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Lenny code fiction interview
- SPECIAL -

Lenny code fiction interview

最も感受性鋭い学生世代を中心に今、全国で注目を集める音楽ムーブメントの中でも、ユニセックスな容姿にシングルコイルでコード掻き鳴らす系のギターロックとは別路線、サウンドの重厚感と、容姿の華やかさ、ライブでの力強いステージングで独自路線をいく新世代ロックカルテットLenny code fictionの最新作は、同様に今話題の渦中、週刊少年ジャンプの人気連載漫画原作TVアニメ『僕らのヒーローアカデミア』OP曲を収録した3曲入りシングルだ。 新しい話題が尽きずに続ける彼らの活動、一見順風満帆に見えるが、本人達は至ってストイックで、表現者として強力な存在になる事にずっとこだわって、水面下の努力を重ね続けているプロフェッショナル集団だ。 今彼らが持つ説得力はその結果そのもの。 過去作品と比較しても本作は最も躍動感に豊かさがある。 独創性を研いでは鋭くしていく作業、これを驕らず荒ぶらず、冷静着実に進めていった最新事情が、本作には反映されているように思える。

Interview & Text : 鞘師 至

自分で創るこれまでとこれから。

— まずはタイトル曲「Make my story」(M1)ですが、これ、曲構成の展開がハンパないですね。 歌のラインは一筋通ってるけど、楽曲はすごい回数場面が変わってくような速度感があって。

■ ソラ(Gt.): アイディア詰め込みまくりましたね。 しかもこの曲、めちゃくちゃ短期間で一気に仕上げた曲なんです
■ 片桐 航(Vo./Gt. 以下“航”): タイアップ曲って事で話を頂いて、最初は別で超選抜メンバーみたいな自信の曲を揃えて提出したんですけど、「どれも違うなぁ」って言われて… クリンナップ三球三振みたいな全滅感の中で、新しい曲書いてみてほしい、って事で締め切り間近のタイミングでゼロから作ったのがこの曲です。 まさかその曲が選ばれるとは…人生何があるかマジで分からないですね(笑)。
■kazu(Ba.): 激しめ、中間、ポップ、全部持って行ったんですけど、「もっとポップなのを」って言われて(笑)。
■航: デモ曲が300曲くらいあるんですけど、そこからどれも選ばれず、一番短期間で作った曲が1/300位に躍り出るっていう快挙を成し遂げました(笑)。

— こんなに曲展開こだわってるのに…バタバタだったんですね。 でも結果として今超話題のアニメ『僕らのヒーローアカデミア』(以下 “ヒロアカ” )のOP曲ですよね。 この為に書き下ろした曲って事ですね?

■ 航: そうですね。 

— 原作を読んでみた感想は?

■ 航: すごい面白かったです。 昔からONE PIECEとかNARUTOとか、話題になってるアニメは結構読んでたんで、今の時代のそういう代表作みたいな作品の曲を今回やらせてもらえたのはめちゃくちゃありがたい事だな、と思ってます。 

— 昔は消費者として触れてたそういう作品に、今度は造り手として携わるようになった、っていうのに時の流れを感じますね。

■ ソラ: 僕にとっては、アジカンとかFLOWとか、人気アニメのお陰で出会えた音楽が多くて、そこから音楽にハマっていったんで、同じように今回のこのタイアップで僕らの音楽を知ってくれて、好きになってくれる人たちが居てくれたら嬉しいな、と思いますね。

— 小学校とかでLenny code fiction流行ったらアツいですね、夢ありますね!

■ 航: 教室で「Make my story〜」とか歌ってたらめちゃくちゃアツいですね。 でも呼び捨てですぐにディスられるんでしょうね(笑)、やれ滋賀の田舎もんやん!とか。

— それはそれでまだ見ぬ人たちの世間話に登場するくらい多くの人に届いてるってことですからね(笑)、そうなったら素敵ですね。 この曲、ヒロアカの原作を読んだインスピレーションで書いた曲とのことですが、楽器陣それぞれ、どんな事を考えながら作った曲ですか?

