やっぱり俺たちここが起源か、って。
ー 今作のサウンド面、めちゃくちゃオリジナルで凄い振り切れ方してて聴いててスカッとしました。 R&Bっぽいブラックミュージックテイストがパンクロックとこんな混ざり方をするとは…
■YAFUMI (Vo): 元々ピアノを生かした音をパンクロックでどうやるか、っていうのを今までもやってきてますけど、僕らの場合ビートに主軸を置いて考えるところがあって、これまではぱっやり「パンクロック=8ビート」っていう意識があったんですよ。 16ビートでもテンポ160位のものでないと激しくならないかな、っていう。 その結果としてこれまでの曲のような仕上がりになってて。 でもこのタイミングで時代の流れもあってロックでも割とBPMが落ちてきてるんで、BPMがゆったりしたものへの抵抗がなくなってきた、っていうのが今回の楽曲の感じに繋がってるのかもしれないですね。
ー 確かに今まではロックな楽曲メインの中に対象物としてバラードがある感じでしたけど、今回のアルバムは全然違う感じですね。 BPMも、フレーズのテンションの緩急もすごくなめらか。
■YAFUMI: そうですね、そういう音をしっかりやってみてもいいかな、と思ったんですよね。 ただ今回アルバムを作り始めるときは元々全然違う話をしていて、来年の12月で俺たち10年になるんですけど、ここからのLAID BACK OCEANをどう展開させていくか、っていうビジョンを考えてる中で、「よりPOPなものを」っていうコンセプトを掲げてたんですよ。 で、それを元に曲を作ろう!っていう話でまとまってメンバーそれぞれ楽曲制作期間に入って戻ってきたら、結果的に全員が全然POP路線な楽曲を作ってこなかった、っていう(笑)。
ー 全員…(笑)。 もうそういう星の元に生まれてるんですね(笑)。
■YAFUMI: 今回の一番分かりやすい事例は、俺が作った曲で「7Up」っていう曲ですね。 基本曲頭からボーカルは静かな感じの曲なんですけど、この曲Aメロは結構前からあって、サビがなかなか展開できなかったんで、KAZUKI(Gt)に「これにサビつけてみて」って振ったんですよ。 そしたら「%*@△#!!!」って過去曲どこかで俺が歌詞もなく叫んでる声をサンプリングで持ってきて「はい、これサビできた」って(笑)。 その瞬間にこのアルバムの方向性が決まりました。
■KAZUKI(Gt): (笑)。
■YAFUMI: やっぱりお前もそっち(パンク魂系)か、って(笑)。 で、タチが悪いのがそのサビをメンバーにスタジオで「こんなん出てきちゃったんだけど」って聴かせたら全員「めちゃくちゃかっこいい!」ってまさか賛成しちゃって。
■SEIJI(Dr): 「リード曲できた!」ってドラムから思わず立ち上がりましたね(笑)。
■YAFUMI: 俺は謎の叫び(そのときはまだ7Upという歌詞がなく)を入れてるだけのPOPとは程遠いものなんですけどね、でもそれがかっこいいと思ったんで俺たちは結局そういう奴らなんだな、って(笑)。 俺の立ち位置的には歌詞を書く人間でもあるし、一番矢面に立ってより多くの人に響くものを提示していくべきなんですけど、やっぱり俺のロックの原体験を考えるとマジョリティーへ対して「さあ、共感してください!」っていうような表現方法に惹かれた事が一度もないんですよね。 結果的に。 世の中に対して新しい視点を与えてくれるようなものを好む傾向があるので、今回の制作期間中、この「7Up」のサビが出来たときに「あぁ、やっぱりこのバンドはそういう奴しかいないんだ、そこが起源なんだ。」って確信しましたね。 だったらこれでいいじゃん!意識してPOPなものを作らなくても、って思えたし。
ー そういうパンク魂が根幹にあるからですかね、今作でたっぷり乗っかってきてるブラックミュージックテイストのサウンドも、シーケンスのエレクトロサウンドも、時代のムーブメントになってる類いのそういった音楽とは全然違く聴こえますね。 流行りは潔く無視!みたいな(笑)。 YAFUMIさんの精神性があればどんな音を出してもパンクロックで成立するものが出てくるんだなぁ、と。
