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パスピエ interview
- SPECIAL -

パスピエ interview

対となる表現の先の先

 

大衆音楽に独創生で切り込むある種のレベルミュージックPOPアイコン、パスピエが2016年3枚目のシングル『メーデー』をデビュー5周年の記念日となる11/23にリリース。 5年前、ワーナー・ミュージックのサンプラーで「トロイメライ」(その後2012年リリース『ONOMIMONO』に収録)を聴いて以来ずっと、軸を曲げずに市民権を得ていく姿に希望を見続けているバンドだ。 楽曲のオリジナルセンスだけでなく、自身等を捉える自己分析の力とセルフマネージメント能力の高さが故保たれているエンターテインメントと芸術の黄金比。 この完成系のバランスを以って人は彼らをパスピエと呼ぶが、対峙して話すその印象からは、彼らの裏側にはまだまだ我々リスナーには未開の音楽性やアイディア、よりドープな芸術性が宿っている様に思える。

Interview & Text : 鞘師 至

奥にある一貫性、裏側にあるヒントを読み解く

ー 今回のシングルは今年3枚目であり今年のリリースの総仕上げ。 本作はこれまでの2タイトルとはまた違った説得力の楽曲だが、集大成という意識もあり仕上がりのディレクションが定まった作品だという。

■成田ハネダ(Key 以下 “N” ): このシングル3枚っていうのは、元々今年の年明けには既にあった構想で、年内中に3作品出す事は決めて、そこから都度曲を作る毎にどのタイミングでどの曲を出すかを話し合って最終的に曲を選抜していった流れです。 この3作は、僕の中で “対(つい)” というのをテーマにしたものなんです。 1作目の『ヨアケマエ』は、顔をはっきり見せないビジュアルで統一していたこれまでに対して初めてまともに顔を出す事にした作品。 過去の自分達との対になる表現を一語で表すタイトルとして『ヨアケマエ』と名付けてリリースしました。 2作目はダブルA面シングルだったので、そういう意味での対としての作品。 今回は今までやってきた表現っていうもの全ての、裏があるからこそ表もあって、両方ありきでリスナーの人たちへ発信する表現となる、っていう表裏一体の表現っていうのをテーマにできたら、と思って作り始めた作品です。 音楽のみでこの “対” の概念を表現しようとしてもなかなか汲み取れるものではないと思うんですけど、自分達なりに言葉もアートワークもそういう、周囲にある表現も含めてかたちにしてみたのがこの3作ですね。 前2作のシングルは、これまでのパスピエのニュアンスとは少し違う側面を出した作品だったんで、今作の「メーデー」(M1)はリリース日もデビュー5周年の日という事等もあって、楽曲的な部分で言えば原点回帰じゃないですけど、もう少しそういう狙った別側面でなく今のパスピエらしい感覚に寄って作った曲ですね。 無条件にハッピーな感じの曲はこのバンドらしくはないし、アッパーチューンだけで押し通せる感じの表向きオンリーな音楽性でもないと思うんですね、僕ら。 そういう意味ではこの曲は今までやってきたそういうパスピエらしさの集大成のような曲かもしれません。 そういう普遍的な要素も分かる人には分かってもらえたらいいな、と思います。

■大胡田なつき(Vo 以下 “O” ): 今回ジャケットは音源が全部出来上がった後に手をつけたんですけど、成田さんが今年の3リリースについていつも話していたその “対” っていうイメージを元に、私なりに膨らませて描いたものです。 ジャケット左側は、人の裏側の部分、身体の内側を描いてるんですけど、機械っぽい構成にしたら必要以上にグロテスクにならずに表現できるなと思ったのと、純粋に私がこれまで機械っぽいものって描いた事が無かったので描いてみたかったというのもあって、こういう無機物的な傾向の面に、逆に右側は人工物の対という事で、自然をテーマにして描きました。 ただ、自然っていっても大自然!みたいなオーガニックなイメージでは自分たちらしくないな、と思ったんで背景にはモザイクを置いて細かくバランスを取ったりして。 今となっては絵を描くのはパスピエの為に描く時くらいなんですけど、このバンドをやり始めてパスピエの絵を描き始めてから、自分の絵の感覚がどんどんバンドのイメージに寄ていってる感じがあるんですよ。 何枚もリリースしてジャケットの絵を何枚も描いていくに連れて音から想像できる色とか、形とかが増えてきてる感じ。 だんだんと自由に音からイメージを膨らませられるようになってきている、というか。 

