ー 今はひとしきりアルバム制作を終えて、ツアー用のゲネをしてる時期ですか?
■實吉 祐一(Dr 以下 “S”) : そうですね、ひたすらスタジオ入ってます。
■村上 学 (Vo/Gt 以下 “M”) : これまではサポートベーシストを迎えて1年間やってきたんで、いつもリハに入る時はライブで演奏するセットリスト6曲位だけをその場で演奏してたんですけど、吉牟田が戻ってきたら全曲知ってる訳で、「ちょっとあの曲やってみよう」みたいに都度思いつきでいろんな曲を合わせられるんで、今改めてメンバーってありがたいなって感じてます。
■飯野 桃子(Pf 以下 “I”) : 気分とか自分達のコンディションで曲を変えられるっていう喜びね(笑)。
ー 古巣に戻ってきた安定感的な状態ですね。 このバンドは初めてどのくらいですか?
■M : 結成して9年、このメンバーになってから5年位です。
ー その間ずっと一緒にいたらそれは阿吽の呼吸になりますよね。
■M : 不思議な関係性ですよね、4人で特別飲みに行ったりする訳ではないですけど、やっぱりすごく気心知れてるし、もはや家族みたいな存在なんだな、と思いますね。 最近それが如実だったのが、サポートメンバーを迎えていた時期から飯野さんがリハスタジオに毎回ちゃんと化粧をして来るようになったっていう(笑)。
■I : そりゃそうですよ!(笑) サポートの人たちと顔合わせるんですから(笑)
■吉牟田 直和(Ba 以下 “Y”) : あ、そういう事があったんだね… 俺はスタジオですっぴんしか見てないから、気づけなかった変化ですね(笑)。
■M : それだけ僕らは家族みたいな存在になってるんだな、と(笑)。
ー サポートメンバーの前ではよそ行きモードなんですね(笑)。 ちなみに今作は、最近ジャケットが公開されましたが、これはどんなコンセプト?
■M : この写真に写ってる美術館の壁紙的な背景の絵は、僕らが好きな大岡弘晃さんという画家さんに今回の為に描き下ろしてもらったものなんですよ。 宮崎出身で今は神奈川で活動してる画家さんで、知人から紹介してもらって繋がれて、今回ジャケットをお願いできる事になりました。 元々は大岡さんの既存の作品の中に今回使わせてもらいたいと思っていた絵があったんで、その絵を使わせてもらうお願いをしたんですけど、話を聞いたら、使わせてもらいたかった絵がクラシックの四重奏を聞きながらその曲のイメージでライブペインティングしたものだったんですよね。 「その絵はその音楽の作品だから、今回は今回でテスラの曲を聴きながらそのイメージで描きたい」と言ってくれたので、一緒にスタジオに入って、僕らが演奏する横でライブペインティングしてもらって出来たのがこの絵です。
■Y : 他の作品も含めて、大岡さんの作品は植物のエキスから抽出した染料を使ってたり、インクの質感とかにもめちゃめちゃこだわっててかっこいいんですよね。
ー そのテスラの音楽を象徴する壁の絵の前に白いキャンバスっていうのは?
■M : このカラフルな壁の手前にある真っ白いキャンバスは、完成された作品として飾ってあるんですけど、違う側面から捉えればまだこれから色々描写できる未完成の始まりでもあって、今回のアルバムの “永遠” っていうテーマと同じイメージのものです。 吉牟田が1年経って戻ってきて、バンドの状況としてはひとつ目標としてがんばってきたゴールでもあるし、これからのスタートでもある、っていう僕らの状況のメタファーとしてもあてはまるようなものにしたくて。
ー 作曲面では、今回の楽曲はPCデータ上での作業でなく、素材となるフレーズを合宿に持ち込んでスタジオセッションしながら作り上げたとの事でしたけど、はじめに村上さんが持ってきたフレーズを聞いて、皆さんどんな印象でした?
■Y : 普段は曲の全貌が分かるくらいまで作られたデモで学さんから貰うんですけど、今回は曲として固められていない段階でのフレーズで持ち込まれたんで、ガイドラインがない分自由で、逆に「どうしよう…」って焦りました(笑)。
■S : 合宿に入る前は、送られてきた素材を1回聴いたくらいの状態だったんで、事前に構成を練ってきた訳でもなく、本当にスタジオに入ってそこから一気に作った感じでしたね。
■M : 「アテネ」(M1)は特にですけど、スタジオで合わせてみた体感に任せて曲を組んでいきました。 「このフレーズひたすら叩いてて」ってお願いして、ビートが流れてる状態で実際演奏してみたその時の感覚で尺の長さとか、ブレークの感じとかそれぞれ決めていった感じですね。
ー あえてアナログにやり方を戻したというか、PC上でなくスタジオセッションでの作曲にした効果は?