■YAFUMI: そうかもしれないですね、そういう性質の音楽だから、今の時代にはいい角度で入っていけると思うんですよね。
ー メロウな楽曲でメロディーラインを綺麗に歌い上げてても、どこか攻撃性は常にあるような、なんというか音楽にギラつきがありますよね。
■SYUTO(Pf): パンクって、いわるゆなモヒカンで革ジャンにスタッズつけて、みたいなイメージって強いと思うんですけど、そういうのを違う角度から壊していきたい、っていう気持ちは強いですね。
ー このバンドならではのパンクミュージックですか。 それが事実だからもう変えずにそれをやる、っていうのは正義ですね。
■YAFUMI: 難しかったですよ。 変わろうとしたんですけど、なかなか変わらせてもらえなかった(笑)。
■SEIJI: 10年やってきてますからね、結果的にここにたどり着いたっていうか。 だから変われないし、変わらないのがいいですよやっぱり。 『NEW MOON』(前作ファーストフルアルバム)の辺りでもう開き直ったっていうのが事実ですね。 過去にはもうちょっと大衆性を追い求めた時期もあって結構暗中模索が続いてたんですけど、前作くらいで何やっても俺らは変わんないよな、って分かって。
ー そういうパンクの軸があって普遍性が今作でも継承されてる部分もありつつ、表面の音の手法は今作、すごい変化じゃないですか。 これもまたすごいですよね。
■YAFUMI: あぁ、やっぱりそんなに変わったって感じます? 俺らね、正直自分たちで分からないんですよ。 当然変わり続けるっていうのがLAID BACK OCEANですけど、今作もそこまで急に変わった感じがしてなくて。
ー なんだろう、今までも新しく感じる要素っていうのは毎回入ってきてる感じがありましたけど、今回は新しく手に入れた道具を使いこなしてる度合いが高い、っていうイメージ。
■YAFUMI: 確かにそれはあるかもなぁ、ピアノのアンサンブルに関してはどこの帯域にどんな音が存在してるか、っていうのをコントロールするのがすごく大事なピースになってるんですけど、KAZUKIがレコーディングでミックスを担当するようになってここ8作品くらい、当初はミックスに対してかなり話し合って進めてたのが、だんだん意思疎通が高まっていって、今回は本当にミックスに関しては何もいう必要がないくらいだったんですよ。 そういう部分でピアノの帯域含めてバンドが自分たちの音をコントロールできていて、望んだ表現をどんどんできるようになってきてる、っていうのはありますね。
■SEIJI: 昔、KAZUKIがミックスし始める前は、一番最初のミックスチェックで音を聴きにスタジオにいくと、一回聴いて「…さぁ、どこから手をつけようか」みたいな感じだったんですよ(笑)。 それがKAZUKIがミックスするようになって、やっぱり自分がプレイヤーなのも大きくて分かってくれてるんですよね、全ての僕らそれぞれが望むものを。 レコーディングはそれで相当捗るようになりました。 もう今はミックスチェックだ、ってスタジオ行っても基本聴いてないですもん。
■KAZUKI: 聴いてないの!?(笑)
■YAFUMI: ちゃんと聴いてるわ!(笑)
■SEIJI: いちから全部細かくチェックしなくても平気になった、っていう意味でね(笑)。 本当にパンの振り方だったりみたいなニュアンスの部分だけ微調整するくらい。
■SYUTO: 日々スタジオとかで話してる中で、散々お互いの音の好みとかを共有して10年蓄積してきたら、おのずとそうなりますよね。 みんながみんなのことをわかってる状態でレコーディングできるのは本当に大きいですね。
■YAFUMI: KAZUKIはアレンジしながらミックスしてくんですよ。 「このアレンジだったら帯域的にこの楽器の音はこういう風に鳴ってないとだめだ」とか、アレンジに対する音の帯域のコントロールは最も大事と言っていい部分ですね。 音の良さはアレンジに対するミックスの調整でしか手に入らないですからね。 その辺りの希望とやれる事が合致して積み重なってきたのが今作では大きいですね。
音に強度をもたらす。
ー 因みにSYUTOさんはピアノのジャンル的にはどの辺出身なんですか?