ー 歌詞について。 「メーデー」は大胡田と成田の共作。 普段物語ベースの思考で組み立てていく大胡田のリリックにサウンドマンの成田の音感が入って生まれたものなのか、曲中わずかに現れるライミングの歌詞には、HIPHOP的な印象とは全く別物の、あくまでこのバンドらしい物語の中でさらりと交わされる遊びみたいな余裕を感じたり、「月暈」(M2)では情景が浮かぶ歌詞を歌ったりと、ひとつひとつ細やかにしつらえた文脈が曲ごとのフックに繋がっている。

■N: 一曲を通したストーリー作りに関しては僕は大胡田には敵わないので、普段からそこは信頼してやってもらってるんですけど、“ 大胡田がこう歌ったらおもしろいだろうな ” って対外的に僕が思うまとめ上げの部分のアイディアっていうのを「メーデー」では散りばめたので、その辺りは普段あまりやらない事をできましたね。

■O: 「月暈」は少し前に作った曲で、その時期、タイムスリップの題材が好きだったんですよ。 それで時代背景的にこういう過去の匂いのするものになりました。 書いたのは『MATATABI STEP』(2014リリース 2nd. album)を書いた位の時期でしたね。 ストーリー的に「MATATABI STEP」では想う人のところへ行く側の歌を、この曲では迎える側を書いた歌です。 

ー レコーディングに関しては、「メーデー」では曲中にテンポチェンジのフレーズが登場したり、楽曲のこだわりから時間を要していそうだが、そこにはバンドキャリアが活きて実際にはスムーズに進んでいったそうだ。

■露崎義邦 (Ba 以下“T”): やっぱり5年やってきたからですかね、僕に関してはバンド全体で合わせようとしたテンション感の上がり下がりに対しての抑揚とかを意識してレコーディングしていきましたけど、そこまでテイクを重ねずにスムーズに録れたと思います。 昔だったらそういうグルーブの合う合わないで録り直しも多かったですけど、長く一緒にやってる積み重ねで呼吸のチューニングが合ってきてるんだと思います。 ベースラインで言えばフレーズ的に分かりやすく前に出る部分も要所要所あるので、歌との対になるベースフレーズは今回のレコーディングで自分の中の重要ポイントでした。 そういう掘り下げて聴いてもらうと見えてくる要素っていうのがベースだけでなく全体的に曲に潜んでるんで、聴いてくれる人には是非聴き込んでもらいたいですね。

自分達の力だけではやってこれなかった

ー 今作はバンドの5周年となる2016年を締めくくる作品。 5年前に恵比寿LIQUIDROOMで初めて見たライブではひたむきに野望を背中に背負って当時のリアルな自信をステージで昇華させている様な印象。 ライティングこそ顔がなかなかはっきり見えない演出ではあれど、狙いと確信をしっかりと持った力強さを演奏から感じた。 のっけから躍進続けて昨年には武道館ワンマンをやり切り、対外的にはバンドが世間に周知されてからというもの、着実にステップアップしていっている印象を持つが、当時見ていた目標や、今のバンドの現状、また更にこれからの目標を訊くと、成田は至って冷静。 実績に浸る暇なく、前進する為に持ち合わせたカードをどう効果的に切っていくかを常に考えているように伺える。