■ ソラ: 大作のタイアップだったんで、今後これが僕たちのプロフィール的な曲になっていくんだろうな、という覚悟をもって自分達らしい曲に仕上げなきゃいけないと思ってたんですけど、同時にアニメのテーマ曲なんで、多くの人が共感できるような王道のポップス感も絶対的に必要だと思ってたんですよ。 航がデモを持ってきて初めて聞いた時に、この両方を成立させる覚悟はできたんですけど、どうしても避けたかったのが、王道のポップスとして成立させた時に、爽やかな感じとか、そういうキャッチーな感じだけが前に出て、ロックな部分が足りない作品になってしまう事でした。 だから僕が一番意識したのは強気なギターサウンドですね。 やっぱり僕らロックバンドなんで。
■ kazu: 航からのオーダーが ”キャッチーでポップな曲” っていう事だったんですけど、これまでの僕らの曲の中にはそこまでポップな事にメインで重きを置いた曲っていうのが少なかったんで、初めてデモを聴いた時は「これどう手をつけようかな…」って結構考えました。 ただ、ひとつ頭にあったのは、これまでのシングル曲はベースはあくまであまり難しいフレーズに走らずに下で支えて、ドラムでビート感出してもらったりとか、ギターで煌びやかな感じを出してもらったりとか、装飾の部分を他の楽器で表現するっていうスタイルだったのを、この曲では崩してやろう、っていう発想でした。 バンド的にも新しいステップに上がるポイントとなる曲だし、今までにしてこなかった事にも挑戦したいと思って、曲前半部分では結構リード取りまくって弾き倒してます(笑)。

— 意図的にベースの音符の数が溢れ出てますよね、前半部分(笑)。 歌を遮らないギリギリのラインの攻めの姿勢、的な。

■ kazu: もちろん歌を活かす事が大切なんで、バランスは難しかったですけどね、俺のベースを聴け!みたいなフレーズとのちょうどいい収まり具合を自分なりに見つけ出して落とし込みました。

— ドラム的にはどうですか?

■ KANDAI(Dr.): 僕は、逆にkazuが弾き倒してくれてる分、前半はシンプルに押さえて、2番くらいからのサウンド的にロック感が強くなっていく辺りからは、どっしりした骨太なビートで落として。 メリハリを明確にしていきました。 見せ場では自分のソロとして、サビではいかにサウンドを広く魅せるか、その他の部分はいかにロックに締まった感じを出せるか、場面別で曲のイメージをリズムで表現していった感じですね。

— 場面別での見せ場の差し引き、これがメンバー間でコンビネーション良く組み込まれてるのが今ならではですね。 

■ ソラ: 昔はもっとがむしゃらでしたね、確かに(笑)。

支持してくれる人の想いを感じながら。

— 歌詞ではアニメのコンセプトにもなっている「個性」がテーマになってるようですが、この歌詞、アニメの代弁だけでなくそのままバンドについてのストーリーにもなっているような内容ですね。

■ 航: まさにそうですね。 基本的には歌詞を書く時って結構最初に書き上げた文脈から曲に落とし込む時にいろいろ切り張りしたり、言葉を差し替えたりしまくって練っていくんですけど、この曲に関してはこれまで僕らがやってきた事を踏まえた上での今思う事を書き始めたら、すごくサラッと書けて、ほぼそのままのかたちで楽曲にも反映させました。 

— これまでの辛かった場面、っていうのをイメージさせるようなフレーズも歌詞の中にありますけど、今までで一番辛かった時期はどんな時期?

■ 航: デビューのしばらく前かな。 デビューに向けて曲をかなり書いたんですけど、「いい曲ないなぁ」って言われていろんな作家さんが作った曲を100曲位持ってこられて聴かされた時、めちゃくちゃ悔しくてそこから自分の作曲が変わりました。

— どういう風に?