■SYUTO: 一番最初はもちろんクラシックからなんですけど、高校生の頃からバンドもやってたんで割と早い段階からクラシックから離れてましたね。 でも逆にここまで来ると、クラシックの技術的な部分って凄く大事だな、って今痛感してます。 もっとやっとけばよかったって(笑)。
■YAFUMI: そういう意味ではSYUTOっていうピアニストが凄く効いてますね。 SYUTOはバンドをやりたい奴なんですよ。 ピアニストって「ピアノは弾きたいけど、プロデュース志向です」っていうタイプの人が多いんですけど、SYUTOは最初から「俺はバンドがやりたいんすよ!」って(笑)。 潔かったですね。
■SYUTO: 本当にいい曲を作ろうとしたらやっぱりプロデューサー的な接し方じゃなくて、毎回スタジオに一緒に入って度々フレーズに対してのキャッチボールを続けて積み重ねて、っていうのがやれないとダメだと思うんですよ。 バンドメンバーとして。 だからバンドがいいんですよね。
ー 需要と供給ばっちりっすね(笑)。
■YAFUMI: そう(笑)、うちらもバンドマンのピアニストが欲しかったから。
■KAZUKI: 精神性としても、パンクっていうところに戻ったのはSYUTOが入ってからですね。 その前までは結構パンクの側面を下に沈めてやろうとしてた時期もあったんですけど、SYUTOは「パンクやりたいっす」って最初から言ってたから、あれ、俺たちパンクやっちゃっていいんですか…?みたいな(笑)。
■YAFUMI: それは得意分野だからね(笑)。
ー ボーカルの面では今作、全編通して結構ウィスパー寄りな歌い方が占めてますが。
■YAFUMI: そうですよね、だいぶ音像寄りで歌うようになってきてるかな。
ー 今作のこの音楽性に寄り添った?
■YAFUMI: うん、こう歌いたい!というよりは曲のアレンジ、ビート感が生きるボーカルを意識してるのかもしれないですね。
ー その影響で逆にシャウト的なこれまでにもあるパンクフレーズのボーカルも際立ってきてますよね。 緩急が豊か。
■YAFUMI: それはありますね。 バンドのタイミング的にそういうものが求められてる気がするんですよ。 ストレートなパンクではない俺らなりのパンクっていう部分で。
ー そしてアレンジの部分は歌詞でもそうですが、やっぱりYAFUMIさんのカウンターを入れる癖が如実に反映されてますね。 ビートも一筋縄ではいかせない、途中でノリのガラッとかわる部分があったりとか。 ハッとさせられる技をぐいぐい入れてくる感じ。
■YAFUMI: そういうのが好きなんですよね、サプライズっていうか。
ー ライブでお客さんがそれにまんまとハマってハッとするのを見てニヤリとするYAFUMIさんが目に浮かびます(笑)。
■SEIJI: 本当に分かりやすくお客さんが固まる瞬間、これライブで結構あるんですよ(笑)。 普通にテンポよく頭揺れてるなーと思ってフロア見てるとビート変わった瞬間完全に見失うお客さん…
■YAFUMI: 見てる方からしたら困るよね(笑)。 「DEFY」(M3)のサビ頭とかもそうとう音抜いたしね(笑)。
ー あの無音は強いですね(笑)、一瞬CD止まったかと思いました。
■YAFUMI: でしょ(笑)?
衝突も昇華させて推進力に変える
ー ベースに関しては、SHOUYA(Ba)さんは今作から参加されてますが、このバンド、ストレートなパンクではないし、メンバーのキャラクターもそれぞれ濃いし、時期的にもサウンドに変革がある時期だったり。 いろんな解釈を同時に持っておく必要がある状況だったと思うんですが、どんな部分にフォーカスしてレコーディングしていったんですか?
■SHOUYA(Ba): リード曲の「DEFY」は、結構僕らしいフレーズを入れることができたかな、と思います。 それ以外の曲に関しては、今まで僕がやってきた傾向とはまた違うタイプのベースが求められてると思ったんで、このバンドのベーシストとしての役割を擦り合わせていくのに最初は時間を使いましたね。 今までは好き勝手自分の好きなベースを弾いてたんで。
■SYUTO: 俺の作った曲にめっちゃスラップ入れまくってきてて最初びっくりしました(笑)。
■SHOUYA: そう、ひとつポイントとしては、スラップを入れるっていう事でしたね。 これまでのLAID BACK OCEANの楽曲でそういう曲がなかったんで。 そこは僕が入ってバンドが新しい段階に入ったっていうアイデンティティーとして挑戦してみました。 新鮮な感じがこれで得れたら、って思って。
■SYUTO: スラップ入れたらすごく曲が良くなったんですよ。 多分それはSHOUYAが「これがやりたい」っていう気持ちを持って弾いたフレーズだったからだと思うんですよ。 それを曲に入れたことによって、SHOUYAの意思がそこに吹き込まれたものになった、っていうか。
ー SHOUYAさんはいつから加入でした?
