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カノエラナ interview
- SPECIAL -

カノエラナ interview

夢か現実か。彼女と話しているとそこの境界線がよくわからなくなる。独特な楽曲の世界観、独創的な視点、遊び心も満載なのに、しっかりとした芯があって。インタビューをしていてとても不思議な感覚になった。キョウカイセンを超えた先に見えた物。みなさんそこを覗いてみてはどうでしょうか?

インタビュアー:ブッキングマネージャー窪田

―今作のタイトルは『盾と矛』ということですが、タイトルの由来から聞かせてもらおうかなと思います。

カノエラナ(以下…カ):収録曲をすべて決めてからタイトルを決めました。最初はいわゆる“矛盾”と同じ並びで矛と盾が候補で、感じだとちょっと堅い感じもしたからそこからカタカナにしてみたんですけどなんか違うなって思って漢字に戻して、矛盾という言葉をさらに矛盾させたら面白いかなと思って逆にしちゃえってなってこの『盾と矛』というタイトルになりました。

―ということは語源としては“矛盾”なんですね。そこはインスピレーション?

カ:それもありますが、今作が本当に破天荒というか(笑)。10曲全部がシングル曲くらいの勢いとパワー感を持っていて、それがカノエラナという一人のアーティストから生み出されていて、でも全部違う曲みたいな感じもして、でも一人でっていう矛盾を表現するタイトルはこれだなと思って決めました。

―今話があったように振り幅がとんでもないんですよね。もうちょっと驚いちゃうくらい。

カ:そうですよね(笑)。

―作品のテーマとしてそういった思惑はあったのですか?

カ:それはありました。前のフルアルバムが『「キョウカイセン」』というタイトルで、“キョウカイセン”の先で私がやりたいことっていうのを突き詰めたんです。その結果、私がやりたいことを好きなようにやる、やりたい放題好きな物しか詰め込んでいない表現をしたかったんです。尖っているみたいな。矛を持って攻め攻めな部分もあるけど、でも守りも覚えたから盾も持っているし。そういうことを考えていったらこのテーマにたどり着きましたね。

―突き詰めた結果がこの振り幅ということはカノエラナというアーティストの本質がここにあるという感じですかね、

カ:活動当初からそういったスタイルでやってきて、誰になにを言われようともそれを突き通してきましたが、今作ではそれがより強く、激しくなった感じかなと思います。

―純粋な興味も含めての質問になってしまうんですが、この全くバラバラな10曲をどうやって作詞作曲していくんですか?

カ:基本的には作詞作曲の作業は家でやります。外に出たときにテーマを見つけてとかはありますが。一つのテーマを見つけてそこから連想ゲームみたいに言葉を書いていって、それを元に書いていくことが多いですかね。

―そのテーマの見つけ方というか視点が独創的ですよね。

カ:これは昔からなんですが、普通気にしないようなことがとても気になってしまうんです。普段あまり外出もしないのできっとみなさんからしたら特別ではないことでもいちいち反応してしまうというか。例えばこの前まで普通にあったビルが取り壊しになって工事が始まることとかあるじゃないですか。それを見て何人くらいの人がどのくらいのペースで作業しているんだろうとかが気になってしまうんです。普通は省くような細かい部分まで全部描く、本当はいらない情報はあたかも大事な情報のように扱うというのが作風になっていますね。物事をはっきり、輪郭をしっかりさせてたいんです。今作にもそういった部分が随所にあるかなと思います。

―世界観はしっかり構築されているけど、タイトルや言葉遣いはシンプルですよね。

カ:そこは意識しています。何の歌かすぐにわかることって大切だなと思っていて。これはなにについて歌った曲です!というのを最初に提示したくて。

―でも曲名から想像もつかないような展開をすることも多いですよね。今回、曲を聴く前にタイトルを見て、個人的にどんな曲かなってちょっと想像してから曲を聴いたんですが、まぁ想像通りにいかないことがほとんどで(笑)。

カ:あはは(笑)。そう言ってもらえるのはとても嬉しいです。ギミックというか罠というか、一筋縄ではいきたくないんです。ひねくれているので(笑)。してやったりです。

―完全にしてやられました。

カ:やったー!(笑)。裏切って裏切り続けるというのはカノエラナというアーティストが生み出す音楽としては一生のテーマです。

―こういった振り幅の大きい10曲を作るときの頭の切り替えってどういう意識で行っているのですか?

