井上:それでは早速なのですがオリジナルキャラクターができるまでの制作行程を伺いたいと思います。
浦沢:実は行程って全くないんです(笑)考え込んで作ったわけではないので。
井上:そうなんですか(笑)すぐに思い浮かんだ感じですか?
浦沢:エッグマンからキャラクターの制作依頼が来たっていうのを聞いた瞬間に今回のキャラクターが頭に浮かんだんです。それをすぐに描き起こしました。でもそうやって頭にすぐに思い浮かんだキャラクターって強いんですよ。考え込んで作ろうとすると考えすぎちゃうので。
井上:エッグマンは昔から新人の登竜門的なライブハウスの意味合いが強い場所なのでそういった意味も含めて浦沢先生が考えてくださったのかなと思うくらいイメージにぴったりのキャラクターが完成したので本当に驚きました。
浦沢:こういうキャラクターって初めから存在していたようなものなんだと思ってます。普段は見えていないけど、実は空間にただよっているものを描き起こしたというだけで、僕が考え込んで捻出するわけではないんですよ。何かが出来あがる時はいつもそんな感じがします。
井上:それは凄い感覚ですね。だから不自然に作りだされた感じがせず、これほどまでに存在感があるキャラクターが完成したんですね。
浦沢:生まれっぱなしのキャラクターって強いんですよ。卵の殻がついているぐらいだし(笑)さらに持っているギターがエピフォン・カジノに似た物で、ヘッドのとこのeggmanがバッタ物っぽくて気に入ってます(笑)ジョンレノンが武道館で持っていたもので、原初的な部分が好きなんです。思い浮かんだ瞬間からこのギターを持っている状態だったのでなにを持たせようか全く悩まなかったですからね。
井上:下書きの段階で見せてもらったときから持ってましたもんね。でも本当にイメージ通りだったので全く違和感なかったですし、この絵を見た瞬間他のスタッフも含め感動でした。
先生にとって絵を描くことや漫画、音楽などを制作する際に大事にしていることってありますか?
浦沢:人に見せたり聞かせたりするものだから基本的にはそのお客さんが喜ぶ物を作らないといけないという感覚は持っていますが、それだけではただのコマーシャルになってしまうのでそれは絶対にやりたくないんです。だけど逆に自分のやりたいことだけをやってお客さんたちがドン引きという状態なのはやる価値があるのかな?と考えたりしてしまうんです。お客さんが引いてでも徹底的に追及して自己表現を突き詰めるというのも価値ある作業だとは思うんですが、でもやはりパフォーマンスというのはやる側がいて見る側がいて成立するものなのでお客さんが楽しむ、尚且つ自分自身もちゃんと思い通りのことをやったという満足感をちゃんと得るというは命題ですね。ものすごくみんなを喜ばせてるんだけど、自分は思いっきり「アッカンベー」とできたかどうかというバランスがどこでとれるかというのはいつも考えてます。
井上:それはお客さんのどの反応で判断するのでしょうか?売れたかどうかですか?
浦沢:いや、そういう部分ではないですね。最終的には自分自身の体感ですね。ボブディランなんかはそうなんですが「なにやってんだよー!」という感じなのに次第に体が揺れだすというかグルーブ感で自然に勝手に体を揺らしているみたいな感じなんですよね。よくある良いもの=泣けるものみたいなのが嫌いなんですよ。そうではない他の感動ってたくさんあるのに泣けたかどうかということに今、一般的に執着しすぎてると思うんです。頭に?マークが浮かんでるんだけど「なんだろうこの感覚!」みたいな感動を大事にしたいというか。あとはわかりやすいものっていうのは人前でわざわざやらなくてもいいじゃんと思っているところもあります。人々がわかりきっているものを提示するのは面白くないですから。「これなに!?」っていうものを提示し続けたいです。
井上:その『なにか』を探している感じですか?
