―早速ですが今回のアー写、ジャケ写もまたすごいですね。驚きました。どうやって撮ったのですか?
ましのみ(以下…ま):本物のペットボトル700本に囲まれました。
―700本!?とんでもない数ですね。写真のテーマはどんなものだったのですか?
ま:ましのみという世界にみなさんを引き込むというイメージでした。イメージ通りの写真が撮れてすごく嬉しいです。
―そんな今作『ぺっとぼとレセプション』ですが、作品のテーマを教えてもらえますか?
ま:まさにましのみという世界に引き込む、寄り添う、エスコートするイメージです。1枚目のアルバムは世間にむけて戦うという意思が強かったのですが、リリース以降、全国各地で私の音楽を聴いてくれている方々の顔を見たり、直接声を聞ける機会が増えたんです。私のことを知ってくださっている方がいるんだっていうのを実感することができて、そこで優しい気持ちが芽生えまして笑。
ー戦わなくてもいいんだって思ったのですか?
ま:いや、戦うは戦うんですけど、それにプラスして発信者として能動的にもっと寄り添うことができたらいいなと思うようになりました。
ーメジャーデビューして1年ほど経って、しっかり戦えたという自信があるからですかね?
ま:というよりは戦うということだけに固執しなくなったという感覚ですかね。元々ハングリー精神が原動力になって今があるというのは事実なんですが、それだけだと“今”の楽しいこととか小さい幸せの積み重ねを大事にできないのかなって。まだまだまだまだって先を見て満足することが怖くて先ばかりを見ていたんですけど、いつまで経ってもこのままのハングリー精神だと人生で一度も幸せだって感じないんじゃないかってふと思ったときがあって。そのタイミングから少しずつ変化がでてきたという感じです。
―今作全体を通して以前より柔らかくなったのかなという印象を持ちました。でも攻撃力は下がってはいなくて、以前は槍で突き刺すだけだったのがいくつかの武器から適正なものを選べるようになったような。
ま:そう言ってもらえるのは嬉しいです。最初に寄り添うというテーマを自分に課して何曲か書いたんです。そこで発見する新しい引き出しもたくさんあって。ただその反動なのか今まで以上に突き放したい衝動にかられて笑。そこからはとにかく自由にやったので幅広さという意味では前作とは結構違うかもしれないですね。
―ということは制作過程で一度頭を切り替えているんですね。
ま:意図的にそうしたわけではないですが勝手に二部構成ではありましたね。
―ただ寄り添うだけじゃ終われなかったというところにましのみさんらしさをすごく感じました。
ま:そうですね笑。一つの側面だけでは満足できなかったです。
―ではそんな今作の収録曲について聞いていきたいと思います。1曲目は「フリーズドライplease」。こういった曲で作品が始まるとは予想できていなかったです。してやられた感じ。
ま:今までの作品の始まり方とは違いますもんね。私、飽き性なんですよ。ちょっと違う感じにしたいなって思っていたのと、この曲は去年の夏くらいからライブでやっていて、すごく評判が良くて。この曲をきっかけにこのアルバムが広まってくれたらいいなという想いで1曲目という曲順にしました。
―正直アルバムの1曲目っぽくはないですよね。
ま:1曲目候補はほかにもあったんですが、この曲で自信を持って本作の勝負を始めたいなと思いました。
―この曲は“フリーズドライ”というワードから制作が始まったのですか?
ま:フリーズドライという言葉が面白いなってなにかのタイミングで思ったときがあって、そこでフリーズとpleaseって似てるなって思ったところがきっかけですね。好きだったモノに対しての熱量が自分の意図ではないところで下がることってあるじゃないですか。知らないうちに好きじゃなくなっていること。それってなんだかすごく寂しいことだなって思うことが今までもよくあって、この感情とこのテーマが合うなと思って書きました。人の気持ちをフリーズドライすることってまぁほぼほぼ不可能なんですよ。どっかで熱量の上がり下がりってあるから。でもその中で前を向いていくためにはどうしたらいいかというのを書いた曲です。
―続く2曲目は「’s」。まずはタイトルの由来は?
