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黒木渚 interview
- SPECIAL -

黒木渚 interview

強く生きる願いが詰まった、傷負い人達への讃歌

interviewer:鞘師至

物語と俗世の間を行ったり来たり、ビビットな言葉を自在に操って人間の根底を歌う九州出身3ピースロックバンドの新星「黒木渚」の中心人物、黒木 渚 (Vo/G)。黒い樹木が茂る森をもがいて走り抜けた先に広がる渚が光で大きく包み込むように、闇の奥に光る希望を情景描写するのが彼女の歌世界。心臓、毒、屈辱…鋭利な言葉の羅列が作るエグい表面のイメージとは裏腹に、彼女の奥に潜む本質は至極ポジティブなベクトルへ向いている。
2010年結成から今作の1st. mini album『黒キ渚』リリースまでにかかった時間はたったの2年。先行発売された1st. single「あたしの心臓あげる」は、九州全域でラジオ局でのヘビーローテーションが続き、i-Tunesのネクストブレークアーティスト枠に選出され、地元でのワンマンライブではSOLD OUTが続いた。言葉通り鮮烈なデビューとなった訳だが、黒木 渚の心持ちは新たな刺激に感動はあれど、バンドを始めた学生時代からさほど変わらず至って冷静。おごらず、荒ぶらず、ひたすらに自分の生きる沙汰を歌い続ける肝の座り様は、これからも増していくであろうファンの数、セールス、名声などに左右されない芯の強さを感じさせる。
彼女の歌詞の世界にも投影されているその力強さ。「クマリ」(本作2曲目)ではネパールの生き神とされる少女達を描き、「赤紙」(4曲目)では戦後日本で生きるとある家庭の描写。どれも黒木が生きる現代のここ日本とは別舞台の題材だが、共通して感じるのはやけにリアリティーのある感情。例えの言葉は変わろうとも、彼女がいつも歌うのは彼女自身の心と共鳴する別物語の主人公だ。「あたしのインプットは本と絵画なんです。そこから得た世界観だったりインスピレーションを音楽でアウトプットする。だから書く歌詞も沢山の聞き慣れない言葉で飾り付けされているけれど、歌っているのは人類皆に理解してもらえる人間らしい気持ちの部分。」
どこかこの世を俯瞰(ふかん)で見つめている印象のある彼女の世界観には、15年程に渡り書き綴り、向き合い続けている彼女の日記帳が作用しているという。悩んだ時、迷った時に気持ちに整理を付ける為に書き続けているこの日記、「解決できそうにない気持ちのやり場として不可解なことを沢山書きまくってます。これだけはメンバーにも絶対見せない(笑)」と、自分の内に閉まって今も大切にしている様子。綴った言葉を毎夜、部屋でひとり読み直して答えを探す。この作業の延長線が歌詞となって、浮き世を傍観する世界観に結びついているようだ。
幼少期、複雑な家庭環境に置かれていたという彼女。音楽を始めた頃までは、今作の歌詞世界の表面に張り付いている様なドロリとした闇を引きずって生きて来たという。「狂ってしまえば楽だったかもしれない」と話す黒木の表情は穏やかで、包容力ある言葉じりで自由に自身を語る。一見、この歌詞を書いた女性とは連想し難いオープンマインドな容姿。 痛みの過去も、音楽で昇華させた現在も、双方が彼女の真実なのだろう。
「2年間バンドを続けてきましたけど、共感してくれる人達が良いって言ってくれる度にやっぱり嬉しくなるんですよね。最初は自分だけの為に音楽をやっていたけれど、今は自分達のライブを見て涙を流して感動してくれたりする人達を見ると、「絶対幸せにしてあげるから付いてきなさい!」的なたくましい気持ちになってくるんですよね。 皆と共に進むために音楽をやれる、というか。」
元々は人と引かれ合って共存することで傷や寂しさを背負うことを恐れて人と深く関わり合おうとしなかったというが、デビュー前の転機でこのバンドが生まれて初めての依存できる場所となる。「黒木渚をやるに当たって、本気でバンドをやるかどうかを性にもなく真剣に話し合った時期があったんですよ。メンバーは教員になる夢を持っていたし、あたしは公務員として去年まで市役所で働いてましたし(笑)。その環境を全部ひっくり返してでもこのバンドをやる意思があるかどうか、確認しなければ前に進めないと思ったんです。そんなデリケートな時期にプライベートで不幸な出来事がたまたま重なったんですが、その時メンバーが「ぜったいに離さんし、バンドメンバー以前に友達としてずっとおるから悩みでも何でも言ってこい」って言ってくれたんですよ。この時の何とも言えぬ所属感は生まれて初めての感覚でした。この人達だったらどうせ同じ人生を共にするんだし、依存してもいいかな、って。それからのメンバーの結束はとても強いです。ただ日記帳だけは絶対に見せませんけどね(笑)。あたしが死んだら読んでいいって事にしてます(笑)。」
本作に詰め込まれた7曲のストーリーの流れは、表現を覚えた少女が過去の孤独を吐き出して、こころを浄化していく過程を見ているかの様だ。最終曲「砂金」でそれが完結する。ひとの苦悩は過去を肯定して前進する為のもので、彼女が歌うのは闇ではなく、底から見上げる光だ。