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パスピエ interview
- SPECIAL -

パスピエ interview

俗世間の流れと自分の体内に流れる感覚の流れ。 ズレて当然の二つの世界をどうチューニングするかのセンスも、その音楽家の独創性のひとつだ。 デビュー5周年を経てこの度リリースされるパスピエのニューアルバム『&DNA』に収録された楽曲には、去年一年間を通してリリースされたシングル収録曲4曲に加えて、新曲が8曲。 どれもこれまでのパスピエをもっと色濃くリロードしたような、バンドの進化を実感できる楽曲だ。 自分達の深みの部分で編成するこの5人ならではの音楽解釈は独特。 流行に連れて行かれる事のない強みも、ピンと来れば新しいヒントを受け入れる柔軟性も、全てのパーツがきれいにカチッとはまるのは極論、自分に嘘のない音楽にこだわっているが故なのだと思う。

Interview & Text : 鞘師 至

ー 今回のアルバム、通して聴いたらパスピエはシングル曲じゃない曲でこそ、ディープな音楽性の本領を発揮する最たるバンドだな、とつくづく思いました。 シングルはシングルで都度目的があって、狙った効果を成し遂げる武器だと思うんですが、今作に入った新曲8曲にはシンプルにバンドのセンスをぶっ込んだ感じがして。この新曲は全部最近作られたものですか?

■成田ハネダ[以下…N]: 曲の土台自体は昔からあったものが2曲、他は去年1年間で作ったものですね。

■やおたくや[以下…Y]: 2016年はこの8曲、シングルも含めて合計17曲レコーディングしました。 結構なペースで駆け抜けましたね(笑)。

ー この新曲8曲がとにかくこれまでより更に新しいところに手を伸ばした印象の曲ばかりでした。

■N: 僕らみたいなバンドってやっぱりアルバム全体で説得できないと、自分たちの音楽を100%立体的に、嘘なく表現できないので、そこに本当の色は出てるかと思いますね。 シングル曲も渾身のものを持ってきてますし、曲によっての役割の違いですよね。

ー いろんな方面の表現方法を使って自分たちの音楽をガンガン広げていっている感じが聴いていて心強かったです。 「DISTANCE」(M3)のファンクっぽいフレーズも新鮮だけどこのバンドらしく咀嚼してるし、「夜の子供」(M9)の世界観とか常軌を逸したオリジナリティーだなって…曲はとってもメロウだけど歌詞が妄想と現世の狭間をいってる感じというか。 大胡田さんは小さい頃こんな感じの子供だったんですか(笑)?

■大胡田なつき[以下…O]: そうですね(笑)、この曲はメッセージ性よりこの世界観先行って感じで作ったんです。 子供の頃、確かにこの曲の歌詞みたいに割と一人で妄想にふける感じ感じの子だったかもしれないです(笑)。

■N: 今でもそうだしね(笑)。

ー なんとなく分かる気がします(笑)。 ちなみに歌詞的には今回ラブソングっぽいものが幾つもありましたね。 前回のシングルで珍しくラブソングっぽい歌詞の曲もあったので感覚的にはその延長線上なのかな、と思ったんですが。

■O: 今回のアルバムはレコーディングを4回に分けてやっていったんですけど、シングルのレコーディングと近い時期に録ったものが、割と同じモードになってる時期に書いた歌詞です。 とりとめて自分自身にその時期色々あった訳ではないんですけどね、単純にそういう歌詞も書いてみたくなってた時期のものです。 今までのパスピエからすれば確かに珍しいですよね。

ー それでもそのストーリー全部ががハッピーエンドではない、っていうところはやはりパスピエらしいです。

■O: パスピエって、全力でハッピーエンド!みたいな感じの音楽じゃないですからね(笑)。 音がそういう感じなんで、歌詞的には含みを持たせたり、仕掛けがあったりっていう事に意識して作ってはいますね。 

