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沖ちづる
- SPECIAL -

沖ちづる

熱量求めてリロードし続けることばの表現

Interview & Text : 鞘師 至

素朴なことばの情景描写が多くの人の心に響き、これまでにはNHK総合TV戦後70年『一番電車が走った』の番組内で楽曲が選曲された事でも話題となった、21歳のシンガーソングライター沖ちづる。その独特の求心力を持つ歌詞と歌声を活かす弾き語りスタイルの活動に注力した時期を経て、最新デジタルシングルでは前作表題曲「僕は今」をバンドサウンドでリリースし、音楽的にも新たな側面を見せている。ストレートな歌詞が印象的、自身の人生や人物像そのものが音楽にかたちを変えたような質感の彼女の音楽には、そのひととなりを感じるが故の身近さがある。特質なステータスの人間ではなく、今の時代に生きる普通の21歳女子のひとりが、自身の感性を綴る事で周囲の共感を得て少しずつ、物語の主人公になっていく様子にドラマを感じるが、そのルーツは表現方法として音楽家を選ぶよりも前に、今では歌詞に通じていることばの表現に執着していた幼少期にあったという。

■沖: 小さい頃、絵本を作りたいと思って、中学高校では美術の女子校に通ったんです。 絵本には文も入るので、そこで既にことばを綴る事はやり始めていたってことですね。 それからたまたま軽音部にいた友達に「バンドのボーカルがいないからやらない?」って誘われて。 元々歌も大好きだったのもあって、音楽を始めました。 歌を歌う事ってすごく直接的な表現で、そこに魅力を感じて音楽にのめり込んでいきました。 どちらかと言うと、昔から勉強とか運動よりも、自分で文を書いたりするのが好きな子供だったので、今の音楽活動の中での作詞の作業はその時の延長線上のものですね。

街の持つ寂しさと、その中に見る人の体温

ー 東京生まれ、東京育ち。 2017年、デジタリズムで均一的に音源の波形パンパンにビルドアップした音楽が多く出回る今の音楽シーンで、東京のリアルミュージックのひとつとして彼女のどこかなつかしいフォークサウンドが存在するのが実に趣があって興味深い。東京の環境が彼女に与えたのは、情報過密の音楽センスではなく、そんな土地で生きる人たちの心情を静観する洞察力だ。

■沖: 東京といってもどちらかと言えばビルに囲まれた大都会の中心的な環境ではなく、郊外の地域で生まれ育っているので、都心へ出向くと、こんなにも人が近くに沢山いるのにそれぞれの人は干渉しない、っていうすれ違いの寂しさを感じますし、逆に自分の地元では勤め先から疲れて夜に帰ってくる人たちが戻る場所みたいな寂しさも感じます。 それぞれの街が持っているそういう寂しさの中に、人の温かさみたいな熱量を発見するのが好きで、それが歌詞にもなっているので、そういう意味では生まれ育った環境も自分の音楽に反映されているのかもしれませんね。

自分のことばとして、何が伝えられるか

ー バンドバージョンの最新作シングル『僕は今(band ver.)』と、前作の前編弾き語りによるミニアルバムは共に、音楽であるより前提の、ことばの力強さがまず耳を惹く。

■沖: 心を揺さぶられる、熱を感じる音楽が好きなんです。 だから私にとってはことばがとても大事で。 最近ではしばらく、弾き語りのスタイルで音楽を続けていたんですね、ライブでも歌とギター一本だけ、というシンプルな形で。 それで前作では前編弾き語りの作品を出して、その中でも特に表題曲の「僕は今」では、今まで以上に自分のことばで何を伝えられるだろう、ということにこだわって作った曲でした。 そうやってことばにフォーカスできた作品が作れたので、今度はその作品に音楽性を更にプラスさせて、より多くの人達に届けたい、という気持ちになって、最新シングルでは、前作表題曲をバンドバージョンにしてリリースしました。 私の世代って、弾き語りの音楽をなかなか聴かない人たちもいるので、そういう人達にも届いてくれたらいいな、って。

音楽も人としても強くありたい

ー 取材中の語り口調も落ち着いていて、常にどこか俯瞰で自身を捉えているような様子と、心に響くものに対しての探究心の深さ。 客観性と主観性の黄金比の様なバランス感覚は純粋にアーティスティックで独創的。 たまたま所属したのが音楽の世界であって、他のどんな分野でも “表現” の沙汰には何にだって精通するような感受性の持ち主のように思える。 人としての変化がそのまま作品に反映されるような、自分自身の感性を溶かし込んだ音楽を今作り続けている彼女は、20歳を迎えた経過を経て、これからの在りたい姿と音楽性を明確に持っているようだ。

■沖: ことばに意思を載せる事にこれまでずっとこだわってやってきたので、今の自分の音楽の軸はやっぱり歌詞なんだと思います。 これからはそれをもっと広がりあるものにする為に、音楽的な新しい軸も得ていきたいと思っています。 そういった意味では、最新作でバンドバージョンの楽曲を作れたことがその良いきっかけになりました。 人としては、10代では ”どうせ自分なんて…” みたいに卑屈になってた事もあったんですけど、20歳を迎えた頃から、それじゃだめだ、って思うようになったんですね。 やれない事もやれるようになって、自分の力でグイグイ進んでいなかければいけない、って。 音楽的にも人間的にも強くなって、人に熱を伝えられる人になっていきたいです。