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渋谷龍太 from SUPER BEAVER 愛すべきマイナー記念日達
- SPECIAL -

渋谷龍太 from SUPER BEAVER 愛すべきマイナー記念日達

9月21日
『ファッションショーの日』
 1927年、銀座の三越呉服店で日本初のファッションショーが開かれ、初代水谷八重子ら三
人の女優がモデルとして登場しました。
 当時はまだ洋服より着物が主流でした。
「これは?」
「いいんじゃん」
「これにヒール合わせたらちょっとやり過ぎかな?」
「いや。いいんじゃん」  リビングの姿見に映った自分の姿を見ながら女は男に訊いた。若手の芸人たちを集めたテレビ 番組を観て、男は大きな笑い声をあげている。女は乱暴に足音を立て、テレビと男の間仁王立ち になった。
「ねエ」
「ん」
「ちゃんと見てよ」
「見てるって。あはは、こいつらマジおもしれエな」  それでもテレビを観ようと懸命に首を曲げてそう言った男に、女は「何よ」と吐き捨てた。  それからしばらく、この日の昼から夕方にかけて買い込んだ洋服を次々に着替え、女は鏡に映 る自分をいろいろな角度から眺めていた。もう一度意見してもらおうと、テレビに没頭しながら ヘラヘラ笑うその後頭部に向かって声を掛けようとしたのだが、思い止まって一度自室に戻った。  リビングに戻ってきた女は、着替えた服を男に見せた。「これどう?」
「ん?」
「似合うかな」 「いいんじゃん」男はそう言って再びテレビに顔を向けたが、すぐに振り返った。「え、それさ、 同じの持ってなかった?」
「え」
「半年前にふらっと上野行ったじゃん、その時さ、お前それと同じような服着てたよ」 「わ、すご。絶対ちゃんと見てないと思ったから前から持ってる服着て試してみたんだよね」 「だから見てるって。服に関してだけ、俺昔っから忘れないんだよね」 「この服、その一回しか着てないのに。すご」
 男は得意気な表情で笑った。  一通り装着し終え、女はいい買い物が出来たと満足しながら一つ一つタグを外した。変なシワ がつかないように丁寧に畳んでいたその時、女の脳裏に一つの妙案が浮かんだ。やおら立ち上が り、女は再び自室に戻った。
「これは?」
 着替えを済ませた女は、男を呼んだ。  男はテレビから目を離そうとしなかった。「もう、全部似合うって」 「ちゃんと見て。どう?」  男は面倒臭そうに首を捻ってその服を眺めた。そしてすぐに言った。 「だからさ、これなんのゲームだよ。その服も見たことあるから」
 
 「いつでしょう」
「先月。渋谷かなんかに飲み行った時。なんかいろいろ覚えてるわ」
「ん?」 「その服さ、脇のところの内側に見えないようにファスナーついてたよな? どうやって脱がし たらいいのかわかんなくて困った覚えあるわ」
「あはは。よく覚えてるね」  男はテレビに向き直った。「もう満足した? 一緒にテレビみようぜ、この番組まじおもしれ エから。こいつら全員売れるわ。間違いないわ」ゆっくりとソファに腰をおろした女をチラっと 見て男は言った。「あれ、部屋着になんないの?」
「あのさ」
「何?」
「私、これ着るの初めてなんだよ」  そう言われて男は改めて、女が着ているベージュのワンピースを凝視した。「いや、それはないっ て。間違いなくその服見たことあるから。胸元のとこが斜めに切り返しになってるのめっちゃ覚え てる」
「でも、本当に初めてなんだよね」 「だアかアらア。なんなの。引っ掛けようとしても無駄だから」   テレビがCMになって、男は大きな欠伸をした。女は言った。
「友達からもらったんだよ」
「は?」
「私の友達がね、もう着ないから、ってくれたの。この服」
「え?」
「しかも三日前」
「ん?」
 男は瞬きを繰り返した。しっかりと記憶を辿って、行き着いた先で青ざめた。 「本当によく覚えてるね」女は言った。「服だけは」