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Emerald 東京回遊記
- SPECIAL -

Emerald 東京回遊記

第6回「オーディオ回遊」

こちら東京を拠点に活動する都市型ミュージック集団EmeraldのVo.中野です。

開始後半年に差し掛かる本コラム。
回遊をテーマにした開けたコラムのはずが、巷を騒がす某ウィルスにより、想像を超えてやや閉じた印象の文章が増えてしまった。

見事にお預けをくらった夏、何か浮かれた遊びはないものかと考えあぐねているうちに、台風と一緒にやってきた寒気&低気圧とともにすっかり秋めいてしまった。本来であれば夏の疲れを癒す束の間の休息といったところか、レイドバックした秋のフェスへ向けて胸を膨らます季節だ。

Emeraldはといえば、はやる気持ちを抑え、作曲に勤しんでいる。
驚くほどのクオリティを各自自宅で重ねられるようになり、制作環境は大きく一変した。
手応えを感じる新しい曲たちが、僕たちをドライブさせてくれている。

私といえば、、、
部屋のオーディオ環境を再構築し始めてしまった。
というわけでオーディオについてかなり詳しくなってしまった。

とにかくレコードを聴く機会が増えてきたので、ターンテーブルを変えた。
言わずと知れた名機、Technics SL1200MK5である。
さらにメインアンプをmarantz PM5003に変更。
本当はLUXMANのビンテージアンプが欲しかったが断念した。
バナナプラグ(アンプとスピーカーをつなぐケーブル)まで新調し、今できる最大のアップデートを試みた。
そうなるとついに禁断のスピーカーに手が伸びてしまった。

 

Marantzにあうスピーカーを探すも、B&Wのスピーカーはどれも高価で庶民には手が伸びない。
そこで購入したのが中古のDALI speakerだ。小さいのにまろやかでパワフル。そして程よくヴィンテージ感がある。レコード再生にはうってつけだった。

こんな風にプールに浸かって楽しむはずの夏は、オーディオ沼にはまって終わっていった。
しかしながら、楽曲制作のプレイバック環境も大幅に向上し、自宅で過ごす時間がとても楽しくなったのは確か。かつ大きな発見は自分にとって、オーディオは、父との思い出をつなぐとても大切なものなのを思い出す良い機会だった。

多感な思春期に父親への反発を覚えた時期もあったが、父はオーディオへの目利きは確かで、いつもいい音でカセットやレコードを聴いていた。僕も立派に影響を受けていたことを痛感して笑ってしまった。

家族が寝静まった後、暗い部屋でしかめっ面でお酒を飲みながら、父はよくレコードを聴いていた。階段の下から聞こえてくる不思議な音楽と大人の時間。まさに自分が今そんな風に音楽を楽しんでいる。僕の場合は踊り出し歌い出してしまうので、少し父とは違う。

技術の粋を尽くしたオーディオは壊れにくい。最後まで力を振り絞って音を鳴らしてくれる。
バブル期を過ごした大人たちは、マイホームやマイカーと同じように自宅に優れたアンプのシステムを組むことを豊かさの象徴のようにしていた節がある。現代になり、そうした遊びを手放す人が増えていて、巷にはたくさんの中古品があるが、名機や状態の良いものには、しっかりと価格がついていて、なんとも愛おしい。人間まだまだ捨てたものではないなと思う。

ちゃっかり自分のバンドのレコードなんかも聴いて楽しんだ。
音楽にはまだまだ色々な楽しみ方がある。その豊かさはしばらく手放せそうにない。

Emerald Vo.中野陽介