このサイトはJavaScriptがオンになっていないと正常に表示されません

OKAMOTO’S interview
- SPECIAL -

OKAMOTO’S interview

言葉で構成するバンドの新たな音楽解釈
音楽的な求心力で一際目立つ存在のOKAMOTO’Sが今作『OPERA』で着手したのは、リリック面での芸術性の深化と、メンバー間での作品理解の深化。 ロック・オペラと名付けた今回の手法はアルバム1枚を通しての物語で魅せるバンドの新たなアウトプットスタイルだ。 ビジネスに潰されない芸術面の強度を、音楽を真に楽しみながら自分たちに携えて行く様が見ていて何とも勇ましい彼等、作品のレベルは今作で完全に次のフェイズに入り、今後も更にガンガン前進していく姿を連想させる。

Interview & Text : 鞘師 至

— 今作、”ロック・オペラ”と称されていますが、これをコンセプトにしたきっかけは何だったんですか?

■ オカモトショウ(Vox 以下”ショウ”): 前段階として「Dance With Me」を岸田さん(岸田繁(くるり))と作ってシングルでリリースした中で、化学反応だったのか、岸田さんが俺らをそこまで連れて行ってくれたのか、その制作過程ではっきりと、この楽曲は自分達が今まで到達できなかったレベルの高みまで持っていけたという感覚がありました。 階段から空き缶を転がした音を録音したり、アナログテープを再生させてコウキのギターのハウリングの音を録音したり、そういうサウンド面でももちろん、主には歌詞の面で高みまで持っていけたという感覚。 最初に俺達が岸田さんにこの曲のデモを持っていった時、岸田さんが「俺にはこの曲で何が言いたいのか分からないから、この状態では俺は出来ないよ」と話していて。 要するにダメ出しを喰らったんです。 そこで「普段ショウが作詞してるのは知ってるけど、一度バンド全体で伝えたい事をまとめる為に全員で作詞してみたら?」っていう提案があり、全員で詞を書いてみたんです。 普段俺以外はあまり歌詞を書いたりしないのですが、歌詞を書くつもりでなくてもいいから、なんとなくこの曲のイメージを想像して書いてみようって事で、4人それぞれで書いたものを組み込んで出来たのがこの曲の歌詞になっています。

■ オカモトレイジ(Drs 以下”レイジ”): 始めは岸田さんがタバコ休憩行く時に「タバコ吸ってる間にこの曲に関しての作文を書いておいて」って言われて急に紙とペン渡されて、どうしようかな…的な感じで戸惑いながら書いたんですよ。 その後にもう一度皆それぞれで歌詞を書いてきて、最終的にそれをショウがかき集めてそこから言葉を抜粋して組み立てていったんです。

■ ショウ: それぞれ言葉は違いましたし言い方も違ったんですけど、最終的に言いたい事、向かっている方向は一緒だったのが面白かったですね。

■ レイジ: 最初に作文を書くように岸田さんに言われてものの5分位で書いた4人それぞれの文章の内容がほとんど一緒だったんですよ。 ”機械に支配された人間が、どうにかなっちゃう”みたいなSFっぽいもの。

■ ショウ: そうやって完成したのが「Dance With Me」。 元々俺達って音楽がすごく好きで演奏する楽しさや、ライヴの楽しさだったり、そういう部分を表現してお客さんに伝わったら良いなと思ってこのバンドをやっていたので、俺達の音楽のルーツになっているようなオールディーズの音楽がある事、逆に今の音楽もしっかりと聴いてる事を引っ括めて、表面上の浅い音楽じゃない、もっと新しい音楽の世界の扉に俺達がなれるんじゃないかという様な事なんかを考えている時に、こうやって話していてもやっぱり言葉だけだと気難しくなってしまうと思っていて。 なので、それを自分達の音楽の中で、歌詞としてどうやって落とし込んでいくかが今までの俺達の課題でした。それがようやく突き抜けて書けたのが「Dance With Me」で、そこからどんどんインスピレーションが湧いてきました。そこで、この歌詞を軸に作品を作ってみたいと思うと同時に、この曲の歌詞に至るまでの過程の物語を書いてみたいという想いがあって、アルバム全編通してのストーリーが一環している作品を目指す事にしたんです。 オペラは物語が大きくある中で主人公がいて、その断片をそれぞれの役割を持った曲や、語りで表現するじゃないですか。 俺達の音楽でそれを体現したのがロック・オペラ。