ま:歌詞の中にもあるように“だれかのものになりたい”という気持ちを込めたタイトルです。弱めの女の子の曲。歌自体は全体的に力強く歌っているんですが、主人公が普段言えない気持ちを強く代弁するというイメージで表現しました。
―この曲はまさにましのみ!という印象です。「プチョヘンザしちゃだめ」とか「どうせ夏ならバテてみない?」みたいな頭の中をループする感覚。
ま:しかも今までこんなに曲タイトルを歌ったことないですからさらにループ感があるかと思います。1番と2番のサビの歌詞を変えていなかったり、結構シンプルな作りにはなっています。この曲は寄り添った反動で作った方の曲なんですけど、やりたいことやっちゃいましたね。ピアノを少し忘れて打ち込みで自分の引き出しからどんなものが出せるかなと思って作りました。ピアノだけだと少し物足りなくなってアレンジ、歌詞とかを凝った物にしてしまいがちなんですが、打ち込みで差をつけることであえてシンプルにしておける勇気が持てました。
―引き算ができるようになった?
ま:全体を最初に見たからこそ引いて良いところがわかったので、あえて引いてみました。こだわりたい部分をアレンジャーさんとの試行錯誤を重ねて理想の形まで作ることができたと思っています。
―そして3曲目は「タイムリー」。
ま:こういう曲を書くぞ!って意気込んで書いたわけではなくて、普段からなんとなく制作をしているとこういうバラード系の曲を書くことが多くて、そういった中で生まれた曲です。こういうタイプの曲を弾き語りではなくアレンジをした形にすることがあまりなかったので、今回収録することができて嬉しいです。あとはこの曲は“歩く人”さんにアレンジを担当してもらったのが大きいですね。面白い音を使うアレンジが元々ずっと好きなのですが、その理想型みたいな方が“歩く人”さんで。音を聴いた瞬間に絶対この人!って決めました。しかも実は同い年で。今まで年上の方と制作作業をすることが多かったので、私の言葉の細かいニュアンスとかもくみ取って音にしてくれていたんですが、この曲の制作過程でもっと明確に言葉にすることだったりとか、伝え方、伝えるにあたっての知識の必要性とか、たくさん新たな経験をすることができて刺激も受けましたし、今後の向上心にも繋がりました。
ー4曲目は「美化されちゃって大変です」。ここまでポップでかわいい感じの恋愛ソングは珍しい印象でした。
ま:今までなかったですよね。ゆるめで明るくてポジティブでっていう曲を1回書いてみようというテーマを自分に課して書きました。というかそうしないと開き直って書くことはできなかったでしょうね。
―普段のましのみさんが作る楽曲とは少しタイプが違いますもんね。
ま:こういう曲を書こう!って思わなければ開けなかった引き出しはあったかなと思います。私にもこういう引き出しがあるるんだなということが知ることができました。この曲くらいちょっとおバカになっちゃうくらいな時が人間一番高揚感があってキラキラできるんじゃないかなって。そういう感情の高ぶりがあるから人間味がありますよね。
―新しい世界観ですね。そしてその曲に続くのは「Q.E.D.」。タイトルはなんの意味なんですか?
ま:数学で使う証明終了という意味です。数式とかを解いたあとに最後に書く言葉。でもこの曲では証明終了ができないということを歌っているので逆にこのタイトルにしたら面白いかなって。
-個人的にこの曲はライブでいつもやっているというイメージがすごく強いです。
ま:確かにいつもやっていますね。オーディションで優勝したときの曲で、それから1年くらいはライブでやらなかったことは一度もないんじゃないですかね。
―eggmanに初めて出演してもらったときもやっていたかと思います。だからこの曲をこのタイミングで音源として聴けるのが楽しみでした。でも今までライブでやっていたアレンジとはガラリと変えていますよね。
ま:この曲ができたタイミングより自分のピアノの演奏レベルが上がったというのもあって、もっと変えたいなという願望はあったんです。そこで去年9月のワンマンライブのリハでサポートミュージシャンの方々にいろいろお願いしながら作ったアレンジを元に今回の音源用にさらにアレンジを加えてもらいました。
―アレンジって面白いですよね。同じ曲なのに一気に生まれ変わる。
ま:全然違いますよね。
―この曲の原型を知っている方は驚くんじゃないですかね。