■N: 5年間…紆余曲折って感じでしたね。 昔から今も最終的な目標としては “自由に音楽をやり続ける” って事に集約されると思います。 そこに沢山の人が共感してくれたら幸せですね。 ただ、聴く人だって100人100様で、僕らがやろうとしている事が100%受け入れられるとは限らないし、そこに辿り着くまでに色々な葛藤はいつも付きまとう訳で、その融解点を見出す為にこうやってタイトル曲になる様な曲を作ってシングルリリースをする事だったり、去年の武道館でのライブもそうですね、聴いてくれる人、見に来てくれる人にとってわかり易いトピックを作りながら、自分たちのやりたい事とそれをお客さんと共有できる事の両立を常に意識して活動してきている感じなのかな。 その積み重ねがこれまでだったし、これからもそうなんだと思います。 最終目標としてのやりたい音楽を自由に、それを続けるっていうところは達成できている部分もあればまだ未達の部分もあるから、メジャーデビューから5年、僕ら的には全然スタートダッシュできたとは思ってなくて、もっとやってかなくては、と思ってます。 インディー時期の最初のCDイニシャル(_発売日までに確定する各CDショップからのCD発注の合計枚数)なんて200枚とかでしたらからね(笑)。 「200枚って…これからバンドどうしていけば…」って思ってましたけど(笑)、なんとかなりました。 本当にたまたま、CDショップのバイヤー(セールスプロモーターのスタッフ)の方々がそれぞれのお店で推してくれたりとか、推薦文を書いてくれた人がいたりとか、そういう偶然の応援に叶って本当に少しずつ、名前が広がっていった感じでしたからね。 バンド結成が2009年、メジャーデビューが2012年、今年が2016年。 もちろん心の中では「どうだ俺たちこんなヤバい音楽やってるんだぜ」って思い続けてやってますけど、やっぱり自分たちの力だけではやってこれてないですからね。 周りの人に評価してもらったお陰で今も続けられてます。 

ー 自分たちのやり方を曲げずに丁寧に、それでも時が来れば大勝負も打って出る。 サブカルチャーミュージックの先端に立つバンドのひとつとして認知されていったパスピエが、メジャーメーカーとの契約や武道館公演等を決めたのは、自分達が掲げた音楽と、周囲を取り巻く同時期の音楽の流れを照らし合わせた時に感じた確信から来る決断だったようだ。

■N: 決してコマーシャルなバンドではないと思うんですけど、可能性があればチャンスは掴んで行って、何がやれるかその時の選択肢をなるべく有効に選んで進めていくって事ですよね。 デビューするまでに3年ありましたけど、それまではそれまででやれる事をやっていたし、デビューだって待っていて降ってきた訳ではないですからね。 元々僕達の音楽って決して直球ではないとは認識してたんですけど、ちょうどデビューした5年前辺りからかな、世の中でメインとなってるカルチャーとサブカルチャーが逆転し始めてる時期だったと思うんですよ。 だから若干難解かもしれない自分達の信じる音楽も、体制をひっくり返せる時代なんじゃないか、っていう希望は持ててたんですよね。 それで媚びずに自由に自分達の音楽でバンドをやり続ける、っていう目標も持てたし、その実現を具体化させる為に活動してきた中では「武道館やる」っていうのも、「コンスタントに作品を生み出し続ける」って事も、不可能じゃない夢として持ってこれたんだと思います。 やりたい音楽をやる事と、受け入れられる音楽をやる事に関しても、こういう表現をしてみよう、っていう試行錯誤はいろいろあっても、やっぱり永らくやってきた杵柄があるんで例えば今から急にパスピエが歌って踊れるダンスボーカルグループになります!とはならない訳で、今までやってきた音楽をやり続けていくのみですよね。 だから葛藤はないです、考えながらも自分達なりの音楽をやってくのみ、って意識ですね。 

ー 流行の音。 これにはどのシーンでもいつの時代でも、リスナー間でもプレイヤー間でも、ラブとヘイトが付き物で、いつだって論議が巻き起こるが、鍵盤シンセサウンドに特化する同系異業種として「シティー・ポップの流行をどう捉える?」という問いに、成田は俯瞰の視点を語る。

■N: シンセサウンドってMIDIで整頓されてるし、ギターやベースと違ってチューニングも定まってるし、解りやすい楽器ですからね。 ゲームや携帯の着メロが流行った時代の人たちが電子音楽にどんどん慣れていって、EDMの流行があった後、必然的にバンドミュージックもそういう傾向にあると思うので自然な事だと思います。 あとやっぱりキーボーディストって1音で「あぁ、◯◯◯っぽい」みたいなイメージにすぐ結びつくような音を出せるし、スタイリッシュだし、90年代頃のバンド像とはまた違ったところにいってるのは確かですよね。 時代のタイミング的にはその閃きに寄り添う時期なのか、反発する時期なのか、って考えると今は多くの人が寄り添っていってるんでしょうね。 自分のバンドのサウンドと比較してどう、というのはあまり考えてないですけど、必然の流れがそこにあるんだとと捉えてます。

