昔からずっと、音楽至上主義。
―デビュー当時から全作品チェックしてきましたが、今作は”人間味”をより感じる作品だと思いました。前作までは現実とは別の美的世界観を描いている感じ。「歌詞を書く時は物語の主人公をまず立てて、その人物の旅するストーリーを描く」って伺いましたが、今作の歌詞はもっとパーソナルな、よりSallyさん自身の気持ちを描いてるフレーズが多いな、と。
Sally#Cinnamon(Vo&Gt 以下 “S”):もちろんストーリーテラーとしての歌詞の書き方も自分のやり方として未だにあるんですけど、今作ではより自分の身を作品に投入していった感じがあって、例えば「インヘルノ(M3)」では自分の出身地の事を歌ってるんですよ。今までは名前、生い立ち、私自身の生身をずっと隠して表現して来ました。あくまで音楽だけにフォーカスしてその作品が持つイメージを忠実に表現できるように、妨げになるような自分のパーソナルな部分は表に出さずにやってきたんですけど、ここに来てそういう自分の内面が曲の邪魔にならずにうまく投影できるようなってきたんです。今回は怖がらずに、気持ちよく自分の内面が載せられた気がします。とても綺麗に。ベストな曲に、作品にできたと思います。
-人間味。今作いろんな要素がそれにリンクしてる印象です。歌詞以外にサウンド面でも、「Parasite(M1)」ギターソロや、「パライソ(M4)」イントロのカッティングのペケペケしたクリーンに近いクランチトーンにも意図的な裸感を感じました(笑)。
Tomoya.S (Gt 以下 “T”):今の時代ハイエンドな音色を突き詰めるのはある程度の環境があればできてしまうんだけど、今回はそうじゃないベクトルで仕上げたいっていう狙いがあって、正にそのペケペケな音を入れ込んだんですよ。今回の作品、一緒に制作したTOKIE(Ba)さん、マシータ(Dr)さんの出す音っていうのが、Sallyで言えば歌詞と同じ様に、実直に個性を出すものだったんで、そのアンサンブルの中で演奏できた今回、自分も自分なりの個を投下したくて、より自分の人間味みたいなものが出る音を、っていう意味であえて歪んでいない音を取り込んだんですよ。サスティーンもないし、それこそペケペケな音なんだけど、見てくれだけを取り繕うカチッとしたものじゃなく、そのままのものを表したくて。
-あの生音な感じのギターソロ、狙いと自信が無かったら怖くて入れられない音ですよね。
T:チョーキングがかすれるくらいチープな音にしたいって、林田さん(本作エンジニア 林田涼太)とも話してたソロです(笑)。あれ一発取りで録ったんですよ、みんなでせーので演奏して。その場で演奏してる生身の空気感を大事にしたいっていうのがあって。リズムの揺れの前も後ろも、あれを綺麗にしてしまったら今回のアルバムの雰囲気は作れなかったと思うんですよね。直そうと思ったら直せちゃうから、どうしても今まではかちっとさせてきたんですけど、今回の音はそうじゃない感じでまとめたかった。「思惑通りじゃなくてもいいんだよこれで!」みたいな感じでね(笑)。
S:直し前提じゃないヒリヒリ感とか、わくわくする感じがあったんですよ。それをそのまま閉じ込めたかったんです。
-Voのテイクもあまりコンプで潰してない生身の感じが楽曲の統一性取れてていいですよね。
S:そう、コンプはほぼかけてないんです。録ったそのまんまなテイクの曲もありますし。
T:極力、無理した感じがしない素材のカラーが出る音にしたかったんで、ミックスでもできるだけ音量の上げ下げだけに留められるように務めたり。ピッチももちろん直しゼロ(笑)。だからキーが100%ハマってない所ももちろんあるんだけど、それで全然オッケーです。キャラクターが出せた。林田さんとも何度も話して、その素材を殺さない音というのにこだわって作りました。前作のフルアルバム『HEAVENSTAMP』までは逆に完璧な空間美を別世界のものとして精巧に作り上げてきて、このタイミングになって己のキャリアをぶっ壊すような作品を作れるっていうのは、非常にポジティブな攻めの前傾姿勢に思えます。
T:これはもうメンバー、携わったエンジニアさんやスタッフさん、全員が同じベクトルに向けたから得られた攻めだと思う。
S:このタイミングでTOKIEさんとマシータさんと、このチームで作れたよかったです。
自分達なりの邦楽ロックをやる。
T:今まで作って来たものとの差を、「Romantic Apartment」では作りたかったんです。今までの作品はラッセル(BLOCK PARTY ラッセル・リサック)がギター弾いて、サウンドプロデュースして、リスナーから「UKっぽい」というイメージを持たれるのは道理。それはひとつ僕達の強い個性だったけど、今度は邦楽のロックをちゃんと自分達なりに創り上げる、という事を4人のテーマにして作ったんですよ。邦楽のロックを聴くリスナーにも僕達の音楽を届けたいという意識が出て来た事が、こういう音を作る意識に繋がってたのかなと思います。
