―まず、リリースおめでとうございます!
須藤:ありがとうございます!
―本当に当初はリリース出来ないと思ってました(笑)。何故かというと、12月中旬頃に出来ていた楽曲が確か5、6曲でしたもんね。そして1月半ばにレコーディングするという話を聞いて、これは無理でしょって思いました。今から佐藤謙介(今作で新たに参加することになった「踊ってばかりの国」のドラマー)が曲を覚えて、その上まだ出来てない曲が半分以上あるという状況で。正直なところどうでした?
須藤:あのとき安請け合いにシフトしてたかも。出来る出来る!って(笑)。出来なかった時はどうにかしようと思ってたからね。でもやっぱり本心では出来ない、絶対延びると思ってた。でも同時にあのときコンセプトが見え始めてたから、出来てた5、6曲の存在が大きかったと思うね。その中に『ツァラトゥストラ』もあったし、『ハリキリ坊やのブリティッシュ•ジョーク2』もあったし。そこで、この幹を太くしていくアルバムなんだなと思った。
―なるほど。
須藤:一番やばかったのが12月の初旬だったと思うけど、まずその幹が無かったから、何を太くしていけば良いのか分からなかったし。
―12月の初旬?無茶苦茶だなあ(笑)。
須藤:斉藤くんが作った『ツァラトゥストラ』と、自分が最初に提出した『ハリキリ~』の共通点が見え始めたのがその頃で。でも何も無かったのは事実。
―あのとき須藤くんが新曲制作のリハスタジオで「俺は天才だから大丈夫!あはは!」って言って帰って行って、謙介と一緒に「え?大丈夫かな?」と。
須藤:でも出来たでしょ?(笑)
―そう、それがすごく良くて。もう今作は髭の最高傑作の記録を更新ですよ!
須藤:ありがとうございます。
―正直、僕の中で前作はどこに向かっていったら良いのか模索している感じがあって、でも今回のアルバムでちゃんと帰って来た!という印象でした。あくまで個人的な意見ですけど。
須藤:制作に対する関わり方の違いが大きいのかも。前作はある意味で自分がケツを持たなくてもいいというか、他の人が作った曲が入っていたりもしたから。
―では、今回は自分がガッツリ関わった感じですか?
須藤:そうだね。でも最初の取っ掛かりはやっぱり斉藤くんだったり、宮川くんだったりする。11月頃によく斉藤くんの家に集まって、お互いの好きな曲を聴いたりして3人で夕方までゆっくり過ごして、夜はお酒飲んで話すということをしてたんだよね。
―そこで特に曲のアイデア出しとかはしなかったんですか?
須藤:しなかったね。むしろ、そういうことをしちゃうと距離感がおかしくなってしまうから。一度離れなきゃいけない時期だったんだと思う。俺もみんなとの付き合い方がわからなくなってたし。
―それでGATALI(須藤のソロプロジェクト)を始めたのもあったんですか?
須藤:うん。もちろん髭ではやれないことっていうのが形になりつつあったからアルバム制作に踏み出したのもあるけど、それと同時に髭はこのままで良いのかなっていう。それでGATALIをやっていく内に彼らとの距離感とかも少しずつ変わって、GATALI後に彼らの作った曲を聴かせてもらったときに、すごく新鮮に感じて。そして宮川くんの曲がこのアルバムの指針になるべきものだった。宮川くんは「もっと髭の原点に立ち返ろう」ってずっと言ってたんだよね。「俺は髭の良いところを客観的に見て分かってるつもりだ」って。いま髭でやるべき曲、みんなが聴きたい曲っていうのはこういうものなんじゃないかっていうのを、彼が作った曲が提示してくれていた。それでだんだん自分も感化されていって、よし、こういうのを作ろうと燃え始めたんだよね。
―なるほど。今まで髭がどういうレコーディングをしていたのか知らなかったんですけど、今回いろいろレコーディング現場を見ていて、須藤くんと斉藤くんと宮川くんはけっこうメインになって、明確なものを持って進んでいる感じを受けました。そこにアイゴンさんのスパイスがかかっている。
須藤:またそのスパイスがすごく効いてるんだよね。前作はもっと俺の存在が薄いというか、弱かったと思う。無関係だったわけではないけど、インストに関してはほとんどお任せだったし。今回のアルバムは、そういった意味では全然違うね。
―前作までとは違うという意味で、新たにドラムの佐藤謙介が参加してますが、その経緯を聞かせてください。
須藤:実はずっと見えない部分ではリズムに関してメンバー同士でも話し合ったりしていて。今までも数々のドラマーに楽曲に参加してもらったり、スタジオに入ってもらったりはしてきたんです。フィリポと康一くんにドラマーをやってもらっていく中で、彼らはもちろんすごく個性的で良いドラマーだけど、何か物足りなさを感じていた。ロックっていうのはロールするものであって、ループするものでもあって欲しいし。気分によって変わったりもするし、サビで速くなってもいいし、そういうものであって欲しい。GATALIで伊藤大地(SAKEROCK)とやったときにすごく良くて、そのときに画期的だけどもう一人ドラマーを入れようと思ったんだよね(笑)。