— このアルバムの物語、ざっくりまとめれば”ある男の人生”みたいな感じですかね? くじけたり、前向きになったり、酒で失敗したりいろいろ経験しながら生きる、みたいな。

■ ショウ: そうですね、「Dance With Me」の中でこの曲を歌っている主人公の人生を描いたストーリーです。

— なんか波瀾万丈なんだけどロックスター的な華があるというか、ショウさん自身の事なのかな、とも思って(笑)。

■ ショウ: フィクションも混ざっていますが正にこれ、自分の体験談を取り入れて書きました。 もちろん全員で書いたしメンバーそれぞれの要素もある中で、この物語のキーポイントになってる”カギとケータイとサイフを同時になくしちゃう”というエピソードがありまして、これ俺の実体験なんですよ(笑)。 まあ過ぎてしまえば笑い話になるネタですど、実際酔っぱらって電車の中で起きたらカギとケータイとサイフ全部ない!って状況になったらそうとうな危機ですよね、駅のホームから出る事すら出来ないし、助けを誰も呼べない。 ケータイがなければSNSも見れない、友達とも連絡が断絶されて誰が今何してるか、どこにいるかも分からない。 この状況に実際陥ったら怖いし、それが怖いと思ってしまう程この3つの要素に依存しているこの生活自体も実は狂っていて怖いなって思うんです。 でも日常で誰にでも起こりうる、聴いてくれる皆も経験がある様な事なのでアルバムの物語として共感してもらえるフックになるいい題材だな、と感じて。 これアルバムの主人公の1日の出来事なんですよ。 クラブに行って、始発で帰ろうと思ったら電車で寝てしまって、いろいろ失くして、女の子の家に行ってみても居なくて、最後は家に帰って眠りにつく。 「Dance With Me」で歌っている”繋がり合いたいけどうまくいかない”みたいな心のモヤモヤに主人公がどう向き合っていくか、という描写を楽しんで聴いてもらえたら嬉しいですね。

— ちなみにこのアルバムのストーリーには続きがあって、それを小説としても別で出すと伺いましたが、もう全編書き上げて完成しているんですか?

■ ショウ: まだなんです。 今回協力してくれている物書きの方がいて、実際に小説化してくれているのはその方で、俺達が描いた歌詞のストーリーを元に物語を膨らませてもらっている最中です。 音楽を聴いただけでは見えてこない細かい部分も楽しんでもらえる様に今絶賛打ち合わせを重ねてますね、主人公はどこの大学で、ということに始まり (笑)。 そういう細かい設定も作っていて楽しい。

— 今作は今までの中で一番歌詞の面にフォーカスしている作品なんですね。

■ ショウ: そうですね、その小説はwebで公開されていくので、それを見てからCDを聴いて歌詞読んでもらうと多分面白いです。 映画本編の予告編的な感じで小説を読んでもらえたらいいですね。 要は、音楽以外のところにも自分達の音楽への入り口が作りたかったんです。 有名なロックスターのドキュメンタリーも、その映像を観てそのバンドのCDを聴きたくなることもあるじゃないですか。 そういうのと一緒で、音楽以外からも俺達の音楽に入り込む要素を作れたらいいな、と思って。
今も楽しくてしょうがない

— 曲に関しては過去『JOY JOY JOY』、『SEXY BODY』リリース時の四つ打ビートとの対峙だったり、その後リリースした『Let It V』での音楽的意図だったり、狙いの定まった挑戦がありましたが、今回もそういった楽曲面での挑戦って新たにありますか?