■航: もっとちゃんと作曲について勉強しようと思って、感覚的にじゃなくて意識的に曲を作るようになりました。 曲の幅も広げようと思ったし。 一番辛かったけど、一番変われた時かもしれないです。

— 最近の航さんには前身バンド時代に比べて、ライブでも歌詞でも怒りよりも愛情を感じるようになりました。

■ 航: 個人的な怒りの発散だったら、自分一人でやってればいいや、って思えるようになったんだと思います。 知ってもらって、ライブ来てもらって、CD聴いてもらって、繋がっていくんだったら、どうせなら好きになってもらいたいし、そういう人の気持ちをちゃんと受け止めてる状態で音楽やりたい、って思うようになったんです。 なんか、自分が気持ちいいだけじゃ意味ないな、って。 

— 今作もそうですし、最近の歌詞ではどこかリスナーとの共通項を見出そうという意識を受け取れることばが追随現れますよね。 聞き手のこころを汲んだ上での表現をしていく意識、というか。

■ 航: そうなってきましたね。 

— ちなみにサウンド面では、プロデューサーに今回もこれまでに引き続きakkinさんが入ってますが、今作での共同作業はどうでした?

■ ソラ: 作品回数を追うごとにどんどんいい関係性になってて、今回もなんでも言えるし、分かってくれるし、すごくありがたかったです。
■ 航: あと基本下ネタ多めだし(笑)、スタジオの雰囲気が和みますね。

— 野郎の現場、って感じでいいですね(笑)。 具体的には例えば「Make my story」とかは各楽器のフレーズと展開が目まぐるしいですが、こういう曲の構成に関しては、どういう部分にakkinさんの手がかかってるんですか?

■ ソラ: ギターに関しては、akkinさんは引き算ですね。 僕がやりたい事をこれでもかってくらい詰め込んできた状態から、効果的な引き算を提案してくれて、曲がまとまっていく、っていう。
■ kazu: コード感と、構成、あとは上モノとして乗っかってくる僕たちが演奏できない楽器の演奏とかが基本的にAakkinさんが触れてくれる部分で、ベースのフレーズに関しては、デモ段階で僕らが ”こういう感じでいきます” って出したものそのままで使ってもらってます。 
■ ソラ: 本当、5人目のメンバーみたいな感じです。 
■ kazu: 作品が良くなるんであれば、あとは好きなパターンを選んでいけばいい、っていう至上主義の中にメンバーを尊重してくれる余裕を感じますね。
■ KANDAI: ドラムに関して言えば、デモ段階から僕の気分でかなりフレーズを変えたんですけど、どれもハマってるからOKだね、ってそのまま使ってもらいました。 柔軟だし広いですね、発想が。 

— 制作チームのリレーションはバッチリだったんですね。 楽曲の事に戻ると、「影になる」(M2)では冒頭のギターのアルペジオのように、クラシックでいうところのテーマ(※)になるようなメインのフレーズみたいなものが歌以外に1つ、楽曲の中に置かれてるのをよく耳にします。 曲が進んでいく中でコードやビートが違う別のフレーズにも再び乗っかってくるようなフレーズ。 これは意図的に?

■航: あぁ、それ今言われて気づきました(笑)。 なんとなくやってたんですけど、同じ世代のバンドマンって歌をギターの弾き語りの状態、コードを弾きながらそこに歌を載せる方法で作っていく人がほとんどなんですよ。 でも僕の場合ミクスチャーとかヒップホップが好きで、後ろにはコードじゃなくてキャッチーなリフがずっと鳴ってて、そこに歌を載せるっていうのが大好きで。 その癖からきてますね、これは。

— ていうか、ヒップホップ好きなんですね! 見た目から全然伝わってこない(笑)。

■ 航: めっちゃ好きです、全然その感じ出してないですけど(笑)。 昔から好きでよく聴いてます。
■ ソラ: 外に出てないデモ曲にはその片鱗がちらほら出てるんですけどね。
■航: まだ表に出せてないですねー、そのうち自分のやり方の中でしっかりやれるようになったら日の目を浴びるかもしれないです。

— このバンドがやるヒップホップ要素って絶対面白いですよ! ロックもヒップホップも反体制っていうか、元々レベルミュージックですからね。 出処からすると意外でもそこに同じアツいものを感じるのは道理ですし。

