《1/fの揺らぎ、樹上のホワイトノイズ。羊水のなかで聞いていた、それ。》 吉牟田 直和[Bass]
眠れない夜に考えることはロクでもないことが多い。何がロクでもないかと言うと、そこで思ったことの多くのことは、日の当たる時間になればちっとも役に立たないものだからなのだ。例えば深夜のラブレター。酒に酔ったおっさんのTwitter。気持ちばかりが先走って、書かなくても良いようなことまで書いてしまう。ああ、なんともロクでもない。挙げ句の果てには、眠れない夜に書く残念なコラム。ロクでもないを連呼して、無駄、寄り道、蛇足が絡まり合って、これはもはやポエムだ。そうだ、私は酒に酔っている。深夜に目が覚めてしまった挙句、眠れない夜にパチっと目を覚まして、酒を煽りながらコラムを書いている。乱文必死。そりゃあ、若いころにはこんな夜にも夢があった。酒を飲んで描く未来予想図を胸に抱いて眠る。それが素晴らしいと思えた時期もあった。しかし、いつもこうなのだ。散々酔い散らかして愉快な気分になって「よしいっちょやってやるか」という無駄な気合いを入れようとも、次の日には二日酔いによってそんな気分は雲消霧散している。「睡眠の質」だとか「慢性的な疲労」だとか「生産性」だとかそんな言葉が飛び交う現代社会に、槍と刀を持って肉弾戦を挑むくらいにはナンセンスである。
さて、なんだかんだ最近の私はよく眠れている。なかなかリズム良く眠れない人間ではあったのだが、夜に働く必要がなくなったためなのだろうか。日が暮れれば眠くなり日が昇れば目が覚める。生まれ変わってみれば、なんと快適な生活なのだろう。するべきこともちゃんとできる。朝にはコーヒーを淹れて飲む。自炊も割とする。ちゃんと三食、腹も減る。真人間らしい生活のなかではロクでもないことは考えない。果たしてこれで良いのだろうか?と、思う時間もある。あの夜には無駄が幾重にも積み重なって、武士道にも似た美学があって。今はそれに触れる機会は少ない。失ったと言っても過言ではない。それであなたは満足か?と考える。
きっと、それで充分なのだ。そういうタイミングは人生においてくるものなのだろう。夜を捨てて、昼に生きる。なんて詩的に書くのは深夜のせいか。どうせ老人になれば、早く寝て早く起きる。庭の雑草を抜いて、夜の日々のことなんかは思い出すこともないだろう。それで充分なのだ。ロクでもない夜を何度も何度も越えたのならば。ああ、なんだ?結局なにを言いたいのだ。そう。若者たちは青春しろ。満足するまで、夜を漂え。以上。
《1/fって何すか。》 村上 学[Vocal/Guitar]
昨年の自粛期間中、自宅で録音をする時間が増えたため、初めてコンデンサーマイクを買った。2万円くらいのもので、コンデンサーマイクの中ではかなりランクの低い一本。しかし人の耳に触れないデモ音源を制作するには、十分だった。
先日、エンジニアさんに私物のコンデンサーマイクをお借りして、自宅に持ち帰り歌の録音をすることになった。このマイク、かなりのビンテージマイクで、車が一台買えるような代物。肌身離さず身につけ電車に乗り、自宅に持ち帰った。無事、録音を済ませ、マイクを返却しにスタジオへ行った。言わずもがな、それまで使っていたマイクよりも音の質は格段に良くて、例えて言うと、4畳半のアパート暮らしから、突然タワーマンションに引っ越すような感覚であった。しかし、それは、もう一度4畳半アパートに戻れるのかという問題に直面することを意味していた。マイクを返却した私は気がつくと、楽器屋に向かっていた。今まで高価だと思っていたマイク(原付バイク一台分くらい)さえ、不思議と手が届きそうな危うい感覚に陥っていた。その日にマイクを購入することはなかったが、近い将来新しいマイクが我が家に訪れる気配は否めない。自宅に帰ると、これまで自粛期間の苦楽をともにした2万円のマイクは、どこか寂しそうな顔で私を見つめているような気がした。
さて、話はかなり飛躍するが、いよいよ、コロナウイルスのワクチン接種が始まる。このワクチンはmRNA遺伝子ワクチンと呼ばれる新型のワクチンで、これまでの不活化ワクチンや弱毒化ワクチンと比較すると、作用機序がまるで違う。人類はすごいところに手を伸ばしたなというのが私の印象である。4畳半アパートとタワマンこその差があるかどうかは不明だが、この発明は、かつての電気やダイナマイトのように、もしかするとコロナウイルスが流行したこと自体よりも、大きく人類の歩む道筋を変化させるのではないかと思っている。
運命というのは自らの手で切り拓くものであり、そして同時に意図せず迷いこむものだ。いずれにせよ、その運命が導いた未来を賢明に生きることが、過去も現在も、強いては2万円のマイクをも報いることになるのだろう。
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[テスラは泣かない。]
L→R
吉牟田直和(Bass)/飯野桃子(Piano&Chorus)/村上学(Vocal&Guitar)/實吉祐一(Drums)
印象的なピアノのリフレインを武器に、圧倒的なライブパフォーマンスで各方面から脚光を浴びる、鹿児島発4人組ピアノロックバンド。インテリジェンス溢れる音楽性と、エーモショナルなライブパフォーマンスを融合させた、他の追随を許さない孤高のロックバンドである。
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