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テスラは泣かない。 1/f
- SPECIAL -

テスラは泣かない。 1/f

1/fの揺らぎ、樹上のホワイトノイズ。羊水のなかで聞いていた、それ。》 吉牟田 直和[Bass] 

 冬は苦手だ。すぐに暗くなる。いちいち外へ出るのにも着替えるのがめんどうくさい。ヒートテックインナーを仕込む。ヒートテック股引を仕込む。靴下を履く。服を重ねる重ねる重ねる。それだけもう外に出る気力の半分くらいはなくなっている。暖房の効いた部屋の中にいたい。ものぐさに負けてダラダラとしていればもう暗くなっている。部屋の中が冷えてきたから、暖房の設定温度を一つあげる。中途半端に暗い部屋の中でタバコを吸う。めげてしまわないように電気をつける。だいたいいつも物憂げだ。違うな、ものぐさだ。時間がないわけではない。めんどうくささに負けるのだ。本当にしたいことは案外少ない。本当にしたいことには従順になる。人間なんて怠惰なものだ。怠惰でわがままなことは悪いことではない。本当にしたいことと、本当にしなければいけないことは、ぼーっとしているうちに急にやってきて、それぞれの肩を叩く。
 ただし、ご飯さえも食べられなくなったときは、少し悪い。どうやら何もしないことはジワジワと人間の首を絞めるようにできているらしい。気付いた時には手遅れに、ということも時折ある。多くの場合はその前に体の方から危険信号を送る。お腹が空いたから動かなきゃ、眠りたいから寝なきゃ。そろそろお風呂に入らなきゃ。誰かと連絡を取りたいな。当たり前のことだ。でも、すごく当たり前のことが積み重なってどうにか生活が回っている。回っている間は、多分、きっとなんとかなる。当たり前はとても嬉しい。当たり前ではない今の日々の中で生きているからこそ、きっと分かることはあると思う。
 さて、もう夜だ。夜には音楽でも聞いたらいい。酒を飲むのだっていい。家で夢中になれる趣味が見つかればさらにいいけれど、そんな素晴らしい日々じゃなくてもいい。寒いのが嫌で、動きたくなくて、服をたたむのがめんどうくさくて、ソファに投げ捨ててしまうくらいの塩梅で良い。布団に入って携帯だけを見つめて「これでいいのかな?」と、眠気を待つことさえも、当たり前の日々だ。それこそが愛すべき当たり前の日々だ。猫の動画を見て「かわいい」と思う。料理のユーチューブを見て「腹減った」と思う。それだけでいい。どうせ、そのうち、本当に大切なことか、本当にしなければならないことが「ほら、いけ」とぶっきら棒に言ってくれる。

 

1/fって何すか。》 村上 [Vocal/Guitar] 

 高校生のとき、大人になってお金を稼ぐようになったら底の分厚いラバーソールを履いて、YAMAHAのSR400というバイクに乗る予定だった。大人になってだいぶ時間は経ったが予定は未定のままである。予定は未定とカッコつけた言い方をしたが、そもそも私はバイクの免許をもっていないし、車の免許もオートマ限定である。原付さえ乗れる自信がない。18歳の時に自動車学校に通って免許は取得できたのだが、その道は険しく、当時担当してくれた教官に「私はこの仕事を始めて20年になるが、君ほど運転が下手くそな子は初めてだ」と言われ、試験も2回落ちた(仮免試験の不合格もいれたら3回)。自動車学校を卒業した日、もう二度とここには来ないと誓い、バイクにまたがる夢も忘れ去られていった。
 ラバーソールとSR400は当時憧れていたロックバンドのマストアイテムで、ティアドロップのサングラス、ライダースの革ジャン、ドクターマーチンのラバーソールみたいなものに大人になった私は身を包んでいるはずだった。高校生のときは、ロック、ロックと馬鹿の一つ覚えのように唱えていた。それはまるで“煙突”のようで、一本柱が土深くに突き刺さった様な子供だった。歳をとるにつれ、ポップスもジャズとヒップホップも聴く様になり、煙突は四方八方に枝葉を生やした。ラッキーなことに作曲を覚えていくつかの実を実らせたので、悔いはないが、あれはあれで潔くて良かったと思う。
 さて、こんなことをふと思い出したのは、YAMAHA SR400が今年、国内向けの生産を終了するというのニュースを目にしたからだ。永久に私を待っていてくれていると思っていたSR400にも時代の風は優しくなかった。さあ、どうしよう。 今からでも間に合う!バイクの免許を取りに行くか?いや、やめておこう。私はオートマ限定で十分。
ツアーでつかうハイエースさえ運転できれば満足だ。
 ただ、いま思うことは、着たい服は着たい時に、聴きたい音楽は聴きたい時に、伝えたいことは伝えられる時に…そういうシンプルはことだったりする。そして、これはかなりロックなマインドだと思う。
 私のなかでいまもまだ、ロックの煙突はもくもくと煙を吐きつづけている。

 

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[テスラは泣かない。]
L→R
吉牟田直和(Bass)/飯野桃子(Piano&Chorus)/村上学(Vocal&Guitar)/實吉祐一(Drums)
印象的なピアノのリフレインを武器に、圧倒的なライブパフォーマンスで各方面から脚光を浴びる、鹿児島発4人組ピアノロックバンド。インテリジェンス溢れる音楽性と、エーモショナルなライブパフォーマンスを融合させた、他の追随を許さない孤高のロックバンドである。
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