-飛躍の2017年を経て2018制作作業の日々で、先日のツタロックフェス2018が久々のライブでしたよね。
片岡:こんなにライブの間隔が空いたのは活動休止の時以来ですからね。
-久々に大音量でみんなで音を合わせてどうでしたか?
片岡:みんな口には出さないけど、ライブ後の表情を見たら、多少はライブをやっていないストレスってあったんだなって。ライブへの渇望。うまく呼吸出来てなかったんだなみたいな感覚でした。制作は制作の楽しさがあるんですけど、やっぱりライブって生き甲斐だなというか。普段活動しているとここまでライブの間隔があくことってほとんどないから、それを改めて知ることができたし良い機会だったのかなって思いました。ここから2018年のsumikaのアクセルを踏み込む感じですかね。
-そのアクセルのきっかけとなる今作の『Fiction e.p』。去年夏にリリースした『Familia』で一気にsumikaの認知度が高まって、sumikaというバンドに対しての期待が高まっている中でのリリースということにはプレッシャーはなかったですか?
片岡:『Familia』はsumika活動休止後のベスト盤だと思っていて。小川くんが入った4人でのsumikaでのベストな1枚を残そうっていう制作だったんですよ。句読点で言うなら“、”ではなく“。”なんですよね。しっかり一区切りすることができたって言い切ることができた感覚を持てているからまた0から1を作る作業、新たなものを生み出すという感覚でした。なのでプレッシャーというものは感じなかったですかね。
-逆に新鮮な感覚なんですかね。
片岡:新鮮な部分もありますが、今作においては小川くん加入前の3人でのsumikaとかもひっくるめてsumikaというバンドが歩んできた5年という期間でのベストな1枚を作ろうという感覚でもありました。大きく括ったsumikaのベスト。でもこう思えたのは『Familia』でしっかり“。”を打てたからなんですよね。
-『Familia』は制作もかなりタイトでギリギリの中での作業でかなりのアウトプット量だったと思います。その中で新たなインプットって大変じゃなかったですか?
片岡:ありがたいことに様々な活動をさせてもらうようになって、物理的な時間の余裕が以前より少しなくなってきている中で、どうやってインプットをしていくかというのは一つの課題だったかなとは思います。『Familia』のリリースツアーで『Familia』というタイトル通り家族の中での役割分担みたいなものが明確になってきていて、それぞれが最短距離で目指すものへ進むコツみたいなものを得られたかなとは思います。どうインプットしたらどういうアウトプットができるかという精度は高まったのかなと。
-今作『Fiction e.p』は4曲というボリュームだけど全然少なく感じることもなく、むしろギュッと凝縮している印象でした。
片岡:そう言ってもらえると嬉しいです。実は2曲ないし3曲でのシングルという話もあったんですが、sumikaらしさってなんだろうと考えたときに4曲でのe.pで全部リード曲という作品を作りますって宣言したんですよ。
-先に宣言したんですね。
片岡:正直なところ、物理的な制作期間としてはあまり余裕はなかったんですけど、今の僕たちならその時間内でもそういうレベルの作品が作れる自信もあったし、言わないと始まらないことってありますからね。言ったからにはやるしかないし(笑)。
-そうですよね(笑)。作品名としては『Fiction e.p』で、表題曲は「フィクション」と分けているのにはなにか理由があるのですか?
