このサイトはJavaScriptがオンになっていないと正常に表示されません

reading note new album「19200」リリース記念特集・全収録曲ライナーノーツ
- SPECIAL -

reading note new album「19200」リリース記念特集・全収録曲ライナーノーツ

成人男性が一日に行うまばたきの平均回数が19,200回。 一日を着実に生きた事を証明するこの数字をアルバムタイトルとして命名、reading noteのメジャー第二段アルバム『19200』が出来上がった瞬間だ。 楽曲の大半を占めるのはマイナーコードが紡ぐ陰の世界。 それは実際に今の時代を生きる彼等が肌で感じ取ったこの世の理の一側面だ。 カラ元気を売りさばく産業音楽大国現代日本に現れ始めた、”裏を暴く系”音楽集団の新鋭が語りかけるのは、声を大にして言えずとも多くの人達が抱いている心の奥の感覚。 ここでは彼等の渾身作『19200』に収録された全8曲の内側を綴る。

Text : 鞘師 至

【エクストラタイム】M01:アルバムの口火を切るのは、平郡 智章(Dr)の疾走感煽るスネアのクリアな音抜けが心地良いハイテンポナンバー。 前作から見違える程音質の上がったドラムサウンドを軸に、帯域の広いリッチサウンドで表現するナーバスな歌詞世界、という対比を実現させた楽曲。「あとどのくらい生きれるのかとか、思考に怯えが付きまとっていた時に”ダメだ、ビビってる場合じゃない、進まなきゃ”って思って書いた歌。」と、平田 勝久(Vo/Gt)の歌詞は相変わらず暗い。 が、前作には見られなかった前傾姿勢な攻めの気概も含んだ歌詞に脳内の集中力をグッと持っていかれる引力を感じる。

【clap hands】M02:ヘイト全開、遂に言いたい事を恐れず発したな!と思わず加勢したくなるニヒリストの逆襲讃歌。 メッセージ性よりハッピーな高揚感をただただ煽る音楽と、それに喜んで群がるパーティーピーポーへのディスりが詰まったバースが並ぶ。「reading noteつまらなかった、って言った奴が好きな音楽は手を叩いて皆でシンガロングするみたいなやつだったんですよ。 だったらお前の好きなやつ、やってやるよ。 ほら、手叩いてみろよ、ってね。」初めて牙を見せた男前、平田が曲終盤のブレイクで放つ「黙れよ お前」は壁ドンx 10倍の破壊力を持つ。

【かくれんぼ】M03: 塞ぎがちな主人公が外の世界になかなか出て行けずに「誰かに認めてほしくて 遠吠えを上げてる」情景。 現代社会の縮図。 学校でも、職場でも、自分の美徳の逆を行く利己的な人間を周囲に携え、その輪に飛び込む気すらしない状況で、孤立するものは周囲からアウトサイダーとして認識されるこの狂った社会で、非力でも正義に反する生き方にはNOを唱え、未だ自分だけの世界でもがく人間模様だ。 「常々僕が思ってる事を書いた曲。 こうやって今まで生きてきたんだと思う。 昔よく周囲の人に言われました。 ボーカルがもっと前にガツガツ出ていかないと、って。」と話す平田のこころの内。 弱いんじゃなく、ナンセンスな風潮に流されないという強さが故の孤独の歌。

【なにもない部屋】M04:MVも発表された本作の表題曲。 題材はやはりバンドの事。 大阪で結成したバンドメンバー全員で2011年春、未開の地東京へ。 知人もいない、知った土地もない、余裕も金も、何一つ保障がない状況で踏んだ初の東京の舞台がshibuya eggman。 彼等にとっての敵陣である外の土地東京での唯一の共通言語がライブだった。 曲と演奏に携えた自信だけが当時の彼等の武器。 客もまばらだったその日のライブ会場でようやく息が出来た、と言わんばかりの生き生きとしたライブを披露した彼等、力を持ったバンドだと思った。 五月病バンドと称されるが目には確かな野心と、音楽に対する情熱を強く持った生命力に長けた集団だ。 唯一の彼等の弱点は音楽に依存している生き方。 替えが効かないのだ。 バンドが無ければ上手く生きられないその生き方はもろく儚いが、ひとえに純粋で美しい。 この曲で鈴木 政孝(Gt)が魅せるギターアルペジオにまとわりつくリバーブ音の残響の様だ。 ファンも増え、メジャーデビューも経験し、着実に力を付け始めている今でも尚、平田は情けない自分を唄う。 「いつまで経っても苦しいんだと思うんです。 ちゃんと生きるってそう言う事だと思う。」 辛い人生を送る都会に一人暮らしの若者代表的な彼の人生観は、静かでもドラマティックだ。 そしてそれはリスナーひとり一人の人生とも照合する。 人は皆孤独だ。 つまり独りじゃない。

