Stone in the “Leo”
「ねえ、取り戻すって言ったって一体何を取り戻せばいいわけ?」
「そりゃあ、もちろん全部よ、全部」
「全部ってあなた、そんなに上手くいくかしら」
「やられたらやりかえす、取られたら取り戻すの。穏便にすまそうとしちゃ駄目よ。楽しくて仕方がなかったあの時の気持ちも、悲しくてやりきれない今の気持ちも、全て私たちの物なんだから」
君の言葉はいつだって熱を帯びている。覚悟を決めている人間にしか出せないそれが、私にはとても羨ましかった。
「そうだね」
「あんたは優しいからね。出来るだけ怒りたくないんでしょう。他人を傷つけたくないんでしょう。でもそれって、本当に優しさかしら」
「…」
「これから先、黙っていたら失うものばかりだと思うわ」
本当は、目の前にある掛け替えのない日常を守れるのは自分だけだと気付いていた。自分がひたすら無力なように感じてしまうのはただ動くのが面倒だからだ。私が望めばこの体はいつだって外に飛び出せる。
「それじゃあ、私は此処を出るけど。あんたは?」
今までの日常を守るのも、新しい日常に順応していくのも、好きな方を選べばいい。でも、今選ばないといけない、たった今覚悟を決めないといけないのだ。君が扉に手をかける。いつかの光景が脳裏をよぎり、もう二度と後悔なんてしたくないと思う。私は微かに、けれども確かに、君に届く音量で、声を上げた。