片岡:先ほど話したように4曲全部リード曲のe.pというイメージだったのでこの1枚が「フィクション」という曲だけの印象にはしたくなかったのはあったのですが、とはいえ“フィクション”というワード自体は気に入っていて。自分が作り出す音楽もそうですが、人が作り出す創作物ってフィクションと言えると思うんですね。そう思うと映画や本などにしろ自分が感動するものの9割くらいは人が作り出す創作物=フィクションなんだなって思えてきて、頭の中に思い描いたイメージを具現化することってすごくロマンがあるなって。そんな中で今作の4曲を並べてみたらこれはsumikaというバンドが生み出したフィクションだなと。これはすごく自然に発生した発想でした。だから作品としても“Fiction”という形にしましたね。
-収録曲についても聞いていきたいと思います。まずは1曲目「フィクション」はフジテレビ“ノイタミナ”TVアニメ『ヲタクに恋は難しい』オープニング・テーマへの書き下ろし曲ですね。
片岡:タイアップをいただくというのは人と人との気持ちの掛け算だと思っているんです。sumikaというこういうことがしたいと熱意を持ってくださる方と、sumikaがどういったことができるかということがすごく大事だと思っているのでやはり特別な気持ちはありますね。だからといって気負うことなどはないですが、sumikaらしさ、sumikaというバンドとなにかを作り上げたいと思ってくださる方との掛け算は純粋に嬉しいです。
-『ヲタクに恋は難しい』のオープニング・テーマという楽曲ですが、この曲って実はsumikaというバンドのこと、音楽人生そのものを歌っているんじゃないかなって感じました。
片岡:するどいですね。さすがずっとsumikaを見てきてくれているくぼちゃん。まさにその側面はあります。先ほどもお話したsumikaというバンドが歩んできた5年という期間でのベストな1枚を作りたいという気持ちが強くあって、もっと言えば自分の音楽人生でのベストを作りたい、今のメンバーがベストだと思っているし、すべてに対して今がベストと思えている今だからこそ書けた歌詞でもあると思います。sumikaが今作りたいものと今回の『ヲタクに恋は難しい』の制作チームの方々の掛け算がすごくピッタリハマりましたね。
-最初聴いた時はあまりそう感じなかったんですが歌詞を読みながら聴けば聴くほどsumikaというバンドの歌だと思えてきていたのでこの話を聞けてしっくりきました。
片岡:壮大なテーマにはなってしまっているんですが、それの伝え方にはsumikaらしくというのは考えましたね。このテーマを説教臭くとか押し付けるように伝えるのは違うと思うし、あくまでポップにそれこそヘラヘラ笑いながら言っているくらいの温度感。そこのバランス感はうまく作れたかなと思います。
-そういった音楽人生をテーマにした楽曲の最後に“さぁ今日も始めましょうか”と言えることがすごくポジティブだし幸せだなと感じました。
片岡:春夏秋冬で例えるなら最後の冬で終わらず、次の春まで見せたいという意識は常に持っていますね。リリース時期も春ですしね。実はこの部分は最初入れる予定はなかったんですよ。入れない方がメロディーとかアレンジ的な観点でいうとキレイとも思えるんですが、これを入れることがsumikaとしてのメッセージかなと思って最後の最後に手を加えた感じです。
-なるほど。この曲の歌詞は読めば読むほど良い歌詞だなぁと思ってしまいます。
片岡:一人でこの曲を聴いているとちょっと泣きそうになるときがあって(笑)。
-わかります(笑)。ポップでキャッチーだけど人生そのものを考えさせられる。
片岡:sumikaで言うと5年分の日記を一気に読み返すことって難しいけど、それを凝縮したようなこの1曲ですからね。そんな1曲の改めて形にできたことはすごく幸せなことだなと思います。
-歌詞にも出てきますがこの曲が健太君の音楽人生においての大切な栞であり付箋になっていますよね。
片岡:そうですね。きっと振り返った時にすぐ見つかるくらい大事な栞であり付箋だと思います。
-そんな曲に続くのは「下弦の月」。この曲は作詞家片岡健太の神髄ですよね。美しい情景描写は小説家、脚本家ともいえるんじゃないかと。
片岡:ありがとうございます。この曲の歌詞は隼ちゃん(Gtの黒田隼之介)が書いた曲なので、歌詞のイメージを聞いたところから始まります。その時に“同じものを見ているのに過去と今で感情が違うもの”という言葉と星空みたいなイメージというのを聞いて、そこから自分の中で歌詞のイメージを膨らませていっているに部屋から空を見上げたら明け方の月が見えたんですよね。そこからはまさに小説を書くように歌詞を仕上げていきました。
-時間軸の使い方とかは映像的なアプローチですよね。
片岡:実際に絵コンテみたいなものを書きましたからね。時間軸をいろいろ考えながら、“髪”というキーワードも序盤に入れて伏線を張って。作詞家片岡健太としてのベストを尽くすという意味での勝負作ですね。「フィクション」の歌詞とはまったく逆の書き方と言えるかと思います。
-ほんとにこの歌詞を書ける健太君は本当にすごいですよ。Cメロにいくまで別れの歌ってわからなかったですもん。むしろ幸せな歌だと思っていたくらい。
片岡:そこから怒涛の展開ですからね。
-やられたって思いました。
片岡:5年前にはこの歌詞は書けなかったですね。
-この曲は絶対に歌詞を読みながら聴くべき曲ですね。
片岡:映像を想像しながら聴いてくれたら嬉しいですね。
-映像作品を作りたいと思うことはないんですか?