浦沢:そうですね。泣くだけではない『なにか』を大事にしたいです。
井上:実際の制作を進めていく中での過程を1つずつ分けて考えたりしていますか?仮に過程を0〜10まで分けるとしたらその中で一番力を入れる部分などはありますか?
浦沢:どこの過程を分けて大事にしているというのはないです。と言うのは僕の場合、一番最初に頭に思い浮かぶのが10なんですよ。そこに辿り着くにはどうするということを考えてます。
井上:先に答えなんですね。
浦沢:最初に思い浮かぶのが10であり、答えですね。僕がよく例えるんですけど、両手に”面白水(おもしろみず)”というのが汲まれてそれをいかにこぼさずにゴールに辿り着けるかという感覚なんです。頭に思い浮かべたものをそのままストレートに世の中に発信できたら世紀の大傑作が生まれるはずなんです。ただ、僕の力不足やらなんやらでボタボタと垂れていってしまうんです。ゴールにたどり着いたときには相当量の水がこぼれている状態ですね。そのたびに「頭に思い浮かべたものをドーンとそのまま外に出せたらな」と思います。
井上:その面白水がこぼれてしまう理由はなんなのでしょうか?
浦沢:それはホント僕の力量不足や、わかりやすくするために説明を加えたりとかしていくからですね。そういったことで面白水がこぼれていくんです。でもそれをやらないとなにも伝わらない、あまりにもよくわからないものになってしまうのでしょうがないんです。
井上:そこのバランスが難しいところですよね。
浦沢:そうですね。思いっきり振り切ってフランク・ザッパみたいになっちゃうのもいいんですけど、案の定多くの人に受け入れてもらうのは難しくなってしまうので(笑)
井上:でもコアなファンはいるみたいな感じですね(笑)
浦沢:でもそこからちょっと人数増やすにはどうしたらいいかを考えますね。ビートルズくらいにするのはどうしたらいいかみたいな感じですね(笑)
井上:なるほど(笑)浦沢先生はどっち派なんですか?
浦沢:僕は両方とも実現させたいです。
井上:そういった考え方は若いころからですか?
浦沢:若い頃は暴走してわかる人にだけわかればいいみたいな感じでフランク・ザッパ寄り(笑)の考えだったときもありますが、より多くの人に届けるのってすごく重要なんじゃないかと考え方に変化しましたね。あとは本当に良い物を作れば多くの人が振り向いてくれると思ってます。ビートルズみたいになるはずなんですよね。そうならないのは本当に良い物作れてないってことなのかなぁって。売れなかったものに対して「良かったんだけど売れなかったねー」なんていう反省をよく聞きますが、それは絶対どこかに良くない部分があったから売れなかったんじゃないかなぁ
って思うんです。
井上:この冊子を読むバンドマンを含めた若いクリエーターたちにすごく勉強になりますね。
浦沢:そういう方たちに最近よく悩み相談されるんですが、こう答えるようにしてます。自分では絶対にこれは無理だというような完成形を一番最初に頭に思い浮かべろって。そういうイメージが最初にあったほうが絶対に良いです。なぜなら今の自分に積み重ねていくという作業は非常に困難でたかがしれてるからです。完成形が頭にあればそこに辿り着くにはどうしたらいいかという逆算になるので明日に向かって踏み出す一歩は圧倒的に変わるはずなんです。
井上:浦沢先生が若いころに思い浮かべた自分の完成形は実現している感じですか?
浦沢:僕はマイナーな漫画が好きだったので、メジャーのフィールドに自分のマイナーな世界観を混ぜ込んだものが完成形として思い浮かべて方法論をいろいろ研究し考えました。
井上:玄人好みなのにメジャー感がある先生の作風が正にそうですよね。それはやはり最初から狙いだったんですね。
非常にたのしいお話しをありがとうございました。
次回は浦沢先生のルーツでもある音楽的な概念を混ぜ込んでもっとコアなお話しを伺おうと思います。