ー 「おいしい関係」とかヤバい恋愛関係の歌ですよね、この設定にはドキドキしました。

■O:(笑)。 これなんて特にそうですけど、自分で設定作って歌う時はその役に成りきるっていうね。 この主人公みたいなふざけた生き方してみても楽しかったかな、っていう憧れも含めつつ書いてみた歌詞です。

ー 前回お話を聞いた時には最近本を読み始めたということでしたけど、そういう影響もあってラブストーリーの歌詞が生まれてくるのかな、とも思いました。

■O: 本は結構読んでます。 直接的な作品からの影響ではないんですけど、やっぱり本を読んでいて楽しいのが ”一瞬他人に成りきれる” 感覚で、そういう良さを改めて感じて書いていった歌詞もありますね。 読み物でも音楽でも、それに触れてるときはその世界に連れていってくれるじゃないですか。 あの別世界にいる感じが心地良いな、って。 この曲を聴く人も、聴いてる間だけは “おいしい関係” を作ってる人になった気で聞いてくれたらいいな、って思います。

ー 「マイ・フィクション」(M7)では珍しく英語から歌が始まりますね。

■O: 英語、なんとなくなんですけど、韻を踏むのに英語も使ってみようかなって今回試しでやってみたんです。 去年位からかな、ラップに興味が出だして。 私には全然無縁のジャンルだと思ってたんですけどね。 特に日本語のラップを聴くことなんてないと思っていたのに、番組(フリースタイルダンジョン)が始まったじゃないですか、あれを見るようになってから、かっこいいなって思って興味を持ちだしたんです。 私、ミーハーですね(笑)。 

ー いえ、自分の感覚に素直なのはかっこいいと思います! ちなみにジャケもこれまでに引き続き大胡田さんの手によるものですが、今回はどういうコンセプトですか?

■O: パスピエって、女の子の絵自体がアイコンになってると思ってるんですけど、そのパスピエの中から色んなものが湧き出てきてる…からだの内側、DNAの世界、みたいなコンセプトです。 この絵の柄は、以前に私がメンバーの衣装の為に描いたもので、夏に一度メンバーで着たライブ衣装の柄なんですよ。 歌詞カードにも散りばめてるので、是非手に取って中まで見て欲しいですね。 これまでは絵を描いて終わりでしたけど、今回初めてそれをコラージュっぽい加工にしてみたのも新しい感じに繋がってると思います。

ー ちなみに皆さん、音楽的なバックグラウンドとしては、どんなものを持ってるんですか? 今作にかなり色んなジャンルやプレイスタイルの背景を感じたというか、フレーズやエフェクト処理にどの曲もハッとさせられるキャッチーなものがたくさん散りばめられていて、その裏を知りたくなりました。

■三澤勝洸[以下…M]: 例えば僕であればルーツがハードロックとかメタルなんですよ。 若い頃はSEX MACHINEGUNSモデルのギターをずっと使ってたようなバリバリのやつです(笑)。 パスピエとはかけ離れてますよね。 今回、ギターフレーズ的には例えば「DISTANCE」にタッピングのリフがあったりしますけど、そういう部分はやっぱり自分の音楽のバックグラウンドから来るものですね。 このバンドで自分のそういう背景を活かすやり方としての着地点を見つけられるようになったのはここ最近なんですよね。

 

ー メタルとパスピエはかなりの距離を感じますもんね(笑)。 称号点を見出せるようになったきっかけは何なんでしょうか?

■M: やっぱり長い年月やってきたからっていうのが大きいと思います。 過去にもそういう称号点を見出そうとしてきたことが何度かあったんですけど、ジャンルがジャンルだけにまとまらないことが結構多くて。 僕がそのままメタル的なフレーズを弾いてもハマらなかったりして。 長年やってようやく曲としてまとまるようになってきました。 フレーズ作りは未だに常に悩みますね。「ああ、無情」(M5)のアコギの音質なんかはUKのニューウェーブっぽい音のイメージで入れていったり、試行錯誤できる幅は広がっていってると思います。

― 成田さんはクラッシク出身ですよね?