誰かの為に影で支える人の影で、その人を支える。

—「影になる」、歌詞では誰かの影になって支える人と、支えられて矢面で光り続ける人の事が書かれてますが、航さんは後者ですよね。

■航: そうですね、いろんな人に支えられて今もやれてます。 だからこの曲では逆に、僕が歌う僕の気持ちを誰かが聴いて、その人が別の誰かを思い浮かべてがんばれるようなものにしたかったんです。 この曲の上で、僕は超脇役でいいんですよ。 その人が主人公になる曲にしたくて、この曲がその人の影になって支えられるように、っていう気持ちで書いた歌詞です。 誰かの影になる人の影にこの曲がなれたら、作った僕も報われます。 

— 歌詞の中にはこの曲でも、今作に関しては他2曲も、全てに泣くシーンが登場しますね。

■ 航: それもね、最近気づいたんですよ(笑)。 意識してなかったんですけど、泣くシーンよく出てきますよね。 実際は僕そんなに泣かないんですけどね。 気づかないうちにこういう歌詞が多くなってました、最近。 

— 潜在意識的な要素が尽きない…(笑)。 この曲の歌詞にもあるような、誰かと一緒にいる事で自分の意識とか人生観がガラリと変わった経験ってあったりしますか?

■ 航: 直接的にこの人で!っていうのはないかなぁ…ずっと自分で決めてきた事をやって生きてきてるんで。 もちろん気づかないうちに受けてる影響はいろいろあるんだと思いますけどね、潜在的に(笑)。

— やっぱりそこに帰還しますか(笑)。 また別でも歌詞で言えば、3曲目収録「Wonder」は、ぱっと見でラブソングに見えるんですが、これはどんな物語?

■ 航: この曲を作るずっと前、デビュー前に1曲とある男女の恋愛について書いた曲を作ってるんですよ。 その物語の続編、第2話がこの曲です。 出会って間もない頃の二人を描いたのがこの曲、この先その物語が続いていく、っていう構想です。

— 今後も続編があるって事?

■ 航: そうですね、一つの長いストーリーを断片的に曲にしていってるんで、今後も続編はあるし、今既に出てる作品にも、もしかしたらこのシリーズの曲があるかも…っていう。

— スタンプラリー的にひとつずつ見つけていく感じですね(笑)。 それ、将来的に答え合わせはするんですか?

■航: 全曲出揃ったらやろうと思ってます。 このシリーズの曲を全部集めて、この順番で進んで行く物語でした、って。

— それ楽しそうですね!

“未来”っていうモチベーション。

— 今回は制作期間がかなりタイトな状況で、今後の自分達にとってのポイントとなるような重要曲を造り出す、っていう関門をクリアした訳ですが、バンドを続けていれば越えていかなきゃいけない課題はガンガン降り注いでると思います。 それでも今続けてる一番の原動力って何ですか?

■ 航: 辛い事はいろいろあるんですけど、曲のアイディアが枯渇して苦しむ事はないんですよ。 常に刺激はあるし、思う事もアイディアもあるから、逆にアウトプットがまだまだ僕の頭の中でインプットに追いついてない状況なんですよね。 だから将来的に自分のやりたい事を全部やるために、今目の前にあるやるべき事をひとつひとつクリアしていかなきゃいけないな、って思ってます。 そういうまだやれてない事が、バンド続けてく事へのモチベーションになってますね。 やっぱり全ては自分で、自分の欲しいものを得る為に、今の自分ががんばらないかん、って。 

— 将来やりたい事っていうのは?

■航: 今バンド活動してる中でいろんなプロの人たちにお願いして具現化してもらっている部分、例えばデザインとかMVとか。 そういう部分も含めて、感覚や技術を鍛えていって、自分達が関与できる部分を広げていきたいですね。 曲とか歌詞にもリンクしていくと思うし。

 

※「テーマ」… クラシック音楽の中で曲のメインフレーズとなって、調が変わっても若干のかたちを変えながらも度々登場する、その曲の顔のようなフレーズ。