―画期的すぎます(笑)。
須藤:だからこそ、突っ込んじゃおうと思って。クラッシュしちゃってもいいやって。
―しかもレコーディングの直前でそれを実験しちゃうのが髭っぽい。
須藤:今年の4月に若手バンドと2マンをやろうっていう趣旨の『QUEENS × PAPA!』というイベントがあるんだけど、俺の中で一番最初に候補に挙がったのが踊ってばかりの国で。それで出演オファーしたら、活動休止してるっていう(笑)。その時に、なんだか電気が走ったというか。バンドの存在は知っていたけど、まだ佐藤謙介というドラマーのことは知らなくて。でも、あの良い音楽をやってるバンドのドラマーなら結果を出してくれるはずと、一緒にスタジオ入ったら何らかの結果が見えるはずだと思ってすぐにオファーしたんだよね。そして彼がスタジオに来てくれたときに、初めて佐藤謙介を知るという(笑)。これだけは言えるけど、本当に素晴らしいドラマーだったね。
―11月の代官山UNITでの踊ってのワンマン後に、僕と謙介だけになったときに謙介が「俺はドラムで飯を食いたい。だからドラムのいろんな仕事をやりたい」って言って来て、なんとその二日後にオファーがきたんです。その髭のドラムの話をしたら「絶対やりたい」と。で、ちゃんと決めるためには何か面白いことをやらなきゃということで、レッドホットチリペッパーズのドラムオーディションのときに現ドラマーのチャド•スミスがやったように、いきなりリハにフルセットを持って行ったんです。
須藤:そういう勢いだったんだ!俺は何をまた余計なことをしてくれるんだと(笑)。スタジオにもドラムあるのに、うわ!何?何?何?と思って(笑)。
―そりゃそうですよね(笑)。
須藤:でもそれがわかるテクニックだったし意気込みだったから、合点がいったね。彼は人間も良いし、本当に俺はツイてるなと思った。偶然の活動休止も、もう絶対そういうことなんだろうなと。それで会ってみたらうまく噛み合ったというか。もう1つバックストーリーがあって、初めて一緒にスタジオに入った日がちょうどアイゴンさんの誕生日だったの。で、リハ後に渋谷でやってたアイゴンさんのライブパーティーに謙介も呼んで。そのとき本当にいろんなこと話して、次のスタジオのときに、彼のドラミングが変わってたんだよね。それはきっと俺が髭のことをたくさん話したからだと思うんだけど、それだけで叩き方を変えられるなんて勘が良いなと。そういう部分って言葉で言えるものじゃなかったりするじゃない。
―そうですね、感覚的なものだったりしますよね。
須藤:そうそう。髭というものを想像しながらドラミングしてくれたものが、すごくマッチしていた。そこでもう彼しか居ないと思った。
―それで急に12月28日にCOUNTDOWN JAPANに出てくれって、無茶苦茶なことを言うなあと(笑)。もちろん謙介の決意というのもあると思いますが、バンドがその決意をしたのが僕はビックリでした。
須藤:でも、出来ると思ったのよ。それはもう信じて疑わなかった。そのときはまだアルバムに関してはフワフワしていて、ニューカマーのドラムに新曲をやらせるのは無理だろうという話にもなった。曲だけじゃなくて、バンドのイメージを録らなきゃいけないから。でも謙介の勘が本当に良くて、フィリポと康一くんも納得してくれた。メンバー間の相性などの部分も含めてラッキーが重なったと思う。
―なるほど。では今回その短期間で制作したアルバムを引っさげてツアーに行くわけですが、意気込みはどうでしょう?
須藤:髭は今までのキャリアの中で今が一番良いライブが出来ると思う。そこには間違いない自信があって。絶対面白くなると思う。謙介が入ったことで俺とフィリポと康一くんが精神的に解放されてすごく自由になった。お互いのパーソナリティーを尊重しつつ面白いアイデアを出すだけの関係に戻れたというか。ドラムを自由に叩けないというストレスや、ドラムが3人居ることでの課題は出てくるかもしれないけど、それはクリアしていかなきゃいけないし、クリアできなければ辞めるしかない。でも今はそういう良い感じのバランスでバンドが出来ていて、それでツアーに臨めるのは最高だと思う。
―それでは最後に、今後の展望を聞かせてください。もちろんツアーもありますが、その後の髭について。
須藤:いま髭として伸びて行く画が見えるんだよね。ツアーが終わったら、この1年で何が出来るか早く見てみたい。音楽的にどういうアレンジが加わって行くのか。謙介ともっと絡んでみたいとも思っているし。髭はこれからすごく面白くなると思います。
―僕たちもめちゃくちゃ楽しみです!ありがとうございました。