■N: 僕は18歳までずっとクラシック一本だったので、青春時代は全部クラシックに吸い取られた人生です(笑)。 だから初めて自分もバンドやりたい!と思った時には、そういう音楽を歩んでいなかった事に対してコンプレックスが凄くあって。 いわゆるバンドマンの初期衝動的な良さっていうのが自分には備わってないと思うと悔しかったんですけど、経験がなければその分知識だったり情報で勝るしかないと思って、CDショップに通って棚の端から端まで聴き漁る日々を続けてましたね。

ー 凄い行動力ですね…(笑)

■N: 今日はアルファベット ”A”の棚、次は “B”の棚、みたいに片っ端から(笑)。 レンタルCDも上限枚数ギリギリまでよく借りてました。 研究の為というよりも、知らないことだらけですからね、純粋に楽しかったんですよ、バンドミュージックを漁るのが。 レッドツェッペリンすら知らなかったんですから。 「これがレッドツェッペリンっていうのか、なんかローマ数字のアルバムばっか出してるなぁ」とか、いちいち関心してました。 日本のバンドも全然知らなかったですし。 ただ、元々自分の軸だったクラシックっていうジャンル自体もかなりぶっ飛んでるジャンルなんでバッハ、ベートーヴェンみたいなポピュラーどころだけじゃなく、近代クラシックだったらノイズ音楽だったり、ジャズだったり、最近のミニマルミュージックに通じるものなんかもある訳で。 そういう音楽も聴いてたんで、自分にとって真新しかったバンドミュージックを聴き始めた時も、抵抗なく好きになっていけたっていうのは、僕の音楽遍歴ならではの必然的なシフトだったのかもしれないですね。 バンドに対して変な予備知識がなかったから逆にのめり込んだのかもしれないですし。

ー “棚の端から端までCD漁る”は、なかなかに狂ってますね(笑)。

■Y: 僕は成ハネ(成田ハネダ)とは真逆で、元々J-POP・J-ROCKが大好きでバンドミュージック出身だったんですけど、「お前もレンタルで棚の端から全部借りて来なよ!」って言われてCDレンタルのリストブック渡されましたもん(笑)。 そこに対して成ハネまでの探求心には至らなくて、やってないですけどね(笑)。 そういう意味ではすごく尊敬してますし、逆に僕なんてクラシックの理論とかは全然持ち合わせてないですからね、やっぱり成ハネの経歴はバンドにとって重要ですね。

ー 成田さんって、クラッシックからバンドへの変革当初と今、キャラクターも変わりましたか?

■Y: どうだろうなー、基本的には変わってないですよ。 でも彼なりにリーダーとしての試行錯誤を繰り返して6,7年程経って、より完璧になられた感はありますね(笑)。

■M: 毎日会ってるから分からないですけど、やっぱり5年前の成ハネと今の成ハネを比べたら全然違うんだと思います。

■N: 丸眼鏡なんて当時かけなかったしね(笑)。 (取材当日は丸眼鏡着用)

■O: 目が悪いのに裸眼だったからね。

ー 鍵盤ちゃんと見えるんですか!? それもこだわり?

■N: こだわりっていうより、眼鏡をかける事自体が面倒くさくて。

■Y: 結果、自転車で階段下ったりしてましたね、坂道と間違えて(笑)。 

ー クールなイメージでしたけど、結構ダイハードですね。 

■N: それきっかけで眼鏡をかけ出しました。

■Y: それからは階段を自転車で下らなくなって更に完璧になられてね。

■N: (笑)。

ー 露崎さんに関しては、今回全曲聴いて改めて思ったのが休符が命なベースラインだな、と。 ファンクとか通ってきたんですか?