片岡:周りに映像を作れる人がたくさんいるので自分が作るという考えに至ることがなかったですけど、言われてみたら作ってみたいなという気持ちは芽生えますね。
-きっと健太君なら面白い映像作品作れると思いますよ。この歌詞が書ける人の映像を見てみたいです。
片岡:いいこと聞けました。面白そうですね。こういう会話からアイデアが生まれることってたくさんありますからね。2018年に入ってずっと制作だったからメンバーとスタッフにしか会ってないから(笑)。
-健太君に映像を作ってほしいという俺の個人的な願望をインタビューという公式な場で伝えてしまいました(笑)。
片岡:いや、でもそうやって言ってくれるのは嬉しいですよ。いつか作ってみたいです。
-そのいつかを楽しみにしてます。そして3曲目は「ペルソナ・プロムナード」。ここでまたガラリと変わりますね。さすが全曲リード。
片岡:振り幅ハンパないですよね。
-久々のこういった雰囲気の楽曲、初期sumika的な。
片岡:『Familia』では出せなかったsumikaらしさって活動休止前のものだと思うんですよね。4曲で今のsumikaのベストを出すときに初期sumika的なアプローチを小川君が入った状態でまた作ることが今作では必要なんじゃないかというのが制作途中の話し合いで挙がってきてそこから作った曲です。なので今回の4曲の中では一番最後に出来た曲になります。MVを見たり、CDを聴いたりしてのsumikaのイメージとライブにきて実際に受けるsumikaのイメージって違うと思うんですよ。そこを繋ぐような曲にしたくて、それを歌詞でも表現したいなと。言葉遊びもしながらノリも良くしながらでも言いたいことは詰め込んでという歌詞ですかね。
-sumikaは毎作ごとになにかを鼓舞するような楽曲を入れていると思うんですが、ちょっと角度はいつもと違うかなと思いつつもこの曲がその立ち位置ですかね?
片岡:むしろ刃むき出し的な(笑)。sumikaというバンドの攻撃的な部分。そういうものがないって思われることも最近増えてきて。こういう部分も知ってほしいんですよ。一回全員で爪を隠さずみたいなイメージです。演奏面でも誰も一歩も引くことなくバチバチで攻め攻めで、コーラスワークも歌も歌詞も。
-sumikaがポップでキャッチーな楽曲を生み出せるバンドということは間違いなんですが、それだけがフォーカスされるのは少し違うと。
片岡:いろいろなイメージを持ってもらうこと自体は全然いいことと思うんですよ。それは受取側次第な部分が多いにありますし。でもsumikaのイメージは青だって100人が100人言い出しちゃったら僕ら自身が青じゃなきゃいけなくなりそうで。それは違うなと。他の色もあるんだよというのはバンドとして提示し続けないといけないと思うんですよ。でないとsumikaというバンドとして嘘をつくことになるから。
-そういう意味では非常に大事な1曲ですね。
片岡:かなり大事です。今この時期にこういう曲を改めて提示することにすごく意味があると思っています。
-そして今作の最後を飾るのは「いいのに」。この曲も歌詞が非常によく構成されているなと。歌詞にでてくる今できる“なにか”というのはカラオケですよね?そして歌にはなっていないけど歌詞には記載のある4980-609ってカラオケのリクエストNoですか?
