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reading note interview
- SPECIAL -

reading note interview

人間臭い部分に向き合う

声に出してしまったらいけない、と普通なら口を塞いでしまう様な欲や悔いや嘆きを、己に隠して内部から侵食されるくらいなら、と衝動のようにその想いを作品にして昇華させる。 いつも浮世を核心突くボーカリスト平田勝久の歌詞の世界がシラフのリスナーをハッとさせるreading note、約2年半振りとなる最新アルバム『人間味』ではこれまで以上に更に深く深く、自己に向き合った歌詞と、それに反してシンセサウンドを肯定的にバンドサウンドに取り入れ新しい広がりを見せる楽曲の対比が印象的だ。 事実として、経験を経てバンドが得てきたセンスを率直に楽曲に落とし込んだ音楽的な発展を持っても尚、平田の思考はブレずに常に自分がなんたるかにこだわる。 「バンドがなかったら今頃どうなっていたか」と_自身が話す様に、彼にとっては自問自答を吐き出す場所が音楽表現で、個としてサバイブするのに必要不可欠な糧となっているこのバンドは、生命線そのものなのだろう。

Interview & Text : 鞘師 至

まだ綺麗事が多いな、と思った

これまでの作品でも、アンチテーゼバリバリで流行の恩恵に乗っかる事を俯瞰(ふかん)で鮮やかにかわすタチの平田の歌詞は、どこか “自分に嘘をつかない事” 的な美学を感じるもので、手軽にハッピーを語る能天気な手法は取らず、ネガティブでも自分の本質を語る事を一度も止めていない。 が、今回長らく苦労したという作詞作曲に悩まされた時期を経て、スラスラ筆が動くようになった時にその原動力となったのは、自分のこれまでの歌詞に対しての更なる厳しい追及だったそうだ。 

■平田: これまでの作品を振り返った時に「綺麗事が多いな」と思ったんですよ。 自分の想いに忠実に、っていう自覚は確かにあったんですけど、それでも歌詞で綺麗な言葉を繋げようとする癖があるな、って。 多分それって手に取る人からすれば、綺麗で触りやすくて聴きやすいものだと思うんですけど、今回はもっと臭(にお)いのあるものを作りたかったんです。 そう思って今まで書いてこなかったような自分の部分を書いてみたいと思って書き出したら、どんどん歌詞が書けるよになっていきました。 とにかくもっと自分の人間臭さのある部分を書かなきゃ、自分がやってる意味がないと思ったんですよね。 

決して綺麗じゃないリアリティー、これは冒頭「ケダモノ」(M1)からがっつり始まっていて、ここではセックスシーンの場面描写に、何かもっと別の裏テーマを潜めているような歌詞が書かれている。

■平田: 性欲って自分が世の中に求めてるものと共通するなって思って書いた歌詞です。 “ただ抱き合って虚しくてもあなたが求めてくれればそれでいい” っていうのも例えばバンドとお客さんの関係と一緒だよな、って。 時期が来て聴きたくなったら聴くし、飽きたら聴かなくなる。 でも瞬間的でも、求めてくれたらそれで嬉しいんですよね。 

2曲目には表題曲となる「人間味」、個性にこだわる平田の自問自答が超リアル。 次に流れる3曲目「性癖」と共にポップな楽曲に載る人間臭い歌詞のギャップが今作ならではのエグさに繋がっている。

既成概念にとらわれない

■平田: 曲への歌詞の載せ方には、今回またひとつ思うところがあって、できるだけ既成概念を捨てるようにして進めていきました。 「性癖」とかは特に、楽曲がこれだけポップなだけに、そのままのイメージの明るい歌詞を載せても全然しっくりこなかったんですよね。 何の臭いもない、というか。 それで思いっきりクセのある歌詞を載っけたら納得いく感じに仕上がってくれたんですよ。 そういう自分ならではの感覚に引っかかるものを作っていかない限り、僕がやらなくてもいいですからね、誰かがやってそうな “っぽい” 事をやっても意味ないというか。

アルバムはその後、これぞreading noteという楽曲と歌詞に瑞々しい雨音のようなシンセが絡む「五月の雨」(M4)を挟んで、最後の2曲でどっぷりビビットな歌詞が広がる。 「“夢を捕まえたい” って思ってる事を、面白いかたちで書けないかな、と思って書いた」という「夢想病」(M5)は、サスペンスの小説を読んでいるかのような猟奇的な物語仕立て。 夢を擬人化して、それを追い詰めて銃口を向ける、という大層サディスティックな曲だ。

■平田: エンタテインメントっていう意味ではこういうフィクションの物語に仕立てて書くっていうのは今回初めてだったんで、自分でも楽しんでやれてよかったです。 しかも真貴(中井真貴/Ba)の入れてきたシンセの音がイっちゃってる感じっていうか(笑)、猟奇的な感じでかなり歌詞の感じにハマってるんですよね。 

最後の「食べ頃」(M6)に関しては、曲名を決める際にストレート過ぎるタイトルにメンバーとのディスカッションがあったそうだが、今回平田がこだわる “人間臭さのある表現” にはこの感じが必要、という狙いからこの名前で決まったという。 今作の歌詞には、曲を聴き進めていくにつれてどんどん深海へ潜っていくような、想いの奥行きを感じる。 5月中旬、徹夜のレコーディング作業を終えてそのままメンバーの足で自分の元に届けられた、本当に出来たばかりのこの音源を直ぐにPCに取り込み、スペースキーを叩いた時には確かにただ“音楽を聴く” つもりだった。 だが全曲を聴き終わった後に残ったのは “人の生き様を聞いた “ ような心にくる感じ。 “音楽” なんていう軽いものではない、重みのある情緒を、クリアな音質と透明感ある楽曲に乗せてパッと聴きライトに聴かせ、耳からするりとふところに入った頃には、距離感ゼロで心臓を掴まれているような緊迫感。 なかなかにスリリングな作品だ。 『人間味』というアルバムタイトルもなるほどしっくりくる。 

弱みを吐く、という強み

このアルバムで平田が見せた自身の人間味は、臭い物に蓋をする風潮のある現代社会にぶつける諸刃の剣の様だが、こと本人にとっては恐らく覚悟ができている今、弱みを知られる事はさほどの痛みは伴わないのだろう。 最後の曲では、抱えきれない程の彼の迷いや嘆きがごっそり込められているが、そのエグさと濃度を感じるとその背景には、己の裏の裏まで見せる覚悟が見えて来る。 アウトロでは、終わりに向かってどんどん過激になるギターソロフレーズにバンドの魂を乗せて、荒ぶっても尚ドラマティックに流れていく時間がずっと続いていくようなフェードアウトで終わるこのアルバム。 再生時間27分21秒、移動で電車に乗っていればすぐに過ぎてしまう程の半時間弱のテープに記録された彼らの生き様の最新事情が歌詞やフレーズやサウンド、全方面から耳へ流れ込んでくる、えらく能動的な作品だ。 短くても濃い。 個にフォーカスしにくい現代社会と経済に押しつぶされる前に、こういう嘆きの代弁者の音楽によって、自分が孤独でない事に気付いてまた前を向いて過ごしていくスイッチを入れる人々が、今の東京には少なくない気がする。