【超える】M05:己が衰える事を執拗に恐れる、ストイックな性格。 平田が考える”超える”という事は、後ろから追ってくる自己の怠慢から逃げ続けて前へ走り続けていく事。 能動的でかっこいいばかりじゃない、恐怖から逃れる受動の沙汰だ。 「今は常に自分を更新していく事が苦しい。 でも常に変わりたい。 常に昨日よりも善く在りたい。 かっこよく生きていたいし、いろんな事を豊かに感じていたい。 自分にとってバンドは生き様だから、そういう願いや想いをバンドで表現し続けていたいんです。 それが自分が報われる瞬間だから。 俺、ほんと寝蔵ですね(笑)。」 超えてどこへ行きたいか。 目的地はないそうだ。 ただ自らを更新する事、それを続けていく事が夢だと、彼は語る。

【呼吸】M06:過去レコーディング中に、声が出なくなってスタジオの予定を飛ばした日があったそうだ。 その時に書き上げたのがこの曲。 「このままもし、歌えなくなったらどうしようか。」というバンド人生の終わりをその時想像したという。 儚い瞬間の連続が音楽家の一生。 メディアに乗らない様になったら、活動が止まったら、皆の記憶からも消えていってしまうと考えると実に残酷な業。 存在意義を探すためのツールとして音楽で自身の位置を確認して廻る毎日、他人の記憶からいなくなったら、それは死んだも同然なのか。 「生きていたいな」と最後に言い放つ歌詞が胸に刺さる、自問自答の日々のとある断片を切り取った俯瞰の世界だ。

【19200】M07:本アルバム唯一の、バンド史上初の、ボーカルの載らないインスト曲。 深い深い海の底に不思議と差し込む光の乱反射が暗黒をエメラルドに映し出し、その中をゆっくりと泳いでいくような瑞々しくも不穏なざわつきを含んだ音の描写。 普段フックとなっている歌詞の要素がない分、reading note然とした楽曲のセンスが秀でる楽器帯の代名詞的なナンバー。 暗く透明で、やわらかくて美しい。 時に速度を変え進んでゆく推進力を司るビートと、奥行きのある空間を形成するギターライン、タイム感と空間の広がりの双方を紡いで4D世界を成立させるベースライン。 楽器だけで表現するreading noteの世界は芸術性にベクトルを置く。 後半に差し掛かるタイミングで一気に開ける印象を持つ曲のシナリオは、中井 真貴(Ba)が書いたもの。 上京してすぐに出会った同級生の友人の死が、安眠へ導かれる事を願って書いた楽曲だという。 「自分もいつか死ぬ」という概念の元、けじめとして自分できちんと意味のある作品を創り上げたいという気持ちから出来たこの曲、生まれて→生きて→死んでいく、という3部構成で出来ている。 先立った友人に恥じない人生を一日一日送る約束をこの曲に込めて、タイトルはアルバム名の「19200」。

【誰かのいた風景】M08:平田の祖父が亡くなり、忘れたくないその想いを歌に落とし込んだという曲。 「音楽の道を選んだ事も伝えられないまま東京に出て来て、じいちゃんには今自分がやってる事をちゃんと報告できず、そのまま死んでいってしまったから、ひとつ自分の中でもその後悔を背負って生きていきたいと思って書いた歌。」 歌詞に登場する場所は全て地元の実家の周りの風景だそうだ。 いなくなった後の風景。 悲しくもなぜか美しく映る情景は、故人と主人公との信頼関係の美しさから来るものなのだろう。

-闘争心から始まり、死にまつわる描写で終わる『19200』、reading noteなりの観点から描いた人間そのもののイメージのようにも思える。 「生きる事は苦しい事」とは言えど、音楽で噛み砕いて飲み込み、自身の血となり肉となったその人生を背負って仲間に癒されながら生きる彼等の姿は、同じ時代を生きる人達にやさしく共鳴して目に見えない帰属感をもたらす希望の像だ。