-ここまで違う音を出してもHeavenstampの音になる、これは自身でバンドの出す音のキャラクターをよりハッキリとした輪郭で分かり始めた証拠なんじゃないか、と。
T:PAのダブさん(Dub Master X)も同じ様な事を言ってくれていました。「結局何をやってもHeavenstampになるってことがよく分かった」って。それを知れたのは僕達にとっても新たな発見で、メンバー2人体制になった時点で、逆に何でもできるって思えたんですよね。北海道のフェスJOIN ALIVEではSPEEDER-X(Dr.中村達也、Ba.Ken Ken)とのフィーチャーで4人編成で出演するんですけど、それもまた自分達の違う部分がすごくいいかたちで出せていて独特のプロジェクトにできてるし今は何でも来い!って思える。
-『Hype E.P』をリリースした当初、Heavenstampに出会った当初から音のセンスは既に構築されていたけど、バンド自体は華奢で儚い存在に感じてました。今はメンバーが減ったにもかかわらず、バンドがタフになった印象。
T:危うい感じでしたよね、当時(笑)。やっぱりここ1〜2年はメンバーも抜けて、結束感的にアンバランスなバンドだったと思う。それを経て、今は2人だけど誰と組んでも自分達はブレずに音を出せると思うし、めちゃくちゃタフになったっていう実感がある。今作の『Romantic Apartment』もそうだし、SPEEDER-Xとのセッションもヤバい事になってる。もうこの取材終わったら直ぐに聞かせたいよ、リハ音源。
-え、聴きたい!(取材)もう終わりにして聴いて良いですか?
T: 。。。もう少しだけ続けよっか(笑)。
-すいませんでした(笑)。
S:でもほんとにTOKIEさん、マシータさんとの編成、達也さん、Ken Kenさんとの編成、この2組のセッションで確信できましたね、誰と一緒にやっても私達の音楽になるし、その上で一緒にやる人達との面白い化学反応も絶対的に起こせるって。
今までの経緯は必然だったんだろうなって。
T:過去のメンバー脱退はやっぱりその都度辛かったけど、今こうやってバンドの状況が変わっても、まっすぐ音楽で向き合えて真剣に付き合っていけるメンバーやスタッフの人達と一緒にやれてるのは、そういう今までの経緯全てが繋がって得れたものなんだろうなって思いますね。経験は全部無駄にしてない、というか。
-否が応でもタフになりますよね、残る存在っていうのは。しかしいろいろ経てのこのタイミングで本作リリースを聞きつけた時は本当に嬉しかった。アートワークも含めて良かったし。
S:これジャケットのディレクションも自分達発信でやったんですよ。表側の写真は私がロンドンに行った時に撮った写真です。
T:そう、これ良い写真だから今後どこかで使いたいな、と思ってたんですよね。それで今回のアルバムコンセプトが、収録された6曲それぞれの物語が詰まった6つの部屋、っていうものになったからこの写真がしっくりくるな、と思って。衣装も過程を経て2人になったバンドの真っ白な核の状態を表すもので、あとは今まで黒に挿し色で赤を添えている事が多かったから、ガラリと変えたくて白に挿し色で青、っていうカラーコンセプトを今回起用したんです。別の側面を今作で示したいと思って。
-リスナーは本当に待ってたと思います、新しいHeavenstampの展開。手に取って聴いた人には刺さる音楽だなあ、と改めて思いました。
S:状況変わっても私達を気に入って付いて来てくれる人は全力で抱きしめる(笑)!ほんとにそんな気持ち。
T:このタイミング、このメンバー編成で作ったものとして、すごく意味のある表現方法が取れたと思う。きっとみんなに刺さってくれると思うんだよなー、客観的に見たら小さい事かもしれないけど、音楽的にもいくつかヤバい発明をひらめいて今前進できてるから今後、ライブ含めて心から楽しめそうです。早くみんなと共有したいな。
【リリース情報】
『Romantic Apartment』
品番:DQC-1320
税抜価格¥1,500 税込価格¥1,620
発売元:GOLDSHOES RECORDS/スペースシャワーミュージック
販売元:㈱スペースシャワーネットワーク
収録曲 1.Parasite 2.秘密の花園 3.インヘルノ 4.パライソ 5.Shibuya scramble 6.夜空に星のあるように
【ライブ情報】
★ Heavenstamp Romantic Apartment Release Party
2014年8月6日(水) shibuya eggman
★ Heavenstamp Romantic Apartment Release Tour
2014年8月27日(水) 心斎橋JANUS
2014年8月28日(木) 名古屋ell FITSALL
2014年9月17日(水) 新代田FEVER ※One-Man Live