■ オカモトコウキ(Gtr 以下”コウキ”): 楽曲的なところでは今まで持っていたロックバンドとしてのライヴでの楽曲再現性の高さにこだわりすぎず、その時々の発想で入れてみたい音があればその都度試してみたんですよね。 HIP HOP的なアプローチをした楽曲もありますし、打ち込みやシンセの音も取り入れてる。 楽器的にもアップライトベースを弾いたり、ガットギターを弾いたり。 今このバンドにあるイメージ以上にメンバーそれぞれがかなり色々出来るプレイヤーだと思うんですよね。

— 「L.O.S.E.R(M14)」のイントロではギター以外の楽器っぽい単音も入ってましたが、あれは?

■ コウキ: あれはエレキシタールですね。

■ レイジ: あれ、チューニングがむちゃくちゃな設定だもんね。

■ コウキ: 弦のチューニングを全部同じD♭にして弾いてるんですよ。 重ねたギターもぶっ壊れそうになりながらチューニングして録りました (笑)。

– なるほど、それライヴでどうやって演奏するんですか(笑)?

■ コウキ: そこなんですよね、問題は(笑)。 再現しようと思ったらそれ用にシタールも用意するしかないですよね。

— 皆さんメインの楽器以外にも普段色々楽器を演奏するんですか?

■ ハマ・オカモト(B 以下”ハマ”): 全員ギターはある程度弾けますし、最近コウキがメキメキドラム上達してますよ。

■ コウキ: 曲作りの時にデモ録りで実際叩くので。 ベースも全部生で弾いています。

■ レイジ: あと、ショウがパーカッションがめちゃくちゃうまいんですよ。 元々は俺のドラムの師匠です。 シンセや鍵盤類に関してはコウキに頼りっぱなしですね。

— レイジさんも普段から作曲を?

■ レイジ: するんですけど、ロックの曲にならないから今まではどうやってバンドに落とし込もうかなって思ってたんですよね。 HIP HOPのトラックを作るのが好きで、そもそも”聴いた事のないHIP HOPトラックを作る”っていう目的で作ってたのが「楽しくやれるハズさ(M13)」のトラックなんですよ。 初めてバンドに反映できた(笑)。 すごくヘンなポリリズムの機械音なんかを入れた変なビートが出来たのが超嬉しくて、それをショウに聴かせたら「そのビートでちょっとアイディア浮かんだからデータ送って」って。 それで送ったら戻ってきたのがあの状態ですよ。 ショウの要素が乗っかって更に変な曲が出来上がって面白かった。

■ショウ: あの曲はレイジに聴かせてもらった時、どこが小節の頭か拍の取り方が分からなくて、すごく悔しかったんですよ。 トラックが奇天烈過ぎて(笑)。

■ コウキ: 俺、マスタリングの時にようやく分かった(笑)。

■ ショウ: でも本当に最初は拍がとれなくて丸一日聴いてました。 一日中聴いていたら段々と分かってきて、そしたらアイディアも浮かんできて、”よしもっとヘンなリフ載せてやろう。。。”みたいな実験的な感じで作っていて、ロックからかけ離れてもいいという概念で作っていったらすごくおもしろかった。

■ レイジ: うん、作曲はめっちゃ楽しかったですね。

■ ショウ: どれだけメンバーに「お前狂ってるね…」と言わせられるフレーズを作るか、というところにこだわって作るのも楽しいんですよ。

■ レイジ: 最近ショウの玉置浩二さん化が進んでるんですよ。 常人離れしていってるというか。 このアルバム作り終えた後だったんですけど、玉置浩二さんのソロアルバムを聴いたらショウの持ってくるフレーズの雰囲気にリンクするものを感じてビビったんですよね。 玉置さんとショウでコラボやって欲しいな…
積み重ねてきて今やる事

— 常人離れという点では先日SHURE(※1)のコラボ企画であったハマさんとBOBOさん(54-71)のセッションも最高でしたね。

■ ハマ: 僕は元々54-71が好きだったのであれは貴重な体験でした。 僕の場合ああやってバンドの外へ出て行っていろんな現場を経験させてもらう事が多いことが、今回このアルバムで活かせて良かった。 ベースラインを曲に乗せていくに当たって自分の聴いてこなかった様なタイプのフレーズが多かったので結構感覚を問われたんです。 自分の感性にないものに自分のベースを乗せる経験を外でやっておいて良かったな、と実感しました。