片岡:さすが!名探偵くぼちゃん!(笑)。
-ありがとうございます(笑)。このカラオケのリクエストNoってわかるのは僕がギリギリの世代かなと(笑)。もっと若い子はきっと曲を入れる時にNo入れる世代じゃないですよね。
片岡:市場調査で僕もカラオケに行きましたからね(笑)。リクエスト本はいまだにあったし、実際曲ごとにNoの割り振りはありました。
-カラオケという日常感に妙な親近感を覚えましたし、絶妙なバランス感のある曲だなという印象です。
片岡:この曲の原型は8年前くらいからあったんですよ。高校生を相手に音楽講師をやらせてもらっていた時にとある生徒から、この歌詞の通りの相談をされたんですよ。好きな子がいるけど彼氏がいて、でもちょっと上手くいってないみたいな。好きって言ってみたらいいじゃんとか、それが無理ならひとまず連絡してみればいいじゃんとかアドバイスしていたんですけど、全部できないって言われて(笑)。どうしたらいいかなって考えたときに、何人かでのカラオケだったら行けるかもって言っていたので、カラオケで歌える曲を俺が作ればいいんだなと。それで約束したんです。カラオケに行って歌ったら想いが伝わるような曲を俺が書くよって。
-めちゃくちゃ良いエピソードじゃないですか。
片岡:8年かかっちゃいましたけどね(笑)。でもこのCDをリリースしたらその生徒についに出来たよって連絡しようと思っています。当時の高校生だからもう完全に大人になってますけどね(笑)。
-いやー、その生徒さんからしたら嬉しいでしょうね。今の話を聞いてこの曲から感じる青春感、青くささ、若さみたいなものの意味がわかりました。でもサウンド感は大人っぽくもすごく心地良い曲ですよね。
片岡:曲の原型自体は8年前のものだし、sumikaがこの5年でやってきた音楽をミクスチャーさせるとしたらどうしようかって話になって、モウタウンミーツ東京というテーマにいきつきました。曲自体がすごく若いからそことのバランス感は気にしましたね。今のsumikaのフィルターを通した8年前の若さ。
-非常に濃密な話を聞けて嬉しいです。ありがとうございます。今作のリリース後にはsumika史上最大規模のツアーも決まっていますね。
片岡:前回の『Familia』のリリースツアーが音楽人生において非常に大きかったなと思っていて、ネガティブに見えちゃうような弱点とも真剣に向き合って、強みに変えることができたし、たくさんの経験をすることができて。あの感覚って病みつきになりますね。もっと挑戦したいっていう欲があるモードに入っています。このモードでツアーを周ったら一体どんなことになるんだろうっていうワクワク感がすごいんですよね。きっとこの次の作品にも活きるだろうし。それが想像じゃなく実感している中で見えているものだから本当に楽しみでしかないですね。あと最近ふと思って、ここからの音楽人生であと何回ツアーってできるんだろうなって。普通に考えてあと200本、300本ツアーを周るっていうのはまぁ間違いなく難しいじゃないですか。ってなったら1本1本のツアー、1本1本のライブの貴重さを今までに以上に感じているんです。だから今は全てが楽しみ。
-そう思うとバンドって面白いですよね。RPGだったらレベル99が上限ですけどバンドにはそれがないですもんね。限界だと思ってもまだ成長できる。
片岡:「フィクション」の歌詞にもありますがまさにネバーエンディングですよね。自分たちが辞めない限りはずっとストーリーが続く。こんな感情になれるものって音楽しかないんだなって改めて思うんですよ。それは仕事だったり趣味だったり人それぞれだと思うんですけど俺にとっては間違いなく音楽。音楽に携われている限りは小さなマイナスとかはあれど最終的にはプラスしかないなって。sumikaを始めたときはこっちの道にいってしまったらもしかしたら終わりかもとか、こうなったらもうダメだとかいろいろ考えてしまっていたけど、今はどの方向にいってもその方向でのプラスがあるって思えているんですよ。音楽をやれていること自体が幸せだから。
-それを言いきれている今は本当に幸せですね。
片岡:そうですね。負のループってあるように正のループってあると思うんですよ。今はなにやっても好転するイメージしかない。しかも今までは自分の手の届く範囲、メンバーとかスタッフ。直接対話できるようなところまでのループだったんですけど、今はsumikaの音楽を受け取ってくれるみんなでの意思疎通ができている感覚があるんですよ。正のループ自体もどんどん大きくなっていて、届けたいものがちゃんと届いていて、それがすごい速度でちゃんとメンバーに返ってくる。最高のキャッチボールをできていますね。この感覚は今まで味わったことのない感覚だったから今がすごく幸せですね。心地の良いプレッシャーと緊張感。
-本当に良い状態ですね。これからも楽しみにしています。
片岡:楽しみにしていてください!