ま:私としてもどの形のこの曲も好きなのですが、今回はこの形のこの曲をみなさんに愛してもらえたら嬉しいですね。
―そんな曲に続くのは6曲目の「どうせ夏ならバテてみない?」シングル曲だけどこうやってアルバム収録曲としての曲の並びで聞くとまた違う印象でした。
ま:この曲がアルバムのメイン曲みたいな扱いになると夏のアルバムみたいな印象になってしまうかなと思ったのと、この曲の非常にわかりやすいキャッチーさのおかげでほかにいろいろなことにチャレンジできたので、アルバムの真ん中に置くことで左右に分けるようなイメージで6曲目にしました。
―やはりシングル曲ですし、この曲が今作においての大きな役割を果たしているわけですね。
ま:大きいですね。こんな夏らしい曲を冬リリースにアルバムに収録できるなら春や秋などいろいろな方向性の曲を入れても一つの流れにできるなって安心して思えました。
―そしてそこからガラリと変わって「錯覚」。前の曲からの落差がすごすぎて。
ま:「どうせ夏ならバテてみない?」がこの曲をさらに活かしてくれますよね。
―もうジェットコースターみたいな感覚でした。
ま:そうですよね笑。この曲をより活かす曲順にしたかったのでそう思ってもらえると非常に嬉しいです。自分でグランドピアノを弾いて、チェロの生音を入れて。寄り添うというテーマがあったから温度感が伝わる物にしたいなというイメージでした。
―生音ならではの温度感ってありますよね。
ま:電子音とはやっぱり違うものがありますよね。あとは、この曲は言葉の選び方は意識しました。寄り添うということは言葉の選び方って大事だと思うんです。選択肢が二個あったら今までは刺激の強い方を選んでいたと思うんですが、この曲に関してはストレート、温度が伝わる方の言葉選びでしたね。例えば“君のことよく知らないけど”というサビの言葉とかは寄り添うというテーマでなければ選んでなかったなと思います。
―確かにましのみさんの今までの感じだともう少し捻った言葉を選びそう。
ま:そうそう。あえて捻らず。それをしないのもやってみようかなって。でもそれを事前に決めないとついつい捻っちゃう笑。
―その捻りというか、ましのみさんの視点の面白さが存分に表現されている印象なのが次の曲「コピペライター」。これは現代だから生まれた曲かなと。
ま:まさにそうですね。YouTubeでいろいろなバンドのMVを見ていて、コメント欄に嫌気がさして書いた曲です。パクリとか○○に似てるとか。こんな批判とか気にせず頑張って音楽作っていこうよ!って勝手にですが思って。私は私のやりたいことを作ってやろうって。
―それをテーマにするのって結構勇気があるのかなと思いました。
ま:常に戦う精神に基づいての部分なのでそこはそこまで意識しなかったですね。ただまぁ曲を書いたのはそれがきっかけではあったんですが、音楽以外のことでも普段から結構感じていたことなんです。流行りとかことあるごとになにかを批判・指摘したりする人っているじゃないですか。まずは同じ土俵に立ってほしいなって。
―例えば特になにも考えず同じように批判をしている人が10人いればその10人はその括りの中での流行りですもんね。
ま:まさにそれです!結局そこはその中での流行りに乗ってるだけだなって。自分で決めたことに突き進む大事さってあると思うんです。ましのみとして強い気持ちを表したという意味ではこれも新しい側面かもしれないですね。
―個人的にはこの曲すごく好きです。そしてこのアルバム作品がまた一気に加速する印象をもった9曲目「ターニングポイント」。
ま:4曲目の「美化されちゃって大変です」と同じような時期に作った曲で、アップテンポで爽快感・疾走感、そしてなおかつポジティブな方向に進める曲が書けるかなっていうテーマを自分に課してみました。そのときに映画「ソラニン」を見たんです。素直に物事を信じる気持ちがあれば綺麗事だなって思ってしまうようなことでも力に変えることができるんだなって感じたんです。全然自分のことを書いていくつもりはなかったんですけど、書き終えてみたら意外に自分の内面的なものもでていてすごく心に響きました。いろいろな意味を込めてターニングポイントというタイトルをつけました。
―10曲目の「ゼログラビティのキス」。これを頭の中で構築できるましのみはやっぱ恐ろしい才能だなと思いました。妄想能力高いなと。
ま:確かに妄想能力は高いかもです笑。
―以前のワンマンライブでも宇宙をモチーフにした世界観を構築していましたよね。
