曲調的には『IGNITE』(2nd.EP)にあった様なロックなものだったり、「鴉」(1st. Major EP『MILESTONE』収録曲)のテイストなんかを感じるバラードだったり、これまでの作品のカラー全部が並んだ感じでバランスがすごくいいな、と思いました。
T: 今回収録した曲、最近書いた曲ばかりではなくて、今までの活動の中で作っていた曲でコンセプト的に当時アルバムに入れずにいたり、曲順の流れを汲んで最終的に収録から外した曲だったりを詰め込んだアルバムなんですよ。 過去のデモ曲の中でもいつかやりたい、ってずっと思っていた曲をようやく形にできた、っていう。
確かに前作『DOWNBEAT』は特にダンスビート志向で意図的にまとめてましたしね。 曲の質が高くてもテーマから逸れる理由でCDに収まらない曲、逆に一際尖ってそうですね。
T: 「時雨(M9)」とか、「伽藍堂(M3)」なんかは3〜4年前くらいですかね。 ずいぶん前に作った曲でずっとやりたかった曲です。 「NIBBLE」(M1)も2年前くらいかな。 それぞれ違う時期に作った曲を今の自分の感覚でアレンジしてまとめ上げたのが今回のアルバムです。
サウンド面ではフルで突っ込んだ歪み重視と言うよりクランチトーン(※1)のギターリフが今回多いですね。 サウンドディレクション的に何かコンセプトはあったんですか?
T: 前回の『DOWNBEAT』から、レコーディングのエンジニアさんが変わったんですけど、今のエンジニアの方が結構音をすっきりした感じで録る方で、今回はそこにフォーカスしました。 前作では音色以外にコンセプトがあって四つ打ちビートとかエレクトロサウンドをやったんでまた違うアプローチですけど、今のエンジニアさんになってからの音のすっきり感が、今作みたいにこれまでの自分の曲を自分の原点の感覚に立ち戻って表現したいって思った時に、曲を自分の理想のイメージに近づけてくれたんですよね。
– 引き算の方法論、大人になったんですね(笑)
T: そうかもしれないですね(笑)。 自分が音楽にハマって最初に作曲するようになったきっかけをくれたのがBUMP OF CHICKENだったんですけど、そういうバンドもやっぱりクランチトーンでコードを弾いてるフレーズが多かったり、元々の自分の好きな音楽に回帰するとこのすっきり感、大事なんですよね。
確かに、今は一般的にも録音環境はどんどん整備されてきてますけど、もう録音データの波形パンパンみたいなデジタルな高音質サウンドはある程度やり尽くされて、作り手の方が次の段階を見据えてる流れがあると思うんですよね。 すっきりした音とか、あたたかみのある音とかって今すごく求められてるというか。 アナログレコードが空前の再ブームだったり、何かすごい勢いでアナログの良さが見直されてる気がします。
T: そういう意味で言えば、前作の『DOWNBEAT』で自分の音楽の範囲内でああいうエレクトロなものに挑戦できた経験値と、それを経てもう一度自分の原点のロックに回帰できた経験値、両方がうまく今作で消化できたんじゃないかな。
今回のレコーディングではライブで最近使用してるフライングV(※2)を?
T: あれとはまた別のものですね。 クランチトーンでジャキジャキ鳴ってる特徴的な音の部分は、テレキャスター(※3)で録音してます。 あとは335(※4)。 アンプはMesa BoogieとMarshall 800。 335なんかはけっこう柔らかいタッチの音なんですけど、それを敢えてハイゲインアンプ(※5)に突っ込むっていうのがおもしろくて、今回そういう押しと引きの掛け算みたいな事をやりながらレコーディングしてました。
太郎さん、テレキャスターのイメージなかったなぁ(笑)。
■T: テレキャス全然似合わないんですよ、俺(笑)。 だからライブだとやっぱりフライングVなんですよね。 今ライブでメインで使ってるフライングV、音もすごくいいので、この先レコーディングでも使おうと思ってます。
歌詞では真相を聞いてみたかったのが「SCARS」なんですけど、「引退しますっつってまだまだいるじゃない後塵に塗れて…」というのは、誰へ向けての…(笑)?
■T: あぁ、あれですか(笑)! 全然再結成バンドへとかそういうんじゃないですよ。 とあるアニメ作家さんの話題がその時たまたまあったんで(笑)。 そんなに深い意味はないです。
アルバムタイトル『URBANO』。 これにはどんな意味合いが?
T: ウルバーノ、英語だと “Urban” ですよね。 イタリア語で “都会的な” という意味の言葉で、さっき話していた大人になったって事にも通じるんですけど、今の自分の置かれた状況から出てくる音楽を形容したものです。 これまでの自分の音楽の土台っていうのは地元静岡県の浜松で音楽を聴いたり、ライブハウスに出たりしながら培われたもので、これまでの作品もそういう経験を糧に作っていったものだったんですけど、19歳そこそこで東京に出てくるとやっぱり音楽以外でも生活の環境が浜松とは色々違ってカルチャーショックを受けるんですよね。 地元では通学の時くらいしか電車に乗らなかったのが東京来たら常に電車移動だったり、東京では有名なアーティストがいつでもどこかでライブしてたり。 しばらく経った今、軸はもちろん地元にいた時の感覚であること前提ですけど、都会で生活して養った感覚っていうのもまた別である訳で、今作はそういう昔からの自分の音楽的な感性と今の感性、両方の要素を以って作れた作品になったので、今までの自分になかった都会で養った感性の部分を切り取ってこのタイトルに決めました。
なるほど。 ちなみにライブは東京にいる今も定期的に地元浜松でも行ってますね。
T: そうですね、本当光栄ですよ。 東京でも音楽やって、地元でもライブ出来て。 地元でのライブの時はいつもマネージャーの車に乗っけてもらって行かせてもらってます。 昔は地元の友達とか、顔見知りの人達がお客さんの大半でしたけど、今は昔以上に色んな人たちがライブに来てくれてて。 毎回やれるのが楽しみなんですよ。
地元で若いバンドマンに「曲カバーしてます!」みたいな事言われませんか? SNS等で「次の文化祭でやるコピーバンド、小林太郎」みたいなポストをちょくちょく見るんですが。
T: どうなんだろう(笑)、ファンだって言ってくれる人はいてくれて感謝してますけどね。 もし若いバンドマンにも何かしら響いていたら更に嬉しいですね。
この先はどういう作品を作ろうとしてますか?
T: 今回のアルバムが本当にいつかやりたい!と思っていてなかなかできていなかった曲を詰め込めたアルバムなんで、このアルバムまで出してようやく、今までの自分の音楽を100%やりきった感じなんですよ。 『IGNITE』ではハードロックをおもいっきり出来たし、『DOWNBEAT』ではエレクトロ要素取り込んで自分がやりたかったチャレンジも出来た。 それでも細かくやり切れてなくてこぼれていた要素っていうのを全部、今回で出来たんで、ようやく過去の自分の音楽への清算が全て終わって、これから新たにまたやれそうな気がしてます。 今までは一つ前の作品の方向性に対しての “じゃあ、今回はこうしよう” というコンセプトの決め方をしてたんで、そうじゃなく次はもっと必然的にその時に出るものを作りたいと思ってます。
1 クランチトーン: ギターの音色。歪んだ音とクリーンな音の中間の音。
2 フライングV: 小林太郎がデビュー当時からライブ時にメイン使用しているギター。
3 テレキャスター: フライングVとは別の特徴のギターの機種。
4 335: Gibson製のセミアコースティックギター。
5 ハイゲインアンプ: ラウドなロック等によく使用される高出力のアンプ。