《1/fの揺らぎ、樹上のホワイトノイズ。羊水のなかで聞いていた、それ。》 吉牟田 直和[Bass]
いくらか歳を重ねてくると、どこどこの有名人が結婚したや、話題映画の封切りがいつだとか、そういった新しいものへの興味よりも、変わらない日々の中での些事にばかり注意が向くようになる。例えば飼い猫がいつもと違う場所で糞をしたことや、今日は日が暮れるのが早いななど、そういうことだ。とりわけ私は私の肉体を持ち続けることには変わりはないので、畢竟、自分の身体の変化にばかり注意がむく。歳をとると筋肉痛が遅れて出てくる、と言われているが、そもそも筋肉痛はいつだって遅れて出てくるものである。歳をとって自分の身体の変化にばかり注意が向くようになるのだから、遅れて出てきた筋肉痛にようやく気付くわけである。
逆にいえば若い頃には「こんなことにも気付かなかったものなのだなあ」と開眼するような気持ちになるが、人間の意識というものは存外、雑にできているのだろう。そもそも認識できていること自体が少ないもので、人間様が思っているよりも、私たち人間は自分自身のことを分かっていないものなのだ。自分の声も外と中では違うし、自分の匂いも分からない。まあ、人間なんてものは取り繕ってみたところで大した生き物ではないのであろう。
さて、なんともなんともまどろっこしい書き初めにはなったが、最近は自分の身体の変化にばかり興味がいくのだから、コラムに書こうと思うこともそんな小さなことばかりになる。例えば、最近の私の「気付き」といえば自分の体が静電気を起こしやすくなったのだ、という点になるわけであるが、その謎解きをしてみるのは案外楽しい。去年まではそれほど静電気に悩まされることはなかったので、これもまた一つ、加齢が原因であろう。歳をとると肌が乾燥すると聞くが、それに違いない、と今月はそんなことばかりを考えていた。しかし、注意ぶかく自分の行動を見つめ直していると、どうやら静電気が起こるのは決まって煙草を吸った後なのである。きっとそこに原因があるに違いない、と考えるに、最近喫煙用の椅子を買い替えたことが原因であることに思いつく。新しい椅子はプラスチック製のものになるのだが、どうやらそれが摩擦を起こして静電気を発生させるらしい。加齢のためではなかったのだ。めでたし、めでたし。
さて、まだ字数が残るので少し書くが、こんな瑣末なことであってもすんなりとコラムが一本書けてしまうようになったのだから、なんとも生きるというのは奥深い。歳をとっても尚、生きることは面白いものである。
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《1/fって何すか。》 村上 学[Vocal/Guitar]
このeggmanのコラム、もしかしたら今年からのwebでの公開で読まれてる方も、フリーペーパーの時から読んでる方もいらっしゃると思いますが、私自身としてはもう6年目の連載になっておりまして(打ち切りにならない奇跡と編集者に感謝)、例年12月号は毎年その年に出会った文化芸術を紹介してますので、今年も。
まず映画。「鬼滅の刃」と言いたいところですが、恥ずかしながら全くこちらはノーマークで、やはり「パラサイト」からのポンジュノ作品でした。個人的には「殺人の追憶」と「母なる証明」か好きでした。自粛期間はマーティンスコセッシ作品を片っ端から観て、さらに菅原文太さんの「トラック野郎」シリーズも観てました。映画館では、「三島由紀夫VS東大全共闘」を見に行きました。内容はわたしには難易度高めでした。
小説は、カミュの「ペスト」です。ペスト感染症のアウトブレイクの話です。自粛期間中に読んだ本で、本屋に行けなかったので、Kindleで読んだのですが、自粛期間が明けて結局本屋で本も買いました。こんな状況だと、フィクションもフィクションに感じない不思議な感覚を経験しました。読書は、読む本も大事ですが、読むタイミングも同じくらい大事です。作品のなかでは人間模様も多様で、同じ状況でも幸福な人も不幸な人も色々いるよなあと、感じました。
美術館や博物館には行けませんでした。今年は行きたいなあ。
あとは、インターネットで落語を聞いてました。古今亭志ん朝さんの噺はとても耳が幸せになります。自粛期間が明けて、新宿の末廣亭という寄席小屋に一度ひとりで行ったのですか、換気のために窓が全部空いてて、噺家さんの声がなんとも聴きづらく切ない思いをしました。それでも、あの雰囲気は何にも変えがたいものなので、ライブハウス同様に寄席小屋も潰れないで欲しいです。私のお勧めの一席は“井戸の茶碗”です。
世相の変わった今日でも、芸術や文化に触れる機会が全くのゼロにならずにすむのはインターネットの恩恵も大きいですが、やはりライブハウスで聴く音楽、寄席で聴く落語、映画館で観る映画、美術館で観る絵画から受け取るものは、そこでしか手に入れられません。分かってはいたことですが、改めてそんなことも感じた一年でした。
文化芸術に触れる非日常は心を豊かにして、まわりまわって日常を充実させてます。2021年もそんな一年になりますよう。来年も宜しくお願いいたします。
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[テスラは泣かない。]
L→R
吉牟田直和(Bass)/飯野桃子(Piano&Chorus)/村上学(Vocal&Guitar)/實吉祐一(Drums)
印象的なピアノのリフレインを武器に、圧倒的なライブパフォーマンスで各方面から脚光を浴びる、鹿児島発4人組ピアノロックバンド。インテリジェンス溢れる音楽性と、エーモショナルなライブパフォーマンスを融合させた、他の追随を許さない孤高のロックバンドである。
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