■Y : 今考えれば、以前は在るべきリリースのスピード感に合わせる為の効率性として、PCでの作曲進行になっていった部分もあったと思います。 その分今回は時間をしっかり使えてスタジオで作ったんで、窮屈に感じず作っていけた感じがあってよかったです。
■I : ピアノに関しては、デジタル上で処理して作ってるとやっぱり細かなニュアンスが噛み合わない部分が出てくるんで、そこに違和感を感じるんですよね。 楽器的にメロディーの役割と打楽器みたいな役割、両方あるから作り方によっては噛み合ってない細かい表現の部分で色々気になっちゃって、納得いくテイクになるまでに結構労力を費やしてたんですけど、今回は実際にセッションして作れたんで、そういう事にあんまり気にせず進められた感じがします。 もちろんPC上の作業だからこそリズムに厳しくなれた部分があったり、利点もあったんで、デジタルな作曲を経ての今回のアナログな作曲で、それぞれのいい部分を引き出せたと思います。 自由に動かす部分と、正確に弾く部分の使い分けが自分の中で整理できたのかな。
■S : ドラムに関してはこれまでの作品の時は、レコーディング前に細かいフレーズまでかっちり決めてから挑んでたんですけど、やっぱりそれをやってると自然じゃない感じがしていて、今回はひとまず仮フレーズ段階まででイメージの固定も止めておいた状態でスタジオに入って、皆んなと合わせてから考えるようにしたんですけど、それをしたら今までよく経験してた “他の楽器や歌との絡みがしっくり来ない” みたいな悩みはぐんと減りましたね。
■Y : しかもPCでの作業をやり始める更に前の、バンドやりたての時のアナログ作業とは違って、今はみんな作曲技術も演奏技術も上がってるから、セッションしながらの作曲でも行き詰まる事があんまりなかったですね。 昔だったら一旦悩んで立ち止まると、そこから結構時間をくってしまってたんですけど、今回短時間ですんなり決め込めたのはやっぱりそれぞれ積み上げてきた経験と技術があったからなのかな、と。
ー 今だからこそできた作曲だったって事ですね。
■Y : 僕がお休みする少し前位から、リハでスタジオに入る時に毎回まず最初に少しセッションをしてから本題の練習に入るようになったんですけど、それが効いてるのかな、とも思いました。 アイディア出しの癖を付けてたというか。
■M : そう、最近はずっとそれをやってましたね。 それぞれ楽器の準備が整って音出ししてる延長線上で自然とセッションになるんですけど、おもしろいのがそういう時に凄くいい感じのフレーズが生まれて「ちょっと待って!録音するから」って録音を回してからもう一回そのフレーズを演奏してみると、「あれ、全然良くない…」ってなるんですよね(笑)。 さっきと何が違うの分からないんですけど、なんかイケてないみたいな。 録られてない素の感覚の時が一番いいアイディア出るんですよね。
■Y : かしこまってカッコつけるとダメになるんですかね(笑)。 多分フレーズよりひとつ先にあるイメージで良い悪いを感じてるからなんでしょうね、そのイメージを具体化するフレーズだけ再現しても、何かちょっとした音符の置きどころとかアクセントとかでフレーズ自体じゃなくそのイメージとズレてきちゃうというか。
■I : 今だからこそ、っていうのは歌詞にもあったと思います。 「アテネ」で学さんが「I believe you foreverって歌いたい」って言ったのをアイディア段階の時に聞いて、3年前には「Lie to myself」って歌ってた人が、今はI believe you foreverって歌おうとしてるのってすごい変化だなぁ、と思ったんですよね。 実はその2つの芯にあるメッセージは一緒なんですけど、3年前は自分自身に嘘を言い聞かせて前に進んでたのが、今は誰かを信じて前に進もうとしてる、この気持ちの変化はここ1年位でのバンドの置かれた状況から培われた人間力とも関係してるんだろうな、って。 そういう歌詞から、学さんの心境の変化を3人も自然と感じ取って、その感覚を具体化できるように曲を作れた感じが今回は実感としてすごいあるんです。
ー 先日のインタビューの時に確かに感じましたね、村上さん大人になったなぁ…と(笑)。
■Y : 人的に内向きから外向きになりましたよね(笑)。
■S : サポートの人を13人も迎え入れて1年やったから、多分メンバーそれぞれも変わりましたね。 人的にもみんな確かに成長したと思います。
ー 村上さん以外では例えば誰が変わりました?
■S : 飯野さんが凄くリーダーシップを取るようになりましたね。 サポートメンバーとのコミュニケーションっていう意味でもそうですし、ライブの時もね。
■Y : 確かにそれ思ったな〜、戻ってきて1発目のライブの時。 MCでも流れを作って引っ張っていくようになったな、と。 フロントマンシップが上がったと思いますね。
■I : 自分ではひたすら一生懸命にやってただけだから、あんまり自覚ないけど、そうなのかな。 サポートメンバーの人たちが全員それぞれバンドをやってる人達だったから、あの13人と一緒にやれた事で学べた事っていうのが自然と自分に身についたのかもしれませんね。 それぞれが持ってる “バンドを良くする為の意識” みたいなものを感じ取ってたのかもしれないです。
■M : 意識の部分と演奏の部分の両方でやっぱり4人とも向上したと思います。 今まではずっと一緒にいるメンバーだから変な慢心で “どうにかなるだろう” みたいな意識があったのかもしれないんですけど、今回は1度離れてから戻った4人だから、意識的にみんな波長を合わせていく気持ちがあったんでしょうね。 おのずと集中力も上がってるし、それが今は演奏にちゃんと反映されててバンドとしてすごくいい状態だと思います。 音としてちゃんと塊になってる。 ツアーもこれから始まるんで、そこにこのいいモチベーションを生かしていきたいですね。