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テスラは泣かない。 1/f
- SPECIAL -

テスラは泣かない。 1/f

1/fの揺らぎ、樹上のホワイトノイズ。羊水のなかで聞いていた、それ。》 吉牟田 直和[Bass] 

  こんな日常ばかりを過ごしているとコラムの題材が思いつかないから、地下鉄で音楽を聴く。車両が軋み、加速する雑音もなんだか曲の一部のように聞こえる。次の停車駅を告げるアナウンス。物憂げにスマートフォンを眺める乗車客。物語の一部のような気分にさせてくれる。人はみんな物語を必要としている。物語というものは、ごちゃごちゃして把握しきれない世界を上手く認識するための手法だと思っている。物語は無駄なものを削ぎ落とし、人が生きる美しい「可能性の道筋」を提示してくれる。人が日常を生きるとき、私たちは膨大な量の選択を繰り返している。本来、その一つ一つはどこかへと私たちを導いてくれる選択であり、可能性であるが、その量があまりにも多いがために、次第に盲目になる。毎日毎日、電車に乗って仕事に向かうという選択。今日は疲れたからシャワーは明日にしてしまおうという選択。あ、鼻が痒い、鼻を掻こうという選択。溢れ出て止まらない選択の量に目が眩まされるが、一日、一週間、一ヶ月、一年…繰り返すうちに、「夢」や「幸せ」や「後悔」だとか、そういった意味に変わっている。「だから一瞬一瞬を真摯に生きよう」という言葉は無意味だ。一瞬の選択を正確に処理できるほど私たちの脳神経は優秀ではない。ただ、私たちは音楽を聴いたり、小説を読んだり、映画を観たり、芸術というものに触れることは出来る。没入し、その物語的なモノに酔っていると、はっきり見えてくることがある。目の前を羽虫の群れのように飛び回る可能性の中から、「これとこれとこれ」上手く掴み取って、そこに意味を作ることが出来る。意味が分からない世界はなんとも辛い。明日何をするか、来年にはどうなるか、どう死にたいか…。なにかの啓発本で「人を成長させるのは環境と、適度な負荷である」というものを読んだ。日々の環境に忙殺されていることは悪いことではない。地に足をつけて毎日を地道に進んでいくのが人生である。そこはぬかるんでいるので注意。石ころがそこに転がっている。看板の表示はこうだ。右か左か。しかし、その進むべき道筋が分からなくなることもある。忘れることがある。そんなときに、ふわっと、その道筋が俯瞰できる場所まで心を持ち上げてくれるのが物語である。視界がはっきりとしてきたら、よし、また歩こう。目指す先はそれぞれあるが、そんなことを繰り返しながら、ゆっくりと歳を重ねていけることを願っている。

 

1/fって何すか。》 村上 [Vocal/Guitar] 

 新しいアルバムのリリースと、そのツアーが発表されました。5月26日「MOON」です。1年間曲を作っては録って、書いては録ってを繰り返し11曲。しかし、最後の曲のレコーディングが終わっても「テスラは泣かない。これにてオールアップです!!!パチパチ」みたいなのもなかったし、ゴールテープを切った感覚がほとんどしない。これは、まだ実は終わっていないのか?それとも時間がたっぷりあることに甘えて、周回遅れのゴールだったのか?なんかのドッキリか?それは分かりませんが、とりあえずこの作品が目の前にあるということは、1年前の4月と今は違う場所にいて、おそらく新しいスタートは切れるのだろう。そういうことにしよう。

 さて、今月のコラムでアルバムの全貌を紹介するというのも構わないのですが、発売日までのワクワクは増えても、発売日以降のドキドキを減らしてしまいそうなのでやめておきます。本当に良い映画は予告編を見ても良い映画ですが、予告編を見なかったらもっと良い映画になっていたかもしれないし。

 前作「CHOOSE A」のとき、CDのブックレットの最後に「あとがき」と題したセルフライナーノーツを書きました。(現在は村上のnoteでも公開しています)ただのセルフライナーノーツにすると面白くないので、毎曲ごとに主人公が出てくる物語タッチに書いたのですが、これがなんともノーリアクションだった。物語にしては短すぎるし、楽曲解説にしては抽象的すぎた。というのが反省点である。とはいえ、パソコンに向かってコラム以外の文書をしたためるのは初めての経験だったし、個人的には作品として納得している。問題はここから。今作「MOON」でもこれをやるのか?前回はミニアルバムだったのに対し、今作は11曲のフルアルバム。うーん困った。

 しかし、結果から言うと私は書こうと思っている。どれくらいの人が読んでくれるかは分からないが、おそらくこのサブスク全盛期にCDを購入してくれる人というのは、きっと心の優しい人に違いない。どんな内容になるかは全く決まっていないが、自分の体の芯から出てくる言葉をつないで、グッドリアクションを引き起こしたいと思っている。しばらくはPCを持って喫茶店に通う日が続くだろう。小説家気取りになっても許してほしい、ツアーが始まる頃にはいちバンドマンに戻っている。あとコーヒーを飲みすぎて胃を壊すのも避けたい。なるほど、ゴールテープはまだまだ先だ。

 

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[テスラは泣かない。]
L→R
吉牟田直和(Bass)/飯野桃子(Piano&Chorus)/村上学(Vocal&Guitar)/實吉祐一(Drums)
印象的なピアノのリフレインを武器に、圧倒的なライブパフォーマンスで各方面から脚光を浴びる、鹿児島発4人組ピアノロックバンド。インテリジェンス溢れる音楽性と、エーモショナルなライブパフォーマンスを融合させた、他の追随を許さない孤高のロックバンドである。
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