— ハマさんと言えば、めちゃくちゃ自在に動き回るプレイスタイルがアイコンになってますが、今作の楽曲でもあれだけベースラインが動いていて曲がしっかり成立しているっていう事実がすごいな、と。

■ハマ: デビューして2枚目のアルバムをリリースした後くらいに “あぁ、今後はもう動きまくるフレーズは辞めよう” って、思った時期があったんですけどね。

— え、そうなんですね。

■ ハマ: …無理でした。

(一同爆)

■ ハマ: もう今回で6枚目、全然辞められないなと(笑)。 だからもうこれで成立してると思わせる事を続けてくしかないな、と。

■ショウ: 同じフレットでしばらくステイするような曲をカバーする時なんか、我ここにあらずだよね。

■ハマ: 同じ事を繰り返し弾くのがつまらないと思っていたんですよね、今では理解できる部分もあるんですけど。 そういう観点で言えば今回の「ZEROMAN(M11)」なんかは珍しくそういうフレーズの楽曲ですね。 久しぶりにああいうストレートなフレーズを弾きました。 他にも総じて今回のアルバムは結構ループするフレーズも多かった中でベーシスト以外へも含めて、楽器を演奏するかっこよさが伝えられたら良いな、と思って演奏しました。

– あれだけ弾き倒しながらも最近はライヴで身体も結構動かすようになりましたよね。

■ ハマ: 昔はお客さんを煽ったりするのが嫌いで、メンバー全員全くやらなかったんですけど、ある時期にショウが「自分が指揮者になったみたいだ」と話していたんですよ。 それを聞いてその感覚がなんとなく理解できて、自分もステージの前の方に出て行ったり、手を動かしたりするようになったら、案外その楽しさに気付いたんです。 それは積み重ねて学んだものだなと思いました。 そういう意味ではやり始めた当時の映像を観ると本当に華がないですからね、全然動かない。 自分ではあれで動いている方だと思ってましたから。 そういう変化はおもしろいですよね。 今はそういう見た目の部分でもメンバーの意識がまとまって、かなりバンドが引き締まったと思います。

– ちなみに、OKAMOTO`Sと言えばオールディーズやクラシックアンセムに対する理解の深さが他のバンドになかなか無い側面としてありますけど、最近の音楽からもインスピレーションを得たりってしますか?

■ レイジ: 相変わらず得てますね。 いろんな音楽から。 でも影響を受けるというよりかは狙っていかねば、という感じかな。 こういう解釈で出す音っていうのはこうやって聞こえるんだ、っていう新しい解釈を。 ただもうThe Black KeysやArctic Monkeysの感じはもういろいろ先をこされてるしいいかな、って思ったりもするのでもうちょっと今の時代の流れを、今の自分達の肌感で汲み取るという事には常にアンテナはってますね。 純粋に音楽がマジで好きだから昔の作品を掘るのと同じようにやっぱり最近の音楽も掘っちゃいますね。
あらゆる境を超える

■ショウ: 今回も様々なルーツから導火線を引っ張ってきていて、例えば歌詞の中でもボブディランやローリングストーンズが出てきますが、俺達の音楽を好きになってくれた先に、俺達が本当に好きなそういう音楽にも興味を持ってくれるきっかけを作れたら良いなという願いはあります。 それは俺達だからこそできる役割かもしれないし。 ただ、今はそれが一番の目的ではなくなりました。 もっと自分達のオリジナルを追求したいし、さっき話した小説もそうですけど、音楽を超えたエンタテインメントの中に面白いものが待っていて、そこから音楽に帰ってくる物って何だろう?と考えてみたり、リフひとつ取っても国籍も超えてみたいし、楽器も入れる音もアナログなものからデジタルなものまで、自分達なりの表現が出来れば何でも取り入れてみたいですし、ジャンルも全て飛び越えてみたい。 今回のアルバムはそういう欲を試した作品です。