■露崎義邦[以下…T]: ファンクは多感な時期に、そうですね、通ってきました。

ー 多感な時期にファンク、だいぶ大人ですね。 

■T: 元々ベースを弾き始めたきっかけが、邦楽ロックの中でも特にベースラインが動く曲を好きになる事が多くて、っていう自分の好みからだったんですけど、20歳そこそこで更に面白い音楽ないかな、って聴く音楽を広げていってファンクに辿り着いたんですよね。 だから休符のいれ方なんかはファンクの癖も入ってると思うんですけど、逆に8ビートとかに関しては邦楽ロックの影響が大きいと思います。

ー 「やまない声」(M2)でのベースソロには確かに邦楽ロックを感じます。

■T: 意外とここまでがっちりソロっていうベースは入れてこなかったから、自分でも新鮮でしたね。

ー初期の頃のパスピエの音楽って、”今やりたい事を詰め込んだ初期衝動” みたいな前傾姿勢がかっこいい、というイメージだったんですけど、今回のアルバムはまたそれとは違う感じがして。 自分たちの音楽を更に深く理解して出来た、よりオリジナルな音楽、というか。

■N: 昔よりは自分達で生み出すものをちゃんとコントロールできるようになってきているかもしれないですね。 故に制作の勢いに関しては逆に今の方があると思います。

ー あとは全曲通して、流行りのシンガロングパート(お客さんと一緒になって歌うようなフレーズ)とかが入ってないのが、我が道を貫く感じでかっこいいとおもいました(笑)。

■N: (笑)。 そういう意味では取っ付き易さを最優先してる訳じゃないんで、それこそ試される勝負になってくるんですけど、3回聴けば面白いアルバムだと思うし、それ以降も聴き続けられるものだと思ってるので、その3回に辿り着くまでのプロセスをすごく大切にしていきたいと思ってます。 それは作曲以降のリリースの打ち出し方だったり、世間に展開する際の工夫も含めて。

ー 作曲に対しての変化は?

■N: 一昨年と去年を境にして、曲の感じとしては分かれるだろうとは思っているので、作曲モードとしては昔とは大分違うと思います。 

ー まだここから更に先にも前進していける感じはしてますか?

■N: アルバムを作り終わると毎回、また曲書かなきゃって思うんですけど、その流れが僕らの音楽を好きだと言ってくれてる人たちの咀嚼スピードにも合わないといけないとも思うし、出来たからっていってポンポン出してもスパンによっては直前の作品を否定することになり兼ねないので、色んな事に意識を配りながら先に進んでいきたいと思ってますね。 そこは難しいなとは思いますけど、嘆きはないです。 今作、前回のリリースからのスパンは早いですけど、アルバムとしては1年4カ月振り、このスピード感は良かったなと思います。

ー これから先はこんな音楽をやっていく、っていうビジョンはありますか?

■N: 僕らが絶対的に指針に出来るのは、ここまで得てきた実績だったり、パスピエに対する評価だと思っているから、より上を求めるのであれば僕らはプラスαで何か挑戦していかなければならないので、まずは今回アルバムを出してみての評価やリスナーからの反応を貰ってみてから、それに対して次のアンサーを返していきたいと思ってます。 

■Y: こうやってCD出してワンマンツアーやってそこから受けたお客さんからのパワーが我々に返ってきて、それを糧にまたみんなで共有できる音楽を作っていく、これかなり純粋な音楽活動だし、純粋な人間活動をやってますよね。

ー デビュー5周年ホールツアーは東京公演が中野サンプラザでSOLDOUTでしたね。

■N: そうですね、ありがたい事に。 2017年はアルバムツアーで色んな場所を回ろうと思ってますし、規模的にはライブハウスでもやりたいと思ってます。 ホールでもやるしライブハウスでもやる、今年は色んな場所でやるパスピエのライブの面白さみたいなものを、来てくれるお客さんと一緒に楽しめたらいいなと思ってます。 2016年は怒涛の制作年だったんで、今年はライブ積極的にやりたいですね。