ー 同様に周囲の環境としてはSNS等の存在も今のリアルもひとつ。 

■N: ライブで直接的にお客さんの反応が得られる以外でもSNSだったりでの反応なんかも得れる時代になったのはひとつ大きいですかね。 音楽って一方通行では成り立たないエンタテインメントだとは思うので、そういう意味ではライブとか、SNSみたいなインターネット内での繋がりとかで、昔より多面的に反応を貰える環境になって、それが原動力に繋がってるかな、と思います。 付随して、多面的になればなる程発信する僕らみたいな表現者の方の “広げたい” っていう欲求を満たすハードルは高くはなっていってると思うので、どういうアイディアでどういう方法で外へ向けて情報出しをしていったらいいか、こだわって考えなければいけない状況になってるっていうのは、表現の質が上がるって考えれば、いい時代になっていってるのかな、と。 

発想欲と探究心

ー “パスピエらしい” 音像に収めながらもリリースの度に確実に新しい感覚で楽しめる楽曲を生み出す彼らが、普段の生活の中で音楽制作の想像力の源としているものはメンバーそれぞれにあるそうだ。 閃きや感覚を掴みに違う場所へ各々ハンティングへ出向いていって、培った新たな養分をバンドでシェアして作品に活かす。 そういった意味ではライブやスタジオへ篭る時間、楽器へ向き合う時間以外の、彼らの生活時間全体が何かしらでバンドへ繋がっているのかもしれない。

■N: とにかく音楽を聴く事ですね、新旧、洋邦問わず。 やっぱり今既に自分の中にある発想だけでなく新たにヒントになるようなものは聴いていないとな、と思うんで色んな新譜を常にチェックしてます。 それこそバンドミュージック以外にもトラックメイカーの作品なんかも含めて。 やっぱりMIDIミュージックのトラックメイカーって僕達が人力で出す音のアイディアとは全く別のベクトルで物事を考えてますからね、すごくおもしろいヒントになる時があるんですよ。 自分がこのバンドを始める時も同じ様に、自分が小さい頃にやっていたクラシック音楽の方法論をバンドに落とし込んだらおもしろい、っていう発想からですからね。 ミュージシャンによっては全く人様の音楽を聴かずに自分の音楽を追求するタイプの人もいると思うんですけど、自分の場合はインプットを昔からずっと大事にしてます。 

■T: 僕の場合は昔からものづくりが好きで、今だったら自分のエフェクターボードを自作したりしてるんですけど、そういう工作物をいじり始めると止まらないところがあって、何か没頭して一つのことに集中する作業っていう事で言えばそういうものづくりの時間は音楽制作にも通じてるかもしれないですね。 レコーディング追い込み時期なんかに必要な集中力の鍛錬になる、というか。

■O: 私の場合は本なのかな。 ずっと漫画を読まないできた人生だったんですけど、2~3年前から色々と読み始めました。他の人の作った世界観に身を浸すっていう貴重な体験を気軽にできるのが凄いな、と思って。 例えば映画だったりすれば2時間位で終わるじゃないですか、でも漫画だと長いもので何年も何十年も、それこそ単行本で50巻とかまで出る作品もあるし、その何十年にも渡って紡がれた物語を読むっていうのが何とも贅沢だな、って思うんですよ。 そうやって他の人が作った物語に触れて自分の作る物語と照らし合わせてみると色々と発見があっておもしろいんですよね。 本当はね、小さい頃は漫画家になりたかったんですけど、そのくせ漫画を読んだ事はなくて…大人になって欲が開花しました(笑)。 

今までを信じる

ー ここまで長いようで短かったと話す彼らの5年間。 いつも新たな事に挑戦しながらも自分達の音楽を信じて曲げないやり方がこのバンドのスタイルを確立して、その集大成的な音源が今回のリリース。 この先5年のビジョンは?という問いにもやはり冷静。 これからもきっと踏み外さずガンガン進んで行くのだろうと思う。

■N: なんというか、現実的に掴めるビジョンしかないですからね、5年後どうなってるかはイメージしてないですけど、今目の前にある事をひたすらクリアしていくだけですよね。 今までもそうやってきてここまで続けてこれてるから、やっぱりそれを信じて同じようにこれからも進めていくだけなんだと思います。