カ:それぞれの曲で完全に別物です。レコーディングが一番わかりやすいんですが、その曲に自分自身が完全に入り込みます。曲に合わせた色で空間を塗りつぶすようなイメージを持って1曲ずつ意識も声色もすべて変えて。

―そのレコーディングだと1曲録るのにかなりの労力を費やすことになりますね。

カ:そうなんです。だから多くても1日2,3曲くらいしか録れなくて。それだけでも2,3人別の主人公が私の中に入り込んでいますからね。しかも今回10曲すべてで違うマイクでレコーディングをしたんです。エンジニアさんと色々相談しながら試していって。そういったエンジニアさんとの会話やPRIMAGICさんとの制作もここ最近どんどん精度が高まっている感覚があります。いつも私の想像を超える物を一緒に作っていけているので本当にありがたいです。特に歌や作詞作曲に関してプロデューサーさんがいるわけではないので、客観的に見てくれて細かいニュアンスとかを相談させてもらえる方がいるのはとても大きいことで。

―そんな今作の中で盾と矛、それぞれの側面で1曲ずつ思い入れの強い曲について話を聞かせてもらいたいです。

カ:矛のほうはリード曲でもある「嘘とリコーダー」です。

―衝撃の始まりの曲ですね。

カ:“先生僕がやりました”というフレーズで始まる曲ってなかなかないと思います。聴き手をドキッとさせる始まり方。この曲を書いたときは映像がすごく鮮明に思い浮かびました。登場人物や周りの空気感も含めて、舞台背景や設定がすべてしっかり固まっている状態で、学生時代にタイムスリップしたようなイメージでした。この曲に関しては主人公になりきるというよりは流れている映像を客観視をして、それをメモ、スケッチしていったような感覚で書いていきましたね。ある種夢を見ているような。

―ということはこの曲に関してはカノエさんは「嘘とリコーダー」という映像作品の監督であり脚本でもあるということですかね。

カ:そういった感覚には近かったです。

―リコーダーをテーマにしたのはどんなきっかけだったのですか?

カ:テレビでリコーダーの特集がやっていてそれをたまたま見ていて。ほぼすべての方が学生時代に触れていて、リコーダーという存在はほぼ間違いなくみなさん認知していると思うんです。でもそれを深く掘り下げたりとか、リコーダーで特別なエピソードがたくさんある方はあまりいないという特殊な存在だなと思って。

―そこに目をつけるのが面白いです。

カ:リコーダーから連想ゲームで世界観を広げていって。

―この曲をリード曲にできるアーティストはカノエさんしかいないですよ。

カ:この曲は本当に攻めですね。ノーガードで矛を持って敵陣に攻め込むような曲(笑)。10曲の中で間違いなく攻撃力最強です。

―ではそんなこの曲と相反する盾の曲も1曲挙げてもらおうかなと思います。

カ:9曲目の「花束の幸福論」を挙げさせてもらいます。タイトル詐欺というか、このタイトルだけで曲を想像するとやんわりとした感じを思い浮かべる人も多いかと思いますし、曲のスタートもすごい爽やかで。でも最後まで聴くと、んっ??あれ!?っていう気持ちにさせる曲。2回聴かないと成立しないような。人って外敵から身を守るためになにかしら覆い被せてガードをしていると思うんです。私自身もカノエラナというものを身に纏っていて。この曲の主人公二人はそのガードとして大きな盾を二人で持って外敵から身を守っているようなイメージ。自分たちの世界だけで完結していて、周りからなにを言われてもそれを気にせず自分たちの世界で。そういった意味で盾の曲かなと思います。

―今2曲の話を聞いただけでもまったく異なるタイプの曲ですし、今作は10曲全部をそれぞれの楽しみ方で聴いてほしいなと思いました。

カ:ありがとうございます。私としても今作の出来映えはとても満足しているのでそう言ってもらえるのはとても嬉しいです。

―12月号ということで今年を振り返ってみてどうでしたか?

カ:2018年がとても良い年で、2019年はそれをさらにアップグレードしたいと言ってきたんですが、実際にアップグレードできたんじゃないかなと思える1年でした。しかもそんな1年の最後にフルアルバムをリリースすることができてとても嬉しいです。

―それでは最後に来年の目標・展望を聞かせてもらいたいです。

カ:音楽活動を続けてきて、ちゃんと一歩ずつ進んでいくのが私には合っているのかなと思ってきているので、大きな目標を立てすぎず目の前にあることをしっかりと見て消化していきたいなと思っています。あとは歌だけじゃなくアーティストカノエラナとして色々な経験をして成長していきたいです。それがきっと音楽に反映できると思うので。