ま:自然とか宇宙とか大好きなんですよ。
―この曲のテーマを教えてもらえますか。
ま:“一番幸せな瞬間”を振り返ることができたらきっとそれが立ち直るきっかけになるなって。そのときにポジティブが必要だなと。そんな曲を書きたいななん考えていながら外を散歩して空を見上げたらなんだかそのまま吸い込まれるような感覚になって、そこからこの曲のインスピレーションが生まれました。
―東京の空で吸い込まれそうという感覚になったのが面白いですね。正直東京の空はあまりキレイには見えないと思うので。
ま:キレイだなって思ったというよりはなんか不思議な感覚でした。でもよくよく思い返してみたら前からこういうことってあって、空だけを見て地面をしばらく見ないでいると宇宙にいるような感覚になることがあったなって。
―そこからこの曲が生まれたわけですね。浮遊感もありつつリアリティな部分もあって非常に面白い曲ですよね。
ま:ありがとうございます。
―そして11曲目の「凸凹」はもう鳥肌モノでした。
ま:寄り添った反動が一番大きくでた曲ですね。聴きやすさを度外視して衝動とかを一つの表現としてどこまで突き詰めることができるかというテーマ性でした。
―相当難易度の高い楽曲ですよね。
ま:めちゃくちゃ難しかったです。しかもクリックも使わず1発録りだったんですよ。
―だからこその空気感が凝縮されていますよね。間とか息づかいとか。
ま:今作の中で一番最後に作った曲で、作った翌日にレコーディングだったんですが、エンジニアさんからBPMもバラバラだし、一発録りでやったほうがきっと面白いよっておすすめされてやってみたらすごく良かったんです。そこから何回か一発録りを繰り返して完成しました。
―レコーディングは相当な労力だったんじゃないですか?
ま:気持ちを込めて歌う曲でもあるので集中力の消耗は半端なかったですね。歌い終わるごとにちょっと気が抜けてしまうくらい。でも今まで到達したことのない感情の域にたどり着けて、曲への入り込み方とか。不思議な体験もできたし、一発録りにちょっとハマっちゃってます。ここまでの達成感・高揚感とかなかなか味わえないので。
―また前の曲からの振り幅がとんでもないですよ。12曲目の「AKA=CHAN」。しかも赤ちゃんというタイトルなのにサウンドめっちゃファンキーでかっこいいのというギャップがすごい。
ま:それがやりたくて作ったんですよ。“I want you baby”というような愛情を表す歌詞ってよくあるじゃないですか。それの“you”を“to be a”に変えたら赤ちゃんになりたいになりたいになるな(笑)って前から思っていて、それを曲にしちゃえと思ってボーナストラック用に作った曲だったんです。完全に遊び。赤ちゃんをあやすおもちゃの音も入れてみたり。でも実際完成してみたら自分の核心を突かれてしまって。もしかしたら赤ちゃんになりたいって人間の真理なのかもって思うくらい。今の感覚のまま赤ちゃんに戻れたらそれこそ強くてニューゲームだなって。最高の曲ができたからこれはボーナストラックじゃもったいないなって思って12曲目にしました笑。
―なるほど笑。この曲を聴いてましのみさんって赤ちゃんみたいだなってちょっと思いました。IQ200の赤ちゃん。
ま:それパワーワード過ぎます笑。ありがとうございます。
―そしてボーナストラックとして収録されているのが「夢ノート」。
ま:音楽活動を初めて一番最初に書いた曲です。以前三田祭(慶應義塾大学の学園祭)のテーマソングにしていただいて、去年11月に三田祭にも出演させていただいて、改めてこの曲を音源化したいなと思って再録しました。
―今このタイミングでこの曲をCDにできるというのは感慨深いですね。
ま:3月で大学卒業ですしね。ガラにもなく感慨深いなって思ってしまってます笑。音楽活動を続けてこなかったらこうやってこの曲を音源化することはなかったと思うと、すごく嬉しいです。2番の歌詞を今の自分に照らし合わせて少し書き直してピアノアレンジもしなおしているんですが、逆に1番はその当時の感覚のままを残したかったので全く変えでていません。自分の成長を感じることもできたし、この時の私があるから今があるなって思える良いきっかけでした。当時はこの歌を歌うのはなんだか少し恥ずかしくて。
―ましのみというアーティストの成長ですね。これから楽しみにしています。ありがとうございました!
ま:ありがとうございました!これからもよろしくお願いします!