■SHOUYA: 今年の1月からですね。 ツアーファイナルのワンマンから正式加入して、それが僕の人生的には初めてのワンマンライブで、会場もデカイし、一息ついたらすぐレコーディングで、僕としては怒涛の日々でしたね。 レコーディングでも色々大変だったし。
■YAFUMI: ケンカしたもんな(笑)。
■SHOUYA: そうなんです(笑)。
■YAFUMI: 初日、明らかにSHOUYAが焦ってるのが分かったんですよ。 レコーディングなんでそれぞれの楽器を個別に録っていくじゃないですか、最初はドラムから。
■SHOUYA: 僕がちゃんとしたレコーディングに入るのが初めてだったんで、「リズム録り」の意味をちゃんと理解してなかったんですよね(笑)。 リズムっていうのはドラムとベース両方のことだと思ってスタジオに入ったんで、ドラムに時間を結構かけてて、僕はまだ弾かせてくれなかったから「これ、録り終わるのかな」と思って…
■YAFUMI: で、SEIJIくんがシャッフルの感じとかをチェックしてて「あぁ、これもう少し時間かかるな」と思ってたらSHOUYAは「…早くやりましょうよ」みたいな感じで明らかにイラついてて(笑)。 で、俺がキレちゃて(笑)。
■SEIJI: 俺ブースにいるから状況分かってないじゃないですか(笑)、何か雰囲気を察知してブースから出てきたら、何この空気…?みたいな(笑)。 俺だけ知らない内に何か起きたの?みたいな。 でも確かにうちのバンドのレコーディングは特殊なんですよ。 デモが詰まってない状態でもう本番のレコーディングに入っちゃうんで、普通に考えたら「え、これで録れるの…?」って思いますよね。 でも僕らはそれで10年やってるんでやれますけどね、SHOUYAは初だったんで、僕が最初の頃に感じてた不安感と同じようなものを感じたんだと思います(笑)。
■SYUTO: 音に関しては俺とKAZUKIさんとかも結構バチバチやり合いましたし(笑)。 「めくれる」(M6)は僕が作った曲なんですけど、僕のイメージがちゃんとKAZUKIさんに伝えられなくて、結構討論しました。 年齢はKAZUKIさんが大先輩なんですけど。
ー 「年齢 “は”」って(笑)。
■SYUTO: おもしろいのが、音楽歴は同じくらいなんですよ。 で、音楽論になると僕も土俵から降りれなくなる時があって…(笑)
ー なるほど(笑)。 まぁでもそうやってやりあった方が絶対いいもの、納得できるものができますからね、必要な作業ですよね。
■SYUTO: はい、やり合っちゃいました(笑)。
ー 前作の時にYAFUMIさんとサシでお話しした時も思いましたけど、こうやって野郎が5人集まって、社会人になっても家族でもないのに毎週集まって同じ目標達成するために団結して動いてる、っていうのがプロの部活みたいだな、って。 夢があるし、仕事としても成立するクオリティーのプロフェッショナルなものだし、ベストな人生のひとつだなぁ、って思います。 こうやって切磋琢磨して新しいもの作って。
■YAFUMI: うん、納得いくものが作れていると思います。 この流れ、音も精神性も含めて、この感じは暫くうまくこのままで進んでいけそうな気がします。
■KAZUKI: って言ってすぐ変わるんでしょ(笑)?
■YAFUMI: そういう事(笑)。 騙されちゃダメですよ! 俺すぐ気分変わるから(笑)。 まだツアー前なんで(笑)、ツアー終わったら「なんか違うな…」とかね。 まぁ、良くも悪くもですけど、ツアー回ってみると曲がさらに身体に染み付いてくるんでね。 ただそこで折れるようなものは作ってない確信はあるから、ここからこのバンドと今回の作品の曲がどうなっていくのか、その時の自分たちの感覚に正直に向き合っていこうと思いますね。